六花の舞。

「六花の舞」、Ⅰ・Ⅱともに完結しました。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m

ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【71】-

2017年05月25日 | 六花の舞Ⅱ.
【シャロットの女】ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス


 さて、次回で(たぶん)最終回です♪(^^)

 嗚呼、終わってしまうとあっという間ですけど、流石に今回のこの連載は長かったです……しかも、最後のほうとか、わたし、他に書きたい小説とか出てきちゃって、「でもあともう少しだから終わらさんきゃ!!(>_<)」とか、そんな感じになってたり。。。

 ええと、なんにしても今回の前文は、【69】のところのえこりん村の続きとなります。いえ、自分的にもなんかもう次回で終わるんだからどうでもいいな☆と思うんですけど、まあ、なんとなく(笑)


 16.サーペンタインガーデン。

「サーペント」は水ヘビという意味。うねるような曲線が印象的なガーデンです。くねくねとした道を歩きながら銀河庭園の全景が楽しめます(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。

 見た目的には、繊細な白樺並木といった感じの場所でした♪

 自分的な連想としては、やはり「赤毛のアン」の恋人たちの小径を思いだすような感じですね


 17.ポタジェ。

 軟石の壁に囲まれた見た目も楽しい菜園です。果樹、野菜、一年草が装飾的に植えられています。どこかに「秘密の庭」への扉が隠れています(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。

 えっ、秘密の庭!?

 いえ、このガーデンガイドのパンフレット、実はじっくり読んだのが家に帰ってきてからなんですよね(^^;)

 なので、ひとつひとつガイドを確認しながら歩いてたら、たぶんどこが「秘密の庭」への扉だろうと、探していたと思います。

 ただ、なんとなく錆びたような扉があったようなおぼろな記憶もあり、でもそれ、サルベージガーデンじゃなかったっけ……とも思い、今となってはよく思いだせません(@_@;)。

(バーネットの「秘密の花園」、大好きなのです


 18.ハーブガーデン。

 周囲を柳の木で編んで作った花壇に約50品種のハーブを植え込んだ薫り高いガーデンです。5月には中央のクラブアップルの木がかわいらしい花を満開に咲かせます(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 19.ショージウォーク。

 プラタナスの並木が整然と並ぶ厳かな静寂に包まれた空間です。風の音や鳥の声を聴きながら並木沿いに設置されたベンチに座っていると心癒されます(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 20.パープル&ゴールドガーデン。

 紫色と金色の素材と植物を組み合わせた色がテーマのガーデンです。花はもちろんのこと紫と黄色の葉の色の対比も面白さを演出しています(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 21.サルベージガーデン。

 庭園の最上段は廃棄された鉄筋や車から甦ったユニークで愛嬌のある廃材作品が目を惹きます。ドラゴン、鶴とカラス、イバラのアーチに休む小鳥……何の部品だったのでしょう(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。

 錆びたような鉄筋によって、ドラゴンやイバラのアーチなどが形成されていたと思います

 ちょっと自分的にここ、「ゲド戦記」を連想するところがあって、とてもお気に入りの空間でした♪(^^)


 22.タイガーガーデン。




 ややや、やっと写真載せれたww

 牙のある虎さんがお口を開けてるのですが、反対側からこちら側へ通り抜けところをパシャリ☆

 熱帯をイメージしたガーデンで、夏に訪れて欲しいガーデンのひとつ……とガーデンガイドにありますので、花盛りになるのはまだまだこれからだと思います(なんといっても北海道はサクラが咲いたところですから)。


 23.フォーリー。

 銀河庭園のランドマークとしてデザインされた、廃墟のような4本の柱が立つガーデンです。振り向けば銀河庭園の全景を一望できます。柱の奥には階段があり洞窟へと続きます(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


「なぬーっ!?洞窟ですと!?Σ(・∀・;)」

 いえ、通りかかったことには通りかかったんですけど、やっぱり一回一回ガイドのほうを確認してないもので、「洞窟がある」とわかってたら、間違いなく絶対そこに行ってました。。。

 洞窟、ドラクエ……嗚呼_| ̄|○


 24.洞窟。

 フォーリーに隣接する階段を下りると、丘をもぐり地下を走る秘密のトンネルへとつながります。鍾乳洞をイメージした洞窟を抜けると童話のようなお庭が広がります。


 25.楽しい川辺。

 英国の童話作家、ケネス・グレアムの「楽しい川べ」に登場するネズミの家がモチーフのガーデン。

 確か、ここで撮ったのが……








 の三枚だったと思います

 映りが悪くて恥かしいんですけど(〃ノωノ)、家に帰ってきてからガーデンガイド読んで「なるほど!」と妙に納得しました(笑)

