六花の舞。

「六花の舞」、Ⅰ・Ⅱともに完結しました。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m

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ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【20】-

2016年10月08日 | 六花の舞Ⅱ.


 ええと、試合がはじまると毎回、言い訳事項がてんこもりだったりするんですけど(汗)、そういうのいちいち書くのも面倒くさいなー☆というか、読む方もいちいち鬱陶しいなーという感じだと思うので、なるべく省くとして。。。

 それでも、確かここ書いてる時、先シーズンの世界選手権はまだ開催されてなくて、でも次のワールドはボストンが開催地だっていうことだけは一応わかってたんですよね

 なので、その時に会場の様子とかよく見ておきたい……なんて思いつつ、なんか結局はいつも通り架空の場所が試合会場みたいになってます(↓が行われているのはたぶんTDガーデンじゃない、みたいな感じ^^;)

 これはわたしが試合の様子を見ていて勝手に思ったことなので、実際のところはどうだったのかわからないんですけど――前回、蘭に氷の状態は結構いい的に言わせてしまったものの(汗)、なんかわたしがテレビで見た感じとしては氷の状態があんまし良くなさっぽそうに見えました

 なんか、滑りにくくないのかな、これ……みたいな。まあ、素人観戦者がテレビ通して見てるだけなので、選手の方に聞いてみないとほんとのところはわからないものの、TDガーデンって確か、リンクのサイズがアイスホッケーサイズで一回り小さいんでしたっけ??

 確か真央ちゃんは、こうしたホッケーリンクサイズでの試合前は、リンクにコーンを置いて一回り小さくした状態で練習してるって言ってましたよね。実際、そうした形で練習していたとしても、ジャンプを跳ぶ位置などが変わってしまうことで滑りにくいような気がするのですが、でもそう書いてしまうと「↓の舞台は間違いなくTDガーデンね!」みたいになってしまうと思い、あえて言及は避けました

 そして今回は、蘭と全日本で大喧嘩を演じた石原のぞみちゃんがワールド初参戦ということで……彼女について何か少し書いてみようかなと思います(^^;)

 のぞみちゃんはある意味、脇役中の脇役なので、彼女のことなんて書いても誰も興味ない気はするんですけど(笑)、まず、名前ですよね。某超可愛い美麗女優さんと一字違いなので……最初は石原のぞみって書いちゃったんですけど、この名前はあとから変えようって自分でも思ってました。

 なんでかっていうと、この小説書いてるわたしが、なんだか石原さとみちゃんのことを容姿は可愛いのに、実は性格悪いんじゃないの~??みたいに思ってると受け止められるとなんなので

 あとわたし、のぞみっていう名前がすごく好きなので、そういう自分の好きな名前を若干性格に難のある(?)子につけるのもなんだな……と思っていて、名前のほうは変えようと思ってました。でもなんか、なかなかちょうどいいのが思い浮かびませんで(汗)、「石原、石原……石原裕子??いやいや、オイラはドラマーじゃねえよ……石原真由子!いや、イメージ違うし!!そもそも石原から離れよう!松田ひとみなんてーのは??なんか軽く聖子ちゃん連想すんなー……高橋ひとみ!?オーッホッホッホッ!!わたしが海槌麗巳かスリット美香子か、当ててごらんなさい!!」みたいな具合で、なかなか決まりませんで(しかし、年齢のバレる頭の中身でございます・笑)

 で、結局直さずに今に至る――ということに。。。

「石原さとみみたいに可愛いけど、ちょっと性格悪い子!」みたいなイメージで読まれてる方がいたら、なんかほんと申し訳ないです(なんとなくww)

 わたしののぞみちゃんのイメージは、スラーっと背が高くて色白で、実際はハーフじゃないのにハーフっぽく見える、髪の長い女の子だったりします(^^;)

