つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

残酷な顛末と文士の残懐。~ アンデルセン童話・人魚姫。

2017年10月08日 11時31分53秒 | 手すさびにて候。
ほんの手すさび、手慰み。
不定期イラスト連載・第六十弾は、アンデルセン童話「人魚姫」。

深い深い海の底。
サンゴに琥珀、真珠や貝殻を集めて造られた美しい宮殿には、
王様と6人の王女たち、年老いた王太妃が棲んでいました。

年若い王女たちは、皆、海の上の人間世界に興味深々。
取り分け、末娘の「人魚姫」は一日千秋の思いを募らせていました。
晴れて浮上が許される15歳の誕生日。
初めて顔を出した海の上では、一隻の船が浮かびパーティーの真っ最中。
「人魚姫」は、会の主役…王子様に一目ぼれしてしまいます。
行方を見守るうちに辺りはすっかり暗くなり、
やがて、闇にも分かる黒雲が沸き上がると、嵐が吹き荒れ、船は木っ端微塵に。
「人魚姫」は、海に投げ出され、気を失った王子様を、浜まで運んであげました。
でも、人魚の身で出来るのはそこまで。 
介抱したのは、地上の娘たち。
どうやら、王子様は本当の救い主に気が付いていないようです。
哀しいけれど仕方がないと諦めて海の底に帰ってからも、彼の事が忘れられません。
…地上に行きたい、人間になって地上で彼と一緒に暮らしたい…。
ついに意を決し、魔女の棲家の門を叩きました。
尻尾を足に変える秘薬を手に入れるために。

魔女の提示した条件は過酷でした。
薬の代償は、美しい声。
転換は一度きりで元には戻らない。
しかも、思いを遂げられなかったら心臓は破裂し、海の泡になってしまう。
「人魚姫」は、それでもいいと思いました。
愛しい人の傍に行けるなら構わないと。

地上の宮殿へ辿り着き、秘薬を口にした途端、激しい痛みに昏倒。
目を覚ますと、そこには王子様が立っていました。
矢継ぎ早に投げかけられる質問に対して、声を失った「人魚姫」は、
愁いを含んだ青い瞳で見つめ返す事しかできません。
王子様は、この不思議な美少女を傍に置き、寵愛しました。
夢は叶ったんです。

ところが、ある時、王子様に縁談が持ち上がります。
お相手は隣国の姫君。
「人魚姫」に心惹かれていた王子様は、乗り気ではありませんでした。
しぶしぶ出掛けた宴席でしたが、運命の歯車は一気に大きく動き出します。
お妃候補は…あの日、砂浜で自分を介抱してくれた娘でした。
そして、盛大な結婚式が執り行われ、ハネムーンクルーズに出発。
船内に充満する祝賀ムードをよそに、涙にくれる「人魚姫」。
そこに5人の姉たちがやってきました。 皆、一様に散切り頭です。
美しく長い髪と引き換えに手に入れた魔女の短剣を渡して、訴えました。
朝陽が空に光を放つ前にコレで王子様を殺せば、元の人魚に戻れる!

ラストチャンスに残された時間は、あと僅か。
初夜の寝床に忍び込み、心臓に狙いを定め短剣を振りかざしますが、
どうしても突き立てる事ができません。
観念し、海に身を投げた「人魚姫」の身体は、
みるみるうちに溶けて泡になってゆきました。

<後略>(※原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン / 粗筋要約:りくすけ)

…ご意見、好みは分かれるだろうが、
個人的にはここで終わればよかったのにと思う。
しかし、前回投稿した「赤い靴」と同じく、
「アンデルセン」は、またも物語に美しいエンディングを与えた。
「人魚姫」を構成していた泡は、精霊となって天に召されてゆくのである。

完成度よりも、道徳・教義を優先した作家の心情を慮る(おもんばかる)と、
悩んだ末に死を選んだ「人魚姫」に重なる。
コメント
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