 確か、家の中の造りが「子供用かな??」という感じで、入口や中のほうも狭い感じがするんです。

 ちなみにこの翌日からまた、ケネス・グレアムの「楽しい川べ」を読みはじめました♪


 26.プレイエリア。

 大型の木製遊具というか、ちょっとアスレチックな公園みたいな感じで、子供さんが遊ぶのにちょうどいい空間です(^^)

 どーでもいいことなんですけど、このすぐそばにあるトイレで一回トイレ休憩しました

 とても綺麗な、いい香りのするトイレだったと思います。


 27.ヤナギの庭。

 生きているヤナギの木を編みこんで創りあげていく、成長するヤナギのオブジェがテーマのガーデンです。ヤナギのアーチやドームの中から見る景色も楽しさがあります(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 28.ジプシーキャラバンガーデン。

 英国の童話作家ケネス・グレアムの「楽しい川べ」でジプシーの馬車が登場するシーンをモチーフにしたガーデンです。農機具で作られた馬ミリーが紅葉に映える秋も見ごろです(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。。


 ……最初、この大草原の小さな家を思わせる、幌馬車みたいな部分も写真撮ろうと思ったのです

 でも、ここまで歩いてくるだけでも、ちょっと疲れちゃいまして、一箇所一箇所全部写真撮ってまわったわけでもないので、なんかだんだん「ま、もういっか☆」的に。。。

 わたしここ、てっきり「大草原の小さな家」がモチーフなのかな??なんて漠然と想像してたのですが、「楽しい川べ」の物語のワンシーンのことだって家に帰ってきてわかりましたよ♪(^^)

 どうりで、馬のミリーと幌馬車の部分が離れてるわけですよね(笑)


 29.スモールファーム。

 みんなでつくる小さな農場。えこりん村の農場・自然の中で、あそんでまなぶ体験プログラム「えこりん村のこどもたち」の活動拠点となるガーデンです(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 30.池の廃墟。




 池と廃墟が作りだす不思議な場所。湖に映るイギリスの古城をイメージした幻想的な空間です。廃墟の中や上から見ると、これまで通ってきた景色もまた違うものに見えてきます(銀河庭園ガーデンガイドよりm(_ _)m)。


 ……写真映りが悪いというより、アングルがめっちゃ悪いせいで、せっかくの池の廃墟の壮大さがまるで伝わりません

 いえ、たぶんこのたくさんあるガーデンの中でどこが一番好きかって聞かれたら、たぶんわたしこの「池の廃墟」が一番好きだなって思うんですよね

「赤毛のアン」のアンがエレーン姫ごっこをした場面を少し連想もしますし、ガイドに映っている写真が少し霧がかかっているもので、「マクベス」の三人の魔女が現れそうな廃墟であるようにも見えるというか(もちろん舞台はスコットランド♪^^)

 なんにしても、わたしと同じように自分が死んだらこういう「湖のそばの古城」で暮らすことになるとイメージされる方というのは多いのではないでしょうか。そしてこうした自分の内側にある「魂の庭」のイメージと交錯するガーデンを見たりすると、胸がときめくというわけです(笑)

 ええっと、他に何枚か、どーでもいいような写真があって。。。

 参考程度に載せておきたいと思いますm(_ _)m。



【69】のほうに書いたベアガーデン。実は写真撮ってたみたいです(^^;)





 二枚とも、どこで撮ったのか記憶にありません



 ここは同行者さんのお写真撮ったので覚えてます♪(^^)

 真ん中に天使か何かのレリーフがあって、その下に羊がいるっていうのがなんかいいなって思いました


 ではでは、こんなふうに記事にするって最初からわかってたら、もっとバシャバシャ☆写真撮ったと思うんですけど、そんなつもりもまるでなかったため、やる気なくなんとなく写真撮ってたらこんなことになったという感じです。

 それではまた~!!



     ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【71】-

 ――光と蘭が結婚して、その後約二年が過ぎた。

 結婚した年とその翌年の三月くらいまで、蘭は主婦として出来るだけ光に忠実に仕えた。アイスショーやその他の仕事をこなす傍ら、出来る限り光の力になれるようごはん作りに精を出し、本当はテレビのほうには積極的に出たくはないのだが、光のつきあいの関係で出演依頼があった時には断らないことにした。また他に、光の仕事を手伝って、彼にとって必要と思われる情報をまとめてファイルしたり、彼が落ち込んでいる時には根気強く話を聞いて慰めた。

