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馬の病気:蟻洞

2008-10-22 | 馬の蹄病
蟻洞(Hoof wall separation)について。

白線裂(White line separation)に起因して蹄壁と葉状層が解離して、細菌および真菌感染(Bacterial/Fungal infection)を起こす疾患です。病因としては、不衛生な馬房環境(Poor stall hygiene)、蹄管理不備(Neglected hoof care)、穿孔性外傷(Penetrating wound)、慢性蹄葉炎(Chronic laminitis)に続発する蹄尖部の白線肥厚(White line thickening:いわゆるSeedy toe)などが挙げられています。蟻洞内の上行性感染(Ascending infection)によって、白線膿瘍(White line abscess)を併発した場合には、中程度〜重度の跛行(Moderate to severe lameness)を呈し、蹄冠部からの化膿性排液(Purulent discharge on the coronary band)を生じる場合もあります。

蟻洞の診断は蹄底白線部の視診によって下されますが、蹄鉗子検査(Hoof tester examination)による圧痛探知と羅患白線部の削切によって膿瘍発症部位を発見することが重要です。一般に掌側神経麻酔(Palmar nerve block)によって跛行の改善または消失が見られますが、急性の蹄疼痛を呈する他の類似疾患(蹄血班、蹄底膿瘍、蹄骨骨折、etc)を慎重に除外診断することが大切です。蟻洞の深さは蹄壁の打診によって推測できる場合もありますが、蹄壁のレントゲン検査や瘻孔造影法(Fistulogram)によって正確な深度を確認する手法も有用です。白線膿瘍の症例では、排膿孔(Drainage tract)が蹄冠のすぐ上部に開口している所見で、側副軟骨壊死症(Quittor)(=側副軟骨よりも近位部において排膿)との鑑別が可能な場合もあります。

深部に達していない初期病態の蟻洞では、白線削切による排膿孔の形成と、硫酸マグネシウム(Magnesium sulfate: Epsom salts)の蹄底充填による蹄バンテージが施されますが、一週間前後で跛行改善が見られない場合には、レントゲン検査によって蟻洞の浸潤度や側副軟骨の感染などを確認することが重要です。蹄冠部まで達する深部蟻洞(Deep gravel)では、レントゲン検査によって白線膿瘍の発症部位を確かめ、蹄壁の円鋸術(Hoof wall trephination)によって排液孔を設けることで、速やかな排膿と病巣消毒が行われる症例もあります。この場合には、深部組織への感染の危険を考慮して、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)と破傷風ワクチンの接種を実施します。白線膿瘍が広範囲におよぶ重篤な蟻洞においては、羅患部の蹄壁除去(Hoof wall resection)を施し、深部病巣が充分に乾燥&角質化して、細菌&真菌感染が減退したことが確認されれば、Equiloxなどのアクリル素材(Acrylic material)によって蹄壁被覆が可能な場合もあります。深部の蟻洞病巣は重度の感染性組織であるため、24時間にわたる羅患蹄の消毒剤への浸漬(Antiseptic soak)を行った後で蹄壁被覆を施すことで、アクリル素材下での感染拡大を予防する効果が期待できます。

蟻洞は長期にわたる治療を要し、再発し易い疾患であるため、完治のためには羅患蹄の治療に併行して、馬房の衛生化と蹄管理の改善を行うことが重要です。また、蹄壁の強度改善を目的とした様々な種類の栄養補助飼料(Nutraceutical agents)も市販されています。

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8 コメント

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Unknown (Hart's cry)
2011-04-11 18:25:06
いつも参考に勉強させていただいています。
“白線裂(White line separation)に起因して蹄壁と葉状層が解離”と書いてありますが、白線裂の発生と原因として何がありますか?
Unknown (Rowdy Pony)
2011-04-11 22:16:06
Hart's cryさま
白線裂が起こる要因は、蟻洞の原因と同様なものが多く、細菌や真菌の感染、不衛生な飼育環境、慢性の蹄葉炎などが挙げられ、また、特定のミネラルが不足して蹄がもろくなったり、強い衝撃によって物理的に白線が裂けることもあります。
初めまして (たけちよ)
2011-10-16 14:47:41
初めまして。
日本で歯科医師をしております。

乗馬のインストラクターより、蟻洞に罹患した馬の蹄の処置法、消毒法(開放と次亜塩素酸ナトリウム製剤の使用)を聞き、歯科治療に似ていると感じました。

蟻洞の処置に歯科の薬剤が使用できないないかとの相談を受けましたが、蹄と硬組織である歯との違いもあり、色々調べていたところ、こちらのサイトに巡り合いました。


歯科では現在、根管治療として

1・細菌感染歯質の機械的な除去
2・次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄(象牙質削片除去のためのEDTA製剤の使用もあり)
3・水酸化カルシウムによる根管内消毒
4・封鎖

