Dear You

Seriously:fou you

オリーブ色の鎮魂

2011-09-30 | 
木漏れ日をつなぎ
陽射しに波立つ蝉時雨
アップルミントの香りが
髪を梳く指のように
なめらかに撫でている
七日目の声の行く先を

木立のすき間をからみ合う
影なる葉の黙すオリーブ色
枯れかけた茎からやわらかな新芽が
空へ遡り微熱の風に垂れさがる
ピアスのペリドットの光を開く

  涙粒よりも小さな輪廻が揺れる
  紅海に浮かぶ火山島に生まれた
  其処には宝石(ペリドット)を護るため
  無数の毒蛇が生息していた
  太陽の魔力を秘めた言伝
  ひも解く黄金石に蛇神が宿り
  たそがれる袋小路を照らすと云う
  戦いの装備具にも使われていた
  纏う人の私欲の魔を焦がす
  否定したくなる爪先を毒の礫で削り
  まるくなるプロセスを
  天衣のように無縫にほどこす
  汗にまみれた石の眼差し
  闇夜に架かる虹を浮かべている

語り紡ぐミントの色彩
とどまらない馥郁
葛藤は武器のない自己対話だったと
鳴き尽くす魂は透きとおる
若葉に堕ちた八日目の声
照り返す銀の亡骸
 










(紅海(こうかい, Red Sea )とは、アフリカ東北部と、アラビア半島とに挟まれた湾)


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「2011年:詩人会議11月号 「特集 生きものたち」
掲載をありがとうございました。





明かりの本「千の風」

2011-09-25 | メモ
明かりの本

http://main.akarinohon.com/



「千の風」翻訳詩を電子詩誌にしていただきました。
長緒始さん、ありがとうございました。


http://main.akarinohon.com/?eid=89



星空の美しいページに、掲載されています。
心から感謝申しあげます。




一輪の約束

2011-09-14 | 
咲き乱れて
絡まる蔦はあふれる棘を見る
箱庭の傷は数えなった
翡翠色の葉の波折り
真紅の花びらを彷徨う白い蝶
ヴェールを脱ぎ捨て素肌になる

溶けはじめて
夏の陽射しに反射する
スプーンの銀色
甘い波がきらめきほろ苦くなる
口うつしに囁く囀り
あなたの指に
染みた薄紅を拭っていた
カラッと音をたて
グラスの氷は崩れて水になる
ガラスの湖に泳ぐ

揺らぐ風を裂き
孤独が境界を消していく
形にならない感情が
形になろうと馳せ出る吐息
真昼の白さに遊離する影になる
残照になることを否み
輪郭は真紅であり続けようとする
透明に映る秒針の沈黙
生を負う

温もりを求め合うため
生まれる前から
植えられていた孤独の華

一輪の瞬間をたばねた
百万本の永遠は
薔薇の薫りに泡になり

種をこぼす

それは一輪の約束







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「詩と思想」2011年6月号、佳作をありがとうございました。