 そうした半年ほどの時が過ぎ去ってみると、光は本人の予想に反して、CMは相変わらず十社と契約していたし、担当していたスポーツコーナーのほうは、ニュース番組の名前やキャスターが変わったにも関わらず、その担当だけは彼が継続するということになっていた。その枠内は毎回番組内で一番視聴率が高かったということで、他の番組への出演依頼もあったとはいえ、光はこれ以上は手に余るということで断っていた。けれど、そのかわりに一度だけ脇役で出たドラマの視聴率が良かったということで(ちなみに刑事の役だった)、その種の依頼はあくまで端役であれば出演をオーケーした。これは光にとっても思ってみないことであったが、彼はセリフを丸暗記するのが早く、また演技のほうも評判が良かったのである。

 こうして、光が多忙を極める中、蘭は再び競技生活に戻っていき、当然ふたりの間には距離が出来た。蘭がリンクで練習中、光は家にいて寝てるか仕事の資料作りや情報集めといったことをし、逆に蘭が家にいる間、光は仕事で外に出ていた。それと、光はつきあいで飲みに出て歩き、帰宅が遅くなることが多くなってもいた。

 といってもこれは、光がすっかり酒の味を覚え、夜な夜な出歩くようになった……ということではない。彼は相変わらず酒の味についてはいまいちわからず、それでもそうした人づきあいが仕事上極めて重要だということを理解しているため、そうした場所に出席するようにしていたというだけである。というのも、「飲めないので」と言って断ったり、義理で飲み会の最初のほうだけつきあうのではなく、単にそうした場所に「いる」というだけのことが非常に重要なのだと、光は理解するようになっていたといっていい。

 たとえば、初対面の人であれば「ほら、フィギュアスケートで金メダル取った氷室くんとこの間飲んだんだよね」と相手が言えるくらいの会話は交わしておくとか、あるいは、「氷室くんなんて、自分は飲めないっちゅうのに、あの馬鹿どもと三次会まで行ったんやで!」といったようになっておくのとそうでないのとでは、仕事のやりやすさが段違いに変わるということである。

 もちろん、光自身そうした場所に参加するのが楽しいこともあれば、単に本当に「お義理」ということもあるのだが、この頃には世間知らずだった彼も「これが大人になる、社会人になるということなんだ」と理解していたといえる。

 そうした忙しい生活を送りながら、光も蘭のことを決してないがしろにしていたというわけではない。むしろ出来る限り彼女と一緒に過ごせるよう時間を作ろうとしたし、蘭の新しいプログラムのことで相談に乗ったり、試合の時には会場まで応援に行くことも当然あった。

 一年休養した翌年、蘭は初めて四回転サルコウを入れはじめたのだが、着氷率が悪く、そのせいで順位のほうは安定しなかった。グランプリシリーズの二大会では、それぞれ三位と四位で、グランプリファイナルの切符も逃した。全日本選手権ではかろうじて三位。四大陸では優勝したものの、世界選手権では六位と順位を落とした。この頃、蘭は四回転の練習のしすぎでまた臀部に痛みが出はじめていたのである。

 そしてこうした状況の蘭のことを心身ともに支えたのは、夫の光ではなくコーチの館神恭一郎だった。一度など蘭は、「どうせ家に帰っても光はいないことが多いし、自分がいつ帰ってきて出かけてるのかにも気づいてないだろうから、暫くこっちにいる」と言って、館神邸のほうに戻っていたことさえあった。

 恭一郎にしても、それが単に喧嘩したというようなことだったとしたら、蘭のことを追い返していたかもしれない。けれど、ふたりの関係が新婚二年目にして危機に瀕していると感じ、もしこれで光が蘭のことを迎えにこないようなら、それこそ問題だと思い、蘭の好きにさせておいたのである。

 蘭は暫くの間は、「あーっ、もう実家サイコー!!」と言ってすっかり羽を伸ばしていたのだが、当然のことながら光はすぐに異変を察して、蘭のことを館神邸まで迎えにきた。そしてふたりが話しあいをするのを恭一郎は辛抱強く見守っていたのである。

「だって、わたしがいつ帰っても光はいないか寝てるかのどっちかでしょ?だったらわたし、ここにいて過ごしたほうが通うのにも便利でいいもん。光は好きな仕事して、そういうところで知り合った人と楽しく飲んで、あとは家でぐてっとしてたらいいじゃない。わたしはわたしで好きなようにするし」

「だから、前にも言ったろ?俺、自分が好きで飲みにつきあったりしてるわけじゃないんだよ。言ってみれば、あれも仕事の一部っていうか、仕事っていうシステムの一環なんだよ。俺自身が気乗りしなくても、そういうふうに出来てることだから仕方ないんだ。俺は今も蘭のことが一番大事だし……そのために仕事してるっていうのもある。もう少し仕事を減らせばいいって蘭は思うかもしれないけど、物事はそんなに簡単じゃないんだよ。俺は芸能人っていうのとは違うから、そんなに仕事を選り好みしたり出来ない。どこか一つを切ったら、他の仕事もなくなるとか、一か十しかなくて、その中間みたいのを都合よく選べるような立場じゃないんだ」

