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各国のセンターハーフの類型3 「ボランチ論」 PART2

■ イタリア  CENTROCAMPISTA CENTRALE(チェントロカンピスタ・チェントラーレ)

◆ 変化し続けるメディアーノ
イタリアが世界有数の戦術国として認知されたのは、1980年代後半のアリゴ・サッキ登場(87年)からで、それ以前は、イングランドやオランダなどヨーロッパ列強国の後塵を拝してきた。“サッキ革命”前の50年代末から80年代後半までは、ほとんどのチームが同じシステムを採用している。つまり、リベロを置いてマンマークで守る『カテナチオ』だ。

攻守が完全に分かれたシステムの特長は、最後尾からのロングパスでカウンターを狙うものだった。そして、このシステムの中間に位置する選手が『メディアーノ』と呼ばれ広く一般的に使われた。当時、メディアーノの役割は自陣で待機してボールを奪い、攻撃に転じた際には、カウンターに走るFWの後方支援に走るだけのものだった。(チェントロカンピスタ・チェントラーレは、単にポジションを表す言葉に過ぎなかった。)

その後、60年から70年代後半にかけて、ミランにビッグタイトルをもたらしたジャンニ・リベラは、『メッツァーラ』とカテゴライズされる。特徴は、攻撃的な資質を備えた中盤の選手。しかし、カテナチオからの脱却、新たな戦術の考案までには至らなかった。(コージ注:現代的な言い方だと「トレクアルディスタ」。いわゆる“ファンタジスタ”タイプのプレーヤーのこと。「ルイス・スアレス → ジャンニ・リベラ → ロベルト・バッジオという系譜」しかし、現在では、絶滅種と言えるだろう)

◆ サッキの登場
80年代、サッキの登場で変化したことのひとつとして、メディアーノの持つイメージが広い意味で多様化されたことである。イタリアという国はもともと戦術志向が強く、個々の選手の役割分業化される傾向にあった。

サッキは、中盤を縦の「2-2」からフラットな「4-4-2」を確立させた。当然、このシステムの中で中盤に求められる役割は大きく変化し資質も細分化された。メディアーノというくくりは姿を消し、『レジスタ』、『インコントリスタ(= インテルディトーレ)』と言った呼称が、個々の特性に応じ使い分けれれるようになる。また、『メディアーノ』自体も独自の意味を持つようになっていった。つまり、メッツァーラよりも守備的でゲームメイク能力を併せ持つような選手を指すようになった。

90年代に入ると、『インクルソーレ』という新しい言葉も生まれる。攻撃性の強い線種を表し、前線への攻め上がりを得意とする選手達だ。結果、レジスタ、インコントリスタと言った各カテゴリィの線引きが一層明確となった。その後、メディアーノの存在はさらに独自性を高め、メディアーノやインクルソーレの枠組内では収まり切れなくなっていた。

今日のメディアーノは、攻守に求められるすべての要素を兼ね備えるということだ。優秀なメディアーノが次々と誕生する中で、純然たるレジスタが減少傾向にあるのは言うまでもない。今後は、さらに細分化の道をたどることが予想される。時代時代で変化し続けている『メディアーノ』という言葉も、また違った形に変化していくはずである。

◆ CENTROCAMPISTA CENTRALE(チェントロカンピスタ・チェントラーレ)の分類
1. “MEDIANO(メディアーノ)”「真中の人」の意味。
元々は中盤のそこで走り回る守備専業に使われたが、役割の細分化に伴い、意味も大きく変化。現在は攻守に求めるられるすべての要素を兼ね備えたタイプに使う。
 ex.セードルフ、ダクール、カンビアッソ、アクイラーニ、ライカールト、ファルカン

2. “REGISTA(レジスタ)”「演出家」の意味。
映画監督やまとめ役にも、この言葉を用いる。攻撃をオーガナイズする司令塔で、視野の広さとパスの精度を兼備する。
 ex.ピルロ、ピサロ、アルベルディーニ、アンチェロッティ