 スケートの才能のほうはかなりのところいいものがあるのに、本人が練習嫌いなせいでいまいち伸び悩んでる時期が続いてた……みたいな、そんな設定だったり。全日本で蘭と昔彼女をいじめた子とが大喧嘩するっていうネタは、書きはじめた頃からどっかに入れようと思ってたものの――それ、実は最初、飛鳥昌子ちゃんになってもらう予定でいました

 で、昌子ちゃんの場合は、お母さんとの確執っていうのがあって、そういうところからちょっといじめちゃった☆とか、そういうのが蘭にもわかってきて仲良くなる……というのが最初に思い浮かんでいた設定でした。でも実際書いてみると、その設定を生かすのが難しいっていうのと、あと昌子ちゃんの性格が思ったより地味めになってしまったので(汗)、「あー、これあかんわ。もうちょっと違う感じの子を登場させんと……」ということに途中でなり、石原のぞみちゃんの登場となったのでした。。。

 あと、飛鳥昌子ちゃんとのぞみと山下杏ちゃんは三人とも、いいとこのお嬢さんだったりします。お父さんやお母さんがお医者さんだったりとか弁護士さんだったりとかして、私立の学校に通ってるっていうような……でも小さい頃から習い事が多くて、三人ともマミーに対しては反抗心を持ってたりと、そんな感じの仲良しさんみたいです(向こうではべスティっていうんでしたっけ??笑)

 んで、石原のぞみちゃんのSPのカルメンなんですけど、演技開始時のポーズというのが、ロラ・フローレスさんの銅像と同じもの、ということで。。。


(ロラ・フローレスさんのウィキペディアよりm(_ _)m)


 こんな感じかな、なんて♪(^^)

 わたしの書き方のほうは極めていいかげんかつあっさりしすぎなものの(汗)、ロラ・フローレスさんは素晴らしいフラメンコダンサーの方だったみたいですね

 ではでは、次回は久しぶりに水沢結花ちゃんの登場だったと思います(笑)

 それではまた~!!



       ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【20】-

 世界フィギュアスケート選手権のボストン大会は、エキシビションも含めると五日間に渡って行われた。

 初日は、アイスダンスのショートダンスとペアスケーティングのショートプログラム。そして二日目が、女子シングルのショートプログラムとペアのフリープログラム、三日目がアイスダンスのフリーダンスと男子シングルのショートプログラム。四日目が女子シングルのフリープログラムと男子シングルのフリープログラム、最後の五日目がエキシビションという予定である。

 日程的には女子はショートが終わってフリーまで一日空いているものの、男子のほうは三日目と四日目と続け様に試合が続くということになる。こう考えた場合、光や剛たちというのは、少し早く現地に入りすぎた形でもあるが、本人たちはあまり気にしていない様子である。練習用のリンクとホテルを往復し、ホテルのトレーニングルームで暇さえあれば体を鍛え――そんなふうにして大会三日目のショートプログラムまでの時間を過ごしたようである。

 蘭は大会初日、午前中にあった公式練習が終わると、やはりトレーニングルームで明日に備えて体を鍛え、部屋でシャワーを浴びたあとはテレビの中継でペアのショートプログラムを見た。というより、のぞみがずっとテレビを見ていたため、レモンの炭酸飲料で喉を潤しつつ、自然一緒にテレビを見るような形になったのである。

「なんだか、不思議じゃない?」

 部屋に戻ってきた時から思っていたことだが、のぞみの様子はどこか孤独で虚ろな感じがした。どこがどう、と説明するのは難しかったにしても。

「不思議って何が?」

「だって、明日の――えっと、あんたは最終グループであたしは第四グループだけど、大体夜の八時過ぎには、試合会場に行って、今この人たちが」

 と言って、ペアのシェリー・カークフェルドとオリバー・シーンとが『カルメン』を情熱的に舞うのをのぞみは指差す。

「ちょうど滑ってるのと同じリンクで滑ることになるんですものね。で、演技を終えたこの人たちが今度、テレビか何かでわたしたちの演技を見て……「ああ、惜しい!転んだわ」なんて思うなんてね」