 恭一郎には、光のこの説明だけで重々よく状況が理解されたが、蘭の顔を見れば彼女が納得していないのははっきりしていたといえる。

「光、そもそもわたし、そんなに変なこと言ってないと思うよ。結局、一緒に同じ部屋に暮らしてても、すれ違ってばっかりで顔を合わせることもあんまりないか、あってもどっちかが疲れきってるなら、わたし、ここで恭一郎と一緒に過ごしたい。だって、そのほうがスケートに集中するのに一番いいんだもの」

 光が何か言いかけて黙りこむのを見て、恭一郎はとうとう彼に助け船を出すことに決めた。渋々といった体で、溜息を着きながらではあったが。

「蘭、そういうことならおまえは帰れ。光が浮気するか酒乱になるか、ギャンブルに狂って借金でも作ったっていうのでもなければな、俺はおまえをここに置く気はない。わかったな?」

「ひどいよ、恭一郎っ。なんで光の肩持つの!?そもそも最初の約束破ったのは光のほうなのに……」

「だから、そのことは悪いと思ってるって、もう何遍も言ったろ?とにかく、あとのことは家に帰ってふたりで話しあおう。コーチ、心配をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」

「恭一郎……」

 それでも蘭は、最後まで恨みがましく恭一郎のことを振り返ってじっと見つめていた。けれど、彼はただ難しい顔をしたまま、「帰れ」と言うように顎を振っただけだった。

 ――こうして蘭は自分と配偶者の住居へ渋々戻ってきたのだが、まだ怒っていたため、車の中では一切光と口を聞かなかった。

 光のほうでも、蘭のことを一応迎えに行ったとはいえ、仕事で疲れていたし、これからさらに重い話し合いをするのかと思うと気が重くもなった。まるで両肩に背後霊でもずっしり背負っているかのように。

「蘭、お茶入れるよ。何がいい?」

「べつに、お茶なんかどうでもいいよ」

 光はここでも溜息を着くと、ただ黙って紅茶を淹れた。こういう時にはアールグレイがいいだろうかと思い、マリアージュフレールの缶を手に取ると、ティーポットに入れ、沸かしたお湯を注いで蒸らした。けれど、ダイニングの椅子に座った蘭にそれを出すと、「いらない」と言って、蘭は片手で押しのけたのだった。

「蘭!いいかげんにしろよ。いくら温厚な俺でも、いいかげん怒るぞ」

「じゃあ怒れば?それで、殴ってでもくれると助かるかも。そしたらわたし、光が暴力振るったとでも言って、恭一郎のところに帰れるもん」

「…………………っ!!」

 実際に殴ろうというのではなかったにしても、光もそろそろ我慢の限界だった。いや、忍耐力の限界というべきだろうか。なんにしても、話し合いのほうは手早く済ませてしまわなくては、光にしても明日の仕事に差し障りが出ると思った。時計のほうはすでに夜の十一時半過ぎである。

「蘭、頼むよ。一体どうすれば満足するんだ?俺、今すぐは百八十度全部変えられなかったとしても、蘭の希望に沿って仕事を減らしてもいいとは思ってるから……思ってることをはっきり言ってくれ」

「べつに、光に言うことなんて何もないよ。ただわたしはスケートに集中したいっていうだけ。光もさ、試合が近いから蘭も少し気が立ってるんだなとでも思ってやり過ごして。それにわたし、光に仕事を減らして欲しいって思ってるわけじゃないよ」

「でも、今の生活は確かに良くないと俺も思ってる。だけど、どの仕事を切ったら他にどう影響するのかもよくわからないし……約束する、蘭。もう少し時間をくれたら、マネージャーとも話しあってもっと二人で過ごせる時間を増やすようにするから」

「…………………」

 今度は蘭が黙りこむ番だった。実際蘭が腹を立てていたのは仕事量云々のことではない。光が酒の匂いをさせて自分の横に寝るようになってからというもの――時を同じくして、週刊誌の記事に某局のテレビアナウンサーと並んで歩いているところを撮られたり、ほんの脇役で出演した映画の女優とツーショットを撮られたりといったことが続いた。

 そしてそうなると当然のことながら、蘭と光が実は不仲ではないかとの憶測記事も出るようになり、ふたりがすれ違い生活を送っているらしいということも、実にまことしやかな論調で記事にされたりしていたのである。

