よく晴れて暑い日だった。朝フキを摘んだ。茎が目籠に一杯あり、葉が大きいバケツに一杯あった。その後 馬鈴薯の土寄せをした。芽を二本立てにしてその他を抜いた。その芽を昼に胡麻和えにして食べた。少々何所かにエゴイ所ろはあるが食べるには差し支えなかった。何でも食べられるものだ。うまいかまずいか、かたいかやわらかいかといふ別はあるが食べれば大抵は食べられるものだと思った。此れも戦時生活の一つの副産物である。午後南瓜を植える穴を七つ程掘った。
昭和十九年五月九日 晴 二,三直出勤
戸袋の下の園に吾妻菊が咲いた。二三本切って来て躑躅と一緒に花瓶に差した。非常に美しくって室内がなごやかになる。戦時下だ。庭をつぶしても野菜を植えろ。南瓜を植えろと言うが、それも必要だが又花も必要だ。戦時下だけにいらだつ心を幾分でも和らげる事も必要なのである。
昭和十九年五月十二日 曇 明け
・・・・・・ 矢車草が今日、一二輪咲いた。長い間子供等が水をかけて楽しみにして居た矢車草である。初花を仏前に供えるように妻に言っておいた。鈴蘭も咲いた。