Nice One!! @goo

観たい映画だけしか観てません。今忙しいんでいろいろ放置

『セデック・バレ 第一部 太陽旗 / 第二部 虹の橋』 (2011) / 台湾

2013-07-02 | 中国・香港・アジア映画、その他の映画


監督: ウェイ・ダーション
アクション監督: ヤン・ギルヨン 、 シム・ジェウォン
製作: ジョン・ウー 、 テレンス・チャン 、 ホアン・ジーミン
出演: リン・チンタイ 、マー・ジーシアン 、ビビアン・スー 、ランディ・ウェン 、安藤政信 、ルオ・メイリン 、河原さぶ 、木村祐一 、春田純一 、ダーチン 、スーダー 、シュー・イーファン 、ティエン・ジュン 、リン・ユアンジエ 、田中千絵
観賞劇場: キネカ大森

映画『セデック・バレ 第一部 太陽旗 / 第二部 虹の橋』 公式サイトはこちら。


ユーロスペースで上映していたのは知っていたんだけど、2本とも尺が長くなかなかスケジュールが組めなくて、そのうち上映が終わってしまい、キネカ大森の1週間限定上映をつかまえることができました。これを逃したら次はいつどこでかかるか分かりませんし、時間が丸ごと取れる日じゃないと行けないので、絶対この日で!と気合い入れて行って来ました。
キネカ大森さんのスクリーン1は初めてでしたが、足元が広くて映画を観る環境としては快適です。このくらいゆったりとしていると長尺でも安心して鑑賞できるのは嬉しい所。時間長いと足が辛くなってきますから。


台湾中部の山岳地帯に住む誇り高き狩猟民族・セデック族。その一集落を統べる頭目の息子モーナ・ルダオは村の内外に勇名をとどろかせていた。1895年、日清戦争で清が敗れると、台湾の主権が日本へ委譲されたことにより、先住民であるセデック族も日本人の開墾の労働者として扱われるようになっていく。それから35年、頭目となったモーナは依然として日々を耐え抜いていた。そんな中、日本人警察官とセデック族の一人が衝突したことをきっかけに、長らく押さえ込まれてきた住民たちが立ち上がり……。(Movie Walkerより)


1930年10月に起こった、霧社事件をモデルに描いた本作。

霧社事件 wikipedeia

狭い台湾の中にこんなに先住民族が存在したとは驚きだった。中国本土の民族は多岐に渡っているのは前から分かっていましたが、台湾のような狭い範囲でこれだけの文化があったら、日々殺し合いになるのは当然のこと。まして「先祖から受け継いだ狩り場」をそれぞれが主張していくのであれば必然的に揉めていくこととなる。
そこに日本の統治が始まることとなり、今までの自分たちが築き上げてきた生活や伝統、文化といったものは否定され、先住民族も日本人として生きることを強要され、日本に支配されることとなる。

祖先から受け継いできた信仰を否定され、壊されることはセデック族にとっては当然として耐え難い話であった。頭目モーナ・ルダオがもしも若き頃のように野心に溢れ、精悍さを誇っていたらすぐにでも決起しただろう。しかし歳月を経て大勢を束ねる身となるとそう簡単に事を起こせなくなるのである。相手は物量も豊富な日本軍、歯向かえば一族滅亡になることは目に見えていたからだ。

それでも蜂起を決意したのは何故か。彼らが崇めるところの「虹の橋」、全てはここに答えがあった。信仰心は時に全てのものを押さえて優先されてしまう。セデック族も例外ではなかった。虹の橋に行こう、そうすれば皆で楽しく暮らせる・・・現世に絶望した今、来世に望みを託すのは普通に考えれば悲劇なのだが、それを鼓舞し希望を持たせてしまうのが信仰であった。現世で踏みにじられ屈辱の日々を送るくらいなら死んで幸せになった方がどんなにいいか。同じような発想は古くは平家滅亡にもあり、また第2次世界大戦中の日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」や、現在でもイスラム教における殉教にも通じるものがある。
ただし全てのセデック族が蜂起したわけではなかった。かなり多くのセデック族は蕃人としての生活を捨てて同化政策を選びとる。それもまた一族が生き残るためには方法としては「あり」なのだ。勝ち目のない戦いに挑んで死ぬか、とにかく生き延びることなのか。どちらにも言えることは、それまでの彼らの伝統や生活は根本から破壊されることだ。