 蘭は光の醸し出す雰囲気から、やましいことが本当に何もないのだと感じると、本棚の後ろのほうに隠しておいた週刊誌を二誌ほど取りだし、光の前に置いた。

 光は蘭に促されるがまま、二ページほどページを繰ってみて驚いた。確かに、某女優と飲み屋から出てくるところが撮られている。もうひとつのほうは、某テレビ局のアナウンサーと腕まで組んでいた。この時点で光は笑いたくて仕方なかったが、蘭が本当に誤解して怒ったのだと思うと、言動には注意が必要だと思い、自戒した。

「こんなのくだらないよ、蘭」

 そう言って光は、ふたつの雑誌を閉じて、蘭のほうへと返す。

「こんなの全部、ただのくだらない話題作りみたいなものなんだよ。この週刊誌の日付を見てもわかる。映画の公開時期とちょうど被ってるからね。俺が相手だったらそう害もないだろうっていう感じで、彼女の事務所あたりが週刊誌の馴染みの記者に記事を依頼したっていう可能性すらあるくらいだよ。こっちのアナウンサーの女性はね、確かフリーアナウンサーになったばかりだったかな。まあ、だからどーしたって話だけど、俺も前にお世話になった人だから、「ちょっと相談したいことがある」って言われて、断れなかったんだ。でも俺が話したのなんて、蘭のことくらいだったよ。で、もともと待機させてあった記者にほんの少し倒れかかるか何かしたところを撮らせたんだと思う」

「それ、何か意味があるの?」

「さあ……ようするにさ、フリーアナウンサーとしてバリバリ働く傍ら、いい恋愛もしてます的にアピールしたいってことなのかなんなのか……蘭も知ってるだろうけど、俺には女の人が何考えてるのかなんてさっぱりわかんない。でもこういう記事が出ることで、周囲の人に俺との関係がうまくいってないんじゃないかって疑われるのが蘭にとって苦痛なら……そのことは本当にあやまるよ」

「…………………」

 蘭が黙りこみ、それから少し機嫌を直したように紅茶を飲むのを見て、光もほっとする。

「でもさ、変な話、少しだけ嬉しいよ。蘭が、まさかこんなことで嫉妬するなんて、思ってもみなかったから……むしろ逆に、蘭が俺に対してそういう気持ちを持ってくれてるっていうだけで、俺は蘭とうまくやっていける気がする」

「でも、問題はそれだけじゃないよ、光」

 この際だからと思い、蘭はすべてぶちまけることにした。

「だって、わたしは結婚した時も今もそう大して変わり映えしてないし、相変わらずスケートの現役選手ってだけだけど、光は違うもん。色々広い世界を知って、考えた方とか色々、変わっちゃったんじゃない?わたし、今も自分と結婚してくれた時の光が一番好き。でも今はもう信頼できない。だって、昔は光って、ちょっと何かあっただけで顔の表情にでるから、ある程度のことは大体なんでもわたしにもわかったもん。でも今は違うよ。何考えてるのかよくわかんないし、すっかり滑舌よくぺらぺら論理的にしゃべれるようになっちゃって……だから今光が説明してくれたことも、半分は信じたけど、半分はまだ信用できないような感じ」

「だから、俺たちの間にあることはそもそもが誤解の積み重ねの集積なんだ」

 蘭は光のこの物言いにも油断できないものを感じた。テレビに映ってしゃべるようになってから、光が「人を安心させる会話術」だの、「人の心に届く会話術」だの、そんな本を読む傍ら、「うた唄いが来て唄えと言うが、うた唄いぐらいうた唄えばうた唄うが、 うた唄いぐらい うた唄えぬからうた唄わぬ」、「瓜売りが瓜売りに来て瓜売りのこし、売り売り帰る瓜瓜の声」……といったように早口言葉を毎日の日課として発声しているとも蘭は知っている。けれど、前までの彼ならばこんな言い方は絶対にしなかった。せいぜいのところを言って、「俺たちの間にあることはそもそも誤解なんだよ」というくらいなもので、その際に彼の瞳の中に怯えた子犬のような表情まであったとすれば――蘭もすっかり彼のことを信用して許していたろう。

 だが、今蘭の目の前にいるのは、館神恭一郎と似た種類の、隙のない強い男だった。そしてこうした男がモテないわけがないというのが、蘭の直感していることなのである。

「どう言ったらいいか……」

 光はスーツの上着を脱ぐと、椅子の背のところにかけ、テーブルの上に両手を組み合わせていた。蘭はいつも、スーツ姿の光を見るたびに、どこかの一流企業の重役か何かのように感じてしまう。そして以前はそんな男が自分の夫なのだと思うと誇らしかったが、今は少しばかり複雑な気持ちだった。

