タッカの夢 〜VOICE〜

夢はイメージ出来るから
これからもアンダンテで進む

羊男のキッチンポラン 発酵

こんにちは羊男です。 6月に入りました。またひとつ歳をとりました。 熟成に入ります。発酵料理にも積極的に取り組んでいこうかと思っています。 第一弾は、流行の流れにあえてのります。 「塩麹」仕込みまっせー その次は 「アンチョビー」仕込みまっせー

タッカ6月の活動メニュー

○しばらくは、農作業に集中させていただきます。  ○23日(土曜日)午前11時10〜FMいるか「タッカの夢voice」  ○タッカの店オープン準備進行中

「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」最終回

2008-12-25 22:33:36 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
長い長い物語になってしまった。
マミコとの30分の部分は、やはり、カットした。だって、ふたりだけの時間だし、3年前に起きた奇跡だとはいえ、まだ、とても新鮮で、色鮮やかに、この手に、この唇にマミコの温度を感じる事が出来ていたから。
ふたりだけの奇跡の時間。
三年前のイヴにおきた二人だけの奇跡だから。
その部分は、書かない事にした。
僕自身におきた奇跡の為にも。
僕は、マミコの影響でブログを始めていた。
そう。
マミコは、元気に暮らしているようなのだ。
マミコのブログが、活発に更新されるようになっていた。
そんな、マミコのブログの影響で、僕もブログを始めていた。

そして、ある日、マミコのブログの記事の中の何気ない写真で、赤い帽子のてるてる坊主が、こっそりと写っていたのを見て、何だか、3年前のイヴの物語を書こうと思いついた。僕自身へのメッセージのようにも感じた。
実は、マミコには、僕がブログを始めた事は、話していない。
それは、奇跡のイヴで、互いの未来に向けたサヨウナラをしたからだ。
あれから、互いに、連絡は取っていない。
でも、あの、イヴの出来事から、マミコ自身にも奇跡がおきていたのだと思う。
マミコのブログからは、本当に、元気な活発な様子が伝わってきた。

物語は、ちょうどイヴの夜に書き上げることが出来た。

今日は、25日。クリスマス。外は、湿った大きな雪が舞い降りていた。明日辺りから、急に冷え込みだす予報だ。

「出来た。」後ろから、彼女が声をかけてきた。
「ああ。もう少しで出来るよ。」
「どんな、感じで、書いたんだろう。」
「おたのしみに。」と僕。

僕は、洗面台の鏡を覗き込んでいる彼女の背中を眺めた。
ピアスを入れている仕草が、とても可愛らしかった。
白いタートルネックのセーター。ウール地のひざ上のチェックのスカート。何だか、急に愛おしくなって、僕は、パソコンの前を立った。
僕は、彼女の背中から胸に手を回した。
「もう、まだ、ピアス入らないのに」
僕は、気にせずに、彼女の背中から離れなかった。
「ケンジ」呆れた彼女の声。
彼女は、窮屈そうに、僕の方を向いて、軽くキスをしてくれた。
「もっと」と僕。
今度は、2回、軽いノックのようなキスをしてくれた。
「もっと」
僕たちは、熱い口づけを交わした。
このまま、ベットへ行きたかったけど、我慢、我慢。
「由美子。今日は、僕たちの記念日でもあるんだね」
「うん。思い出深い日ね」
「あの時の料理の凄かったのを今でも覚えているよ」
「ふふっ」

玄関が開く音がして、声が聴こえてきた。
「ただいま」
「おかえり、アヤちゃん」
扉が開いて、アヤちゃんが居間に入ってきた。寄り添っている二人を見つめ。
「どうしたの。赤い顔して」とアヤ。
「幸せ」
「ねっ」
「変な二人」とアヤ。
「さて、今日は、イタリアンと行きましょう。素敵な店を予約しているんだよ。」

マミコとのイブの奇跡の次の日、僕は、由美子とアヤちゃんとクリスマスパーティーをした。とてもおいしい料理とワインとお話しで、盛り上がった。
酔いがそうさせたのか、アヤちゃんのおこした奇跡なのか、赤い帽子のてるてる坊主の奇跡なのか、小さなテーブルの下で、僕のひざと、由美子のひざが触れて、そして、次には、手をつないでいた。白いテーブルクロスの下で、つながった日だった。
アヤちゃんは、そんな二人をニコニコと眺めていた。テーブルの下でつながれた、手と手をアヤちゃんは、わかっていたのだと思う。