「そんな感傷的になってる場合じゃないでしょ」

 呆れたように溜息を着いて蘭は言った。

「あんたも、三枠確保に貢献できるように頑張ってよ。のぞみは三日くらい前、わたしは最悪でも銅メダル取れるみたいに言ったけど――実際はそんなこと、わかんないんだからね。それは水沢さんだってそう。わたし、あの人とは全然仲良くないっていうか、ほとんど口も聞いたことないから、調子がいいのかどうも知らないし。わたしと水沢さんが沈んで、意外にもあんたが上位の順位を取ってくれたから三枠確保できた……そんなシナリオだってありえると思わない?」

「ふうーん。ようするにそう言うことでわたしのやる気を引きだそうってわけね」

 のぞみはここでどこか不敵ににやっと笑うと、突然空っぽの器に生命力が戻ってきたかのような気配を見せる。

「わたしね、ひとりにされると駄目なんだー。蘭みたいなのでもいいから、とりあえずそばにいて欲しいとかつい思っちゃう。でも砂かけババアの部屋いくと、星丘先生は砂と一緒に色々うるさい小言も降りかけてくるでしょ。でもこんなペアスケーティングの演技なんて見てたら、頭が明日の試合一色になっちゃって、だんだん落ち込んできちゃったの」

「ふうん。案外可愛いこと言うわね、あんた。きっと将来幸せになれるわよ」

 蘭にもらってすっかり気に入ったはと麦茶を飲みながら、のぞみはベッドの上でテレビを見ていた。

「幸せって、なんで?」

「だって、とりあえずは自分から人を求めるってことでしょう?その点、わたしは駄目だな。ひとりでいるほうが落ち着くし……唯一恭一郎だけは別だけど、それ以外でずっと人と一緒にいたいとか、あんまり思わないもの」

「ふうん。氷室さんは?」

「うーん。結局、恭一郎と光先輩は似てるから、あのふたりは仲間のカテゴリーに入ってる感じかな。でもわたしの中では、恭一郎一番、光先輩はニ番みたいな感じ」

「へええええ。それは意外ねえ」

 のぞみはさも驚いたといったように、興奮して猫のように両目を見開いている。

「ねえ、そもそも館神コーチって独身なんだし……その、そういうパターンっていうのはあんたの中で百パーセント絶対ないの?」

「あー、ないない。絶対にない。だって、わたしの中では恭一郎って父親と兄貴とコーチを三で割ったような存在だもん。だから一緒にいて一番安心なんだよ。その点、光先輩は難しいっていうか。うん、なんにしても人間は難しいよ」

「ふううううん。あんたって面白いわねえ、蘭。わたしだったら、あんな格好いい人とつきあえたってだけで舞い上がっちゃって、他の細かいことはとりあえずどうでもいいかも。電話で話せただけでも「きゃっ!」、メールが来たっていうだけでも「きゃっ!」ていう感じ。もしかして、あんたの中でそういう時期はすでにとっくに過ぎてるとか?」

「どうかねえ。のぞみは、向こうがスケートやめてくれって言ったら、すぐやめるでしょ?」

「やめるやめるやめる、絶対やめるっ!!決まってるじゃない、そんなの」

「そうよね。あんただったらそうよね、きっと」

 のぞみは、ここまで話した感触して――なんとなく漠然とではあるが、ふたりの関係を何か少し掴めた気がした。蘭と氷室光とがつきあっていく過程において、おそらくは他でもないふたりを出会わせたフィギュアスケートという存在が邪魔なのかもしれない。けれど、たった今「(スケートなんて速攻)やめる」と答えたのぞみではあるが、確かに自分に蘭ほどのスケートの才能があったとしたら、女の幸せとその両方を天秤にかけた場合……どちらかを選ぶのは難しかったに違いない。

