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馬の診療:義足手術 その1

2011-05-01 | 診療
馬における断脚術(Limb amputation)および義足(Prosthesis)は、遠位肢の重篤な運動器疾患(Severe musculoskeletal disorder)に対する救援療法(Salvage therapy)の一つであり、これまでに数多くの成功例が報告されていますが、その実施の是非およびタイミングを判断するのが難しい治療法です。そして、断脚術と義足手術を応用する症例を適切に見極めるためには、(1)断脚する位置(Level of amputation)、(2)患馬の全身状態、(3)対側肢(Contralateral limb)の状態、(4)患馬の気質(Disposition)、(5)術後の責任(Commitment)に対する馬主&管理者の理解、などの、多くの要因を考慮する必要があります。

(1)断脚する位置:
馬の断脚術は、罹患肢を切断する位置によって、(A)上腕部または下腿部での断脚、(B)管部での断脚、(C)繋部での断脚、という三種類に分類されます(下図A〜C)。(A)の上腕部&下腿部での断脚は、手根&足根(Carpus/Tarsus)や管骨(Cannon bone)の重篤な損傷を呈した症例に応用が可能ですが、手根関節または足根関節より上部に義足を取り付けることは困難であるため、断脚後には馬は三本肢での生活を余儀なくされる場合が多いことから、この位置での断脚術が実施される症例は稀です。(B)の管部での断脚は、管骨、基節骨(Proximal phalanx)、近位種子骨(Proximal sesamoid bone)、および球節(Fetlock)の重篤な損傷を呈した症例に応用が可能な術式です。この場合には、断脚端(Amputated stump)への負担を減らすため、肢の直径が大きくなる手根または足根の下部で体重支持できるように、様々な種類の義足が考案されて使用されています。(C)の繋部での断脚は、基節骨、中節骨(Middle phalanx)、末節骨(Distal phalanx)、および蹄部の重篤な損傷を呈した症例に応用が可能な術式です。この場合には、断脚端に蹄叉(Hoof frog)の組織を自家的移植(Autologous transplantation)することで、患肢への荷重を容易にする手法が併用されることもあります。


(2)患馬の全身状態:
断脚術および義足手術を応用する際には、複数回の全身麻酔(Multiple general anesthesia)と長期間にわたる抗生物質&抗炎症剤療法(Prolonged anti-inflammatory/anti-microbial therapy)を要することから、患馬は良好な全身状態を保っていることが重要です。その意味では、他の治療法が奏功しなかった後に断脚術&義足手術を考慮するというよりも、出来るだけ早期に断脚術&義足手術を応用するという治療方針を決定するべきである、という提唱がなされています。

(3)対側肢の状態
断脚術および義足手術では、対側肢の運動器疾患が重要な術後合併症(Post-operative complication)として懸念されるため、術前には慎重な触診(Palpation)、レントゲン検査(Radiography)、超音波検査(Ultrasonography)などを行って、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis)、蹄底膿瘍(Subsolar abscess)、内反症(Varus limb deformity)、球節の支持を担う軟部組織の損失(Loss of supporting soft tissue structure of fetlock joint)が認められる場合には、断脚術および義足手術の実施を再検討(Reconsideration)するべきである、という警鐘が鳴らされています。一方で、義足装着後に患肢への十分な荷重ができるようになり、対側肢に起こり始めていた負重性蹄葉炎が治癒に向かったという症例報告もあるため、対側肢に蹄葉炎を発症しているという所見だけでは、直ちに断脚術および義足手術を断念する理由にはならない、という提起もなされています。


(4)患馬の気質
断脚術および義足手術を応用する患馬の気質に関しては、侵襲性の高い治療(Invasive treatment)や頻繁な術創処置(Frequent incisional care)を長期間にわたって許容するという、「大人しい」性格の馬のほうが適しているのは間違いありません。しかし、患馬は断脚術の後に、(A)全肢ギプス(Full-limb cast)の装着、(B)吊起帯(Sling)の装着およびそれによる寝起きの補助(上記写真)、(C)通常の馬よりも横臥位や胸臥位(Lateral/Sternal recumbency)で過ごす時間を長く取る(=対側肢の負重性蹄葉炎を起こさないようにするため)(下記写真)、などを学習する必要があるため、様々な環境の変化に柔軟に対応するという、「賢さ」(Intelligence)を持っていることも、極めて重要な要因であると提起されています。そして、賢明な馬は数日の期間内でこの(A)〜(C)への順応(Adaptation)を示すことから、手術前の数日間に全肢ギプスや吊起帯を使用することで、患馬の気質や賢さを慎重に評価して、断脚術および義足手術の実施の是非を判断することが大切です。


(5)術後の責任に対する馬主の理解
断脚術および義足手術を応用する症例の馬主&管理者に対しては、患馬に対しての献身的、経済的、かつ長期間にわたる介護の責任(Responsibilities of dedicated, financial, and long-term patient care)が生じることを、術前に説明し十分な理解を得ることが必須です。馬主&管理者の責任としては、患馬が死ぬまで毎日一回は患肢の状態をチェックすること、少なくとも一日おきに義足&バンテージの交換を行うこと(下記写真)、安全かつ清潔な飼養環境を維持すること、などが含まれます。また、最初の断脚術の手術費だけでなく、術後に起こりうる合併症の治療費、義足の購入&修理&維持に掛かる費用、などを負担する責任があることに、同意(Consent)を得る必要があります。さらに、そのような高額の出費にも関わらず、患馬は騎乗には使用できず、繁殖馬としての使役にも耐えられない可能性があること、そして、義足手術が成功した症例においても、数年間しか生き延びられない場合が多いこと、等を十分に理解してもらうことが重要です。


Photo courtesy of Grant BD. Limb Amputation and Prosthesis. In: Current Techniques in Equine Surgery and Lameness. 2nd ed. W.B.Saunders. 1998: pp463-468; Krpan MK, et al. Amputation of the equine limb: a report of three cases. Proc AAEP. 1985; 30: 429-444; Kelmer G, et al. Case report: Amputation and prosthesis in a horse: short- and long-term complications. Equine Vet Educ. 2004; 16(5): 235-241; Vlahos TP, et al. Tutorial article: Amputation of the equine distal limb: indications, techniques and long-term care. Equine Vet Educ. 2005; 17(4): 212-217; Vlahos TP, et al. How to perform amputation of the equine limb using a caudal flap technique. Proc AAEP. 2010; 56: 187-191.

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