赤い帽子のてるてる坊主は、今も、ベランダでゆらゆらとゆれている。
ハッピークリスマス。
みんなが、本当にハッピーになれた。
そう。今日は
クリスマスデイ。
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」14話

2008-12-24 23:32:01 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
24日イヴ。会場は、家族連れや、カップル達で、賑わっていた。昨日降った雪が、銀色に、会場を演出していた。白い息、恋人達の笑い声、色とりどりのマフラー、手袋が会場の飾りとなってクリスマスを演出していた。そして、マイクスタンドにかけられた、赤い帽子のてるてる坊主。僕は、会場を行き来する人たちに、BGMの演出をスタートした。通りのレンガ倉庫の角辺りに、アヤちゃんとお母さんが、いる。ちょうど、風をさける事が出来そうなスペースだ。アヤちゃんの車椅子にも、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。僕のスタンドのてるてる坊主とどんなお話をしているのだろう。

マミコは、まだいない。
僕は、又、1曲、心を込め演奏に集中した。

  ポケットの中はいつも
  虹のかけらを詰め込んでいた
  だれにもわからない宝物でいっぱい
  心配だからいつも手をつないでいたんだ
  何のあてもなく
  ただ明日ばかりを信じていた
  二人で寄り添うことで
  全てのもの見ようとしていた
  見える気がした

間奏の合間に、アヤちゃんの姿に僕は、目をやった。
その隣に、もう一つの、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。

マミコだ。
奇跡が起きた

アヤちゃんの隣に、マミコ家族が立っていた。マミコとアヤちゃんが、笑って話を交わしている。赤い帽子のてるてる坊主が、三人をつなげている。

「みなさん、ありがとうございます。足を止めて聴いて下さっている方もいて、寒い中本当にありがとうございました。あっという間の時間でした。たくさんの奇跡をもらいました。最後の曲です。クリスマスデイ」

  花びらのような雪が掌で
  溶けて消えたまるで 僕らの恋のように
  はかない その雪のつめたさで 街のざわめきに
  気がついた
  そうだ今日はクリスマスデイ
  はかない雪みたいに消えた
  あなたは今日を誰と過ごすのか
  手をつなぐのは僕じゃない
  そうだ今日はクリスマスデイ

歌いながら、アヤちゃんが、調子を崩していくのがわかった、お腹を押さえはじめていた。
「だめかも」そういって、不調をお母さんに訴えているのがわかった。無理しないで、アヤちゃん。そう、願うと、アヤちゃんは、僕を見て笑って、手を振っていた。何も、いんだよ。君のおかげで、マミコとつながったよ。こうして、出会っているよ。

  きらめくダイヤのような雪の舞う中
  街中の幸せたちを
  何も見なくてすむように
  僕は目をつむって 走りぬける
  サイレントナイト

アヤちゃんは、マミコに話しかけている。痛みをこらえた顔で、マミコに手を差し伸べた。マミコは、笑顔でその手を取った。僕の思いがほとばしったのを感じた、何かがはじけとんだ。目の前の、マミコとアヤちゃんがまあるいオレンジ色の輝きに包まれていた。次の瞬間、マミコが、力を失い膝をついていた。隣で、ご主人と息子がマミコに寄りそっていた。天使の羽が、舞い降りてきた。その数は、だんだんと多くなっていった。アヤちゃんは、痛みをこらえ、会場を去っていった。何がおきてるのかわからず、僕は、魂の声で歌い続けた。

  たぶん別の場所で この降る雪を見てる
  あなたを想いながら 僕はひとり歩こう
  寒くなれば あのカフェでチョコレートを
  飲んで温まろう
  降る雪が
  二人で過ごした時間を
  隠してくれる
  今日はクリスマスデイ
  きらめくダイヤのような雪の舞う中
  街中の幸せたちを
  何も見なくてすむように
  僕は目をつむって走り抜ける
  サイレントナイト