「ねえ。答えたくなかったら答えなくていいけど……もしかして氷室氏にスケートやめて俺を支えてくれみたいに言われてるとか?」

「うーん。そういうわけじゃないんだけど、まあ、わたしがこのままスケートを続けていった場合、たぶん先輩とは関係が駄目になるんだろうなと思って……」

 蘭は自分でも、どうしてこんな話を自分は石原のぞみ相手にしているのだろうと不思議だった。彼女に話してしまったことはほぼ、彼女の親友だという飛鳥昌子や山下杏らに筒抜けになるとわかっているのだから、余計なことは言うべきでないのに……。

「あー、なーる。そういうことかあ。まあねえ、でも仮に次のオリンピックで蘭が金メダル取ったとして、あんたはあと四年くらいは最低でも競技を続けたいっぽいもんねえ」

「そう。でもその四年の間に恋人との関係が駄目になるって思ったら……のぞみならどうする?」

「そりゃあ、やれるところまでやるしかないんじゃない?たとえば、来季のオリンピックが終わった一年目がどうにか過ぎて、ところが二年目にぎくしゃくしてきて――もしこのままスケート続けたら、相手に捨てられそうだと思ったら、そのあたりで結婚しちゃうとか?」

「でも、いずれ相手を恨むってことになったらどうする?結婚して子供も出来て、なんか平凡な主婦として相手にとっても空気みたいな存在で……そしたら、その頃に思うかもしれないよね。わたしにはあのままスケートを続けるって道もあったのに、毎日ガキどもがギャアギャアうるさいってのに亭主はろくに面倒もみないし――なんてことになったら?」

 ここでのぞみは、「あっはは!」と、突然笑いだす。

「まあねえ。そりゃ、わかんなくもない。でも全部、やってみなきゃわかんないことだよ。明日の試合と一緒で」

「そうだね。まずは明日のショート、それしかないかあ」

 蘭はぼふっ!とベッドの上に倒れ込むようにして横になった。それから何か悩みにのたうちまわるように体をごろごろと転がす。

「蘭、あんたってさ」

 はと麦茶を飲みながら、のぞみは笑って言った。

「いい奴だよね。わたしと違ってさ」

「まさか、今ごろ気づいたとか?遅すぎっ!!」

 このあとふたりは思いきり笑いあうと、一緒にホテルのレストランへ夕食に出かけた。先にアランに電話して、「同室の子と一緒に食べにいくから」と一言伝えておく。蘭はのぞみと星丘静夜と同じテーブルにつくと、和やかに食事して部屋まで戻って来た。そして、恭一郎とアランのところへ行って最後のミーティングをしてから――あとは明日に備え、早めに寝た。のぞみとそれぞれのベッドの上でストレッチし、少しばかり女子トークの続きと明日の試合の話をしたあとで……。

                                 

 前日にあったドローで、蘭の滑走順は最終グループの第四滑走に決まっていた。蘭自身としては早すぎず遅すぎず、悪くない滑走順だとは思った。ただし、第五滑走者が金愛榮で、さらに最終滑走者がキャシー・アーヴィングでさえなければ……もしかしたらもっと良かったかもしれない。

「やれやれ。なんとも不思議な滑走順だな。これは本当に作為でないのかと、スケートの神さまにでも聞いてみたいくらいだ」

 抽選が終わると、恭一郎はそんな感想をアランに洩らしていたくらいである。

 女子シングル、ショートプログラム最終グループの滑走順は以下のとおり――第一滑走、水沢結花、第二滑走、エリカ・バーミンガム、第三滑走、ロッテ・シャームバッハ、第四滑走、灰島蘭、第五滑走、金愛榮、最終滑走、キャサリン・アーヴィング。

 ちなみに、第四グループの滑走順は次のとおりとなっている。第一滑走、ベアトリクス・アディントン、第二滑走、李葵姫、第三滑走、王花琳、第四滑走、石原のぞみ、第五滑走、リュドミラ・ペトロワ、第六滑走、マリア・ラヴロワ。