3. “INCONTRISTA(インコントリスタ)”「阻止する人。ぶつかる人」の意味。
対戦相手のボールホルダーと接触が多いことから使われるようになった。攻撃にはほとんど参加しない『ボール奪取専業家』を指している。
 ex.ガットゥーソ、デシャン、デサイー

4. “INCURSORE(インクルソーレ)”「襲撃者」の意味。
絶妙の攻め上がりと高い得点力を誇ることから、そう呼ばれるようになった。優れた瞬発力と持久力を武器にし、攻撃性が強くてダイナミズムを併せ持った危険な存在。
 ex.デロッシ、スタンコビッチ、ネドベド

(文末に、資料として『 イタリア風センターハーフの詳細なタイポロジー by attacking phase 』があるので興味ある方はご覧下さい)

■ アンチェロッティが語る、センターハーフ論


(ここで、カルロ・アンチェロッティのCHに関する解説を・・・)
私の現役当時、CH(センターハーフ)に適した人材を見出すのは決して難しい作業ではなかった。
それはゲームがシンプルだったからだ。求められる資質も限られていた。レジスタ(regista = 演出家)にふさわしいものがゲームを作り、 インテルディトーレ(interditore = 敵の攻撃を“阻止する人”の意)が相手のボールを奪う。極言すれば、単にそれだけだった。勿論、今も基本的な考えは同じだ。しかし、CHに与えられる役割の数、要求されるプレーの精度、運動量、いくつもの戦術に対応出来る柔軟性が必要とされる。

最初に語るべきは、やはり典型的なCH、レジスタからになるだろう。このプレーヤーを中心にして、GKを除く9人がピッチを走るからだ。レジスタの利き足を起点にすべての(攻撃の)アクションがスタートする。例えば20年前、レジスタには、まず“遅いこと”が求められた。細かいパス交換もロングパスも、常に十分な時間が与えられる中で行えたからだ。そのロングパスは基本的にサイド(両ウィング)を走らせる狙いで放たれた。むろん、その考えられたプレーは多くの美しい展開、ゴールを生み、私たちを魅了した。

しかし、「その頭脳さえ止めれば、チームは消える」とサッキはいい、現実に止める手段として高い位置から始めるプレスを考案した。その結果、CHたちは特性を変え、そしてサッカーの解釈そのものが劇的に変わった。そして、唯一の例外、アンドレア・ピルロを除いて多くのレジスタたちは、プレスに対処するためにプレー速度を上げ、活動範囲を広げ、ボールコントロールを向上させた。そして、レジスタたちはほとんどの場合、自らの隣にインコントリスタ(incotrista = 潰し屋)を置いてプレーするようになった。

(コージ注:多分、ここでアンチェロッティが語っているCHとは、時代背景等から『メッツァーラ』(ファンタジスタ)タイプのことだと思われる。)

レジスタを生かすためにインコントリスタのポジションは存在すると言ってもいいだろう。特に、中盤でボールを奪われた際、背後をカバーし、多くの場合、戦略的なファウルを用いて敵の攻撃の芽を摘むのだ。彼らはタフな心肺機能、自己犠牲の精神、接触を恐れない闘志も必要だ。

ここでもう一つ解説を。ACミランの[4-3-1-2]及び[4-3-2-1]は、ピルロ・システムとも言われる。つまり、[4-4-2]のCH「インコントリスタ(ガットゥーゾ)とレジスタ(ピルロ)」という組み合わせでは、根本的な問題がある。それは、ピルロの守備力である。(アンチェロッティの例外の意味)それを補完する為に、セードルフやアンブロジーニが必要となった。彼らのようなタイプ『メディアーノ』(クルソーレ、インクルソーレ)がピルロを使う為には必須であった。故に、ACミランは中盤が3人で構成されている。

また、ドイツW杯で優勝したイタリアは、中盤は、「ペロッタ、ガトゥーゾ、ピルロ、カモラネージ」ではあったが、少なくともACミランの「ピルロ・システム」を踏襲しているのは明らかである。(この点は、アンチェロッティも語っている)つまり、当時イタリア代表監督マルチェロ・リッピもピルロを使う為にはガトゥーゾが必要であったと考えていたはずである。