僕は、ぽつんと立った、マミコに近づいていった。何故か、楽器を急いで片付け終え、会場を見ると、そこには、マミコが一人ぽつんと立っていた。僕は、近づいていった。
「一人か」
「うん。二人の時間をくれた。」
「これは、奇跡だよね」と、僕。
「うん。」と、マミコ。
「さっき、倒れてたよな。大丈夫か」
「私は、大丈夫。アヤちゃんが大丈夫かなと思って」
「どの位時間あるんだ」
「30分くらいかな。函館駅で待ち合わせ」
マミコと僕は、手をつないでいた。
「歩こう。時間が無い」とマミコ。マミコは、残された時間を何に使うべきか、吟味しそれに、向かって行動しているようだった。時間がものすごい勢いで、回り始めた。高鳴る鼓動がカウントダウンの時を刻んでいた。人気のない小路を、曲がる。暗さが僕とマミコを包んだ。街の音も消えた。突然、マミコが話し始めた
「アヤちゃんの手を取ったの。針のような突き刺す熱さが、手から伝わってきたの、その、熱さは、体全体を駆け巡った。激しい痛みと共に、その痛みが、私の体の外へ追いやったの。まだ、体の中が熱いわ、ケンジ、もう、我慢できない」
そういって、マミコは、僕に唇を寄せてきた。頬を伝う涙、マミコのコロンが鼻を伝い心に染み渡った。僕の手は、マミコの髪を撫でる。指と指の間に髪を絡ませる。マミコの首の温度を確かめる。互いの唇は離れる事はない。僕の手は、マミコの腰へと下がる。時々もれる吐息。マミコの手は、僕のセーターの下を伝う。弾け飛ぶ心臓のリズムに触れている。そして、その手は、ゆっくりと下がっていった。唇は、互いを求め合い離れる事は無かった。僕の手は、マミコの胸の温度とつながっていた。柔らかな、真っ白であろう温度と僕の手が、一つになっていた。そんな時間は、掌に落ちて消える雪のように、一瞬に溶けて、過ぎ去っていった。マミコの手が僕の手を押さえた。

唇が離れた。ゆっくりと、距離が出来ていった。

「ありがとう。ケンジ」
僕と、マミコは、手を差し出した。
つながる手と手。
出来なかった、小さな僕と、マミコの、サヨウナラの握手。
4半世紀の時を越えて、交わした、握手。
「もう、サヨナラか」と僕
「そう、永遠のサヨナラかも」
「俺は、マミコが病気に勝つことを信じているよ」と僕
「私も、家族の為にもそう願う」
もう、マミコの笑顔は、家族への笑顔に変わっていた。
「永遠の、奇跡がくれた、二人だけの、特別な、素敵過ぎる思い出。ヒ・ミ・ツ」とマミコ
「うん」
「サヨウナラ」
「サヨウナラ」
僕等は、タクシー乗り場まで、手をつないで歩いた。互いの手に、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。いよいよ、ほんとうのサヨナラが近づいてきた。
マミコの乗るタクシーが前方に見えた、互いの手を握る手に、力が入っていた。無言のサヨウナラが伝わってきた。
マミコが足を止める。
「ケンジ、アヤちゃんと仲良くね。まっすぐの、赤い糸が見えました。当たるのよ。コックリさんコックリさん。ケンジの好きな人は・・・やーめた。へへっ」
「何だよ。言えよ」
「幸せにね」
「マミコもね」
「私、生きるよ。この奇跡に感謝。さよなら」
「さよなら」
タクシーのドアが開き、マミコは乗り込んだ
窓が開く
涙が頬を伝う。僕も、もう、声が出ない。もう一度、抱きしめたいと言いたいのに、声にならない。もう一度、逢いたいと言いたいのに、声にならない。
「ケンジ、本当にステキな歌だった。お互いの幸せにメリークリスマス」
過ぎていく、タクシー。

イヴに起きた奇跡。
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」13話

2008-12-24 16:15:01 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
僕は、幻の土管公園で起きた奇跡を、ご主人に報告した。マミコのコロンがついたハンカチの事は、話さなかった。
「ハンカチの事は、二人の秘密、時を越えた思い出」そう、マミコが言っているような気がして僕は、その事だけは、ご主人に話さなかった。

僕は、24日のイヴのライブの事をご主人に伝えた。
「よかったら、家族で見にいらして下さい。クリスマスに出会わしてくれた奇跡をもう一つ、今度は、ご主人と、息子さんにも感じてもらえたら、いいな。なんて勝手に考えてしまいました。函館のクリスマスファンタジーの会場で、歌のプレゼントと共に本当の再会をさせてもらえたら・・・勝手なお願い、本当にすみません。奥様によろしくお伝え下さい。奥様が受け取ったはずの赤い帽子のてるてる坊主は、必ず、奥様にいい結果をもたらすと思います。そう、信じています。それでは、ライブ会場で・・・よろしくお伝えください」