以上を、一般的に多く行っております。


水酸化カルシウムは、

・強アルカリによる非特異的な殺菌作用+硬組織形成促進作用
・血管収縮作用による浸出液の減少
・有機質溶解作用、溶解補助作用
・破骨細胞産生酵素の不活性化、グラム陰性細菌の内毒素(LPS)の変性、繊維芽細胞の活性化・増殖促進、根管内CO2の吸収

以上の効果を期待して使用しております。


また、根管治療に至る以前に、歯髄感染を防ぐため、感染象牙質に対し、

・3-Mixという抗菌剤を使う方法

・ドックベストセメント(Doc's Best Cement:在アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン Cooley & Cooley社):銅イオンと鉄イオンの相互作用による殺菌力(立証はS. ミュータンスと乳酸桿菌に対して)と、バイオフィルム生成阻止効果を期待した製品を使う方法

があります。


次亜塩素酸ナトリウムに浸漬できるのであれば、水酸化カルシウムを蹄に貼薬できるのか、タンパク質には危険か。

ドックベストセメントはどうかと思案しております。


恐縮ですが、先生のご意見、お聞かせ下さいませ。



叩けよ、さらば開かれん。
蹄の殺菌剤について (Rowdy Pony)
2011-10-18 00:48:52
たけちよ先生
私は歯科用の医薬に関しては明るくないので、一般論しか申し上げられないことを、ご了承ください。

馬の蹄の主成分は、ケラチンと蛋白質で、ハイドロキシアパタイトが主成分である歯とは、化学的組成が大きく異なります。このため、歯科医療における洗浄薬&殺菌薬を、そのまま馬の蹄に用いると、様々な問題を生じる危険性が大きいのではないかと思います。

例えば、次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用の漂白剤を、“経験的”に蹄病の殺菌薬として使用しているケースもありますが、よほど薄めて使わないと、蹄組織が変性してボロボロになってしまうという知見を耳にします。水酸化カルシウムも、次亜塩素酸ナトリウムと同様に、アルカリ性の強い薬剤なので、同様な副作用が起こる危険はあるのではないでしょうか。

米国では、馬の飼養頭数が多く、馬医療産業が発達していることから、馬の蹄消毒のための専用薬剤がたくさん市販されています。代表的なところでは、Hoof Disinfectant (Life Data Labs)、Thrush Remedy (Absorbine)、Thrush Buster (Delta Mustad Hoofcare)、Huuf Magic Thrush Treatment (Healing Tree Products)、Thrush-XX Aerosol (Farnam Companies)、などがありますが、個人的に使用経験のある製品ばかりではないので、どれが一番効能があるかに関しての意見は、ここでは控えさせて下さい。ただ、いずれの薬剤にも、次亜塩素酸ナトリウムや水酸化カルシウムは含有されていないようです。

ドックベストセメントに関しては、殺菌したあとの蹄組織を覆う充填剤としては、応用する価値があるのではないかと思いますが、これも個人的な使用経験があるわけではないので、安全性に関するコメントは控えさせて下さい。また、蹄組織に対して歯組織と同様な粘着力と殺菌力が達成されたとしても、コストや強度の問題から、多くの馬の蹄病に対して臨床応用するのは困難であるのかもしれません。

以上、簡単な内容ばかりですが、何かのお役に立てば幸いです。
ありがとうございます (たけちよ)
2011-10-19 23:44:11
石原先生

お忙しいところご丁寧に回答下さり、本当にありがとうございます。

感謝の思いでいっぱいです。

インストラクターに伝えます。


本当に本当にありがとうございます。




ローヒールの症例について (Howdy Cowgirl)
2011-11-23 23:15:42
初めてコメントさせていただきます。
健康だけが取り柄のような馬を持っておりますが、最近、どうも運動が辛そうなので、足もとのレントゲンを撮影しましたところ、ローヒールと言われました。

とくに前肢は、指動脈周りにショウ液?が、ぷよぷよとむくむようになりました。

毎回、装蹄に立ち会うわけではありませんが、写真はまめに撮影したおりましたので、数年前からの蹄写真を見比べてみますと、ここ数カ月で、急に蹄角度が寝て来たことに気付きました。

また、蹄球から、地面までの距離も近くなり、つぶれたように見えています。

装蹄時に焼けた鉄をあてると、熱い、といやがりましたし(珍しく)、装蹄師さんも、「葉状層に元気がない」と指摘していました。

ローヒールとの診断を受けたことを周囲に話し、映像を見てもらうと、「この程度をローヒールというなら、日本の馬はみんなローヒール。○○号はもっとひどい」と、なんだか病気自慢のような方向に話しがそれてしまい、私の悩みもあまりまじめに聞いてもらえません。

健康な馬の蹄骨の角度ですとか、踵がどういう位置で、加重を支えるべきか、など、アメリカと日本では考え方が違うとの意見も聞いたことがあります。

データがあるようでしたら、アメリカで一般的に、健康とされる馬の蹄についてのコラムも書いていただけませんでしょうか?

