18.商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
商品、その包装の形状で、それらの機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標は登録を受けられない。立体的形状から発揮される機能に着目して判断される。3条1項3号に該当し、3条2項の適用を受けた場合に、初めて本号の適用が審査される。商標は半永久権であるため、自由競争を不当に害することを防止するためである。
本号は、例えば、第3条第2項の適用に係る広告書類、取引書類等において、商品又は商品の包装の実用的利点と謳われている商品又は商品の包装の形状から発揮される機能に着目して判断することとし、その際には、特に次の点に考慮するものとする。
(イ) その機能を確保できる代替的な形状が他に存在するか否か。
(ロ) 商品又は包装の形状を当該代替的な立体的形状とした場合でも、同程度(若しくはそれ以下)の費用で生産できるものであるか否か。
(注)商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状であっても、「商品の形状」や「商品の包装の形状」であることに変わりないことから、そのような商標は、原則として、第3条第1項第3号に該当するものである。したがって、本号の適用が問題となるのは、実質的には第3条第2項の適用が認められる商標である。
19.他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
他人の業務にかかる商品・役務を表示する者として国内・外国で需要者間に広く認識されている商標と同一・類似であって、不正の目的で使用するものは登録を受けることができない。1号~18号が優先適用される(かっこ書)。高価買取、国内参入阻止、国内代理店契約の強制等を目的として先取り出願したとき、出所表示機能を希釈化、名声を害する目的をもって出願したとき、信義則に反する不正の目的で出願したときが本号に該当する。
①一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するもの、②その周知な商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものである場合には、他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うものとする。
日本国内での周知性のレベルは、4条1項10号と同様に、全国的に周知である必要はなく、一地域で周知であればよいと考えられる。出所混同を生じない商標についても登録排除効を認めているため、周知性のレベルが高いことが必要とも思われる。しかし、「不正の目的」の主観要件を課しているため、一地域の周知で足りると考える。
外国での周知の範囲は、日本国民にも認識できる程度の 不正の目的があれば、周知商標が文字、図形の商標であり、そのまま出願したときには、不正の目的が推認される。国内における周知商標が文字商標の場合に、書体の異なる商標の出願は、それが造語であるときには、意図的に商標を近づけようとすることが認められ、不正の目的が推認されると考える。
例えば、次のような商標は、本号の規定に該当するものとする。
(イ) 外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。
(ロ) 日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願したもの。
本号でいう「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含むものとする。
本号でいう「外国における需要者の間に広く認識されている商標」は、当該国において周知なことは必要であるが、必ずしも複数の国において周知であることを要しないものとする。また、我が国における周知性も要しないものとする。
「不正の目的」の認定にあたっては、例えば、以下の(イ)ないし(ヘ)に示すような資料が存する場合には、当該資料を充分勘案するものとする。
(イ) その他人の商標が需要者の間に広く知られている事実(使用時期、使用範囲、使用頻度等)を示す資料
(ロ) その周知商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものであることを示す資料
(ハ) その周知商標の所有者が、我が国に進出する具体的計画(例えば、我が国への輸出、国内での販売等)を有している事実を示す資料
(ニ) その周知商標の所有者が近い将来、事業規模の拡大の計画(例えば、新規事業、新たな地域での事業の実施等)を有している事実を示す資料
(ホ) 出願人より、商標の買取り、代理店契約締結等の要求を受けている事実を示す資料
(ヘ) 出願人がその商標を使用した場合、その周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあることを示す資料
本号の適用に当たっては、①及び②の要件を満たすような商標登録出願に係る商標については、他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うものとする。
① 一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するものであること。