山岳地帯を駆け抜ける男たちによる壮絶な死闘。ゲリラ戦では圧倒的に現地人が優勢なのは明らかで、最初は日本軍を後退させていたが、物量に富む側はやはり最後には有利となっていってしまう。この事件の結末については調べれば出てくるが、そこに至るまでのそれぞれの立場における決意が哀しい。特にセデック族の女たちと、国策によって結婚させられた蕃人と日本人の夫婦については悲惨を極める。
進退ままならない己の運命を嘆き悲しむのは男たちだけではない。男たちは戦いを勝手に始め、大義名分のもとに華々しく散っていけばいいが、付随する女子供たちもまた戦争の大いなる犠牲者となっていく。勝てばいいが負けることは死を意味する。指導者の決断が否応なしに周囲を巻き込んでいくのはいつの時代の戦いも同じことだが、共同体を気遣う心の哀しさをこうしてまざまざと見せつけられるとやりきれない。未来を信じて幸せになるはずの結婚が、最悪の結末となるなんて一体誰が想像しただろう。だが彼らは歴史の狭間の犠牲者になっていってしまった。闘うとは、敗北とは、そういうことだ。
文明や統治に屈することなく、自分たちの誇りを選んだセデック族。こんな民族がいたことを日本人の多くは知らない。



キャスティングには実に多彩な民族の血を引く人間が起用された。蕃人役には本当にその少数民族の血を引く人物が、日本人役には日本人がちゃんとあてはめられている。霧社事件のことを詳しくは知らない蕃人役の俳優もいたそうで、ここで役をもらったがために改めて勉強し、自分たちのルーツについて誇りを持って撮影に臨むことができたそうだ。
特に若きモーナ・ルダオを演じたダーチン(大慶)が素晴らしい。躍動感のある演技や、その眼光の鋭さはきっとこれからも多くの人を魅了するだろう。
日本側の俳優では安藤政信が印象的だった。役柄もあるのだろうが、蕃人と日本人の架け橋たれと願う姿勢がいい。日本軍の行動そのものについては客観的に描かれており、どちらかを貶めるものではなく、公平に描くことで今後の歴史の参考にしてほしいという制作陣の想いが伝わってくるようだ。


★★★★☆ 4.5/5点






最新の画像もっと見る

12 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは ()
2013-07-06 15:24:06
少数民族なにの日本名を与えられ着物を着るビビアン・スーもタイヤル族出身なんですね。ビビアンはそのことを公にしていたんでしょうか。あるいはこの役をやるために明らかにしたのか? 

少数民族出身の役者を起用し、セリフも少数民族の言葉をしゃべる。そういうことにきちんと気を配っていることでも注目すべき映画ですね。
こんばんは (ノラネコ)
2013-07-06 18:42:02
4時間36分、これほど長いのに全く目が離せませんでしたね。
まああちこち気になる部分はあるのですが、作り手の“言いたい事”に対する熱量が凄まじく、最終的には圧倒されてしまいました。
いやはや大変な力作でした。
Unknown (ふじき78)
2013-07-07 05:13:32
単純にアクション映画の題材がまだまだ現実の歴史の中に埋もれている、鉱脈はある、という事実にワクワクしました。話は後半ちょっと長いす。
雄さん (rose_chocolat)
2013-07-07 16:32:04
>ビビアンはそのことを公にしていたんでしょうか。
私は知らなかったし、普通日本のTVでそこまで言わないですよね。今回皆さんキャストは出自を書いてるので、初めて明かしたんじゃないでしょうか。

