六花の舞。

「六花の舞」、Ⅰ・Ⅱともに完結しました。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m

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ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【63】-

2017年04月25日 | 六花の舞Ⅱ.


 国別対抗戦、終わりましたねえ♪(^^)

 ちょっとわたし今、他に夢中になって書いてる小説があるもんで、こっちをしたらすぐそっちを書くっていう感じで、ちょっと感想(?)のほうが駆け足気味になります

 羽生選手、フリーでまたも挽回してくるとは!!いえいえ、信じてましたけど、でも本当にそうなって良かったなっていうか……しょーまくんも不動の安定感のいい演技で、日本男子でワンツーフィニッシュ!!(←?)

 女子フリーは新葉ちゃんもまいたんもノーミスでパーソナルベストを更新……来季のオリンピックシーズンに向けて弾みがついて、こちらも縁起がよくて良かった良かった!!

 あと、ペアはヴァネッサ・ジェームス&モルガン・シプレ組、凄かったですねえ♪特に女性のV・ジェームスの、身体能力の高さやスタイルの良さにもう目が釘付けでした

 日本のペアはもう、すみれちゃんが可愛くって可愛くって

 ブロード・オデさんはそれにしてもオットコ前ですね(笑)ジェームス&シプレ組見てて思うのは、男性のM・シプレが女性を支えて彼女の魅力を最大限に引き出そう……といったように、やっぱりちょっと男性が半歩か一歩くらい引いた献身的なところがあると思うんですよね。ヴァネッサが輝いて見えるなら、自分はちょっと地味で目立たなくてもいいんだよ、みたいな。

 すみれちゃんとオデさん(笑)も、互いに互いを気遣いつつ、オデさんはすみれちゃんを支え、すみれちゃんもそれが凄く大変なことだってわかってるから(当たり前ですけど、見ている以上に人をひとり支えるのはすんごく重い)、すごーく気遣ってるという優しさが垣間見える。そういうふたりの間に流れる目に見えない空気っていうのも、大技が決まるという以上のペアの見どころなんだなってあらためて思いました(もちろんアイスダンスも

 で、日本優勝おめでとう&エキシビション

 PPAP最高だったっていうのと、自分的に鮮烈だったのがやっぱり、メドたんの美少女戦士セーラームーン

 いえ、メドたん的にきっと、ほんのちょっぴりの照れや恥かしさもあると思うんですよ(笑)でもそこはそれ、ショーガールに徹して見事完璧にセーラームーンの世界観を演じてくれました

 あと、きっとゆかりんも見ながら涙していたであろうカナちゃんの「プレイヤー・フォー・テイラー」。

 前から、スケートから解放されて普通の女の子としての生活をエンジョイしたい……みたいに言ってたカナちゃん。

 羽生選手とつきあってるかもしれない疑惑があった頃、ネットで名前検索すると微妙に荒れてたカナちゃん(笑)

 でも、自分的にカナちゃんみたいな子が実は一番羨ましい。いつもニコニコ笑顔で、まわりの人も自然と楽しくなったり……ソチ五輪の女子メンバーは今も本当に最強の三人だったなって思う。今まで演技を通してたくさんの感動を届けてくれて本当にありがとう♪

 カナちゃんの場合は絶対、カナちゃんの第二の人生が幸福なものでありますように……とか願わなくても、自然と幸せになってそうなので、何かわざわざそんなこと書かなくてもいいやと思うくらいだったり(笑)

 いえ、ほんとカナちゃんみたいにいつもニコニコしてる子って、たまーに不機嫌な顔してたってだけで、「実は性格悪いんじゃないのー?」みたいに言われたりするんですよね。でもそんなことにも負けない芯の強さを持ってるカナちゃんは羨ましいくらい素敵な女の子だなって思います♪(^^)

 引退後、幸せな結婚をする一方で、十年後とか二十年後くらいに、山田先生の後継者として、指はマ二キュアばっきばき☆、首には豹柄のスカーフとか巻いて、教え子の選手に檄を飛ばすカナちゃんも見てみたいかな~なんて(どんなイメージww)

 なんにしても、カナちゃんも真央ちゃんもアッコちゃんもみんな、フィギュアスケートに関係する何かを引退後は志向していて……「フィギュアスケートに恩返し」って、フィギュアスケートも幸せですね(トリプルアクセルに声かけするみたいに、フィギュアスケートにみんなで愛を告白しよう!的な・笑)

 ではでは、↓に関しても言い訳事項あるの忘れてました(^^;)

 まず、今回でオリンピックの決着が着く予定だったんですけど、それは次回ということになりましたm(_ _)m

 でも、次回で本当に金愛榮の演技が終わって、そっちの結果のほうも出る予定なので。。。

 あと、リョウが物理学のことに関して言ってることがなんなのか、わたしにもわかんないです(笑)ついでに、M理論がどういうことなのかもわたしにはよくわかってません(殴☆

 ええっと、言い訳事項は大体こんなところだったかなあ(逃

 それではまた~!!



       ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【63】-

 ザグレブオリンピック、女子シングルフリースケーティング、最終滑走グループ、最終滑走者は金愛榮だった。

 ここで時間はショートプログラムが終わったあとのことに戻るが、愛榮はコーチのリョウとともにホテルへ戻ると、反省会とミーティングののち、ルームサービスを取って食事していた。

「あ、あの……コーチ、実は……」

「どうした?」

 きのうとほぼ同じメニューをリョウが注文し、フロントへの電話を切ると、愛榮はどこか言いにくそうにしていた。けれど、白い紙袋の中からお弁当箱を取り出し、その中身を見せることにする。関係者の通用口から愛榮が出ていった時、そこで待ち構えていた一人の女性が、彼女に渡したものである。その時に愛榮がその女性と少しの間話していたことをリョウは覚えていたが、何分韓国語による会話だったため、話の内容までは流石の彼にもわからなかったといえる。

「アイスアリーナから出た時、外で待っていた人、彩華のお母さんなんです。それで、彩華のお母さんはうちのお母さんと親しかったものだから、それで……」

 愛榮がお弁当を開けてみせると、そこにはキムチが入っていた。リョウにはその良さがまるでわからない味だったが、愛榮にとってのソウルフードなのだろうといったようには理解している。

「愛榮、キムチが食べたいなら、ごはんだけ別に注文してやろうか。リゾットがメニューにあるっていうことは、白米も当然あるだろうからな。ただ、外国の米ってのは日本の寿司屋で食うような米と違って、あまりうまくないかもしれんが……」

「そんなこと、頼めるでしょうか?」

「そりゃ出来るだろうよ。愛榮、俺とおまえはスイートルームの客だぞ?むしろそのくらいの我が儘は聞いてもらって当然と言っていい。というより、そのくらいの注文を聞かんようなホテルはホテルではないな。第一あいつらだって俺とおまえがなんのためにこのホテルに泊まってるかを知ってるわけだし、当然そのくらいの融通は利かせてくれるだろう」

 リョウはもう一度受話器を取ってフロントに電話すると、白米だけを炊いて持ってきて欲しいと注文した。特にリョウのほうで繰り返し頼んだようなこともなく、割合あっさりリョウの注文は聞き届けられたようである。

「試合前は自分の好きなものを食って、ぐっすり休むのが一番いいんだ。もろちん、ケーキやプリンなんかは試合後までお預けってことになるが……オリンピックが終わったら焼肉でもキムチでもなんでも、愛榮の食べたいものをいくらでも食べさせてやるから」

 ちなみに、小早川家では愛榮が食べるキムチは叔母のヒジョンが作ってくれている。けれど、わざわざタッパに詰めて持ってくるということまではしなかったのだった。

 その日、とにかく愛榮はキムチとごはんだけを重点的に食べた。リョウがしつこく勧めるので、他に野菜や果物なども食べたとはいえ、愛榮は彩華のお母さんが持ってきてくれたキムチを大切にしまいこむと、明日も試合当日もとにかくこれを食べようと思っていた。

 このあと愛榮は先にお風呂に入ると、自分の部屋である続き部屋のほうへ静かに戻った。

 というのも、リョウがノートパソコンを開いて何か論文のようなものを打っているらしいと気づいて――こういう時のリョウには話しかけないほうが良いとわかっていたからだった。といってももちろん、愛榮が話しかければ彼が作業を中断して自分の話を真面目に聞いてくれるとはわかっていた。けれどだからこそ邪魔をしたくない……そう思い、愛榮はロココ調のアンティークな家具の並ぶ室内を通りすぎ、同じくロココ調で統一された続き部屋のほうで休むことにしたのだった。

