六花の舞。

 現在、「六花の舞Ⅱ」を連載中です。フィギュアスケートでジャンプが得意な主人公が、オリンピックを目指す姿を描きます。

ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【21】-

2016年10月17日 | 六花の舞Ⅱ.
【ブラックスワン】ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク


 さて、今回もまた20000文字という文字制限に引っかかってしまったため、中途半端なところで終わって次回に>>続く。となっています(^^;)

 そんでもって、ここの前文に費やせるのが残り約4000文字ということで、どうしようかなと思ったり。。。

 いえ、↓の言い訳事項であれば、たくさんあるんですけど、そんなこといちいち書いても読まれる方もつまらなかろう……ということで、今回は羽生選手とミーシャ・ジー選手のことでもと思います!(笑)

 あの~、実をいうとわたし、諸事情あってオータムクラシックのほうは見られなかったのです

 なので、はにゅう選手の演技のほうもまだ確認が出来ておらず……それでも色々書きたいことはあるものの、それはまた機会のあった時にでもということで、今回は羽生選手とミーシャ・ジー選手のことでもと思いました♪(^^)


羽生結弦選手「優勝」を2位のミーシャ選手がよろこんだ理由とは?




 ①超可愛いユヅルが自分の隣に立っているから。

 ②ずっとユヅルの頭に霊感アンテナを立てたいと思っていたから。

(ミーシャ・ジーさんのインスタよりm(_ _)m)

 ③きのうふたりでとても熱い夜を過ごしたから。

 ④ふたりはスケーターとして互いに尊敬しあっていて、もともととても仲がいいから。

 ……いえ、わたし画像がたくさん上がっているのをいくつか見ただけで、動画のほうを見てないんですよね(^^;)

 でも、画像見てるだけでなんか色々萌えてしまい、ますますミーシャ・ジー選手のことが大好きになりました(もちろんもともと好きだけどね!笑)

 ちなみに③はですね、図書館で某フィギュア雑誌見てたら、古い号にミーシャ・ゲーって表記されてたので、それでです(笑)

 まだふたりとも、動画で演技のほうを見れてないので、そのあたりのことはまた別の機会に回すとしても……羽生選手の白い衣装は驚きでした

 この小説のすごくあとのほうで(オリンピックあたりだったと思う^^;)、「白の衣装はリンクが白だから、演技する時にぼやける」的なことをおにゃのこたちがしゃべるシーンがあるんですけど……それって、羽生選手がそう話してたところから取ったんですよね。確か、黒だと足許の演技もハッキリわかるから、それで黒にはすごく拘りがある、みたいなことだったと思うんですけど、それなのに白!衝撃の白!!ショッキングホワイト!!!

 オーサーコーチの「Oh,White!!」に思わず受けてしまったのですが(笑)、自分的に「Pretty White……いや、違う。そういう部分もあるけれども……Cutie White??いやいや、違う……そういう部分もあるけれども……Oh,Cool White!!ということに、ようやく落ち着きました(笑)

 そして、それと同時に何故か、羽生選手が真央ちゃんと一緒に洗剤のCMに出ているところが思い浮かんでしまい。。。


   ~ボー○ド。浅田先輩は天然編☆~

 はにゅうくん:「どうしよう、真央ちゃん。僕のスケートの衣装に、エアロの足跡がついちゃったよ


犯人。


 まおちゃん:「あっ、たいへん!!でも大丈夫!このボー○ドがあれば、どんな犬の足跡もなかったように真っ白になるの!!だから安心して、ゆづくん!」

 しょーまくん:「ゆづくん。クリーニング代払ったほうがいいよ。浅田先輩が洗濯すると……

 まおちゃん:「しょーまは黙ってて!大体昔はまおのこと、まおちゃんって呼んでたじゃん!それなのに浅田先輩とかどうしたの!?」

 しょーまくん:「…………………

(そして、洗濯後。。。☆(洗濯が終わるまでの間、次のクイズに答えてね!この三人の中でP&Gのまわし者は誰でしょう?【答え】YUZURU

 まおちゃん:「さあ、これでもう大丈夫!完全に漂白されて、真っ白だよ、ゆづくん!!

 はにゅうくん:「でもこれ……元の僕の衣装と著しく違ってるんだけど……」


(アメリカンコスチューム様より)


 まおちゃん:「やっだあ。もしかして、肌色の素材のところにもっと胸毛増量してフサフサのほうがよかった!?じゃあ、舞にも手伝ってもらって、もっといっぱい縫いつけようっと!まいー。ちょっとこっち来て手伝ってー」

 はにゅうくん:「(絶句☆)

 しょーまくん:「だから最初に言っておいたのに……浅田先輩は天然なんだから

(おしまい☆


 なんとも、どこにも需要のなさそうなCMですが(誰得やねん!)、確かにクレイジーさの増した衣装だとは思います(笑)

 あとわたし、真央ちゃんのフィン杯の模様もまだ見れてないんですよね

 でもショートとフリーの衣装を見ただけで、ときめきドキュン!!でした

 っていうか、わたしが外国の人だったら、ChanMao Sexxxxxxxy!!!!!!!とかって速攻ツイートしてそう♪(^^)

 真央ちゃんや理華ちゃんの演技のほうもまだ見れてないので(汗)、またGP初戦などで何か書きたい……と思っています

 今、諸事情あって……でもたぶん十月下旬頃には間違いなく色々なことが解決してるはずなので……それまでなんとか頑張ります!!(何ヲ??