>少数民族出身の役者を起用し、セリフも少数民族の言葉をしゃべる。そういうことにきちんと気を配っていることでも注目すべき映画ですね。
よくヨーロッパ映画で、役者はヨーロッパの人なのに言語だけが英語だったりする作品ありますよね。ああいうのを観ると2割引みたいな感じになっちゃいます。
やはり民族や言語は忠実に再現してほしいんですよね。
その点、本作は素晴らしかったです。その方が役者さんも力が入るはずなんです。
ノラネコさん (rose_chocolat)
2013-07-07 16:33:19
>まああちこち気になる部分はあるのですが
特に第2部じゃないですか?
最後はちょっとファンタジー色強かったですね。
それはしょうがないですが、それだけ民族の想いを表現したかったのでしょう。
確かに力作でした。
ふじきさん (rose_chocolat)
2013-07-07 16:37:11
>単純にアクション映画の題材がまだまだ現実の歴史の中に埋もれている
まだ私たちが知らない、史実に埋もれている歴史はたくさんあり、恐らくですけど酸鼻を極めてしまうものばかりだと思います。
敗者から見た場合の歴史って、死と凌辱しかないですからね。
勝敗を喫するまではゲームでもなくアクションでもなく、命を賭けた戦いです。それを真剣に描いたのが本作でしょう。
そう考えると、世に溢れている「アクション映画」が如何に売れ筋を追ったものかがよくわかります。
本作をきちんと見てあげなければ、本当に戦って死んだ方たちに申し分けないですよね。
拝見なされて (sakurai)
2013-07-11 15:45:39
よかったですねえ。
やはりこういう作品は、スクリーンで拝見しないと、熱量がきちんと伝わってこないような気がします。
見る方も居住まいただして、きちんと見る姿勢を持たないとならないような。
数少ない海外旅行の中で、台湾に行ったとき、それなりに見てきたはずだったんですが、すっかり頭の中からもぎ取られてました。受け止めなければならない作品だったと思います。

その後、WOWOWで放送された「トロッコ」という日台合作の作品を見たのですが、台湾の方の、日本に持つ複雑な感情ってのが垣間見えて、とっても興味深かったです。
sakuraiさん (rose_chocolat)
2013-07-12 06:03:14
間に合って本当によかったです。
こういう作品がもっともっと観てもらえるようになってほしいですね。

>見る方も居住まいただして、きちんと見る姿勢を持たないとならないような。
そうですね。これはエンタメではないです。渾身の想いを受け止めないと。

>「トロッコ」という日台合作の作品
日本公開時に見ました。尾野さんが出てるものですよね。
複雑な歴史と親子の愛情を描いた、いい作品でした。
ここに記事ありました。 → http://blog.goo.ne.jp/rose_chocolat/e/0c33889f7a91cf51099d1786e3f29b76(あとでフォントとか直します)
楽天はこちら → http://plaza.rakuten.co.jp/cucurose/diary/201008010001/
Unknown (SGA屋伍一)
2013-07-18 23:17:10
4時間半という長尺におっかなびっくりのぞみましたが、思ったより長さは感じませんでした。むなしさはひしひしと伝わってきましたけどね・・・
第二次大戦の映画を観ると「日本がアメリカにかなうわけないよなー」と強く思いますが、セデック族を征服した日本も遠からず同じ目に会うのだな・・・と思うと感慨深いものがあります
キネカ大森はTLでも常連さんが多いですね。いい映画館のようで
ごいちくん (rose_chocolat)
2013-07-19 08:37:37
>セデック族を征服した日本も遠からず同じ目に会うのだな・・・と
因果は巡るんですよね。歴史の空しさを感じます。

>キネカ大森はTLでも常連さんが多いですね。いい映画館のようで
大森駅からも近いし、いろいろ作品をかけてくれるので最近私もよく行ってる。1度行ってみて下さい。

post a comment