今日は、いよいよ奇跡の本番だ。何が、奇跡なのだろうかと思いはするのだが、4半世紀の時を越えて出会える。それだけだ、結局、自分の為の奇跡でしかなかった。自分勝手の奇跡にしか、思えなかった。今日の午後7時、マミコは、会場に現れるだろうか。出発までには、まだ、時間があった。僕は、おとしたばかりのコーヒーを飲みながら、楽譜の整理をした。

「ピンポーン」
チャイムが鳴った。僕は、玄関に向かった。
「山下です」
「はい。どうぞ」
クリスマスカラーのセーターを着たお母さんと、車椅子のアヤちゃんがいた。
「この前は、ありがとう。さよなら言えてよかった」
僕は、笑顔でだまって頷いた。
「これ」
アヤちゃんは、赤い帽子のてるてる坊主を僕に差し出してくれた。
「えっ」
「また、無くなっちゃったんでしょう。今度は、本当に無くなったみたいだから」
僕は、肩をすぼめて笑った。
「ありがとう。うん。家出をした、病気を抱えた幼なじみがいてね、早く家に帰るようにって、願いを込めて置いたら、彼女に、届いたみたいだ。アヤちゃんにお礼言うの遅くなっちゃった。ゴメンネ。持ってきてくれたんだね。ありがとう」
「あのう、お母さんがね、今度、食事に来てくださいって。
「アヤったら」
お母さんの顔がぽっと赤くなった。サンタの帽子をかぶったみたになって、僕も微笑んでしまった。
「えっ。ありがとう。いんですか。」
「もう、アヤったら、今日は言わないって約束だったのに」
「いやっ。今日は、ライブがあるので、無理なんですが、僕も、一人寂しいクリスマスだったので」
「やった。じゃ、明日」
「アヤ。コマツさんも予定があるわよ」
「大丈夫です。でも、本当にいんですか」
「はい、逆に、本当に、迷惑じゃなかったですか。」
お母さんの笑顔が、ロウソクの炎のように優しい温もりのオレンジ色に僕の心に灯った。思わず、僕は、しばらくの間、お母さんを見つめてしまっていたのだと思う、アヤちゃんは、そんな僕に、赤い帽子のてるてる坊主を押し付けてきた。
「やだ、冷たい手」
「ごめん。ごめん」
「よし、じゃ、アヤ、お母さん久しぶりに腕を振るうね。クリスマスファンタジーの帰りに、食材を買い込んで来ましょう。」
「行くんですか」
「えっ」
「クリスマスファンタジー」
「今日僕、特設会場で演奏することになっているんです。7時から」
「やった。ママ。また、このてるてる坊主さんがつなげてくれた」
「ねえ。アヤちゃん。マイクスタンドに、この赤い帽子のてるてる坊主飾らしてもらうよ」
「うん」
「じゃ、アヤちゃん。会場で、お母さん、明日、おじゃまします」
僕は、自分の冷たい手を忘れて、アヤちゃんに握手を求めた。アヤちゃんも手をくれた、あまりの温かさに、僕は、われに帰った。
「ゴメン」
アヤちゃんは、何も言わず、首を横に振ってくれた。アヤちゃんの温かさは、血管をゆっくりと登り、心まで一気に届いた。一度だけ、ドックンと心臓が強く打った。その後、温かさは、体全体に広がっていった。僕は、不思議な感覚に言葉が出なくなっていた。
「これでよし。」
そういって、アヤちゃんは、僕の手を離した。

二人は、玄関を出た。僕は、しばらくの間、動くことが出来ずにいた。自然と、目から、涙が流れ落ちていた。マミコと交わすはずだった、握手の温もりが、この手にまだ、残っていた。