 それではまた~!!

 ↓自分的にミーシャ・ジー選手にエキシビで滑って欲しいと思ってる曲♪コンブ漁……じゃないや、Con Brioの Free & Brave




       ダイヤモンド・エッジ<第二部>-【21】-

 女子シングルのショートプログラムは、第四グループが終了した時点で、順位のほうは以下のとおりだった。

 第一位=マリア・ラヴロワ(71.56)

 第二位=石原のぞみ(70.92)

 第三位=リュドミラ・ペトロワ(68.47)

 第四位=李葵姫(67.20)

 第五位=ベアトリクス・アディントン(66.78)

 第六位=王花琳(65.99)


 そして、最終グループの六分間練習が第四グループの時でのように、選手同士が接触するといったアクシデントもなく終わると、色とりどりの衣装を着た氷上の華がひとり、またひとりと引き上げていき、最後には第一滑走者である水沢結花だけがその場に残るということになる。

 結花は他の選手たちよりも一分ほど早く練習を切り上げると、自分のコーチであるアナベル・ギルソンの元へいき、最後のアドバイスを受けた。「変に縮こまったりしないで、思いきっていきなさい!!」と力強く励まされる。ファティマ・グラハムがCSC(シカゴスケーティングクラブ)から去ってのち、結花は同クラブにとって女子シングルとしては一番の有望株になっていた。

 結花にしても、自分にはスケート選手としてファティマ・グラハムほどの才能はないとわかっていたとはいえ――それでも、現役だった頃の彼女の能力に追いつけるようにと、必死で練習した。最初は「将来、こんなふうにだけはなりたくない」と、未婚の熱血コーチであるアナベルに対して思った結花だったが、今では彼女のことを人間としても心から尊敬し、信頼していたといっていい。

 何より、結花は何につけ人から<一番>として扱われることに弱い。CSCでは自分が一番の有望株だと思うと、ますますもっと上を狙いたいと思うようになったし、その分トレーニングに励みもした。某ヒップホップグループのラッパー、ジンと悲しい恋の別れを経験した結花ではあったが、今はCSCの男子シングル選手であるコリン・コートニーとつきあっている。

 コリンは見た目もいまいちパッとしないし、選手としての成績もそうズバ抜けていたりもしない。以前までの結花であれば、あまり相手にしようと思わない地味な男性だったわけだが(実際、少しナヨっとしているため、彼はきっとゲイに違いないと結花は思っていた)、とにかく彼は優しいのだ。そんなわけで、結花は自分の我が儘をなんでも聞いてくれ、自分のためになんでもしてくれるコリンとの関係を今はとても大切にしている。

 コリンとの恋愛は、結花に大人の女性としての落ち着きを与えたようで、結花は大会での結果が思わしくなくても、彼のことを思うと不思議とそれほど取り乱さずにすんだ。考え方としてはおそらく間違っているのだろうが、灰島蘭のように「スケートにすべてを懸ける!!」といった青春を送っている選手に対し、「自分にはスケートだけじゃなくコリンもいる」と思えることで、才能では敵わないというコンプレックスを解消でき、また少しばかり優越感も味わえるというわけだった。

「ユカ・ミズサワ!!」と名前をコールされると、彼女はリンクを一周ほどして最後に氷の感触をエッジで確かめ、スターティングポジションへつく。曲のほうは、映画の『ピアノ・レッスン』。昨年コリンが同じ曲で滑っているのを見て、今季は自分が滑ってみたいとアナベルに頼んで実現したプログラムだった。

 コリンと一緒に映画のほうを見ても、内容のほうは「なんか暗~い……」という以外、結花のほうでこれといって思うところはなかったものの、マイケル・ナイマンの曲のほうはすぐ好きになった。結花は繊細なピアノの音の表現として、静かでたおやかにステップを踏み、徐々に激しくなっていく音の高まりに合わせ、どんどん加速していく。最初のジャンプは三回転ルッツ-三回転トゥループである。バッククロスで大きく弧を描いたのち、三回転のコンビネーションジャンプを鮮やかに決める。そして再び何事もなかったかのように静かなピアノの音の波に乗り、バタフライからのフライングキャメルスピン。そして完璧な三回転フリップ。ステップシークエンスでは、真の官能性に目覚めた女性を情熱的に、けれどどこか清潔な印象をもって演じきる。ステップシークエンスが終わると、間を置かずにイーグルからのダブルアクセル。曲の最後の音の連なりに乗せて、足替えのコンビネーションスピン、ビールマン仕上げのレイバックスピンと続けざまに高速で回りきる。そして最後のポーズは、それでもピアノという呪縛から完全には逃れられない主人公の心情を表して――両手を平行より少し上に伸ばし、上半身を九十度近くに倒して結花は演技を終えた。

 ノーミスだった選手に送られる惜しみない拍手を受けながら、結花はジャッジや観客に向かってお辞儀をし、それから花束をいくつか拾ってリンクゲートまで戻ってくる。

「あなたを誇りに思うわ、結花」

「まあ、問題はフリーのほうだけどね」

(ああ、疲れた)という表情を滲ませて、結花は自分のコーチに向かって肩を竦めてみせる。エッジカバーを受け取り、ブレードにはめると、結花はジャパンチームのジャージを着た。ノーミスでこれだけの演技をしても、三位以内に食い込めるかどうかは難しいとよくわかっている。けれど、今回以前まで在籍していたスケートクラブの後輩が同じ日本代表に選ばれたことで――結花はかなり気合を入れて世界選手権に備えてきた。昔あれこれと説教しながら指導したこともある後輩に追い抜かれたのでは、なんとも格好がつかないではないか。