(コーチ、わたしの面倒を見たりなんだりする傍ら、ご自分の研究を続けていらっしゃるんだな。わたしの夢は、ボストン大学で物理学を専攻して、現役を引退したあとはコーチの助手になることだったんだけれど……)

 だがそれは到底無理なことらしいと、リョウが他の研究員との連名で書いた論文を読んでいて愛榮は思った。おそらく、大学を卒業する頃には愛榮も、物理学に関することでリョウが普段思考していることの十分の一くらいは最低でも理解出来るようになるかもしれない。けれど、そのことを応用して自分でも理論を打ち立て、さらに研究を深めていくといった、そうした種類の才能までは間違いなく自分にはないとわかっていた。

(まあ、お茶くみとかコピーを取るといったような雑用で使ってもらえたらいいと思ってたんだけど……でもそこまで自分の師に対してつきまとうっていうのも、普通に考えたらかなりおかしなことなんだろうな)

 愛榮は天蓋付きのベッドの上に寝転がると、ふう、と溜息を着いた。自分のコーチの、パソコンに向かっている時の背中、その真剣な横顔と眼差し、キィを打つ時の細い指……そのすべてを自分は好きだと愛榮は感じる。この時、愛榮はバスローブ姿だった。いつもは試合の時もコーチであるリョウと部屋は別々だ。けれど、今はすぐ隣にコーチがいると思っただけで、愛榮の心は乱れた。

 もっとも、心が乱れたなどと言っても、愛榮は具体的に自分のコーチと性的な関係を持ちたいと考えているわけではなかった。ただそばにいて、彼が自分の存在に気づかないながらもじっとその背中を見つめていたかった。でも、ずっとそんなことをしていたとすれば、先生のほうでもいずれ自分の視線に気づいてしまうだろう。

(コーチは今日……えっと、なんだっけ。わたしの男性ファンのことが気になるとかって……もちろん、わかってはいるんだけれど。コーチは単に自分の娘に変な虫がつくのが嫌だとか、そうしたことが言いたかったんだっていうことは……)

 愛榮はベッドの上でストレッチをしつつ、リョウが「なんだったら俺が温めてやるから」と言っていたことを思いだし――ホテルのスリッパを再び履くと、隣の部屋までいった。続き部屋にあるのよりも立派な天蓋付きベッドがあり、その横のほうにあるライティングビューローで、リョウは忙しなくパソコンのキィを打ち続けている。

 愛榮は自分のコーチに気取られないようにと気遣いつつ、ベッドの端のほうにそっと腰かけ、リョウのことを斜め後ろからじっと見つめていた。そして、その卵型をした後頭部を眺めやりながら(IQが187もあるってどんな感じかしら……)と考えたりする。これは何も彼の妻である葵のことを押し退けようということではなくて、愛榮は時々次のように考えることがある。つまり、彼ほどの男性であれば、正妻の他に側室を持っていてもなんの不思議もないのではないか、ということを。

(もちろん、時代錯誤なのはわかってるんだけれど……それにわたし自身、葵先生のことだけを大切にしているコーチのことを尊敬してもいるわけだし……)

 愛榮は絹のベッドカバーの心地好い肌触りを手のひらで撫でると、この時ある種の満足を覚えてそっと自分の部屋へ戻ろうとした。ところが、愛榮のスケートのコーチは頭の後ろにも目がついていたのだろうか、彼女が立ち去ろうとするなり「どうした?」と、目と手はパソコンのほうへ向けたまま、そう聞いてきたのだった。

「お気づきだったのですか?」

「ああ。俺に何か話したいことでもあるんだろうと思ったから、愛榮が何か言葉を発するのを待ってた」

「そうでしたか……」

 リョウは自分の論文をファイルに保存すると、目と目の間を揉むような仕種をして、くるりと愛榮のほうを振り返る。

「寝るところだったのか?」

「はい。ストレッチして、ベッドに入ろうと思ったんですけど、結局眠れないような、そんな気がして……」

 シャワーを使って濡れた髪、潤んだ瞳、そしてバスローブから覗く白い肌――普通の男であれば、間違いなく少しはピンと来るものがあったに違いない。けれど、いくらIQが187あろうとも(いや、彼の場合それであればこそ)、リョウは愛榮の恋心といったものにはこの時も本当に何も気づかなかったのである。