 のぞみは、第四グループの六分間練習のはじまる約五十分ほど前に会場入りした。ホテルを出る前に蘭には、「頼むぜ、石原軍団!!」などと、ひとりぼっちなのに軍団呼ばわりされて送りだされたのぞみである。

 その前までも、ドレッサーの前にふたり並んでメイクをしながら「えーっ、あんたブスのくせにディオールのリキッドファンデなんか使ってんのおっ!?」などと、色々どうでもいい話をしていたことで、随分緊張が紛れたように感じる。

(でも、ここからは本当にひとりだけの戦いだ。砂かけババアはいても、砂をかけて応援する以外、リンクでは何も出来ないんだから……)

「きのうは、よく眠れた?」

「思ったよりも、意外にぐっすり」

 その日のボストンの気温は、プラスの一度だった。ボストンは冬、寒い時にはマイナス二十度にもなると聞いていたため、のぞみは少し厚着をしてきたのだが――思ったほど寒くはないと、そう思った。

(考えてみたら、もう春だものね。ただ、今回の試合結果によってはわたしの場合、<サクラサク>とはならないかもしれないけど……)

「あんた、今ちょっといい顔してるわね」

 のぞみが(ボストンって本当に都会だなあ)などと思いながら、車窓の景色を眺めていると、星丘コーチが不意にそんなことを言う。

「灰島さんのような人はちょっといないだろうから……のぞみ、あんたもああいう人を本当の友達として持つべきだと思うわよ」

「友達……」

 果たして蘭と自分とは、友達なのだろうか?いや、彼女にとって自分は本当にそうだろうか、とのぞみとしては思わなくもない。今、のぞみは日本を出発した時ほどナーバスにもなっておらず、緊張はしていても思ったよりは落ち着いている。というのも、自分には追うことの出来る人間がいるからだ。けれど、目の前にそんな人間もいないトップの人間というのは――本当に孤独だと感じた。そしてその状態と今の自分を比べて見ることで、のぞみにはあるひとつの目標が定まっていた。

「コーチ、わたし――最低でも十位以内に入れることを目指してみようと思います」

「そんなこと、あなたに出来るの?本当に?」

 星丘コーチは石原のぞみが本気になって底力を出せば……それは可能な順位であろうとは思っていた。ただ、初めて出る世界選手権で緊張し、ガチガチになることで――精神的な何かが邪魔をし阻まれる結果に終わるのではないかと、その公算が高いように感じていたのである。

「いえ、ただ蘭……灰島さんに言われたもんですから。灰島さんも、水沢先輩も――試合でどうなるかなんて誰にもわからない。だったら自分が十位以内に入ろうというくらいの気概はないのか、みたいなこと……」

「そう。きのうも話していて思ったけど、あの子はいい子ね。うちのスケートクラブじゃまず育たないようなタイプの子だわ。あんたもそう思わない?」

「まあ、そうですよね。だってうちは、先輩・後輩の序列が厳しいし、才能のある子はむしろ、逆にそれで潰されることもあるし……なんでこういう仕組みになっちゃったんだろうとは、わたしもたまに思いますけど」

「そうね。わたしもそのことは――そのうちあらためて考えてみようと思うわ」

 バスの中には他に、第四グループの滑走者が全員顔を揃えていた。前のほうの座席に王花琳とそのコーチ、その後ろのほうには李葵姫の他に三人くらい彼女のスタッフらしい人々が彼女を囲っている。真ん中あたりの座席に、マリア・ラヴロワとリュドミラ・ペトロワが並んで座り、何か仲良さそうに話している。おそらくふたりは同じロシア人ということもあって、親しい間柄なのだろう。最後にカナダの黒髪の美女、ベアトリクス・アディントンはのぞみや星丘コーチの座席の斜め後ろのほうでコーチと一緒に座っている。