 キス&クライで結花は、いつも通りアイドル張りのスマイルで会場の大画面に映っていたといえる。手でハートマークを作ってフッと息を送ったり、後輩の石原のぞみが「恥かしい」と感じるジェスチャーをしても、すっかりアメリカナイズされている結花にはまるで平気だった。

 技術点=34.33、演技構成点=33.35、合計点=67.68ポイント。


 第一位=マリア・ラヴロワ(71.56)

 第二位=石原のぞみ(70.92)

 第三位=リュドミラ・ペトロワ(68.47)

 第四位=水沢結花(67.68)

 第五位=李葵姫(67.20)

 第六位=ベアトリクス・アディントン(66.78)

 第七位=王花琳(65.99)


 Rank4という順位をモニターで確認すると、結花は失望を隠すことは出来なかった。けれど、ファンサービスとして最後まで終始笑顔のまま手を振り、アナベルとともにキス&クライを去っていく。

 このあと、第二滑走だったエリカ・バーミンガムと第三滑走のロッテ・シャームバッハとの間で、再びの『魔王』対決となったのだが、今回はエリカのほうが若干得点を上回る形となった。エリカがトリプルアクセルの着氷でどうにか堪えたのに対し、ロッテのほうでは三回転のコンビネーションで、セカンドジャンプがダブルトゥループとなった差が表れたものと思われる。

 そして、この時点で順位のほうは、


 第一位=エリカ・バーミンガム(73.24)

 第二位=マリア・ラヴロワ(71.56)

 第三位=石原のぞみ(70.92)

 第四位=ロッテ・シャームバッハ(69.55)

 第五位=リュドミラ・ペトロワ(68.47)

 第六位=水沢結花(67.68)

 第七位=李葵姫(67.20)

 第八位=ベアトリクス・アディントン(66.78)

 第九位=王花琳(65.99)


 といったように入れ替わる。

 上位の三人がこの時点ですでに七十点を越える点数を叩きだしていたことを思うと――戦いの熾烈さが窺われるようだが、三回転のコンビネーションのセカンドを苦しい姿勢からどうにかつけた、ということが、一位のエリカとロッテの間に今回は何故これほどの差となって表れたのかは、ジャッジの顔ぶれの違いとしか言いようがなかったかもしれない。そして、第四滑走の蘭の出番がここでやって来る。

 試合の演技中にも、また練習時にも、蘭は足がつるといった経験は一度もなく、そんなことは前回のグランプリファイナルが初めてだった。そこで一種のおまじないの気持ちもこめて、誰も見ていないところでこっそり塩のつぶをなめ、スポーツドリンクと果汁ジュースも飲んでおいた。大体仙骨の上あたりに副交換神経があるため、蘭は緊張緩和のためにいつもそこと首の後ろをカイロで温めておく。けれど、この方法は如月葵に教えてもらったことでもあり……もしかしたらまったく同じことを金愛榮も行っているかもしれないと、蘭はそう思いもする。

 控え室には今、関係者以外の選手の顔ぶれということで言うと、キャサリン・アーヴィングの姿しかない。金愛榮はおそらく、彼女のコーチと一緒に、廊下の空いたスペースかどこかでウォーミングアップしているのだろう。蘭は不思議と、キャシーのことはそれほど気にならない。仮に演技の失敗が不運にも重なって彼女に順位で上を行かれたとしても――またすぐに追い越してみせると確信できる。けれど、何故なのだろう。金愛榮には如月葵と同じく、自分がやがて追い越すことの出来ない素質としての何かが出てくるのではないかとの、不安を絶えず与えられるのだ。

(しかも、コーチがあのキングオブゴールドの小早川亮……四大陸に出場しない間、あのふたりは一体どんな特訓をしてきたんだろう。そんなことが気になるけれど、今はとにかく目の前の試合のことに集中するしかない)

 蘭が足を百八十度に開脚してストレッチしていると、アランがそんな彼女の肩をぽんと叩く。

「そろそろ時間だよ、蘭」

 耳のイヤホンを外すこともなく、蘭はただこくりと頷く。廊下のほうを歩いていく途中で、視界の隅のほうに一瞬金愛榮と彼女のコーチの姿が掠めて――(あーあ、やなもの見ちゃった)などと、蘭は心の中でひとりごちる。なんだかこれでツキが2%落ちてしまったというような、そんな気持ちになるが、蘭がそんなふうに思ったのもほんの一瞬のことだった。恭一郎と通路の途中で合流し、彼と目と目が合った瞬間に(自分は大丈夫だ)との力強い気持ちが心に生まれる。

 蘭と恭一郎の間に言葉はない。ただ、お互いに目を見合わせ、目だけで頷き、そして一緒に前を向いて歩いていくという、それだけだった。

 前滑走者のロッテ・シャームバッハの演技は見ずに、蘭はただ気持ちを上げるために、Leccaの『Your Turn』を聴いていた。♪君の番が来たら見せつけてやればいい、その時が来たらなんにだってなれるさ……そして実際に自分の番が回ってくると、蘭はそこにいる人々すべてに見せつける――いや、会場すべてを魅了する演技をしてみせたわけである。