レジスタ、インコントリスタに続くのがメディアーノ(mediano = “中央の”の意)だ。現代サッカーが最も多く“生産”したのが、このポジションと言える。強靭な肉体とテクニック、優れた頭脳、シンプルにボールをさばく感性。これらすべて併せ持つプレーヤーをメディアーノと呼ぶ。例えば、スティーブン・ジェラードはその象徴的な選手だ。加えて、彼には稀有なまでのカリスマ性もある。得点能力も実に高い。インコントリスタ的な強さ、レジスタ的なゲームメイク能力も同時に備える。最も完成されたCHだ。また、イタリア国内に目を向けるとダニエレ・デロッシとシモーネ・ペロッタ(共にローマ)は、長いアズーリの歴史でも、最も完成されたMFと言えるはずだ。とくにペロッタの柔軟性は突出している。すべての戦術に彼は完全に適応してみせる。

その他にもインクルソーレ(incursore = “襲撃隊員”の意)というのもあるが、アンチェロッティはメディアーノという分類の中に含まれていると考えている。インクルソーレというポジションには明確な定義がなく、メディアーノが時に(局面に応じて)インクルソーレにもなると言っている。また、インコントリスタではなくインテルディトーレ、レジスタではなくプレーメーカーという表現は単に言葉遊びに過ぎないと言っている。

現在のイタリアでCHとしてプレーしている者のおよそ50%は「メディアーノ」と称されるだろう。これに伴って、インコントリスタやレジスタの数は減少傾向にある。以前よりパワーと精度が求められる中で、メディアーノの需要が高まるのは必然と言える。

イタリア以外の国も全く同じ傾向にある。もはやすべての国で、ゲームを司るのは最も完成されたMFの役割だ。つまり、メディアーノが担う。勿論、その中に攻撃的か守備的かの区分けはある。これが現代サッカーにみる最も重要な特性ということだ。今後しばらくは、この傾向が続くと私は見ている。


■ サッキ登場以降の主な中盤の構成例と戦績



◆ 「サッキ、カペッロ、アンチェロッティ、リッピ」の戦績
■ ACミラン
アリゴ・サッキ(87-91、96-97) 監督歴は、wikiにて

  セリエA CL
87/88 1位  -
88/89 3位  優勝
89/90 2位  優勝
90/91 2位  ベスト8
96/97 11位  GL敗退

ファビオ・カペッロ(91-96、97-98) 監督歴は、wikiにて
91/92 1位  - (UEFAカップ2回戦)
92/93 1位  準優勝
93/94 1位  優勝
94/95 4位  準優勝
95/96 1位  - (UEFAカップベスト8)
97/98 10位

カルロ・アンチェロッティ(01-) 監督歴は、wikiにて
01/02 4位  - 
02/03 3位  優勝
03/04 1位  ベスト8
04/05 2位  準優勝
05/06 3位  ベスト4
06/07 4位  優勝


■ ユベントス
マルチェロ・リッピ(94-99) 監督歴は、wikiにて
94/95 1位  -(UEFAカップ準優勝)
95/96 2位  優勝
96/97 1位  準優勝
97/98 1位  準優勝
98/99 6位  ベスト4

サッキの考案したゾーンプレスの大きなキーワードは3つ。
 「プレッシング」、「4-4-2」、「高いライン」
カペッロは、サッキの基本的な戦術を踏襲しつつも変化をもたらした。例えば、高いラインを下げたりなど、選手の特性とチームの特性を生かした組み合わせを実現させた。現実的にサッキの戦術では長いシーズンを通して高いパフォーマンスを維持するのが難しかった。サッキ時代、セリエAでのスクデットは1回のみで、CLで2度の優勝を残しているのは、一つの問題を表していると言えないだろうか。