 のぞみはつい、リュドミラとマリアの仲良さげな様子を見ていて、羨ましいと感じた。強敵ばかりの最終グループに入るだなんて、想像しただけでゾッとしてしまうけれど……それでも、水沢結花や灰島蘭という同じ日本人が同じグループにいるだけでも心強いのではないかという気がする。

(ああ、そっか。でもそれじゃ駄目なんだ。水沢先輩と蘭は、たぶん必要最低限以上口を聞いたりしないだろうけど、お互い全然平気そうな顔してるだろうな。わたしも――蘭と対等に競えるようなライバルになろう。変に甘えたり寄りかかったりするっていうんじゃなくて……あの子と本当の意味で友達になるっていうのは、たぶんそういうことだ)

 バスが試合会場に近づくと、いよいよのぞみは緊張してきた。もちろん昔、小さかった頃はのぞみも、バスから降りてきたどこか厳粛な顔つきの選手たちの様子を見ては(格好いい)とか(いつかわたしもこうなりたい)と思ったものだった。けれど、小さな頃からの夢がとうとう叶ったというのに――(下手をしたらわたし、吐くんじゃなかろうか)というのが現実だというのは、悲しすぎる。

「ほら、行くわよ、のぞみ」

「は、はい……」

 バスから降りる時、のぞみはステップのところでつんのめって転びそうになった。一応格好だけでも颯爽としていようと思ったのに、なんてことだろうと、のぞみは自己嫌悪に陥る。

「Are you OK?」

 のぞみより後ろから降りてきたベアトリクス・アディントンにそう声をかけられ、のぞみはどうにか頷いた。

(あーっ、馬鹿馬鹿。ただ「イエス」って言えばいいだけだったのに。でも、頷いてみせたから、べつにムッとしてるわけじゃないっていうのはきっと伝わったわよね)

 そしてキャリーバッグをゴロゴロ引きずって歩きながら――ベアトリクスの言葉をのぞみはもう一度心の中で繰り返した。そして「Are you OK?」、「I’m OK!!」と自分で返事をして、会場入りを果たす。控え室も廊下も緊張感でビシバシで、そのようなラップ音のしてこないのが不思議なくらいだったが、のぞみはまず控え室で場所取りをすると、まずはいつも通りの手順で柔軟体操をして体をほぐした。そして軽くランニングをして体温を保てるようにする。それから星丘コーチに手伝ってもらって、バランス感覚を確かめたり、反射神経を上げるための動作を繰り返したり……すると、あっという間に六分間練習だった。

(そうだ。ずっとこの舞台に立つことが、小さい頃からのわたしの夢だったんじゃないか。それなのにどうしてオドオドビクビクしてばかりいたんだろう。せいぜいのところをいって十二~三位に入ったくらいじゃ、世間があまり評価しないから?そんなこと、関係ない。わたしはただ……この瞬間のためだけに、つらいとかやめたいと思った時にも、ずっとスケートを続けてきたんだから!!)

 六分間練習の感覚は悪くなかった。六分間練習に出る順番は滑走順だったため、のぞみは音楽を聞きながら小刻みに体を動かしつつ、四番目のところに並んだ。前にいるのは、ベアトリクス・アディントン、李葵姫、そして王花琳。のぞみは前にふたり、自分と同じ東洋人がいたことで、なんとなく落ち着くものを感じた。そしてベアトリクス・アディントン――「Are you OK?」だなんて、彼女だって試合のことで頭がいっぱいだろうに、優しい声をかけてくれた。そのことを思うと、のぞみは大抵のことはやれるという気がした。もちろん、彼女にとってはそう大したことでないと、わかってはいたけれど。