「ラン・カイジマ!!」と名前をコールされ、恭一郎に「よし、行ってこい!」と励まされると、蘭はリンクを一周してからスターティングポジションに着いた。思ったりよりも、気持ちは落ち着いている……蘭は最後に深呼吸するように息を吸いこむと、両手を中途半端なところで掲げ、顔を伏せて人形の演技を開始する。最初はぎこちなかった人形――コッペリアの動きが、コッペリウス博士の魔術によりだんだん滑らかになっていく。一部の動きがコミカルなため、会場では笑い声と拍手とが同時に巻き起こる。そしてここから蘭は速度を上げていって、トリプルアクセルへと挑んだ。無事成功させると、ワッと歓声がわく。この時の蘭のトリプルアクセルは、踏み切り、高さ、幅、流れるような着氷と、どこをとっても文句なしに加点をもらえるものだった。

 実際、この瞬間までトリプルアクセルは絶好調とまでは言えなかったため、蘭自身あまりに綺麗に決まったことに驚いたかもしれない。そしてこれでリズムと波に乗り、天井から糸か何かで操られているかのような繋ぎの演技を入れつつ、まずは最初のスピンであるレイバックスピンをビールマンで仕上げる。さらに、三回転ルッツ-三回転トゥループを、まるで当たり前のように軽々と蘭は跳んだ。また、ステップシークエンスもこのプログラムの見どころのひとつだった。ところどころ肩を竦めてみせたり、両方の掌を重ね合わせて右や左の頬に添えてみたりといった、コミカルな表現をしつつも、ぎこちない人形としての上半身の動きとは別に、蘭は息もつかせぬ速さで複雑なエッジワークを氷上に刻みつける。そしてステップシークエンスの最後がバレエジャンプで終わると、そこから加速する間もなく三回転フリップ。ドーナツスピンを華麗に回り、足替えのコンビネーションスピンも素早く姿勢変化しながら高速で回りきる。蘭は(息が苦しい)と思いながらも、ゼンマイが切れたあとのような人形の演技でどうにか最後を締め括る。

 その日一番の喝采が観客席からわき、蘭は百八十度に開脚した足をゆっくりとようやくのことで起こした。立ち上がり、四方に向かって何度も丁寧にお辞儀する。実際は立っているのもやっとというくらい体力を消耗していたものの、とんとん腰を叩きながらリンクゲートまで戻っていく。コッペリウス博士とコッペリアの人形などを拾い集めたかったが、軽く腰に痛みがあったため、屈んで拾うことまではあえてしなかった。

「最高だったよ、蘭……!!」

「あー、うん。そうだね」

 アランからエッジカバーを受け取ると、蘭はどこかぼんやりそう言った。次にジャパンチームのユニフォームを恭一郎から受け取り、蘭はキス&クライへと向かう。

「蘭、腰をどうかしたか?」

「まあ、たぶんマッサージ受ければ治る程度だと思うけど、三回転フリップで着氷した時にちょっとグキッと感があって。でもこの程度なら大したことないよ」

「それはおまえじゃなく、医者やトレーナーが決めることだぞ」

 途端、演技が完璧だったことの嬉しさも引っ込み、恭一郎は厳しい顔つきになる。

「蘭、インタビューが終わったら、すぐ橘さんに見てもらうんだよ」

 そして、アランがそう言っていた時に得点が出た。


 技術点=42.11、演技構成点=38.14、合計点=80.25


 観客席のほうでも興奮したような熱気とともに、口笛の混じった歓声が再び湧き起こっている。また、日本の放送席のほうでは、「このあとというのは、滑りずらそうですねえ」、「ええ。選手もベテランになってくると、だんだん慣れてきて自分の演技に集中できるものですが……金愛榮選手はまだ、今シーズンからようやく台頭してきたようなところがありますから、精神的に乱されてしまうかもしれません」といったやりとりが交わされていたようである。

 ここで、順位のほうは、トップ5が


 第一位=灰島蘭(80.25)

 第二位=エリカ・バーミンガム(73.24)

 第三位=マリア・ラヴロワ(71.56)

 第四位=石原のぞみ(70.92)

 第五位=ロッテ・シャームバッハ(69.55)


 といった形になる。そして、次の金愛榮とキャサリン・アーヴィングがこのどこかに入ってくるという公算が高いといっていいだろう。

 愛榮はリョウの指示通り、蘭の演技のことは見ていなかった。けれど、イヤホンを外した途端に熱狂したような歓声が耳に入ってきて、彼女はおそらく百パーセントに近いくらいのパフォーマンスで演技したのではないかと思った。

 フラワーガールたちが花束やぬいぐるみなどの収拾に手間取っている間、愛榮は空いたスペースで振りの確認をしたり、ジャンプを跳ぶ練習をしたりした。リンクに出る前、彼女の敬愛するコーチは「どうせ片付けるのに時間がかかるから、ゆっくりウォーミングアップしろ。心配しなくても、落ち着いて望めば十分勝てる相手だ」と愛榮に対し余裕顔で言った。

 愛榮はこの時何故か、悪い意味で言うのではなく、突然闘争本能がしぼむものを感じていたかもしれない。確かに<灰島蘭>というライバルがいることで、トレーニングに励むモチベーションをキープできたことに、愛榮は感謝している。もし彼女がいなければ、自分もいくら崇敬するコーチに指導してもらっているとはいえ、とても最後まで彼についていこうという気にはなれなかっただろう。