「風呂に入ると人間血行が促進されて眠くなるとよく言うがな。生憎ここは俺の家じゃないから寝物語にいい絵本もないし……それとも愛榮、フリーに向かうにあたって、何かが不安で俺に話したいことでもあったのか?」

「はい……でも具体的に何がどうということではないんです。ただ漠然と不安で……フリーでもし転倒したらどうしようとか、そんなことが脳裏をちらついてしまって……」

「ドローは明日だからな。公式練習があって、そのあとに抽選、それから記者会見か。明日も一日疲れるだろうから、今日も早く眠るにこしたことはないんだが……ハーブティーでも取ってやろうか?」

「いえ、いいんです。ただぼんやりコーチがお仕事してる姿を見ていたら、だんだん落ち着いてきました。これでぐっすり眠れると思います」

「ああ、これか」と言って、リョウはくすりと笑う。「おまえも大学のほうで習っただろうが、ヒッグス粒子の発見をもって、この宇宙や全世界は何から構成されているのかという標準理論は一応の完成を見た。だが、この標準理論には未解決とされる問題がまだいくつかあるもんで、いずれアインシュタイン級の世紀の大天才が現れて修正される余地というのは残ってるわけだな。で、今物理学者どもが夢中になってるのがM理論か。俺が今書いてる論文はこのふたつのうちどっちにも関係のあることで、M理論を定式化するための足がかりとなるようなことなんだ。もっとも、俺がこいつを発表したとなれば、物理学界は蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろうから、慎重を期して今はよくよく見落としがないかどうかとチェックしてるところなんだが……」

「もしM理論を定式化できたとしたら、ノーベル物理学賞ものですね!!」

 愛榮は驚嘆したように言い、あらためて自分のスケートの師を尊敬の眼差しで見つめた。

「いや……俺がこねくりまわしている理論は、フロイトの精神分析みたいなもんでな、心理学について新しい窓を開きはするが、その理論は今は廃れているといったようなことなのさ。ただ、停滞している物理学界に斬新な風を吹きこみはするだろうし、おそらく証明されることはないだろうが、とりあえず論理に打破されるような欠点もない……そしてこのことを取っ掛かりにして、新しい物の考え方をする物理学者が必ず現れるだろう。俺はそのための踏み台を物理学界に差し出そうかと考えているところなんだ」

 リョウの言っていることは当然、愛榮にはよくわからない。ただ、自分にスケートを教えたりする傍ら、まるで片手間のようにそんな難解なことをやってのける師のことを、ただ崇敬の眼差しでもって眺めやるばかりだったといえる。

「まあ、今は物理学の話なんかどうでもいい」

 そう言ってリョウは、まるでなんでもないことのように愛榮のそばまできて、ベッドの隣に座った。

「なんだったら今日はおまえがこっちのベッドを使ってもいいんだぞ。俺は寝つきがいいほうなんでな、ベッドなんてどんなのでもぐっすり寝れるほうなんだが、ここのホテルのは特別に寝心地が良くて最高だ」

「い、いえ、そんな……いいんです。わたしがなかなか眠れそうにないと思ったのは、オリンピックのフリーの演技のことが気がかりでっていう、それだけのことですから、ベッドなんてどっちでも……」

「まあ、そう言うな。ほら、愛榮。一度ベッドから下りろ」

 愛榮は言われるがまま、一度ベッドから下りた。するとリョウが上にかかっているアッパーシーツと羽毛の掛け布団とを三角形にめくって言う。

「ほら、早く寝るんだ」

 愛榮がベッドの中に潜り込むと、リョウはまた樹木の模様の描かれたベットカバーを彼女の上に掛けてよこす。そしてぽんぽんと愛榮のまわりを軽く叩いて整えてやった。

「よし、それでいい。まあ、これだけ寝心地のいいベッドで眠れないというのなら、遠慮なく俺のことを起こせ。何かひとつおまえの気持ちが落ち着くような話でもしてやろう。それじゃあな」

 リョウは犬のペギーのベッドを作ってやり、彼女を自分の横に寝させてやった時と同じ満足感を覚えつつ、隣の続き部屋のほうへ行った。彼もまたあとは寝仕度をして眠るばかりだったのである。

(ああ、なんて温かい……)

 自分たちが出かけている間にシーツ交換がなされていたため、リョウがここで寝ていたという痕跡があるわけではない。けれど愛榮は自分の大好きなコーチに包まれているような温かい気持ちになりながら、ショートを終えた夜、深い眠りに落ちていったのである。