「ようするに、俺は蘭が奥さんで助かってるんだよ。信じられなかったら周りの人に聞いてくれてもいいけど、飲み会の席で俺が話すのは大抵が蘭のことだし……そういう人たちには、最近すれ違ってばかりで夫婦の時間が取れてないとか、俺もそういうことは一切話さないから。前にも、ニュースキャスターの駿河さんに言われたよ。俺が結婚指輪外して、「そのうち妻とは別れるつもりだ」とか合コンの席で言えば、実際別れるつもりはなくても誰とでも寝れるはずだって。で、なんでそんな話されるかっていうと、俺が大概蘭のことばっかりしゃべることが多いせいなんだ。「氷室くん、奥さんのこと以外しゃべることないの?」とも、よく言われる。そのせいで大抵の女性スタッフはどん引きしてるから、蘭はそんな、神経質に心配することなんか本当は何もないんだって」

「…………………」

 蘭は溜息を着くと、売店で目についてつい買ってしまった雑誌を二冊とも、ゴミ箱に捨てた。光はゴミの分別には敏感だったが、この時は流石に「廊下のところに雑誌置き場があるだろ」とは言わなかった。

「これで、一旦仲直りっていうことでいい?」

「……うん」

 蘭は完全に納得したというわけではなかったが、それでも一応、納得した振りをして頷き、アールグレイティーの続きを飲んだ。

「実際、全日本が近いから、少しピリピリしてるっていうのもあるし……」

「蘭なら心配いらないよ。っていうか、俺が主に心配してるのは蘭の成績のことじゃなくて、体のことだけど。俺、もう少し時間出来たら整体とかマッサージとか、そういう勉強しようかなって思ってる。今もトレーナーの橘さんに教えてもらったことくらいなら実践できるけど、もう少し専門的に勉強してさ、蘭が疲れて帰ってきたら施術したいと思ってて」

(実験台になってくれるだろ?)と、眼差しで問われた気がして、蘭はなんとなく曖昧に頷く。

「でも、そんな時間、絶対ないでしょ。べつに家に帰ってきたら光にマッサージしてもらいたいっていうことじゃなくて……わたし、光の仕事のことについては口出しする気ないから、光は光で好きにしたらいいと思う。わたしもわたしで、自分の好きな道を行ってるわけだし」

「そういうわけにいかないよ。夫婦がそれぞれ勝手なことばかりしてたら、家庭は成り立っていかないからね。俺は確かに蘭が現役の間は自分のほうが支える側にまわるって約束したんだから、一度約束したことは必ず守るよ。どっちみち、オリンピックシーズンを迎えるまでには少しずつ仕事を減らすっていうことに決めてたんだから」

「そんなこと、光にさせられないよ。確かにわたしも、自分が現役終えるまではって言ったけど、わたしが引退して今度からはわたしのほうが光を支えるってなった時、光のほうに仕事がなくなってて恨まれたりされたくないし……」

 光は、蘭の機嫌取りのために買ってきた無添加低カロリードーナツがあるのを思いだし、鞄の中から取りだすと、皿の上に置いて差しだした。途端に蘭は、光の意図がわかって、今度は彼に対する申し訳なさで胸が締めつけられる。

(わざわざ、遠回りしてまで買ってきてくれたんだよね……わたしが臍曲げてるってわかってたから。光だって、明日もまた仕事があるのに……)

 蘭は試合の近い時には基本的にこんな深夜にドーナツを食べたりはしない。けれど、この日は例外だった。

「ごめんね、光。なんか無駄に疲れるようなことさせちゃって……」

「蘭の機嫌が直ったんなら、無駄ってこともないよ。それに俺が仕事にのめりこむようになったのって、間違いなく蘭に対してコンプレックスがあるせいだと思うから」

 光もまた、蘭と同じくきなこドーナツをひとつ取って食べる。こうなると緑茶が飲みたくなってきて、光はふたり分の茶を再び沸かした。

「どういうこと?」

「ほら、いくらアイスショーでチケットが即完なんて言っても、現役時代の試合に比べたら興奮度が低いってこと。俺は自分のスケートの芸術をさらに高めるためにアイスショーの仕事を継続してるけど、やっぱり同じものを試合で決めた時のほうが、半端なくアドレナリンが出る感じになるだろ?現役を一度引退したら、蘭とか剛とか圭とか……まだ現役で活躍してる選手のことが、物凄く眩しく感じるんだよ。もちろん、引退を決めたのは俺自身の意志だし、後悔もしてないけど、蘭がまだまだ第一線で活躍してるの見ると、それに見合うだけの何かが俺も自分にないといけない気がしてさ」