 とはいえ、リョウが愛榮に世界選手権がはじまるまでの間、指導したことというのは、とても地味なことだった。まずはジャンプで確実にプラス1点の加点をもらうための、タノジャンプをつけること、それと各種エレメンツのさらなる磨き上げ、さらには、音楽解釈の面で――演技と音とがひとつひとつきちんと嵌まるようにしていったのである。

 こうして、愛榮の<死と乙女>は振付はそのままであったにしても、新しく生まれ変わった。と同時に愛榮は、自分自身もまた生まれ変わったつもりで演技しようと思っていた。そしてこうも思う……誕生と死と再生。人は生まれ、そして死んでゆく。この<死と乙女>の中の若い娘も、まだ若い身空で病気か何かによって死神に魅入られてしまったのだろう。だが、その先にはきっと魂の再生ということがあるのではないだろうかと、愛榮は最近このプログラムを滑るにつけ、考えるようになっていたかもしれない。

 灰島蘭の点数が出るのに、さして時間はかからなかった。けれど、リンクがまだ完全に片付いていないため、コーチの言っていたとおり、愛榮は少しばかり長くジャンプの感覚を確かめたり、振付の確認をする時間があった。そして愛榮は(よし、これで大丈夫!)と自信を持ってリョウの元まで戻ったのだった。

「よし、いつも通りいけば必ず勝てるから、何も心配するな」

 おそらく、他の人間が小早川亮がそう言って愛弟子のことを送りだしたと知ったら、彼のコーチとしての資質を疑ったことだろう。選手にあまりに勝ちを意識させるということは、むしろ演技以外のことに力が向かってしまいマイナスである。だがもちろん、愛榮にはわかっていた。彼は自分のコーチとしての名誉のためとか、自分が現役時代に金メダルしか取らなかったからとか、そんなくだらない理由のために<勝てる>などと言っているわけではない。その喜びを自分に味わわせてやりたいから、そのような理由によって勝ち負けに拘っているのだと。

 トレーニング中はあれほど灰島蘭のことを意識してきたにも関わらず、愛榮はこの瞬間、自分は何かを超えた気がしていた。自分が仮にノーミスで演技を終えても、彼女の時ほどには観客は熱狂したりしないだろう。けれど、それでいい。愛榮は言葉ではうまく説明できないけれども、自分がたった今何かを掴もうとしていると感じる<感覚>のほうを信じることにした。

「あ、愛榮。ちょっと待て。ピン留めを直してやる」

 本当は直すこともなかったのだが、これもまた葵の入れ知恵である。特に髪などに乱れがなくても、ちょっと直してやるような振りをし、「よし、完璧だ」と言って送りだせと言われていたのである。

「よし、これで百パーセント完璧だ。自信を持って行ってこい!!」

「はい、行ってきます!!」

(ああ、わたしは本当に果報者だわ……)

 名前をコールされてスターティングポジションにつくと、愛榮は両手を合わせて捻り、眠るように頬を寄せながら――自分の心が敬愛するコーチとひとつになっていると感じた。

(そうよね。わたしが試合で滑っている時、自分も一緒に目で追いながら隣で滑っているって、先生はそうおっしゃっていたもの)

 曲がかかると、愛榮は閉じていた目をパッと覚ました。擬人化された<死>――あるいは死神に追われるように、不安な顔つきで演技を開始する。そして心臓の病気に苦しむ人のように胸元に手を引き寄せ、祈るような繋ぎの演技を入れながら徐々に加速していく。やがてすぐトップスピードに乗ると、愛榮は慎重に間合いをはかってからトリプルアクセルを跳んだ。愛榮が無事着氷すると、会場からは拍手が起きるが、愛榮自身はそのまま何事も起きなかったかの如く、演技を続けていく。

 こうして、死のしつこいまでの<誘惑>をようやくのことで振り切って乙女は、ドーナツスピンを優雅に舞い、次にビールマン仕上げのレイバックスピンを高速で回る。けれど、死神のほうではますます乙女に惚れ込んだとでもいうように追い迫り、ステップシークエンスではあわやのところでその擬人化された<死>に捕まりそうになる。そして最初の<死>のコラールが戻ってきたところでトリプルフリップ、さらに三回転ルッツ-三回転トゥループという大技を、後半になって愛榮は決める。最後の足替えのコンビネーションスピンも難しい姿勢変化を取り入れており、愛榮は今シーズンどのスピンもレベル4を落としてはいない。そして愛榮は抵抗も虚しく、<死>に連れ去られてしまう乙女の姿のポーズを取って――演技の終わりとした。

 ノーミスだった選手に対する、惜しみない祝福の拍手が降り注ぐものの、やはり選手としての<人気>では愛榮よりも灰島蘭のほうが遥かに上回っているようで、愛榮にしてもその温度差を感じないわけにいかなかった。ジャッジや観客席に向かって礼をし、次に笑顔で愛榮が手を振っていた時――グランプリファイナルの時出会った、プレゼントの袋をくれたおばさんが、また何か自分に対して袋を投げ入れ、ベージュのコートの背中を見せながら階段を上がっていくのが見える。