 リンクを二周ほどして氷にエッジを慣らすと、まず三回転ループの調子を確かめた。それからダブルアクセル、単発で三回転フリップを跳んでから、次に三回転フリップ-三回転トゥループ。のぞみは六分間練習で計七回ジャンプを跳んで、すべてミスなく綺麗に着氷した。何故だろう。いつもより体が軽い気がする。こういう時は色々なことがうまくいきそうな気もするけれど、でも油断しないようにしなくちゃ……のぞみがそう思って、星丘コーチのところへ戻ろうとしていると、観客席でわっと声が上がった。

 振り返ってみると、李葵姫と王花琳とが接触し、李葵姫のほうが転倒したらしかった。けれど、王花琳のほうでは葵姫に手も貸さずにリンクゲートのほうへ戻っていってしまう。

(まあ、大抵の場合はお互いさまなんだけど……でも、ジャッジや観客の心象を悪くしないためにも、とりあえず演技でいいからあやまったら良かったのに)

 そんなふうに思いながらのぞみはスポーツドリンクを飲み、そして背後を振り返ってもう一度、(まずあーいってこーいって、そこから次にレイバックとドーナツスピンを回って……)と、のぞみは頭の中でトレースを完成させ、星丘コーチと再び向き合う。

「調子はいいみたいね」

「うん。なんでだろう。急に調子が上がってきた」

 独り言のようにのぞみはそうつぶやき、練習時間の終わりが近づいたのに気づいて、リンクゲートのほうへ戻った。

 リンクサイドには、第一滑走者のベアトリクス・アディントンだけが残っている。のぞみは緊張で強張った顔をしている彼女に向かって、心の中で(がんばって!)と声をかけてから、通路のほうへ戻った。

 再び、柔軟体操からはじめていつものルーティンワークをこなしているうちに、星丘コーチから「そろそろ時間よ」と告げられる。

 リンクサイドへ向かう間も、のぞみはずっとイヤホンをはめて音楽を聴いていたため、外からの音はほとんど入ってこない。そのままの状態で、王花琳がリンクへ出ていくのを見守り――あとはただ、下のほうを見て彼女の演技が視界に入ってこないようにする。

(大丈夫だ……この体の震えは武者震いっていうことにしておけば……)

 のぞみは緊張で体が動かないことを恐れ、腕や手や足の筋肉をしつこいくらい何度もほぐして体を動かし続けた。

 やがて、王花琳がリンクゲートに戻ってくると、彼女と入れ違いになるようにリンクへ出ていく。イヤホンを外し、ジャパンチームのジャージを脱ぎ、スケートのエッジカバーを外して、それらをただ無言で星丘コーチに渡す。

 もちろんこの時、王花琳の点数が出るまでの間――日本の放送席で次のような言葉が明智司郎アナウンサーと、解説員の一ノ瀬綾子の間で交わされていたことをのぞみが知るのは、帰国後のことである。

『石原のぞみは、今回が初めての世界選手権ですねえ』

『石原選手は身長が百六十七センチありますから、ジャンプを成功させた時に大変見栄えのするところが魅力だと思います。曲のほうはビゼーの『カルメン』ですが、彼女の性格にも合っていて、とてもいいプログラムだと思います』

『全日本の時と同じような素晴らしい演技を見たいですが、やはり初めての世界フィギュアというのは一ノ瀬さんも緊張されましたか?』

『それはもちろん。けれど、石原選手は今回、灰島選手と選手ホテルで同室らしいですね。そのせいで随分気持ちがほぐれたと、そんなふうにきのうインタビューで話していました』

『そうだったんですか。きのうのドローの時など、ふたりとも何かふざけあっていましたものねえ』

『ええ。灰島選手にはそういうところがあるんですよ。実際、以前までは仲が悪かったそうなんですが、今はもうすっかり打ち解けたみたいですね』

 解説員ふたりがそんなふうに話しているうちに、のぞみがスターティングポジションに着く。オーロラビジョンのほうでもキス&クライの王花琳とコーチが立ち上がると同時にリンクのほうへ画面が切り換わる。のぞみは赤と黒の衣装に髪には一輪の赤い花をさしていた。そして最初の独創的なポーズを取ると、気迫のこもった眼差しでジャッジのいる席のほうを睨みつける。

