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米国での獣医卒業生の就職事情

2011-10-09 | 話題
米国における今年度(2011年)の獣医卒業生の就職状況が報告されています。
Shepherd AJ, Pikel L. Employment, starting salaries, and educational indebtedness of year-2011 graduates of US veterinary medical colleges. J Am Vet Med Assoc. 2011; 239(7): 953-957.

2011年度の獣医卒業生のうち、少なくとも一つの仕事のオファーがあったのは74%で、2010年の79%、2009年の80%よりもやや下降傾向にあり、仕事のオファーを受け入れたのは64%にとどまりました。このうち、一般開業への就職は45%で、この仕事の内訳を見ると、小動物のみの臨床(Companion animal exclusive)が24%と最も多く、次いで混合臨床(Mix practice)が9%、小動物中心の臨床(Companion animal predominant)が5%、馬の臨床が3%などとなっていました。一方、2011年度の獣医卒業生で、インターンシップを始めたのは52%で、このインターンのあと、専門医ポジションへの応募を予定しているのは37%、博士号などのより高い学位の取得を予定しているのは32%に達していました。

2011年度の獣医卒業生の初任給は、全体では約47,000ドルでしたが、インターンを除いた場合には約66,000ドルで(=インターンは一般開業より給料がかなり低いため)、前年度と比較して1.3〜3.5%の減少となっていました。また、一般開業における初任給を、仕事の種類別に見ると、食肉動物のみの臨床(Food animal exclusive)が約71,000ドルと最も高く、次いで、小動物のみの臨床および小動物中心の臨床が約70,000ドル、食肉動物中心の臨床(Food animal predominant)が約67,000ドル、混合臨床が約63,000ドルと続き、馬の臨床は約43,000ドルで最下位となっていました。馬の獣医師の初任給が低いのは、一人前になるまでの卒後の下積み期間に、学ぶことが多いということなのでしょうか?


以上のように、米国における獣医卒業生の就職では、不況の影響がまだ色濃く残っていると言えそうです。全体的に見ると、仕事のオファーが減っているだけでなく、給与も減少傾向にあることから、納得のいく職が見つかるまで契約を躊躇する場合が増えているため、オファーされた仕事を断るケースも増加していると推測されました。そして、このような深刻な就職難を乗り切るため、インターンに進む卒業生の割合が五割を超えており、専門技術を取得するための卒後トレーニング過程への嗜好が、急増している現実が浮き彫りになっています。この傾向は、アジアやヨーロッパの国々からやって来て、米国での専門医を目指す“外国人獣医師”(当然、日本人もこれに含まれる)にとっては、研修医への競争率が近年極めて高くなっている一つの要因であると言えます。

今回の調査報告の中で、個人的に最も感慨を受けたデータは、2011年度の獣医卒業生の卒業時点での借金(Debt)が、約143,000ドルに達していたことで、これは、2010年度の獣医卒業生のそれよりも7%増になっていました。この背景には、米国の獣医学部生の殆どが、親からの出資ではなく、自らの学生ローンを使って獣医大学に入ってきているという事情があり、つまり、獣医学生の卒業時点では、初任給の数年分に匹敵する多額の借金があるという計算になります。このような話を聞くにつけ、両親に学費を出してもらって日本の獣医大学で勉強できた自分自身が、いかに幸せだったのかと今更ながらに痛感させられました。


Photo courtesy of Google.com.

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4 コメント

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Unknown (hig)
2011-10-08 10:17:05
USAは獣医学を学び、実践する環境が整っている。と言っても現実は厳しいですね。1ドル75円は生活水準を反映していないと思いますが、1ドル100円で計算してもUSAの新卒獣医師の置かれている厳しい状況がわかります。ただでさえ、日本より長い教育を受けてきているのに!
 入学者の7割しか卒業できないというのも、卒業できなかった者には借金と卒業できなかったという肩書きだけが残るのでしょうか・・・・
Unknown (Rowdy Pony)
2011-10-08 13:18:32
Hig先生
貴重なコメントを頂いて光栄です。確かに米国での教育費の高さには、驚かされることが多いです。

大学教育が高額であるため、親が金持ちであったり、飛びぬけた秀才で奨学金が貰える場合や、はたまた、兵役で命を危険に晒して退役軍人手当(=GI bill)を受けない限りは、十分な教育を受けられないという、徹底した実力社会・勝ち組社会の国だと気付かされます。

弱肉強食の競争社会であるからこそ、学問のレベルが高いという一面があるのかもしれませんが、その反面、低学歴イコール低収入という構造から、貧富の差がとても激しい社会体系が生み出されています。

“教育”だけでなく、“安全”や“健康”も、金持ちしか享受できないという米国の実状を見るにつけ、真の意味で「住みよい国」であるかに関しては、疑問を投げ掛けざるを得ません。
Unknown (りょうた)
2012-02-07 05:35:45
学費の問題は獣医だけではないですね。アメリカの薬剤師は卒業時に学生ローンが20万ドル程度あるという記事を見つけました。さらにひどいことにインターン先が見つからず卒業すらできない状態の学生が少なくないという状態だそうです。
原因はアメリカの薬剤師の初任給が平均12万ドル程度なので、学生は多くの授業料を払うことをためらわないので多くの大学が薬学部を増やしたためだそうです。もちろんこのような事態が起こるのは予想されていたそうです。
アメリカの大学が【経営】を重視している典型的な例だと思います。
アメリカの教育レベルは世界で最高というのは疑いのないことですが、【大学経営】という言葉を掲げて、高い授業料を請求する教育には疑問があります。
アメリカのNAVLE受験者数もここ10年で2割程度増えているので同じことが起こらないとは断言できないと思います。
独立採算制に移行した日本の国公立大学がアメリカのようにならないようになることを切望せずにはいられません。
もちろん日本の獣医教育レベルの向上のためにある程度の授業料の増加はあっても良いと思っています。卒業時に診察も治療もできない日本の獣医学教育を非常におかしいと思うのは私だけでしょうか?
Unknown (Rowdy Pony)
2012-02-07 13:52:44
りょうた様
貴重なコメントありがとうございました。

米国における薬学部の現状は、獣医学部の将来にも当てはまる問題なのかもしれません。米国の多くの獣医大学は、経営悪化から安易な学生数増加に走り始めており、近い将来に獣医師が余って就職先が無い、という状況に陥る危険性も指摘されています。経済危機からの景気回復が大幅に遅れて、就職難が続いている米国では、特に深刻な課題なのではないでしょうか。

多額の借金がある獣医学生は、卒業したりインターンを終えて学生という身分でなくなった途端、借金返済の取り立てを受けることになります。中には、レジデントを修了して専門医を取得したにも関わらず、就職先が見つからず、学費の借金を返すために、他の銀行ローンの借り入れを強いられた、という知り合いもいました。

学費が異常に高く、当たり前の教育が受けられない貧困層があふれている米国に比べれば、大学教育が無料もしくは超低額であるヨーロッパ諸国や、親のスネをかじる程度で大学に行ける日本は、とても住みやすい幸せな国であると言えるのかもしれません。

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