ひらめきが煌きに

2011-09-10 | 散文
「エジソンのシンバル」に、第45回詩人会議新人賞をいただき、2011年詩誌五月号に掲載をありがとうございました。
この作品は、ADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもとその母の子育ての苦労を書いたものです。ADHDとは、黒柳徹子さんの「窓際のトットちゃん」のような子どもたちのことです。宿題をよく忘れたり、提出物の期限が守れない、椅子やテーブルをガタガタさせて勝手なおしゃべりが止まらない、人の話を聞かない、でも実力がないわけではないみたい、という不思議な雰囲気の子どもたち。この子たちは、セルフコントロール能力の成長が著しく遅れるために、「不注意」「他動性」などの症状が表れます。クラスにひとりはいて、友人も少なく、劣等感が溜まり、能力を押し潰してしまうという残念な境遇に置かれていることが多くあります。周囲からは理解を得ることは難しく協調性のない人と評価されてしまいます。
しかし、ADHDの特徴を理解した接し方により、その子ども達は「ひとつのことに集中できない」から「ひらめき」が生まれ、衝動性は実行力として活かすことができます。この子どもたちから、エジソンのような発明の芽を育むことができればと、そんな願いがあり、ADHDの子どもとその母の作品を書いてみたいと心に決めていました。
初稿を書いたのは昨年二月頃です。たくさんの人の心に印象に残るためには、どのように書けばいいのだろうか、と試行錯誤しました。ただ単に、子どもと母親の苦労を書いただけでは、数年経てば忘れ去れた一作品になってしまいます。親子の心の触れ合いは陳腐な題材です。新しい表現をなるべく芸術的に書きたい、初めはそんな一心で書いていました。ミクシー日記に友人のみ公開し、先輩方よりアドバイスをいただき推敲しました。後、島秀夫氏のサイトに投稿させていただきました。島氏より「この作品を読んで凄いと思う人はいると思いますが、涙が出る人はいませんよ」と助言をいただきました。「涙が出る作品」島氏の言葉に忘れていた詩作の志が蘇りました。読者が涙を流すためには、どのように書けばいいのだろうか。何百回も推敲しました。放置しては投げ出しくなり、再び推敲して、最後に友人にセンテンスの繋がらない部分を指摘してもらいました。最終推敲を終え、納得のいく完成まで約1年かかりました。エジソンのシンバルは、多くの方の力添えや導きが輝き成長を遂げた作品です。温かく育んでくだった方々の「お陰」に対しての受賞だと思っています。作品に関わりいただいた全ての皆さまに深く感謝しています。
ADHDを理解いただけると共に、子ども達が現代のエジソンやアインシュタインとなって、人類の救済のために、「ひらめき」が煌きになることを、心より願っています。

凪の営みに

2011-09-04 | 
「無事よ」この言葉を聞くだけで安心する 電話、メールの向こう側 芽吹きを祈る被災地の呼吸 手を取り合い支え合い助け合う譲り合う絆 逆境から生まれるドラマは温かい 誰かのために熱い涙を流し合おう それだけで誰もが優しい勇者になる

     *

うららかな陽射しに茫然と立ち尽くす 昼下がりの公園には誰もいない ブランコもすべり台も鉄棒も 空だけを眺め時の流れを凌いでいる 心配は親切ではないと風は吹きぬける 花壇の蕾はふくらみ始めていた 凪のような営みを見つけて 余った気持ちを募金する 



あなたが「不在」であると言えることに気づいたとき
あなたが「存在」していることを知る 遥か彼方の星の「不在」に光は「存在」を届け 満天の星空を地球に贈り続けている 夜になると寂しい人たちは光の手紙に優しくなる 「存在」を抱きしめて 溢れる星の雫に

     *

鳴り止まぬ震戦の遠吠えに 寡黙に祈る廃墟の都の風の声 瓦礫に消えた命の灯は 生あるものに願いを託す 吐き出された絶望は闇に終わらない 人々の手のひらを束ねたような蓮の花 信じて築こう やがて訪れる夜明けの出逢いを

      *

耳を塞ぎたくなる崩壊の一瞬 届かぬ返事が余震のようで震えている 頭(こうべ)を垂れて供える白百合 その香りに沈黙する (亡くなった仲間を浮かべて 無念に手を合わせ)悲しみを感じる余力がある 光に生まれ直すための源にして 明日の一歩に







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「命が危ない 311人詩集 ―いま共にふみだすためにー」
コールサック社出版  掲載をありがとうございました。





月の涙

2011-09-02 | 
月のまるい夜 
夜露にしっとりとした砂浜を 
素足で歩いている 
鎮まる波に月の光が零れて 
それは銀でも金でもなく 
ゆらりと揺らめく水面は漆黒(しっこく)の鏡になり 
はるかな道のりをこんなに近く、
その年輪を映している

月は不思議だね 
ほんとうはいつでも同じ形なのに 
光と影の衣装をまとい 
完全であることを避(さ)けているのは 
まるで、生きようとしている
人の姿のようだね

欠落にさまよう未熟さと 
混沌(カオス)に乱れる思考が突き刺した  
だだっ広い夜空の傷痕を
爪型(つめがた)の三日月が照らしていた 
空から離れて生きてはいけないのに 
あたりまえのように隣にあるものに 
我がままに振る舞えたのは 
指をからめる寂しさを知る
君のやさしさだった

美しい光は目映(まばゆ)くて 
美しすぎて近寄りがたいから 
人はくちづけの時に目を閉じる 
そのひとときに浸(ひた)るほど 
ほのめく輪郭の 
おぼろ気なすき間に
安らぎを見つけていた 