今夜、奇跡が起きる。
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」12話

2008-12-11 22:55:08 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
ライブまで、あと10日。僕たちは、一生懸命練習していた。
突然、奇跡のように舞い降りた、24日、クリスマスイヴのライブの依頼だった。金森倉庫前の特設ステージで、奇跡がおきる様な気がしていた。赤い帽子のてるてる坊主と出会ってから止まっていた歯車が、ゆっくりと動き始めた。そんな、状態が、僕の周りで、おきていた。
24日のクリスマスイヴ。金森倉庫の特設ステージと赤い帽子のてるてる坊主がつながり奇跡をおこすのだ。
マミコと僕は、そこで出会う事になる。
そうしなければ、いけないのだ。
きっと・・・

バンドの練習の帰り道、少し遅くなっていたが、僕は、赤い帽子のてるてる坊主に遭いに遠回りをした。公宅への小路は、ひっそりと静まり、人も歩いていない夜だった。
僕は、幻の土管公園の前で、車を停めた。

無い・・・

夜の闇と混じったフェンスの何処にも、白と赤のコントラストは見当たらなかった。赤い帽子のてるてる坊主が、完全に僕の元から姿を消した。

僕は、車を降りて、念のために、近くの地面を探してみた。
何処にも、無いようだった。

「ゴメンね。アヤちゃん。無くなっちゃった。」
僕は、車へと戻った。
窓を開けて、もう一度、フェンスのはじからはじまでを眺めた。視線を前方に移し、ブレーキペダルから足を上げ、アクセルを少し踏みかけ。僕は、ギアをパーキングに戻した。
フェンスに何か付いている。
僕は、期待の鼓動を静めながら。ゆっくりとフェンスに向かい歩いた。

僕は、フェンスに巻かれた物に手を触れた。
ハンカチ・・・
しっかりと結ばれたハンカチ。僕は、それをほどき、中に包まれた手紙であるはずの物と一緒に大事に抱え車に戻り、ルームランプを点けた。

たたまれた紙を広げた。

あなたとつながった。可愛いサンタクロースがお帰りしてくれた。
ありがとう。本当にありがとう。
景色は、変わり果て、寂しくなったけど。
あなたの温もりが、こんなところにぶら下がっていた。
これで、充分。
少し、早いクリスマスプレゼントありがとう。
あなたの言う通りに、帰ります。
私のお気に入りのコロン。
あなたの胸の中にギュッとされますように。

僕は、ハンカチをたたみ、目を瞑り匂いを感じてみた。大人になった、大人になってしまったマミコを感じた。でも、やさしい甘い香りがした。僕は首のところでギュッとハンカチを抱きしめた。

マミコとつながった。

コックリサン。コックリサン。私の好きな人は誰ですか。
コ・マ・ツ・ケ・ン・ジ
あまりにも、可愛くて。
綺麗で。
純で。
大切な思い出。

「24日。クリスマスファンタジー、特設ステージで僕は、君にクリスマスデイを届ける」
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」11話

2008-12-09 16:21:20 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
僕は、幻の土管公園へと車を走らせた。
昔、僕と、マミコが住んでいた場所。ただ、好きだ嫌いだで、はしゃいでた小さな頃の二人。互いの、小さな気持ちがすれ違った場所。
そこは、25年を経て、形を変えた場所でもある。
公園は消えて。
建物も建て直された。
25年を経て、変わらないものはなんだろう。
そう。思い出。
思い出だけ。

マミコは、僕に逢いに来るのではない。
思い出に逢いにくるのだろう。
互いの25年を確認しに来るには、あまりにも、空しくなるだけだ。

訳が、わからなくなった。
陽は、すっかりと傾いた。辺りは、暗くなり。
幻の土管公園も帰宅を終えた自動車で埋まっていた。

誰の姿もない。
もちろんマミコもいるわけもない。

僕は、助手席の赤い帽子のてるてる坊主をながめていた。

「つながるかい」

つなげてみよう。マミコが、この風景を見て、寂しさに肩を落としてしまわないように。二人の、思い出を託して、ぶら下げて行こう。

僕は、手帳を取り出した。
カチッとペンの芯を出した。

お帰り、家出のお嬢様。
変わり果てた風景でしょう。
ご主人が心配していたよ。早く連絡取ってあげて下さい。
僕は、奇跡を信じているよ。
君をつかまえて、手をとり、さよならをするよ。
そして、久しぶりって。笑顔で・・・
抱きしめるくらい許してくれないかな。