「そんなの……わたしだって一緒だよ。光が色々なところで活躍してるの見てたら、なんだか急に不安になって。どんどんわたしの知らない人になっていっちゃって、わたしの知らない人とのつきあいのほうが増えてて、今は光がたまに、なんだかとても遠い人に思えることもあるくらい」

 蘭がようやく本音を洩らしたことで、光としてもほっとした。先ほど蘭は光が以前と比べて饒舌にしゃべれようになったと感じていたわけだが、これはあくまで蘭が相手だからとの自覚が光にはある。それに、今も昔も光にとって大切なのはフィギュアスケートを通して出来た友人や知人のほうであるのはまず百パーセント間違いがない。テレビや映画などを通して出来た友人や知人というのは、中には本当に大切だったり尊敬している人がいる反面、かなりのところ関係性が危うい人々のほうが大多数である。簡単にいえば、自分に上昇気流のオーラが感じられなくなった途端、パッと散っていく人々がほとんどで、そうした人間関係の維持に無駄な労力を費やしている自分は一体なんなのだろうと、光は時に考えることがあるということだ。

(そうか。俺もこういうこと、蘭に話しておいたら良かったのかな。間違いなく、蘭のことを不安にさせたのは俺の責任だ。第一、蘭は大事な試合の前だっていうのに……)

「ごめんな、蘭。俺も自分のことだけで一杯いっぱいで……蘭だってスケートのことで一杯いっぱいなのに、俺、なんのフォローもしてなかったと思うし……」

「そんなの、お互いさまだよ。わたしも悪いとこ、いっぱいあったと思うし……」

 ここで、光と蘭はふと目が合うと、初めてお互いに笑いあった。光はごそごそと箱の中から抹茶クリームドーナツを取りだすと、蘭の皿の上に置く。そしてそうしておいてから、蘭専用の湯飲み茶碗に緑茶を淹れてやった。

「あ、この抹茶クリーム、めっちゃ美味しい!しつこくなくて、ほどよく甘くて、ちょっと苦みがあるのもなんかいい感じ」

「だっろー?ずっとさ、このドーナツを買って帰ろう買って帰ろうと思って、なかなか時間が合わなくて。普通の油で揚げたドーナツとは違うから、カロリーのほうも低いはずだよ。ど甘なドーナツのほうが好きな人にはちょっと物足りないだろうけど……」

「ううん!わたしこっちのほうがめっちゃ好き。でも甘さ控えめな分、いっぱい食べたくなっちゃうね。それで量をいつもの二倍食べたらいつもと同じことかあ」

「全日本が終わったら、美味しいもの食べにいこう。俺、前よりも美味しいお店関係、結構詳しくなったから。それで、いつも思ってたんだ。これを蘭に食わせてやりたいなとか、あれを蘭に食べさせたいとか、いつも思うのはそういうことだけど……」

 光は蘭が元の自分の好きな蘭にすっかり戻っているのを見てほっとした。先ほど蘭は自分のことを『知らない遠くの人』みたいに思えると言っていたが、それは光にしても同じだった。自分に対して腹を立てていたり、怒ったりしている時の蘭は赤の他人よりも遠く感じられる。

(そっか。蘭がいつも通りじゃなく、あんなふうになるっていうことは……やっぱりこれは俺が悪いんだな。俺はいつも蘭にはリラックスして笑っていて欲しいのに……そう思って結婚したのに、今のまんまじゃまた同じことが繰り返されるだけだって、いいかげん自覚して具体的に何か手を打たないと……)

 この時、<離婚>の二文字がふと脳裏をよぎって、光はぞっとした。実際、蘭が実家に等しい館神邸に帰って戻って来なかったのは、これが初めてのことである。おそらく、全日本が終わるまではそうしたほうが集中できるとの思いが蘭にはあったに違いない。けれど、事前に何も自分に相談しなかったというあたり、危険信号の黄色い回転灯が回っていると考えたほうがいいのだろう。

 そして今、その回転灯は一時赤に変わりつつ、再び黄色に戻ったのち、今は安全な青色を示している。光はそのことにほっとするのと同時、この時、あらためてあることに気づいていたかもしれない。つまり、蘭はフィギュアスケートのことが絡んだ途端、子供っぽく我が儘になるということだ。もちろん、たったのそれだけのことなら、光にしても前からわかっていたことではある。そうではなくて――館神コーチはようするに、そうした蘭のことをあやすのがうまいということなのだろうと気づいたのである。

(ようするに俺も、同じようにしたらいいんだ。子供っぽく我が儘になってる蘭に、彼女が望んでることをなんでも先回りして与えてやったらいいんだよな)