 愛榮はあの名前も知らないおばさんのことが気になり、その袋だけ拾って、自分のコーチの元へ戻ることにした。少し不思議そうに首を傾げながら……。

「よしよし、後半のコンビネーションジャンプのセカンドで、ちゃんと片手を上げられたな」

「はい。セカンドジャンプでなら、そんなに難しくもないので……」

「いや、十分だ。エレメンツのひとつひとつがグランプリファイナルの時以上に、音にきちんと嵌まってるからな。ジャッジどもは以前よりも絶対に高い点数を出さないわけにいかないさ」

「そうでしょうか。わたしとしては、これで前より2~3点でも上がるかしら、なんて……」

「ふふん。まあ、見ていろ」

 こうして話す間も、愛榮はリョウから受け取ったエッジカバーをブレードに嵌め、ASCとロゴの入ったジャージを羽織る。そしてそんな彼女の肩を抱きながら、リョウはキス&クライへ向かった。灰島蘭の時とは違い、点数が出るのに少し時間がかかり――(愛榮のあの演技で、一体何が判断の問題になる?)と、リョウは少しばかり訝った。というのも、点数が出るのに時間がかかる場合は、テクニカルパネルがジャンプを見直している場合が多いと聞いていたからである。

 やがて、観客席がざわつきはじめた頃にモニターに得点が表示される。

 技術点=43.11、演技構成点=36.12、合計得点=79.23

 大会ごとにジャッジの顔ぶれは変わるため、安易にグランプリファイナルと今回の世界選手権の得点を比べることは出来ないとはいえ――それでも、グランプリファイナルの時よりもおそらくはGOEでプラスされたであろうこと、また演技構成点も点数の上がっているのが愛榮は嬉しかった。必死に努力してきたことが報われたと、震える思いでそう感じる。

 ただし、それでもRank2との表示を見ると、愛榮は肩を落とした。けれど、隣のコーチを見上げてみると、彼が満面笑顔だったため――それで少し安心する。

「心配するな。今回のショートは次のフリープログラムの前座くらいに思っておけ。灰島蘭は崩れる公算が高いから、愛榮はいつも通りの演技をしさえすれば、必ず勝てる」

(あ……そういえば、グランプリファイナルの時も、コーチがそうおっしゃったら、本当にその通りになったんだっけ)

 とはいえ、相手がミスしてくれたら勝てるというのは、本当の勝利でない気がして――愛榮としても少しばかり複雑ではある。

「さあ、今日はインタビューや取材もそこそこに、早く帰って休むぞ」

「は、はい……!!」

 一位でなくて二位だったのに、いつもと同じくどこか自信満々にリョウが笑っていることが、愛榮には心強かったし、嬉しかった。

 だから、あとのことは何も心配せず、ただ自分は彼の指示に従っていればいいのだ――と愛榮はこの時、あらためて思っていたかもしれない。

 だが、キャシーの演技が終わると同時に、実は愛榮は第三位に順位が落ちてしまう。というのも、キャシーのショートプログラムは今シーズン、『ツィゴイネルワイゼン』だったのだが、彼女は急遽この世界フィギュア選手権に合わせて、曲を変えていたからである。

 キャシーの新しいショートプログラムは『ブラックスワン』だった。蘭の『白鳥の湖』の曲の抜粋箇所が白鳥のパートによってのみ構成されているとまでは知らない観客にとっては――これはアメリカの女王の東洋の女王に対する挑戦状だといったようにまでは感じられなかったろう。だが、実際キャシーは全米選手権が終わると同時に、来季のショートとして予定していた黒鳥を如月葵とともに創り上げ、難なく滑りこなせるまでにプログラムの完成度を高めていたのである。蘭自身がそのことに衝撃を受けるのは大会を終えてのち、ということになるが(恭一郎に「キャシーの演技を見るのは大会が終わってからにしろ」と言われていた)、キャシーの黒鳥はバレエにおけるオディールの解釈も含め、とても素晴らしいものだった。

 曲のほうは、蘭のフリーの『白鳥の湖』と同じく、第二幕の王子とオデットが出会うところからはじまるのだが、キャシーと葵の解釈としてはこうだった。実はこの時、ジークフリート王子とオデットがふたりで戯れているのを、オディールもまた湖の木陰からじっと見つめているのだ。そしてジークフリート王子のことを一目見て気に入ったオディールは、悪魔ロットバルトにそのことを告げ口するのと同時、自分にいい考えがあると、悪魔の父に入れ知恵する。こうしてふたりは、王城の舞踏会へと出かけていき、まんまとジークフリート王子を罠にかけることに成功するのである。

 キャシーが葵と話しあった、こうしたバレエの解釈上の問題は、氷上の演技としてはそう深く結びついている……とは言えないかもしれない。けれど、キャシーがいつもと同じく三回転ルッツ-三回転ループという大技を難なく決め、フライングキャメルスピンからステップシークエンスへ移った時――キャシーはそこにオディールの苦しい恋心を複雑なステップとターンの間に織り込んだ。そもそも、ジークフリート王子はいくら似ているとはいえ、オディールとオデットを何故間違えたのだろうか?それはおそらく、オディールにジークフリート王子のことを我が物にしたいという欲望があったせいではないだろうか(彼女自身がそれを<恋>と自覚していたかどうかは別として)。

 恋する乙女の熱っぽい眼差しで見つめられ、悪い気持ちのする男はいないだろう。つまり、オディールは父親の命令によってではなく、彼女自身の恋と欲望によって王子のことをあんなにも熱心に誘惑したのだ(でなければ、グラン・フェッテ・アン・トゥールナンという三十二回転もの大技の説明がつかないと、キャシーも葵も考えた)。