 ――この翌日もまた、愛榮にとって忙しい一日だった。

 午前中にあった公式練習に備えて朝早く起き、それが済んだあとはドロー会場にて抽選があった。李葵姫と朴彩華がいるその後ろあたりに、愛榮はなんとなくそっと座る。李葵姫は何かの拍子に後ろを振り返ると、何か忌々しいものでも見たように愛榮から目を逸らし、後輩の朴彩華のほうでは礼儀正しくお辞儀した。

 愛榮にしても彼女の苦しい立場はわかるので、(お母さんにありがとうって言っておいてね)とは今は言えない。また、韓国のマスコミが自分と李葵姫の仲が悪いのではないかと詮索していることも気にしてなかった。それでもこうした場所で<韓国の選手代表>という場所に置かれてみるとなんとなく居心地が悪いという、愛榮にあるのはただそれだけの思いだった。

 また、別の一方に視線を転じてみると、日本の選手の代表団が実に仲睦まじそうにはしゃいだ様子で笑いあっており、ロシアの代表選手たちも仲が良さそうだと、愛榮はそんなふうに思い、とても羨ましく感じた。それに比べて自分は一人ぼっちでひどく孤独だと……。

「ここ、いい?」

「え、ええ。どうぞ」

 独特の雰囲気がある中国の選手、王花琳にジロリと睨まれると、愛榮はドキリとした。

(ああ、そっか。中国の選手は出場枠が一枠だから……代表選手は彼女だけなんだわ)

 そう思い至った時、愛榮は自分が韓国を代表するただひとりの選手でなくて良かったと、つくづくそう感じた。もしそうだったら今ごろ、プレッシャーに押し潰され、緊張のあまりガタガタ体が震えだしていたことだろう。試合は明日だというのに、今からすでに明日こうだったらどうしよう、ああだったらどうしようと、悪い失敗のイメージばかりが思い浮かんでいたに違いない。

(そうだわ。コーチが言っていたとおり、みんながみんな、それぞれの立場で一生懸命戦ってるんだ……そう考えたら、わたしばかり弱音を吐いてもいられないな……)

 けれど、自分が最終滑走の順番である<24>を引き当てた時、愛榮はやはりショックだった。見た目、彼女は誰の目にも『最終滑走でも動じない』といったように無表情にしか見えなかったに違いない。けれど実際は頭の中をガーン、ガーン、ガーンと割れ鐘が響き渡っている状態だったのである。

 その上、このあと灰島蘭が<23>を引き当て――この時一瞬愛榮は蘭と目と目が合ったのだが、彼女のほうで何をどう思ったかはわからなかったし、蘭は蘭で愛榮がいつも通り至極落ち着いて見えていたものである。

「コーチ……!!」

 愛榮は記者会見の前に、アイスアリーナの廊下の片隅で、今にも泣きださんばかりにリョウの元まで駆けていった。

「どうした、愛榮。最終滑走だったことがそんなにショックか?」

「それだけじゃないんです……!わたしの前、灰島選手なんです。ショートだけじゃなく、フリーでもだなんて、こんな……スケートの神さまが意地悪してるとしか思えない……!!」

「結局、六分の一の確率だからな。サイコロと一緒だ。おまえがサイコロを振って六が出、灰島蘭がサイコロを振って五が出た、そしてそんなことが二度繰り返されたってだけのことだぞ、愛榮?」

 そう言うと、リョウは慰めるようにして愛榮のことを抱き、その髪の毛を撫でてやった。

「スケートの神なんてものが仮にいたとして、スケートの神は誰にも意地悪なんかしないさ。それはあくまでも人間の側の解釈の問題だ。いいか、愛榮。おまえもあとになれば、きっとこの滑走順で良かったと思えるはずだ。また、そういう演技を目指すんだ。まあ、このことについてはホテルに戻ってからまた話そう。それより次は記者会見だったな」

 リョウと愛榮とは、記者会見が終わると韓国のスケート連盟のスタッフと軽く打ち合わせてホテルのほうへ戻ってきた。韓国の選手団は日本の選手団のあとに会見を開いたのだが、ショートの前日と同じく、この時も日本の代表団に比べ、面白味に欠けたつまらない記者とのやりとりになっていたといえる。


 ――今回のオリンピックで、一番のライバルは誰ですか?

