
アメリカで一番有名な馬といえば、競走馬でもオリンピック馬でもなく、義足の馬“モリー”ではないかと思います。
数年前にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カタリーナの災害時に、モリーは右前肢に重症を負いました。しかし幸いにも、緊急搬送されたルイジアナ州立大学獣医学部での集中治療が奏功して、モリーは一命を取り留めることが出来ました。そして、深手を負った右前肢に義足を付けることで、無事に歩行が可能なまでに回復することが出来たのです。
獣医学的には、骨折した馬に義足(Prosthetic leg, Amputation)を付けても、予後不良となる症例も多いと言われています。それは、例え義足手術自体が成功しても、正常な肢とまったく同じように機能することは難しく、対側肢に掛かる負荷がどうしても増加してしまい、負重性蹄葉炎(Support laminitis)を続発して斃死してしまうからです。しかし、モリーの診療を行ったルイジアナ州立大学のDr.Mooreは、(1)モリーが体重の軽いポニーであること、(2)気性が大変おとなしく長期間にわたるケアーを許容すると考えられたこと、そして、(3)とても頭が良いポニーで、左前肢に掛かる負荷を減らすためうまく体重をシフトさせたり、寝そべったりする工夫をしていること、等の要素を考慮して、極めて例外的に、義足を付けることで延命が期待できる症例であると判断し、手術に踏み切ったのだそうです。

モリーのレスキューとその後の世話に携わったケイ・ヘイズさんは、ルイジアナ州のニューオーリンズでポニー牧場を営んでいて、モリーはたくさんの他のポニー達と一緒に余生を送ることが出来ることになりました。しかし、「義足を付けた馬」という噂を聞いたあるリハビリ施設から訪問依頼を受けたことをきっかけに、ヘイズさんはモリーと一緒に、病院、障害者用養護施設、老人ホーム、リハビリセンターなどを度々訪れるようになりました。そしてモリーは、各施設で体の不自由な人達を励まし、心の支えとなり、『ポニーのモリー』(“Molly the pony”)という絵本まで販売され、ついには“モリー基金”(Molly’s foundation: www.mollythepony.com/)という組織が作られて、ポニーを介しての教育活動や社会貢献のための寄付金を募るようになりました。
若い世代で障害を負った方の中には、体の不自由を苦にして自閉症に陥るケースもあるのだそうですが、そんな子供たちも、小さなポニーが義足を付けながら懸命に生き延びる姿を見て、勇気付けられることが多いのだと思います。モリーの執刀医Dr.Mooreは談話の中でこう述べています。「モリーは、ハリケーンを乗り越え、大怪我を乗り越え、そして多くの人々に希望を与え続けている。モリーは既にニューオーリンズそのもののシンボルとも言える存在なんだ。」

義足を付けた馬はモリーが初めてではありません。しかし、義足手術を受けた一頭のポニーによって、人間と馬が支えあっていくというストーリーが生まれたことが一番素晴らしいのだと思います。一頭のポニーを災害から救ったレスキュー隊の人々、大怪我をした馬を懸命に治療した獣医師達、そして、そんなポニーに励まされて社会復帰を目指す多くの障害者がいること。モリーのお話は、義足手術そのものよりも、モリーとモリーを取り巻く多くの人達のストーリーに他なりません。
肢を失った馬がこんなに立派な社会貢献しているのに、五体満足な私たち人間が、休日ごとにソファーで寝そべっているのは恥ずかしいなぁ、と実感させられた今日この頃です。
Photo courtesy of Los Angeles Times, L. A. Unleashed, “Molly, the pony with a prosthetic leg, inspires wherever she goes.” June 16th, 2009.
関連記事:
馬の診療:義足手術 その1
馬の診療:義足手術 その2
馬の診療:義足手術 その3
馬の文献:義足手術(Koger. 1963)
馬の文献:義足手術(Koger et al. 1970)
馬の文献:義足手術(Evans. 1978)
馬の文献:義足手術(Krpan et al. 1985)
馬の文献:義足手術(Crawley et al. 1989)
馬の文献:義足手術(Kelmer et al. 2004)
馬の文献:義足手術(Vlahos and Redden. 2005)
馬の文献:義足手術(Vlahos et al. 2010)
義足の馬、モリーの来訪
数年前にアメリカ南部を襲ったハリケーン・カタリーナの災害時に、モリーは右前肢に重症を負いました。しかし幸いにも、緊急搬送されたルイジアナ州立大学獣医学部での集中治療が奏功して、モリーは一命を取り留めることが出来ました。そして、深手を負った右前肢に義足を付けることで、無事に歩行が可能なまでに回復することが出来たのです。
獣医学的には、骨折した馬に義足(Prosthetic leg, Amputation)を付けても、予後不良となる症例も多いと言われています。それは、例え義足手術自体が成功しても、正常な肢とまったく同じように機能することは難しく、対側肢に掛かる負荷がどうしても増加してしまい、負重性蹄葉炎(Support laminitis)を続発して斃死してしまうからです。しかし、モリーの診療を行ったルイジアナ州立大学のDr.Mooreは、(1)モリーが体重の軽いポニーであること、(2)気性が大変おとなしく長期間にわたるケアーを許容すると考えられたこと、そして、(3)とても頭が良いポニーで、左前肢に掛かる負荷を減らすためうまく体重をシフトさせたり、寝そべったりする工夫をしていること、等の要素を考慮して、極めて例外的に、義足を付けることで延命が期待できる症例であると判断し、手術に踏み切ったのだそうです。