そして、カペッロが就任してACミランの黄金期を迎えることになる。スクデット4回、CL優勝2回、準優勝1回という輝かしい戦績を残している。サッキがもたらした戦術の変化は、94年ユベントスの監督に就任したリッピに託された。そして、ちなみに、チャンピオンズリーグを制したチームの心臓はパウロ・ソウザとディディエ・デシャンだったが、「レジスタ+インコントリスタ」という組み合わせが大きな潮流となった。(今も中盤でこの組み合わせを採用しているチームは数知れず)チャンピオンズリーグを制した年は4バックであったが、その後[3-5-2]を採用。DFラインを押し上げ中盤での数的優位を生かし激しいプレッシングでゲームをコントロールした。そして、ユベントスの激しいイメージはこの頃に出来上がったものだと思われる。
しかし、90年代のセリエAは、ACミラン、ユベントスの独壇場である。インテルは、何していた・・・

最後まで読んで下さって、ありがとうございます。
このシリーズは、とりあえず今回で一区切りです。
要は、日本ではボランチと一括りにしちゃうけど、その辺考えてみようという企画でした。
よかったらクリックお願いします。


 1.ボランチ論 PART1
 2.ボランチのルーツを探る 「ボランチ論」 PART1.5
 3.各国のセンターハーフの類型1 「ボランチ論」 PART2
 4.各国のセンターハーフの類型2 「ボランチ論」 PART2


■□ 参考資料・引用など □■
 ・ ワールドサッカーマガジン 2006/09/21発売号 (10/5号) - 国別センターハーフ研究
 ・ attacking phase - イタリア風センターハーフの詳細なタイポロジー
 ・ attacking phase - 20世紀、80年代以降のイタリアの戦術の進化
 ・ スポナビコラム - アンチェロッティ ミランで掴んだ栄光の裏側
 ※ 今回の資料は、2年ほど前の雑誌なので、情報の新鮮さに欠ける部分はありましたが、逆に時代を遡るという意味では良かったかもしれません。この辺に関しては、ご理解、ご了承願います。




コメント ( 4 ) | Trackback ( 1 )
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コメント
 
 
 
初コメです。 (June)
2008-04-02 12:20:48
ここのブログは、半年ほど前から読ませていただいてました。


私がサッカーにハマり出したのがちょうど半年前頃なんですが、チームとかプレイヤーよりも戦術やシステムの方に興味を持っていて、そのことばかり勉強(?)していて一番の疑問がちょうど今回一連で取り上げられたことに関してでした。

日本代表戦等を見ていても「中盤の選手」とよくまとめられていますが仕事が全然違うのにどうも違和感を感じていて;


無事その疑問も解決できました。ありがとうございました
 
 
 
コメントのお返事 (コージ)
2008-04-02 19:39:38
Juneさん

こんばんは、はじめまして。
「中盤」及び「ボランチ」という表現は、日本では広義かもしれませんね・・・日本では役割云々よりも最近は、いわゆるMFとDFの間に位置する選手というニュアンスが強いかもしれませんね。
今後とも宜しくお願いします。
 
 
 
はじめまして (NARY)
2008-04-03 01:59:16
半年チョット前より拝見させて頂いております。

年齢がバレそうですが、イタリアのセンターMFとして私が真っ先に思いついたのは、ディノ・バッジョです。

キャリアの終盤はセンターバックとしてプレーしていましたが、当時の日本では“ディフェンス・ハーフ”と言う呼び方が主流だった時代にあって、攻撃力を兼ね備えたディフェンシブ・ハーフと感じていた記憶があります。

そんなに頻繁に攻めあがるタイプではなかったですが、時折見せる攻撃参加や、ミドルシュートが印象的でした。

ボールを奪ってからのフィードは攻撃の起点となるモノでしたし、アズーリでは同名のファンタジスタにライトが当たりっぱなしでしたが、もし今の時代なら充分に脚光を浴びるスタイルだったのかな~ぁ、と感じます。(半分ファン心理ですが。。)
 
 
 
コメントのお返事 (コージ)
2008-04-03 22:33:31
NARYさん

こんばんは、はじめまして。
ディノ・バッジオは良い選手ですよね。私もタイムリーに知っています(笑)
 
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