「最終滑走グループの選手は誰もがライバルです。誰が優勝してもおかしくない顔ぶれだと思います」

 このあと、李葵姫がマイクを取り、「わたしは第三グループで一緒に滑る選手たちですね」と答え、十七歳の朴彩華は「わたしも……第二グループで滑る他の選手たちです」と、先輩の葵姫の真似をして無難な言葉を返す。

 ――灰島選手が第五滑走で滑ったあとの最終滑走ということですが、最も緊張するポジションだとは思いませんか?

「それは……思います。もともとわたし、体が冷えやすい上に最終滑走って苦手なので……もちろん、最終滑走が好きなんていう選手はおそらくいないでしょうし、誰かが必ず最終滑走に当たらなくてはいけないわけですし、オリンピックのトリを飾ることが出来るというのは、ある意味光栄なことだとも思っています」

 ――先ほど、日本の代表団の記者会見があった時、灰島選手は次滑走者であるキム選手のことを「とても意識しているし、自分にとって一番目か二番目のライバルだ」といったようにおっしゃっていましたが、そのへんについてはいかがですか?

「光栄なことだと思います。わたしも灰島選手のことはとても意識していますし、一番のライバルと言ってもいいくらいだと思います」

 ――オリンピックのために、ボストン大学のほうは今期休学されているそうですが、専攻のほうは小早川コーチと同じ物理学であるとお聞きしました。やはりそのあたりは、一緒にお暮らしになっておられるコーチの影響ですか?

 ショートプログラムの前日に、コーチとホテルで同室なのかどうかと聞いてきた韓国人の女性記者の質問だった。そこで愛榮は、少し慎重に答えを返さなくてはと思い、きゅっと気持ちを引き締める。

「そうですね。けれど、小早川コーチはわたしのような凡人が到底理解できない天才なので、わたしが学びえたことは、まだ本当に物理学の基礎の部分で……コーチのように物理学を応用してスケートの技術にも生かすとか、そこまで発展させるということは全然できませんので、わたしの中ではあくまでスケートはスケート、物理学は物理学という感じだと思います」

 ――以前、「理想の男性」という質問があった時、小早川コーチのような男性とお答えになっていたと思うのですが、そう考えた場合、常に理想の男性がそばにいらっしゃるということになるのではありませんか?リンク場でも一緒なら、家に帰ってからも一緒ということになると……。

「小早川コーチは、スケートのコーチとしても一人の男性としても優れた方です。わたしがコーチと広いお屋敷に一緒に暮らしていて思うのは、コーチが愛妻家でいらして、奥さまやお子さんのことをとても大切にしてらっしゃるということです。そしてそういうお姿を毎日のように見ていて、わたしはコーチのような男性が理想だと言ったのです」

 ――リュドミラ・ペトロワ選手がエイト・トリプルを決めてきた場合、フリーの得点で勝てると考えていますか?

「わかりません。もし仮にすべての選手がミスなく自分の演技をしたとしたら、四回転という武器を持つ灰島選手が優勝することになるか、それともエイト・トリプルという武器を持つペトロワ選手が優勝することになるのか……わたしにわかっているのはとにかく、わたし自身は一切ミスが許されないのに対し、灰島選手やペトロワ選手の場合はミスがひとつくらいあっても残りの演技をまとめることさえ出来れば――まだ金メダルを取れる可能性があるということです。ただ、灰島選手にミスがあってペトロワ選手にミスがなかった場合は、ペトロワ選手が金メダルを手にするでしょうし、ペトロワ選手にミスがあって灰島選手になかった場合……いえ、わかりません。わたし自身はただ、自分の演技をするというそれだけです」

 ――金メダルは取れそうですか?また、灰島選手とペトロワ選手と金選手の三人の中では、誰が一番金メダルを手にする可能性が高いでしょうか?