24日の夜に奇跡の再会のプレゼントを小さかった二人に贈ります。

僕は、手紙をたたみ、赤い帽子のてるてる坊主に結びつけた。マミコが、僕の後姿を見ていただろう場所の近くに、フェンスがあったので、そこに、ぶら下げた。

今の僕に出来る事。

僕は、車に乗り込み赤い帽子のてるてる坊主を眺めた。なんだか、寂しい気持ちになった。
重たい願いを、託してしまったね。
ゴメンネ。
毎日、見に来るから。
約束する。

後ろ髪を引かれながら、僕は、車を走らせた。

途中、ケンジの車はタクシーとすれ違う。その車に、マミコが乗っているのをケンジは気づかない。赤い帽子のてるてる坊主だけは、知っていた。笑顔で、風にユラユラと揺れながら、ブルーグレーの空の下で、踊りながら、マミコの到着を待っていた。
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」10話

2008-12-08 23:06:10 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
アヤちゃんと男の子のさようならが、自分の事のように、いつまでも重なっていた。ベランダの赤帽子のてるてる坊主も、きっとそうだろうな。

マミコはどうしているだろうか・・・

クリスマスの足音が、どんどんと近づく街の景色。僕は、赤い帽子のてるてる坊主にお願いする事しか出来なかった。

僕には、素敵なプレゼントが届きますか。

マミコには、奇跡がおきますか。

外は、ゆるやかな風が吹いていた。赤い帽子のてるてる坊主を、静かに揺らしていた。ゆっくりと、回っていた。にこやかな笑顔が僕の前で、止まってつぶやいた。

大丈夫、奇跡は起きるよ。何故って。僕が、ここにぶら下がっている、意味を考えてごらん。不思議でしょう。

その通りだった。

アヤちゃんの作りだした、この、てるてる坊主は、色々なものを、もうすでに、つなぎ始めていた。

まだ、何かが、起きる。そんな気がしていた。

「そうですよね」

風にのって、飛んでいるように見えた。赤い帽子のてるてる坊主に、天使の羽根がついてる。そんな感じに見えた。僕は、目をこすった。
風が止んだ。てるてる坊主は、また、笑顔を、僕に向けて、笑ってくれていた。

この忙しさで、メールのチェックが滞ってしまっていた。急に決まった、イブのライブイベントからも声がかかり、残り少ない日にちで、練習もやっていかなければならない。

アヤちゃんに、ライブのお誘いをしてみよう。

パソコンが立ち上がる。

メールをクリック。

・・・マミコからだ。・・・クリック。

妻の事で・・・。
「マミコのご主人からだ」

突然の、しかも、私からのメールをお許し下さい。マミコのメールをチェックしていたら、あなたのメールを見つけました。
なんとも、言葉に表すのが難しいのですが。用件を先に話します。
マミコが、置手紙を置いて、姿を消しました。
「ほんの少しだけ、私を、ひとりにさせて下さい。実家に着いたら、連絡します。」という内容の手紙です。
まさか、あなたの元へ行っていないかと・・・、万が一、その様な事態であれば、すぐに、連絡頂きます様、お願いします。普通の体ではないのです。まだ、やるべき治療がある中、希望が持てる状態の中、姿を消すとは、無責任でもあり、残された家族の心配をどう考えているのか。
もし、マミコが、そちらに行った時には、すぐに連絡、お願いいたします。
25年振りの再会に。
マミコと、あなたのメールのやりとりに、私は、何も、口を挟むつもりはありません。私の知らない、マミコの時間でもあります。マミコの今の体を思うと、会わせて上げたい。そんなふうに、思っています。複雑です。
私も、この2・3日の間に、マミコの実家がある札幌に向かいます。
もしもの時は、連絡下さい。
それしか、言えません。
私の、携帯番号を下に載せておきます。

マミコが、姿を消した。しかし、マミコは、僕に、会いに来るはずがなかった。家族を、悲しませるような事はしないと確信できた。
僕は、マミコのご主人に、その旨を伝えた。

会いにくるはずがない事。
姿を見せたときには、すぐに連絡するという事を。
そして、僕の携帯番号を教えた。

でも、マミコは、どうして家を飛び出したのだろうか、命のカウントダウンを感じてしまったのだろうか。

僕に、何が出来るだろう。

マミコを見つけ出す事が出来るだろうか。

函館に、来るだろうか・・・

今は、消えてなくなってしまった、土管公園を見に来るだろうか。

僕は、赤い帽子のてるてる坊主を、ベランダから外した。ダウンジャケットを着て、手袋をして、家を飛び出した。じっとしていられなかった。
西日が、すっかりと傾いていた。僕は、函館の街を歩いている、マミコを想像した。脇に抱えた、てるてる坊主と一緒に、車に乗り込んだ。
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」9話