 そこまでのことをしてまでも、この男を自分のものにしたい――その気持ちは、キャシーにとっても痛いほどよくわかることだった。如月葵という、双子の兄の妻に今も恋している圭。そしてキャシーはオディールとして彼のことをじっと影から見つめ続けるしかないのだ。そのような情念のこもったステップシークエンスを氷上に刻みつけたあと、キャシーはウォーレイからダブルアクセルを決めた。続いて、スパイラル・ロッカー・カウンター・スリーターンとステップを入れ、三回転フリップ。曲はすでに佳境に差し掛かっており、オデットは永遠に白鳥として父のものに、ジークフリート王子が自分のものになるのも目前だ。どこか鳥の姿を思わせる独創的な姿勢変化によってコンビネーションスピンを回りきると、キャシーは最後に高速でレイバックスピンを決めてみせ、自身のブラックスワンの完成形とした。

 ワッと喝采が湧き、キャシー自身もまた演技の中へ深く入りこみ、曲と一体になれた喜びに全身を貫かれる。開催地が地元アメリカということで、観客席の三分の一以上がアメリカ国旗を掲げつつのスタンディングオべーションで沸きに沸いた。

 キャシーはアメリカの女王として満面の笑顔でみなの声援に応え、バレエのしつこいカーテンコールの時のように何度も何度も観客席に向かって礼をした。いつもであればキャシーは、どんなに完璧な演技をしたあとでも、ここまでサービス精神を発揮したことはない。それだけの達成感があったのはもちろんのこと、最初にリンクへ出た時から他の開催国ではありえない、自分を支えようとする人々の目に見えない力をはっきり感じていたというそのせいである。

「ああ、キャシー……あなたったら!本当によくやったわ!!」

 コーチのローレンとしても、キャシーがさらなる高みに上ったということがとても嬉しかった。練習嫌いなキャシーが普段、ここまでの意欲をもってトレーニングに励んだということは、これまで一度もなかったからである。

「そりゃあね。自分が絶大な信頼を置いているコーチの反対意見を押し切ってまで、世界フィギュアに黒鳥を間に合わせたんですもの。いつも以上に気合いが入って当然よ」

「さあ、これでコーチのわたしのことをやりこめられて、十分満足でしょ!でも今はわたしも心から嬉しいし、誇らしい気持ちでいっぱいよ」

 ブラックスワンの振付が完成した時、キャシーはどうしても次のワールドではこれを滑ると言って聞かなかった。そして結局のところそれで正解だったのだと、ローレンはそう思う。キャシーはフィギュア競技に対してだけでなく、他のどのようなことに対してもあまり深く執着するということがない(唯一、圭のことだけは別として)。そのキャシーが「どうしても」と言う以上、悪い結果に終わったにせよ、むしろそれがオリンピックへのモチベーションに繋がるかもしれないと、ローレンとしてはそう判断したのである。

 そして今、ローレンとキャシーとがキス&クライで息を詰めるようにして得点が出るのを待っていると――ふたりは思わず同時に溜息を着いていた。あれほど灰島蘭の演技に熱狂したはずの観客席からでさえ、ブーイングが巻き起こる。


 技術点=41.51、演技構成点=37.98、合計得点=79.49


 キャシーの得点は、灰島蘭よりも0.76ポイント下、金愛榮よりも0.26ポイント上だった。

 この高得点はおそらく、キャシーがこの世界フィギュア選手権のためにここまでのことをしたことに対するジャッジの評価の表れであったかもしれない。しかも最終滑走というプレッシャーのかかる場で、完璧ともいえる演技を見せつけたのである。

 ――こうして、灰島蘭のショートのトップによる折り返しというのは大方の予想通りであったとはいえ、明日のフリープログラムの行方はますますわからないということになった。というのも、灰島蘭の『白鳥の湖』はあまりにも難度の高いエレメンツが織り込まれており、パーフェクトに滑りこなすためには、その時の彼女の調子と運に懸かっているように、観客席の人々には思われていたからである。その点、金愛榮にはやはりショート・フリーともに演技に安定感がある。また、キャシーもその点では試合で勝負強く、これまでの国際試合であまり大きなミスをしたことがない。

 こう考えていくと、ひとつのミスが命取りになるという、女子のフリープログラムはそのような熾烈な戦いになるであろうことが予想された。

 また、以下の会話のやりとりは、日本の某テレビ局の放送席のものである。

『これは明後日のフリープログラムではどうなるか、わからなくなってきましたねえ』

 と、明智司郎。

『そうですね。一般的な見方としては、灰島蘭選手と金愛榮選手のどちらが世界女王になるのか――といったように誰もが思っていたと思いますが、それでも二日後のフリープログラムで仮に全員がノーミスの演技をした場合は、やはり灰島選手が金メダルを取ることになるでしょう。ですが、女子にして初めての四回転を含めた大変難度の高いプログラムですから、やはりひとつかふたつくらいはミスが出てしまうかもしれません。それでも大きく崩れさえしなければ……金愛榮選手が仮にノーミスでも、僅差で上を行くでしょう。また、キャサリン・アーヴィング選手のフリープログラムはサン=サーンスの死の舞踏ですが、こちらも高難度のエレメンツが組まれておりますので、やはり勝敗の行方はわかりません。さらに、第四位のエリカ・バーミンガム選手や、それよりもショートでは下の順位だった選手にもチャンスは十分あります。二日後の女子シングルのフリーでは本当に何が起きるかわかりません』

