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小澤征爾&サイトウキネン ブラームス:交響曲第1番 (1992年 松本)

2009-08-02 | BS、CS、DVDの視聴記
時間を見つけては、こつこつと録りだめたビデオテープからDVDへダビングをしているが、一向に進まない。
でも、その作業の中で久しぶりに出会った名演奏に、しばし我を忘れて見入ってしまうことがある。
サイトウキネンのブラームス全集も、まさにそんな一枚。
この1番は、1992年9月の松本でのライブである。

<日時>1992年9月5日
<会場>松本文化会館
<曲目>
■ブラームス:交響曲第1番ハ短調
■モーツァルト:ディベルティメントK.136から第2楽章

サイトウキネンのブラームスの1番といえば、FMで聴いた1990年のザルツブルグのライブ、DVDでも残されている同年のロンドン公演における演奏が、いずれも白熱のブラームスと評したくなるような素晴らしい名演だった。
とくにロンドン公演の方は、プロムスという独特の雰囲気もあって、エネルギーの迸りがもの凄かった。
今回とりあげたのは、その2年後の1992年に松本で行なわれたコンサートの映像。
1992年といえば、サイトウキネンオーケストラが、本拠を長野県の松本に構えた年だ。
2年前のヨーロッパ公演のときとはメンバーも勿論交替しているが、コンミスの潮田益子さんを始めとして、主だったメンバーは変わっていない。

天皇、皇后両陛下ご臨席のもと開かれたこの1992年のコンサート、結論から申し上げると1990年以上の出来ではないだろうか。
確かに燃えるような熱さという点では、1990年のヨーロッパでの演奏に軍配が上がるかもしれないが、この松本の演奏は造形の確かさやスケールの大きさ、そして音楽のしなやかさという点において群を抜いている。
ボストン時代からの盟友であるエヴァレット・ファースの圧倒的な存在感をもったティンパニにも支えられて、終始緊張感を保ちながらも豊かな歌に包まれたブラームスは素晴らく魅力的。

なかでも、管の何と魅力的なこと!
フルートの工藤さん、オーボエの宮本さん、ホルンの水野さん、この日本を代表する名手たちが、いずれも精緻でかつ情熱的な演奏を聴かせてくれている。
この3人が揃ったサイトウキネンの演奏は、もう聴けないのかと思うと、やはり寂しさを感じる。



そして、この才能豊かな奏者たちを見事に束ねていたのはコンミスの潮田さん。
映像を見ながら、私が最も痺れたのは、実はコンミスの潮田さんの表情だった。
献身的といいたくなるような、本当にいい表情。
腕っ節でオケを引っ張るのではなく、ともに斎藤秀雄のDNAを受け継いだオケのメンバーたち、そしてマエストロ小澤さんをひたすら信じることで、自分たちが目指す方向を自然に指し示したリーダーの姿がそこにあった。

彼らのブラームスを、「とても美しいけど個性に乏しい」という人がいるかもしれない。
確かに、ウィーンフィルやコンセルトヘボウ、ベルリンフィルといった、ほんの少し響きを聴いただけでわかるような強烈な個性はない。
でも、サイトウキネンのピュアでひたむきな演奏は、間違いなく私の心に強く響いた。
日本的な・・・なんて表現を使うと、笑われるだろうか。
また、小澤さんとサイトウキネンの関係は、ある意味でアバド率いるルツェルン祝祭管弦楽団とよく似ている。
アバド&ルツェルンの来日公演で聴いたマーラーは、私が実演を聴いて最も感銘を受けたコンサートだったが、聴きながら「このオーケストラ、アバドが引退したら一体どうなってしまうんだろう」と思ったものだが、同じことがこのサイトウキネンにも言えるかもしれない。
それほど、小澤さんの存在は大きい。

今月末に、私は松本で初めてサイトウキネンの実演を聴く。
演目は、ブリテンの「戦争レクイエム」。
果たして、どんなメッセージを伝えてくれるのだろうか。
今から楽しみである。

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4 コメント

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あ、これ。。。 (しん)
2009-08-05 15:29:57
ツィメルマンの演奏会へのコメントには、丁寧なお返事をありがとうございました。

ところでこのライブのビデオお持ちなんですね!
実はぼくも当時録画したんですが、その後手違いで途中が消えてしまいまして、それ以来もう一度見たいライブのNo.1なんです。。。

エントリでおっしゃっているとおり、90年のCDをはるかに上回る出来だと思います。とくに第4楽章のホルンをはじめとする管楽器の響きが印象に残っています。
それに全体の響きの密度がとても濃いように感じました。
コンセルトヘボウみたいというと言いすぎでしょうか。

ともかく懐かしいライブを思い出して、ひと時胸が熱くなりました。
>しんさま (romani)
2009-08-06 08:20:26
おはようございます。

コメントありがとうございます。
最初はDVDへのダビング作業のつもりだったので、何気なく見始めたのですが、思わず座りなおして最後まで見入ってしまいました。(笑)

>とくに第4楽章のホルンをはじめとする管楽器の響きが印象に残っています。
まさに同感。この演奏のときの管はまさにワールドクラスだと思います。

>コンセルトヘボウみたいというと言いすぎでしょうか。
いえいえ。本当にそんな気持ちになりますよね。上質の響きと求心力の強さが、このブラームスの大きな特徴だと思います。
また、90年の演奏では小澤さんは指揮棒なしで振っていましたが、このときは棒を持って指揮台に上がっていたのが印象に残りました。
懐かしい~ (yokochan)
2009-08-10 10:20:44
おはようございます。
仕事中カキコしてます(笑)
皆さん若いですね。私もこのビデオが山の中にあると思います。
当時は、ほんとにスーパーオケだと思いました。ディベルティメントを何度も何度も繰り返し練習している光景を覚えています。
ああして、一体感を作り上げていったのだなと思いました。
正直、私にとって、いまや食傷ぎみのコンビかもしれませんが、いつかはしっかり聴いて見直さなくてはと思ってます。
好きなブリテンの大作をやるので、聴いてみたいのですが、今年は無理そうです。
romaniさんのレポートを楽しみにしていおります。
それにしても、ビデオやカセット、捨てるにすてられませんよね・・・・。
>yokochanさま (romani)
2009-08-11 08:06:54
おはようございます。

>ディベルティメントを何度も何度も繰り返し練習している光景を覚えています。ああして、一体感を作り上げていったのだなと思いました。
まったく同感です。メンバーどうし、あるいはたとえ小澤さんに対しても、本当にフランクに思ったことを言い合って妥協せずに音楽を作り上げる。
そして一度決めたら、徹底的に繰り返し練習することが、仲良しクラブに陥らない最大の秘訣のように感じます。
でも、映像を見ながら、ヴァイオリンの徳永二男さんとともに、チェロの故徳永兼一郎さんが元気に弾いておられる姿に目頭が熱くなりました。

ブリテンの戦争レクイエム、ステージでは一度も聴いていないので、とても楽しみにしています。
松本も初めてですし・・・(笑)
ありがとうございました。

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