モリーのレスキューとその後の世話に携わったケイ・ヘイズさんは、ルイジアナ州のニューオーリンズでポニー牧場を営んでいて、モリーはたくさんの他のポニー達と一緒に余生を送ることが出来ることになりました。しかし、「義足を付けた馬」という噂を聞いたあるリハビリ施設から訪問依頼を受けたことをきっかけに、ヘイズさんはモリーと一緒に、病院、障害者用養護施設、老人ホーム、リハビリセンターなどを度々訪れるようになりました。そしてモリーは、各施設で体の不自由な人達を励まし、心の支えとなり、『ポニーのモリー』(“Molly the pony”)という絵本まで販売され、ついには“モリー基金”(Molly’s foundation: www.mollythepony.com/)という組織が作られて、ポニーを介しての教育活動や社会貢献のための寄付金を募るようになりました。
若い世代で障害を負った方の中には、体の不自由を苦にして自閉症に陥るケースもあるのだそうですが、そんな子供たちも、小さなポニーが義足を付けながら懸命に生き延びる姿を見て、勇気付けられることが多いのだと思います。モリーの執刀医Dr.Mooreは談話の中でこう述べています。「モリーは、ハリケーンを乗り越え、大怪我を乗り越え、そして多くの人々に希望を与え続けている。モリーは既にニューオーリンズそのもののシンボルとも言える存在なんだ。」

義足を付けた馬はモリーが初めてではありません。しかし、義足手術を受けた一頭のポニーによって、人間と馬が支えあっていくというストーリーが生まれたことが一番素晴らしいのだと思います。一頭のポニーを災害から救ったレスキュー隊の人々、大怪我をした馬を懸命に治療した獣医師達、そして、そんなポニーに励まされて社会復帰を目指す多くの障害者がいること。モリーのお話は、義足手術そのものよりも、モリーとモリーを取り巻く多くの人達のストーリーに他なりません。
肢を失った馬がこんなに立派な社会貢献しているのに、五体満足な私たち人間が、休日ごとにソファーで寝そべっているのは恥ずかしいなぁ、と実感させられた今日この頃です。
Photo courtesy of Los Angeles Times, L. A. Unleashed, “Molly, the pony with a prosthetic leg, inspires wherever she goes.” June 16th, 2009.
関連記事:
馬の診療:義足手術 その1
馬の診療:義足手術 その2
馬の診療:義足手術 その3
馬の文献:義足手術(Koger. 1963)
馬の文献:義足手術(Koger et al. 1970)
馬の文献:義足手術(Evans. 1978)
馬の文献:義足手術(Krpan et al. 1985)
馬の文献:義足手術(Crawley et al. 1989)
馬の文献:義足手術(Kelmer et al. 2004)
馬の文献:義足手術(Vlahos and Redden. 2005)
馬の文献:義足手術(Vlahos et al. 2010)
義足の馬、モリーの来訪































その馬の話を探していて・・・
素晴らしいですね!本当に
ビックリです
心温まるコメントありがとうございました。
義足を着けた馬を見るたびに、馬自身の頑張りに心を打たれるのと同時に、絶えず献身的なケアーを続ける馬主、トレーナー、獣医師の努力にも、敬意を払わずにはいられません。
モリーに出会ったりその話を知る時には、一頭の馬が生き続けているという事実だけでなく、それを支える人々の生き様に勇気付けられるのではないでしょうか。