 ――実際、ダイアン・スーシェの振付けたのぞみの『カルメン』は、素晴らしいものだった。

 何分、『カルメン』というのはあまりにも数多くのスケーターに滑られてきているプログラムであるため、のぞみもダイアンも新しい独自性を打ち出したいと考えていた。そこでありとあらゆるフラメンコダンサーの振付を見て研究し、「あ、今のここの動き良くなかった?」と言っては、そうした動きだけを繋いでトランシジョンやステップシークエンスに使うということにしたのである。

 こうして完成したのぞみの『カルメン』は、特に腕の動きが常にフラメンコダンサーのそれであり、ジャンプとスピン以外でも見る人を充分に魅了する力強さで溢れていた。最初のポーズからしてが独創的で、これは偉大なフラメンコダンサー、ロラ・フローレスの銅像が取っているポーズと同じものである。そしてそのポーズからのぞみはいかにも自信たっぷりにジャッジ席のほうを妖艶な笑顔で眺めやっていた。

 最初に男を誘うような演技をしながら、徐々に速度を上げていって、三回転フリップ-三回転トゥループ。音楽のタイミングとピタリと合ったところでのぞみが着氷すると、ワッと観客席から歓声がわく。のぞみは次にレイバックスピンを高速で回り、ビールマンへと繋げていく。続いて優雅なドーナツスピン。そしてステップシークエンスでは魔性の女『カルメン』の魅力をたっぷりと見せつけ、次に三回転ループ、ダブルアクセルと後半で難しい入り方からのジャンプを続けざまに決めて見せる。そして足替えのコンビネーションスピンを回りきると――ドン・ホセに腹部を刺されたところを演じ、スピーディで鮮やかな印象の彼女の演技は終わりを迎えた。

 音楽が終わり、一拍置いてからのぞみは立ち上がると、(やった!!)と思った。まずはジャッジに一礼し、それから四方の観客席すべての人々に向かって手を振る。のぞみはインタビューでよく『パンダグッズを集めている』と言っているため、リンクはたちまち大小様々なパンダのぬいぐるみで溢れ返るということになった。

(これ、一体何個目かしら?)と思いつつ、可愛い小さなパンダを二匹ほど拾い、のぞみはほくほく顔で星丘コーチの元まで戻ってくる。

「やったわね、のぞみ……!!」

 鬼の目にも涙――ならぬ、砂かけババアの目にも涙といったところだった。そしてのぞみは、ただ無言で自分の長年のコーチからエッジカバーを受けとった。まだフリープログラムが残っているというのに、感動で喉が詰まってどうしても言葉が出てこない。

 それでも、(こんなところで泣いていては人からダサいと思われる)……とそう思い、のぞみは目尻の涙を指でぬぐうと、二匹のパンダを手にしたまま、キス&クライへ向かった。外国選手などはここでよく、ハートマークを作ってからチュッとキスしていたりするが、日本人ののぞみとしてはやはりあんな恥かしいことはとても出来ないと感じる。

 技術点=37.04、演技構成点=33.88、合計点=70.92

 国内大会である全日本でも、のぞみの得点は七十点を越えてはいなかった。その時の得点は69.89である。そして自身初となる、ショートプログラムの七十点越えでもあった。

「ほらね、努力していればちゃんと、報われる日がくるのよ」

 いつもののぞみであれば、(そうとは限らない)だのと、心の中で理屈をこねていたかもしれない。けれど、今日だけは別だった。

 のぞみはキス&クライで星丘コーチと抱きあい、そして廊下を歩いていく時にもまったく同じ姿勢のまま、敬愛するコーチの砂かけババアとノーミスの演技の感動を分かち合っていたのだった。



 >>続く。




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