2008-12-05 22:11:57 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
僕は、男の子とアヤちゃんと、マミコの事を考えていた。
昨日の出来事を何だか、映画を観ているように心の中で、観ていた。赤い帽子のてるてる坊主との出会い。僕の歌を歌ってくれたアヤちゃん。学校の前で、寒さをこらえて待っていた男の子。そして、病気と闘っているだろうマミコの事を。
小さかった僕のマミコを遠くから見送った景色が、虹色のように僕の心にかかった。

ピンポーン。

チャイムがなった。僕はドアへ向かった。
「はーい」
僕の声に反応して、外から声が聴こえた。
「向かいの山下です」
アヤちゃんのお母さんだ。
僕は、ドアを開けた。
長い髪を、後ろでまとめていて、肩をすぼめて笑顔で挨拶をしてくれた。
「昨日は、ありがとうございました。」
こんなに、若かったんだと、改めて感じた。目と目を合わせて、話なんてした事がなかったから。
「何も、いんですよ。僕も、昨日、仕事や、バンドの練習で遅くなってしまい。報告できずにごめんなさい。男の子からは、何か連絡ありましたか」
「お母さんから、連絡がありました。お礼の電話。でも、アヤちゃんときたら、電話に出たくないって、意地を張っちゃって。」
「そうなんですか」
「これ」
そういって、指でつままれた赤い帽子を、僕に見せてくれた。何だか、お母さんの頬もほんのりと赤く染まっていた。
「あれ」
僕たちは、笑い声を交わした。そして、どうぞと、僕のほうに差し出してくれた。僕は手の平を広げて、お母さんの指の下に伸ばした。赤い帽子とお母さんの指が、僕の手の平に触れた。ひんやりと冷たい指先だった。心の温度が1度下がったような感じがした。逆に僕の頬も赤く染まってしまったような気がして、恥ずかしくなって、下を向いてしまった。
「てるてる坊主、拾って下げていてくれたんですね。」
「はい、アヤちゃんのと知らずに」
「ありがとう」
「とんでもない。もらっていていいのですか」
「もちろんですよ。いつも、ステキな歌まで、聴かせてもらってしまって。ゴメンナサイ。気持ち悪いですよね。そんな、いつも聞き耳たててるわけでもなく。あの、たまたま」
「いんです。いんです。何だか、僕も、とっても嬉しくて。本当です」
「アヤちゃんが、ある日気づいたんです。隣から、音楽が聴こえてくるって。あの子、病気から、ほとんど出られない状態になってしまって、あなたの歌が、アヤちゃんの支えや癒しになってくれたんです。いつのまにか、一緒に、鼻歌交じりで歌うようになってた」
「病気、悪いんですか」
「いえ。少しずつ、よくなっていくはずです。」
「よかった」
「お願いが、あるんですが、これから歌ってあげてもらえますか。アヤちゃん、昨日の事で落ち込んでいて。歌聴きたいなって、壁際から離れないんです。」
「もちろん」
「ありがとうございます」
お母さんは、振り返り、玄関を出た。空気が動き、とてもいい匂いがした。僕は、思わず、声をかけてしまっていた。
「あのう・・・」
「はい」
「これ、ありがとうございます。」
お母さんは、ニッコリと笑って、自分の部屋へと入っていった。
赤い帽子が、戻ってきた。

僕は、部屋に戻り、いつもよりも壁に近づいて、歌の準備をした。
見えない、壁の向こうの、アヤちゃんと、お母さんに挨拶をした。
「こんにちは、では、歌います。聴いて下さい」

