老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

ジャーナリズムの死(検証姿勢の不足)

2014-09-15 09:27:50 | マスコミ報道
朝日新聞が窮地に立っている。いわゆる従軍慰安婦にかかわる吉田清治氏の証言報道の問題。今一つは、福島第一原発事故当時の吉田所長証言に関する報道、さらにその問題についての池上彰氏の記事を掲載しなかった問題などについて、朝日新聞が自らの非を認めて謝罪した。この謝罪を受けて、官民挙げて朝日新聞バッシングが行われている。

今回の問題が顕在化し、朝日新聞の存立にかかわる大問題に発展したのは、様々な理由が考えられる。

①朝日新聞社の体質

この問題については、元朝日新聞記者・山田厚史の解説が分かりやすい。
・・・
「朝日新聞は編集部門だけで3000人余が働く。組織は縦割りで、東京、大阪、名古屋、九州と本社が別れ、それぞれに社会部や経済部などあり、さらに分野ごと課題別に担当が細分化している。それぞれがタコツボのような縄張りがあり、よく言えば専門性が尊重され、逆の見方をすれば、部外者は立ち入れない。相互不干渉が独善を招くこともある。
 慰安婦問題を取材してきたのは「朝鮮問題」を担当するか細い人脈だった。吉田氏からの取材で強制連行を書いた記者はソウル特派員、外報部長となり、慰安婦問題に責任ある立場に就いた。吉田証言に「作り話」の疑いが持ち上がっても、検証記事の仕切り役が当事者である。まな板のコイに包丁を持たすようなものだった。」
・・・(ダイアモンド・オンライン:山田厚史の「世界かわら版」)

②記事に対する検証が遅すぎた原因

一つは①に指摘された記事に対する相互不干渉(専門性尊重=タコツボ化)の問題。他の一つは、エリート集団特有の問題。山田は以下のように書く。
・・・
「 批判はしてきたが、批判されることに慣れていない。外からの攻撃に弱いインテリ組織。快くない文字や文章が自分たちの紙面に載ることを嫌った。掲載拒否は誰が決めたか知らないが、正常な判断力を失った結果である。 「言論の自由」を掲げ、リベラルの旗を振る朝日新聞が、筆者に依頼した原稿の内容が気に入らないから載せない、というのでは朝日を支援している人さえ離反させる対応だった。」
・・・(同掲書)

③記者の問題

山田はこう指摘する。
・・・
「誤解を恐れずに言えば、報道に誤報はつきものだ。発表に頼ればリスクは小さいが、情報の垂れ流しである。現場に踏み込んで、隠れた事実を掘り起こそうとすれば、失敗も起きる。取材は人と会うこと、書かれた情報を読むことから始まる。だが、取材相手の話やデータが怪しくないか、眼力や嗅覚を磨くことが欠かせない。それでも間違うことはある。取材に100%安全はないのだ。ワクワクする情報ほどリスクは高い。
 数字や固有名詞など分り易い間違いは「訂正」されるが、見立ての誤りは、訂正しにくい。また深刻な誤りほど、隠したくなる。当事者でないと判断しにくい誤りは、なおさらである。分断された取材体制は、独善がはびこり易く、誤りをチェックしにくい。吉田証言はその典型ではないか。20年前にタコツボに入れたまま、忘却の海に投げ出されたのである。」
・・・(同掲書)

この問題は、どの職種にも通じる。わたしが現役教師時代の教育現場は、いわゆる【荒れた中学】の時代。校内暴力が吹き荒れ、授業は成立せず、教師の【知性・感性・人間性・覚悟】全てが問われる時代だった。

教師たちは、毎日起きる問題行動を前にしてどう対処すれば良いのか悩み、苦しみ、自らの存在意義それ自体を問い直す日々だった。何人かの教師は、問題生徒の中に飛び込み、それこそ夜中まで子供たちを追いかけ、話をし、人間関係をつなぐ努力をしていた。こういう教師は、子供たちの非行行為を何とか阻止し、何とか無事に中学校を卒業させ、社会へ出るスタートラインだけは確保してやろうと必死だった。

その中で、大学の授業や公式の研修では決して身に付かない教師としての力量を高めた。同時に、(減点思考)の官僚機構の一員としては、これは非常に危険な道でもあった。理由は簡単明瞭。自分が本気で関わった生徒が非行行為を起こせば、教師に批判の矛先が向く。まして、連日連夜関わった生徒が非行行為を起こせば腹も立つ。つい、拳骨の一つも入れたくなる。それを暴力行為として指弾される。

ではどう逃れるか。ごく簡単。問題生徒に本気で関わらない事。表面では、子供の事を真剣に考えているように取り繕いながら、心の奥底では、保身を第一に考える。

上の山田の言葉を借りれば、「発表に頼ればリスクは小さいが、情報の垂れ流しである。現場に踏み込んで、隠れた事実を掘り起こそうとすれば、失敗も起きる。」と言う事になる。

これは記者自身、教師自身の問題である。特に以下の山田の指摘は重要である。

「数字や固有名詞など分り易い間違いは「訂正」されるが、見立ての誤りは、訂正しにくい。また深刻な誤りほど、隠したくなる。」

人間だれしも保身本能はある。これをどう克服するか。記者としてのレーゾンデートルを問われる。山田の言う【見立て】の誤りをどう克服するか、記者としての存在意義そのものを問われる。

④社会情勢の変化

慰安婦問題は、日本の戦争責任問題と直通している。歴史修正主義者の歴史認識と直接対峙するきわめて深刻な問題。朝日新聞を批判するグループは、「新しい歴史教科書をつくる会」や「正論」や保守派の「日本会議」グループなどと重なっている。

自民党が多数派を占め、野党(護憲派)が無力化した現在だからこそ、朝日新聞の誤報問題を大問題化する環境が整ったのであろう。

産経新聞、読売新聞などが火事場泥棒よろしく、朝日批判を繰り返しているのは、いわゆる護憲派の牙城と見られた朝日を叩く事で、改憲の機運を盛り上げようというきわめて「政治的意図」を感じているのは私だけではないだろう。

⑤ジャーナリズムとしての問題

山田が指摘しているように、時代は「権力がメディアを監視する時代」に突入した。【特定秘密保護法案】が成立し、朝日が誤報道した【吉田調書】などは、秘密保護法施行以降は、記者は逮捕される可能性が高い。その予行演習として、今回の朝日新聞の誤報道事件は、利用されるだろう。今回の朝日バッシングはそれを証明している。

つまり、正邪は別として、産経・読売・赤旗のように、旗幟鮮明の主張の方が世間に受け入れられ、朝日のようなエリートで上品で白か黒かはっきりしない鵺のような主張は受け入れがたいという社会風潮が始まっている、と考えた方が良い。

こういう時代風潮を【ファッシズム】と呼ぶ。

「護憲+コラム」より
流水

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