 このことを、光はそんなにおかしなことだと思っていない。自分の現役時代を振り返ってみても、そうしたところは多分にあった。つまり、自分が試合で最高のパフォーマンスをするために、周囲の人々はなんでもすべきだというのか、これをそう高圧的に求めたりしなかったというより――周囲の人々がそれと察して先回りし、色々良くしてくれた結果として、光はオリンピックで金メダルを取れたのだといえる。

 そして、今自分が蘭に何が出来るだろうかと考えた場合、やはり一番大切なのは食事だという気がした。家政婦の女性に食事や掃除のことを任せ、またその費用は光が負担していたとはいえ、やはりなかなか顔を合わせて一緒に食事をすることがないというのはまずいとあらためて感じる。

 この日の夜、光は蘭と久しぶりに寝たのだが、彼女は光に対して浮気を疑ったりして悪いと思ったのかどうか、少しサービス過剰だったかもしれない。けれど、こうしたことがあった翌日というのはどんなにスケジュールが過密でも、光はいつも以上に元気に仕事に取り組め、それこそパフォーマンスを上げることが出来ていた。

 ザグレブオリンピックが終わって二年目の全日本選手権で、蘭はフリーで四回転サルコウを失敗し、第三位という順位だった。フリーの中でジャンプを三つも失敗してしまうと、翌週には一部週刊誌で、氷室光との結婚生活がうまくいっていないことが演技に影響しているのではないかと取り沙汰されたが、蘭はもう何も気にしなかった。

 年末年始は、こんな時でもないと夫婦水入らずで過ごせないということで、大晦日に恭一郎のところに顔を出したという以外では、光と蘭はふたりでべったりして過ごした。そして光はこの時、蘭が終始上機嫌で、恋人同士だった時、自分が好きだったままの蘭なのを見て、この関係をずっと維持し続けるにはどうしたらいいのかと考えた。

 思えば、蘭がスケート競技を休養してくれた一年の間、光は本当に幸せだった。朝起きるとすでにごはんが作ってあって、栄養のバランスの考えてある美味しい食事をしたあとは、一緒に早口言葉の練習をしては笑いあったり……光は仕事中もずっと、ふとした瞬間に蘭のことを考え続け(このことは今もそうだったが)、毎日家に戻るのが楽しみだった。けれど、最初の約束通り蘭がスケートの練習に戻ってみると、色々なことのバランスが一気に崩れはじめ、光と蘭の関係も悪化した。

 光自身、蘭にもしフィギュアスケートということがなかったら、彼女がいかにいい妻になれるかということは今もよくわかっていることであり、そんな蘭のことを彼女が競技生活を終えるまで自分が支えるという条件で結婚した以上――思いきった外科手術でもするような覚悟で仕事を減らすしかないと、はっきり決意した。

 その前も、マネージャーにその意向については伝えていたものの、彼はむしろ別の仕事を取ってくるという始末だったため、光があまり本気で仕事を減らしたいとは思っておらず、周囲の人間がいかに<氷室光>を必要としているかを示しさえすれば、彼はますます熱心に仕事に励むだろう……とでも思っているかのようだった。そこで光は蘭と再びハネムーンがやってきたような関係を維持するためには、そうすることがどうしても必要なのだということを、某スポーツエージェント会社に紹介してもらったマネージャーに説明したのである。

 まず、某ニュース番組内のスポーツコーナーは、四月からの番組再編に合わせてその前月の世界選手権で競技を引退していた剛に譲るということにした。もちろん、譲るなどと言っても当然光の一存でどうにか出来ることではないため、「推薦した」と言ったほうが正しいのだろうが、剛はこのポジションを足がかりに、その後テレビ業界に進出していくつもレギュラーを獲得していくということになる。

 この剛のマルチタレントぶりには光も驚かされたが、その後何年にも渡って剛から「俺が今妻子に何不自由なくメシを食わせてやれるのは、全部光のお陰だよ」と感謝されることになるのだった。もっとも光は、結局のところ剛は自分の紹介などなくても、同じようにテレビ業界で活躍していたに違いないと思うのだが――剛と美香の子供たちがテレビを見ながら「あ!父しゃんだ!」と言っているのを見るにつけ、スポーツコーナーの担当を親友に譲ってよかったとつくづく感じたものである。

 そして光は、一年かけて仕事を減らしていった結果、蘭がザグレブオリンピックから四年後のアイスランドオリンピックを目指すという年……ほとんど専業主夫にも近い状態になっていたかもしれない。もちろん、仕事のほうをまったくしていないということではなく、例えて言うなら、夫の扶養控除内で妻がパートで働くのにも似た、そうした家庭に影響の出ない範囲で仕事のほうは受けるということにしていたのである。



 >>続く。






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