「一番確率の低いのはわたしですから、その分を埋め合わせるためにも、明日はミスなくすべてのエレメンツをまとめて精一杯いい演技をしなくてはならないと、そう思っています」


 こうした質問が愛榮になされる間も、時折申し訳程度に李葵姫や朴彩華にも話が割り振られていたわけだが――やはり、韓国の女王の地位を愛榮に明け渡さなければならなかった葵姫の胸中というのはかなり複雑なものがあったのだろう。実際彼女は高名な呪法師に頼んで、他の誰が金メダルを手にしたとしてもいい。けれど、金愛榮にだけは取らせるなと大枚をはたいて呪ってもらっていたほどである。

 愛榮はもちろん、自分の受け答えが灰島蘭とは違い、型に嵌まったつまらないものだと知っていた。けれど、それがもともとの自分の性格でもあるし、李葵姫の気持ちを思うと、彼女のプライドをなるべく傷つけないためにもこのくらいで丁度いいのだと思っていたかもしれない。ただ、会見終了後、葵姫がマネージャーとどこかへ行ってしまうと、彩華が近づいてきて「先輩、頑張って韓国のために金メダルを取ってくださいね!」と言ってくれたのが嬉しかった。そして愛榮のほうでも「お母さんにキムチありがとうって伝えておいてね」と言うことが出来てほっとした。

「あの娘と愛榮は親しいのか?」

 見ている限り、ポジション的には李葵姫の腰巾着といったようにしか見えなかったため、リョウはそう聞いた。

「ええ。もともと同じスケートクラブの先輩・後輩で……いい子なんですよ、とても。でも葵姫先輩とわたしの間に挟まれて、立場としてはとても苦しいっていうか……」

「ははあ、なるほど。スケーティングスキルのほうは悪くないし、俺の見た限り、まだまだ伸びる潜在能力があると思うが……あの娘は実は家が貧乏で家計のやりくりが大変な中スケートを続けているといった事情でもあるのか?」

「いえ、お父さんはソウルで有名な美容整形外科医ですし、両親とも娘の習い事にお金を出し惜しみするような感じじゃないと思います。特に熱心なのはお母さんのほうですけど、わたしのお母さんと昔すごく仲がよくて、小さい時から彩華とわたしは姉妹のように仲良くしてきたんです」

「じゃあまあそのうち、海外に出て他の外国のコーチにでもついてもらうってことになりそうだな」

「かもしれません。彩華がアーヴィングに来てくれたら、わたしも嬉しいんですけど……でも葵姫先輩が今在籍しているシカゴのスケートクラブのほうに行くかもしれませんね。それで同じアナベルコーチに見てもらうとか。聞いてみないとわかりませんけど」

 リョウとしては、朴彩華にその気があるのなら、一切の費用を出して彼女にボストンまで来てもらってもいいという考えだった。愛榮はエミリオが教えているエリカ・バーミンガムと仲がいいようではあるが、同国の親しい後輩がいることで、さらに心が安定しモチベーションが上がるというのであれば、彼にとってそのくらいは安いものである。

(まあ、あとでそのあたりのことを少し、韓国のスケート連盟のスタッフに聞いてみるか)

 と言ってももちろん、朴彩華のコーチまでする気はリョウにはないのだった。彼が今も自分で見てもいいと思える女子選手は愛榮ひとりきりだったし、彼女が現役を引退してしまえば、二度とどの選手のこともコーチすることはないだろうと考えていた。

 先ほど、愛榮は金メダルを取る確率が一番低いのは自分だ……といったように話していたが、当然リョウはそう思っていない。リュドミラ・ペトロワはショートプログラムでトリプルアクセルをダブルアクセルに変えたことからもわかるとおり、メンタル面が弱い。オリンピックという大舞台で八つものトリプルを一度もミスしないとは思えないし、灰島蘭は本番に強い心臓の持ち主ではあるが、四回転は女子が跳ぶには成功・不成功に関わらず、残りのエレメンツに非常に影響するほど難易度が高いといっていい。まずは四回転トゥループを決められるかどうか、また四回転を決めたあとも、すべてのエレメンツをミスなく決めることが出来るかどうか……あらゆる観点から見て、リョウは自分の愛榮が一番優位だと感じていた。

 もっともこれは、リョウの贔屓目も入っている見解によるものではあったが、灰島蘭とリュドミラ・ペトロワよりもショートではポイント的に若干上をいっており、四回転やエイト・トリプルが入っていなくても、愛榮の演技は常に安定していた。もちろんオリンピックという大舞台の最終滑走ということで、愛榮にしても緊張のあまりミスを連発する……ということも可能性としてありえなくはない。けれど、リョウ独自の確率論からいったとすれば、それよりも灰島蘭とリュドミラ・ペトロワがミスする可能性のほうが高かったといえる。


 ――そして、とうとう女子シングルフリーの最終滑走である愛榮の番がやって来た。



 >>続く。




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