もっとひどい馬を探して安心するよりも、もっと健康な馬を目指したいのです。

なお、数年前のX線に比べますと、蹄の中の関節も窮屈になってきていて(素人目ですが)、重心地点も前に、前ににずれてきたような気がしています。

機会がございましたら、そのような視点でのコラム執筆頂ければ大変ありがたいです。

お忙しい中、読んで頂きましてありがとうございます!
Unknown (Rowdy Pony)
2011-11-25 02:11:38
Howdy Cowgirlさま
愛馬の健康管理のため、レントゲンを撮ってあげたり、周囲の方や装蹄師さんにご相談されたりという献身的なケアーをしてもらって、Howdy Cowgirlさまの馬は幸せだなぁと思います。

ご指摘のとおり、一頭の馬の蹄形を他の馬と比較して良し悪しを述べることは難しいと言えます。馬体の一番下に位置する蹄は、その馬の姿勢、肢勢、歩き方、走り方、などの全ての影響を受けますので、全ての品種の全ての年齢の馬に合致するような「正しい蹄角度や蹄形」を定義するのは無理があります。また、「理想の蹄形」に意図的に近づけようとするという過剰に操作的な装蹄手法は、逆に蹄や肢の他の箇所に負担を掛ける結果につながることもあります。つまり、馬の肢の形が蹄の形を決めることはありますが、蹄の形を操作することで肢の形を変えることは出来ないのですから、人間にできることは、少しでも蹄を“ナチュラルバランス”に近い状態に導いてあげることで、馬の蹄自身が自然に健康な形になっていくことではないかと考えています。

ショウ液でぷよぷよとむくむようになったという事に関しては、実際に触診をしたわけではないので確定的なことは申し上げられませんが、球節部での腱鞘または関節包の膨満ではないと考えられます。もしそうだとすると、加齢や疲労によって球節の掌側支持機能をになう結合組織がその弾性を失ってくることで、球節の沈下度合いが増してきた可能性があるかもしれません。もし、運動時の球節角度(=球節の沈下度)が変化したとすれば、当然ながら繋ぎや蹄の角度もそれに合わせて変わってきますし、蹄踵の低さもその一連の変化のひとつであるかもしれません。そう意味では、「ローヒールを矯正」していくと言うよりも、過剰なローヒールにならないよう補助してあげる、という削蹄法を検討していくのはどうでしょうか?

以上、漠然とした内容になってしまいましたが、何かのお役に立てば光栄です。装蹄師さんには、馬主さんや獣医さんにはない多くの経験と知識がありますので、装蹄師さんと相談を重ねて、新しい装蹄法&削蹄法を試してみることが大切だと思います。そして、何が正しい装蹄療法なのか?という答えは、常に馬自身が出してくれると考えています。
ありがとうございます! (Howdy Cowgirl)
2011-11-25 11:30:19
ご親切な回答をありがとうございます。
確かに馬によって違いますよね。

以前は、自然とソフトに外を向いていた蹄が、今は、くいっと内を向いていて、ハヤアシもできない、と痛い、と泣きます。この状態でも、怖いトレーナーがまたがると、泣きながら運動してしまうので、どんどん関節が悪くなります。このスパイラルを断ち切るために、誰も乗らずに、放牧で追いかけっこしたり、大きなチョウバサクでひたすらナミアシさせてます。ウオーキングマシンが欲しいですがー。

今の状況は明らかに肢勢が以前と異なるように矯正されてしまっているので、少しづつ、ソフトな外向きに戻しつつ、踵がない分、それを補助するような装蹄方法を装蹄師さんにはお願いしています。いきなり大がかりな改装をするのではなく、少しづつ、戻してゆこう、ということになりました。

うちの馬さんよりも「もっとローヒールだよー」と自慢?していた馬は、すぐにハコウしますし、寂しそうな瞳をしています。うちのは、ハコウしないだけ、まだ、ありがたいなー、と思うのですが、ナチュラルバランスをキーワードに、頑張って、快適な足元に戻してあげようと思います!!

日本の装蹄師さんは「素人はプロの装蹄師にまかせなさい」的な書き方が多いように思うのですが、馬の肢を毎日見て、触って、痛いという表情をする、小さな変化を一番知っているのはオーナーです。この自負を持って、装蹄師さんには、「相談」しながら進めて行ければと思っています。

ひきとって来た時に2肢に見られたひどい蟻洞も装蹄師さんがステーブルスタッフを指導してくださり、皆の協力で、綺麗に治して頂いたんですよー。(^-^)

これからも情報、楽しみにしていまーす!

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