② その周知な商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものであること。
周知性の認定は、4条第1項第10号の場合と同様である。
<Office2000事件>
東京高裁平成13年11月20日判決
原告の登録商標「iOffice2000」
商標法4条1項19号において,不正の目的とは,「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう」と規定されており,具体的には,外国では周知であるものの我が国では知られていない他人の商標と同一又は類似の商標を,その外国の権利者に高額で買い取らせる目的,その権利者の国内参入を阻止する,若しくはその権利者に代理店契約締結を強制する目的,あるいは,日本国内で全国的に知られている他人の商標と同一又は類似の商標について,出所表示機能を希釈化させたり,その名声を毀損させたりする目的が,審査基準に例として挙げられている。しかし,原告による本件商標の使用は,明らかに,これらには該当しない。原告は,前記のとおり,原告自身が商品を開発し,販売する目的で,本件商標を出願し,使用しているものであり,そのために,マイクロソフトのOfficeシリーズ商標とは区別された状態で本件商標を使用しており,上記のような不正な目的は全く有していない。
遅くとも本件商標の出願時である平成10年12月8日の一か月以上前には,マイクロソフトの次期オフィスソフトが近く「Office2000」として発売されること,これが既に著名な商標となっていることを十分に知りながら,これと類似する本件商標を出願し,その後これを使用したものであることを優に認めることができる。そして,この認定の下では,原告は,マイクロソフトの商標である「Office2000」の著名性にただ乗りする意図で,本件商標の出願をし,オフィスソフトと密接に関連することが明らかなグループウエアにこれを使用したものと認めざるを得ず,また,原告が本件商標を使用する結果として,マイクロソフトの「Office2000」の著名性が希釈化されるおそれが大きいと認めざるを得ない。したがって,原告がその商品であるグループウエアに本件商標を使用することには,商標法4条1項19号にいう「不正な目的」があったものという以外になく,これと同旨の決定の認定・判断には,何ら誤りはない。
2 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者が前項第6号の商標について商標登録出願をするときは、同号の規定は、適用しない。
1項6号の立法趣旨が国等の権威の尊重であるため、国等が出願する場合には登録を認めている。
3 第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。
行政処分の原則より、審査の判断時は査定時であるが、一定の私益的規定の判断時については、出願時及び査定時の両時判断としている。出願時に各規定に該当せず、査定時に該当するようになったときに不登録とするのは出願人に酷であるためである。
4 第53条の2の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した場合において、その審判の請求人が当該審決によつて取り消された商標登録に係る商標又はこれに類似する商標について商標登録出願をするときは、第1項第13号の規定は、適用しない。
53条の2の審判請求人は、自己の商標に関する権利について悪意で出願された者であるため、この者が出願する場合には、4条1項13号の適用をしないこととした。
<審査基準のその他の事項>
(1)2以上の拒絶の理由を発見したときは、原則として、同時にすべての拒絶の理由を通知することとする(その中には、例えば第6条に基づく拒絶の理由も含まれるものとする。)。
(2)第6条に基づく拒絶の理由に応答して商品等の説明のみを内容とする意見書等が提出された場合であっても、新たに他の拒絶の理由を発見したときには、補正を指示することなく、当該他の拒絶の理由を通知することができるものとする。
(3)代理人を解任せず新たに他の代理人を追加委任したときは、書類は、新たな代理人にあて送付するものとする。ただし、前の代理人にあて送付してもらいたい旨の申出があったときは、この限りでない。
(4)第4条第1項第11号等の審査においては、手続の補完がされた商標登録出願については、第5条の2第4項により手続補完書を提出した日が商標登録出願の日と認定されていることに充分留意するものとする。
(5)第11条及び第12条に規定する「査定・・・が確定した」時とは、登録査定にあっては登録査定謄本の送達があった時とする。
(6)同一人が同一の商標について同一の商品又は役務を指定して重複して出願したときは、第68条の10の規定に該当する場合を除き、原則として、先願に係る商標が登録された後、後願について「商標法制定の趣旨に反する。」との理由により、拒絶をするものとする。商標権者が登録商標と同一の商標について同一の商品又は役務を指定して登録出願したときも、同様とする。
(7)防護標章の更新登録出願をすることができる期間内に防護標章登録に基づく権利を有する者から同一の登録防護標章について重複して2以上の防護標章の更新登録出願があったときは、先願に係る存続期間更新の登録がされた後、後願について「商標法制定の趣旨に反する。」との理由により、拒絶をするものとする。