「いつだって、まるい光だったら、
 おそらく月を眺めてはいないだろうね」

そう言って、君が見つめていた
灯かり取りの窓に 
ほどき合う指の隔(へだ)たりが冴え返る

あの日の月の紅さよりも 
今宵(こよい)の月の白さに 
語り明かした君のぬくもりを想い出す 
秘密にすることばかりの負い目を背負い 
振る舞いとうらはらの朔月(さくげつ)は 
奏でるほど言葉を紛(まが)い物にしていたね 

忘れたいことと覚えておきたいことの 
どちらを多く、人は抱えていくのだろう 
死を迎える日まで

波打ち際にしゃりしゃりと踏む砂は 
渇く踵(かかと)をなぐさめている 
割り切れない奇数の一つの余りを 
分け合うことが思いやりなのだと囁やく月の影 
飛沫(ひまつ)の夢は波の濁音になり寄せては還る 
過去に月が流した涙のように 
たおやかな波折(なお)りは 
曲がりくねる足跡を呑み込んで 
何もなかったように
夢幻を消していた










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詩誌COAR SACK 70号 掲載をありがとうございました。









メルヘンのつづき

2011-09-02 | 

腹ちがいの弟がいる
ひとりの男を巡っての互いの母親に
気ぃ使こうて、しょっちゅうは会われへんし
電話とメールで悩みを聞いている
弟は病気で人格が統一できひんから
別の人格が現れたら動けんようになるみたい
この前の検査結果が悪かったこと気にして
ショックで余計に布団から出られへんのや

治療のための検査やのにその結果で
症状が悪なってたら何にも意味あらへんで
そう言うんやけど簡単に割り切れてたら
病気なんてとっくに蹴飛ばせるんやろうなあ
そや オモロイ話が何よりの治療らしいで
笑う尻尾に福来たるやで
無理に病気と仲良うせんでもいいよ
大地の養分とお日さまの恵みたっぷりの
お野菜いっぱい食べたらいいやんか
美味しい美味しいと呪文みたいに唱えてたら
南瓜は招き猫に変身するもんなんやて
今夜は冷えるしあったかいスープ作ったけど
冷めへんうちに届けられる距離に
あんたはいいひんのやったなあ
布団のなかで冷凍食品食べてるんやろか
代わりにあたしがスープであったまっても
あんたの病気は治らへんのになあ
まぁるいお皿にスープをよそってたら
あんたからのメール 
「仕事忙しいか?体こわしたらあかんで」
ちっちゃい画面の文字やのに何でやろう
スープの湯気が目に沁みて揺れてる
ひとりぼっちの部屋がミニ薔薇色になったで
さびしいのはあたしやったんかなあ
最近ご飯たべる気せえへんかった
家に帰る気さえせえへんかった
何にも困ってへんけど何かが足らんとき
ものに囲まれているだけではやり切れへんと
思うのは罰当たりなことなんかなあ
そやけどあんたのひと言メールで
ご飯食べなあかんて思たんえ
心配してくれる人がいるって
うれしいことやなぁ

そう言えば、このまえ唐突に
弟が語ってくれた
トイレットペーパー背負った女の子と
新聞紙抱えた男の子が公園で出会う物語
競うようにブランコや滑り台の傷痕に
包帯巻くみたいにくるくると
持ってきた紙でくるみ合いながら
傷はかくすんがええのかなあ?
傷はさらすんがええのかなあ?
ふたりして悩んでいたら
新聞紙が舟になってペーパーが津波になって
巻いていたもんが涙で溶けて
探しにきた親にそれぞれ叱られて
ぐしょぐしょの顔同士で手を振るまでの

この続きはまだまだあるんやろう?
続きは少年と少女の笑顔かな
おはなしの完結なんて
時の流れと目覚める場所によって
変わるけど、書いたことは
ほんとうになってしまうから
拭い集めた涙のつま先まで
元気になるって、何度も何度も書いてたら
空いちめんに約束したみたいやし
雨あがりの虹色になるんやないかな
巡り合うまでの三百マイルが
きっとゼロになるまで






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詩誌COAL SACK 70号 掲載をありがとうございました☆