『一ノ瀬さんはどうでしたか?やはり選手というのは、フリープログラムに向けて精神の状態を整えるのが難しいとよくお聞きしますが……』

『まあ、わたしの場合は一番よくてどうにか三位に入れるかどうか、そしてさらに運がよければ二位の銀メダルに手が届くといったことが多かったですからね。そもそも競技生活の後半では特に、金メダルを物凄く意識して狙っていったことはほとんどなかった気がします。ただ、これもよく言われますように、ショートで一位になってしまうと、やはり勝つことへ意識が強く向かいすぎてしまってフリーでの失敗に繋がるというのはよくあることです。その点、二位以下の位置ですと、どうにかトップに立ってやろう、絶対に表彰台に立ってやるぞといった盛り返す気持ちになるところが利点だと思います。もちろん、どちらにしても気負いすぎるとプレッシャーに負けてしまうわけですが』

『女子のフリーは一日置いて明後日ということになりますが……それまでに精神を整えられた者が勝つということになりますか?』

『どうでしょう。わたしなどもそうでしたが、本番直前まで何が起こるか本当にわかりませんからね。ずっといい集中を保ってきたのに、ほんの些細なことをきっかけに崩れることもありますし、逆に公式練習でもうまくいかなくてずっと調子が乱れていたのに、本番だけ突然ピシっと決まるようなこともあります。もちろん、ずっと調子が乱れていた場合はそのまま本番でもうまくいかないことのほうが多いですが、会場入りした途端、普段は気にならないことが気になったりですとか、細かいことに突然拘りすぎてしまったことが、わたしはありましたね。自分のコントロール外にあることをコントロールすることは出来ないとでも言ったらいいんでしょうか。ですから、本番直前まで何がどうなるかって本当にわからないんです。調子のいい時でも、『調子は良かったのに何故こんなことになったのかわからない』というのは、選手の多くが経験することでしょうし……』

『ところで、明日は男子のショートプログラムが行われますが、カール・アイズナーの王者としての地位は磐石といったところでしょうか?』

『今シーズンは、小早川圭選手が来シーズンからアメリカの代表選手として試合に出場するために、一年国際試合に出られませんから……強力なライバルがひとりいないということだけは確かだと思います。彼の王座を狙っているのは、他に氷室光選手、ルカ・二キシュ選手、レオン・アーヴィング選手といったところでしょうか。けれど、試合というのは本当に絶対ということが絶対にありませんから、予測ということはあえてしないでおいたほうがいい気がしますね』

『今回の日程だと、男子は少しきついかもしれませんね。ショートの翌日にまたすぐフリーが控えていて……』

『そうですね。二日続けてということになると、前日の疲れが完全には抜けませんから、ショートが終わって翌日フリーというのは確かにきついです。男子の場合はそのあたりから崩れてくる選手もいるのではないでしょうか』

『それではみなさん、明日の男子のショートプログラムもどうかお見逃しなく!!』

『日本の選手の応援、よろしくお願いします!!』


 ――一ノ瀬綾子の解説については、『入江京子の時のほうが良かった』、『技の名前を並べてちょっと感想を述べるくらいなら誰でも出来る』など、今のところ評価のほうはあまり上がっていない様子であったが、それはさておき、女子のショートプログラムのあった翌日、男子シングルのショートプログラムが行われた。

 抽選による滑走順は以下のとおりである。

 最終グループ、第一滑走=ルカ・二キシュ、第二滑走、氷室光、第三滑走=カール・アイズナー、第四滑走=巽剛、第五滑走=レオン・アーヴウィング、最終滑走=環礼央。

 ルカ・二キシュはベートーヴェンの『コリオラン』序曲で、四回転ループを鮮やかに決めて王者アイズナーとの点差を詰めにかかり、氷室光の『牧神の午後』は今シーズン通して安定した演技で、会場を魅了した。王者カール・アイズナーはショートに四回転フリップを入れずとも若手のルカを8点以上もの点差で引き離し、剛はバッハの『無伴奏組曲』で、新たに身につけつつある表現力の高さにより、高得点をマークした。レオンは得意のジャズでいつもながらの素晴らしいエッジワークを披露し、特に女性ファンの黄色い声援をいつも以上に煽ったようである。最終滑走の礼央は、『二ュルンベルクのマイスタージンガー』をノーミスで演じきり、最終滑走のプレッシャーをまるで感じさせない演技を披露していた。

 そして、優劣のつけがたい白熱した接戦が終わった時、得点差による順位は次のとおりということになった。


 第一位=カール・アイズナー(110.59)

 第二位=ルカ・ニキシュ(102.21)

 第三位=氷室光(99.89)

 第四位=レオン・アーヴィング(98.77)

 第五位=環礼央(97.65)

 第六位=巽剛(97.23)


 また、この翌日――女子のフリープログラムが午前八時より、また男子のフリープログラムが午後六時から開始されるという予定になっており、試合を終えたばかりの男子選手はみな休息をとったのち、すぐにまた夜の試合に備えるということになった。また、女子選手のほうでは朝早くからバタバタと色々な準備に追われるということになったようである。



 >>続く。




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