りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

りきるアーカイブス〈1〉/爪

2011-05-18 | Weblog
先日のブログにも書いたけど、僕が生まれて初めて世間に発表した小説は、
タウン誌に連載された「コカ・コーラ!」という中編小説でした。
執筆したのは2002年で、連載されたのはその翌年の5月から7月まで。

で、それが脱稿し終わって、後は連載されるだけ・・・と言う時期に、もう
1本書いてみたいなぁと、自然にそういう思いが芽生えて書いたのが、この
小説でした。

テーマは、「血筋」です。

当時、僕自身、父親という存在になって間もなかったこともあるのか、
自分の血・・・親から受け継ぎ、それが自分を媒介して、子どもに
受け継がれてゆく・・・ということに、ものすごく敏感になっていたんだと
思います。

内容は前作の「コカ・コーラ!」と比べると、本当に同じ人間が書いたのか?
と思うほど、シリアスですね(笑)
「コカ・コーラ!」は、とにかくひたすら明るくて純粋で一直線な青春小説だったから。

この作品の重要なキーワードになっているのは「原爆」です。
広島に落とされた、原爆。

僕は広島で生まれ育ったので、親戚にも被爆者が何人かいて、中にはいまだに
遺骨が見つかっていない家族もいます。
だから子どもの頃は、毎年8月6日が訪れるたびに、そういう話を祖父母や父から
聞かされて育ってきたんですね。
大人になった今でも、8月6日になると、その日が仕事が休みであれば、子どもたちを
連れて出来るだけ平和公園にお参りするようにしています。

だから「原爆」を題材として扱ったのは、広島に生まれ育った人間として、
もう本当に、必然というか、“使命”のようなつもりでしたね。

それから、もうひとつ大きなキーワードであり、タイトルにもなった“爪”ですが、
これは、原爆とは反対に、些細な日常生活の中からヒントを得たものなんです。

僕の妻の足の小指の爪って、ちょっと個性的というか変わっていて、ほとんど爪が
ないんですよ。
申し訳程度に、チョコンと小指にくっ付いているような感じで(笑)
新婚当時から「お前の小指の爪って、変わってるなぁ」って言ってたんです。

ある日、当時3歳くらいだった娘の足をふと見たら、小指の爪のカタチが妻と
そっくりで。
それを見た瞬間、“へぇ、親子って、こんなところまで似るのか”って驚きというか、
感心というか、とにかくものすごく印象に残って。

そういった子どもの頃の経験や大人になっての出来事を自分なりに咀嚼して
執筆したのが、この小説でした。
書き上げた後、中国新聞主催の「中国短編文学賞」に応募したんです。
そしたら、入賞は逃したものの、最終選考まで残ってしまった。
処女作の「コカ・コーラ」の受賞は、あくまでもビギナーズ・ラックだと
思っていたから、今回は絶対にそんなにいい成績は残せないだろうと思っていたのに、
結果として想定外の善戦だったもんだから驚いて・・・そういうことがあれば、
僕も人間だから勘違いしますよね。
“あ、俺って、もしかしたら小説を書ける人間なのかな?”って(笑)
だから、ちょっと腰を据えて書いてみようって思ったのは、この小説からかも知れません。

電子書籍にアップしてから、何人もの方が購読してくださって、その中の方から読後に
コメントをいただいたのですが、
「泣けました。そして、最後、感動しました。とても深い作品、たくさんの人に読んで
いただきたいと思いました。」
・・・と感想をいただいた時は嬉しかったですね。テーマや題材から考えても、僕自身、
できるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っていましたから。
あと、ずいぶん前にご購読いただいた方で、
「 同じ本なのに、前回(昨年)と今日では読後の感じ方が違いました。 つい、東北の事が
頭に浮んでしまいます。」
・・・というコメントをいただいた時は、この作品は、もう完全に自分の手元を離れて
不特定多数の読者のものになってしまったんだな、って、実感しました。

最後に表紙の装丁についてですが、これは原爆ドームをモチーフにしてデザインしました。
この装丁を見て、東京の友達でクリエーターのちいはなちゃんが、「いいデザインだね」って
褒めてくれた。
同い年で、仕事に厳しい彼女に褒められたことは、想定外のことで嬉しかったです(笑)

●「爪」の電子書籍サイト→http://wook.jp/book/detail.html?id=208119
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