いい映画を観た。「小さいおうち」である。
近頃の映画館はもう一度観て、筋や大事な場面を確かめることができず不便である。
だから以下は印象です。
映画は、主人公タキの火葬場から始まり、姪の息子に託されたタキの「回想録」を辿ることになっている。
(余計なことだけど、タキの死後、遺品がガラクタ扱いでガラガラと処分される画面は辛かった。)
タキは雪深い山形から、華の東京の郊外の玩具会社常務宅で女中奉公することになる。
主人一家はタキを信頼し、美しい奥様は「タキちゃん」を妹のように可愛がり、坊ちゃまは母親以上にタキちゃんに懐く。
時代はシナ事変が始まり、南京が陥落し、オリンピック誘致には成功し、誰もが幸せだった。
だがそれも一時のこと。日中戦争は収束せず、日米戦争にまで進展。まともな体格の若い男たちが戦場に送り出されることになる。
玩具会社常務は、タキに子持ちの50じじぃとの縁談を勧め、子供をたくさん産んで国に尽くせなどと無神経。
奥様は次第に夫が疎ましくなってきたところに現れたのは、夫の部下でデザインを担当する虚弱青年だった。
青年が赤い屋根の小さなおうちに出入りするようになり、誰もが青年に好意を抱くようになった。
特に奥様と、同じ東北出身者のタキがそうだった。
奥様は青年の下宿を訪れ、近所の噂話になるまでに発展した。
タキの目では、出ていった時と帰ってきた時の帯の絞め方が違うのだから穏やかではない。
やがて戦況は泥沼化。物資は欠乏してきて、虚弱体質の青年にまで召集令状が来た。
入営するために故郷に帰る前日、奥様はタキの心配を押し切って、青年の下宿へ行こうとする。
さ、これから先は映画を観てのお楽しみだ。
戦争はますます激しくなり、女中など雇っていては近所から非難される状況になり、タキは家族に惜しまれながらも山形の実家に帰る。
小さなおうちは焼夷弾で焼失。ご主人と奥様は防空壕で焼死。遺骸は抱き合っていたそうだ。
タキの葬式が終わっても映画は終わらない。
こういうくどいところが日本映画の欠点だと思っていたら、流石、山田洋二監督である。これから先がまたいいんですね。
タキの姪の息子が、坊ちゃまを探し出し、北陸の海辺の家を訪れる。
母が残した封筒を開封し、坊ちゃまは生前の母の不倫を知ることになる。
タキが生涯、結婚しなかったわけは?
遺品と共に廃棄された「小さいおうち」の絵は、青年が描いた絵のようだが、どういう経緯で手に入れたのだろうか?
奥様を欺いたことを激しく悔やんでいたわけは? ...... 観る人によって色々な解釈があるだろう。
この映画は上質な反戦映画にもなっている。国民が東京オリンピックに浮かれているうちに、戦争が泥沼になってゆくのである。
また、戦前の中流の上の生活が活写されているようだ。
TVもケータイもなく、欲にまみれていなかった頃の日本人の生活は、見たこともないのに妙に懐かしかった。
戦後の混乱を、タキはどのようにして生き抜いたのだろうか。
映画を観終わって、長い間、いろいろ考えさせられる映画だった。
観て損はしません。
タキと奥様の写真と、赤い屋根の小さいおうちの絵はこの映画のHPから。
140318
早速上映館を検索し、今月中は上映とのこと
出掛けてみます
ご紹介有難うございました
オオイヌノフグリ可愛いですね♪
ゆったりとした静かな映画ですが 観た後 胸にジンと来ます
ご覧になったら きっと 吹聴したくなりますよ
オオイヌフグリは 大好きな「雑草」です
設定にはちょっと雑では?と思うところもありましたが、大泣きして帰ってきました。
永遠の0も「ばあちゃんの葬式」からはじまるんですが、「小さいおうち」もそうでしたか。
父は終戦間近に赤紙がきて、出征祝いをしたところで終戦になりました。叔父(父の妹の連れ合い)はシベリア抑留で苦労しました。伯父(母の兄)は航空兵でしたが、父親を早くに亡くして私の母を含む兄弟姉妹5人を育て上げました。
最近先人の生き方をいろいろ想うことが多くなりました。
永遠の0 調べてみます
おうちは お終いがやや説明的になってましたが 文部省推薦のイメージが強い山田洋二監督らしからぬ艶っぽく 暗示的な映画でした
今 直木賞の原作を読んでますが 映画より重層的で辛辣で 読み応えがあります
両親の生きた時代は 本当にドラマチックで 今更ながら驚かされます