   ポケットの中は いつも
   虹の欠片を 詰め込んでいた
   誰にもわからない 宝物でいっぱい
・ ・・・・

僕は、バラードを選んで、歌った。
3曲目の途中で、外の声に演奏がさえぎられた。

「アヤちゃん。アヤちゃん」

僕は、ベランダの窓から外を見た。
男の子だった。トラックが停まっている。
出発なんだ。さよならを言いに来たんだ。
アヤちゃん聴こえているのだろうか・・・

間もなく、窓の開く音が聞こえた。

「ゴメンナサイ」
お母さんの声だ。アヤちゃんは引っ込んで出てこないんだ。
どうして。

男の子が残念そうにしている。
「ゴメンネ。啓太君。頑張ってね」
また、お母さんの声だ。

僕は、壁に額をつけて、アヤちゃんにメッセージを送った。
「アヤちゃん。さよなら言ってあげて」

涙をこらえるアヤちゃんの姿が、心に映った。
互いに、言葉を交わしてほしかった。
僕と、マミコの時のようなサヨナラだけはしてほしくなかった。

トラックのエンジン音が聴こえた。
ドアの開く音。

僕は、叫んでいた。
「アヤちゃん。サヨナラを言ってあげて。自分の為にも」

タイムスリップしていた。小さな僕が、壁の向こうにいた。僕は、小さな僕に言い聞かせていた。どうして、あの日、マミコを追いかけて、サヨナラをいわなかったんだよ。どうして、想いを伝えなかったんだよ。想いは残ってしまうんだよ。ほんのりと甘い、温かい思い出のシミに、何で出来なかったんだよ。

僕の願いが、アヤちゃんに通じた。アヤちゃんの声が、聴こえた。
アヤちゃんの声が・・・
聴こえた。

「啓太君」

僕は、目を閉じる。心の中で、あの頃の僕が、マミコを呼び止めていた。

「サヨウナラ。啓太君」

僕は、マミコに手を差し出していた。

「アヤちゃん。手紙とこれ。ありがとう」

僕は、マミコと握手をしていた。僕、マミコの事が、好きだった。もう一度、こっくりさんしよう。

「啓太君、ありがとう。啓太君、ありがとう。」
「アヤちゃん。バイバイ。手紙、必ず書くから」
「うん」

アヤちゃん。ありがとう。
ドアの閉まる音。過ぎ行くトラックのエンジン音。
アヤちゃんのすすり泣く声。
ベランダの窓が閉まる音。

僕は、ギターを持つ。

  心配だから いつも手をつないでいたんだ
  何のあてもなく だた 明日ばかりを信じていた
  二人で寄り添うことで 全てのもの見ようとしていた
  見える気がした
  ・・・・・・・・・・・
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」8話

2008-12-01 16:22:59 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
てるてる坊主の赤帽子は、予想通り飛ばされていた。
今朝は、普通のてるてる坊主が、僕のベランダに風に揺れていた。
今日は、早めの出勤にしよう。雪が、予想以上に降り積もった。
僕は、部屋を出た。
車には、こんもりと雪が乗っかっている。
雪を払う手が、一瞬にしてコチコチだ。
吐く息も、真っ白。雪雲がようやく薄くなり、太陽の輪郭が現れはじめていた。

アパートの入り口が開く音がしたので、目をやった。
向かいの親子だ。ここに引っ越してきて、初めて見るような気がする。
お母さんは、折りたたんだ車椅子を広げて、女の子を誘導していた。
足元が、少しふら付いているようだ。
障害を抱えているのかな。
でも、二人とも、とてもいい笑顔で話をしている。
何となく、僕のほうを見て、笑って挨拶をしてくれたように感じたので、僕も頭を下げた。
でも、違うかもしれない。
女の子の手には、リボンのついた袋が抱えられていた。
お母さんは、女の子に、赤いひざ掛けを、かけて、この寒空に備えていた。手袋と、帽子。
お母さんは、車椅子の後ろに回り、ゆっくりと押し始めた。
大丈夫だろうか。どこまで行くのだろう。
声をかけたい気持ちに駆られたが、勇気がなかった。でも、お母さんは、しっかりと、車椅子を押して、歩き始めた。
寒い、向かい風が、女の子に当たっていた。
お母さんは、心配そうに、時々、女の子の顔を覗き込み声をかけていた。

僕は、自分の車の雪を払い終え、車のドアを開けた。

 時を重ねた 思い出の 数々を
 ラララー ララララー
 ラララ  ララララー ラララー

僕は、自分の耳を疑った。
「僕の、歌だ」
女の子の、やさしい歌声にのって、僕の歌が聴こえてきた。
僕は、車に乗り込もうとするのを止め、親子を振り返った。

女の子が、泣き顔で僕のほうを見ている。
どうしたの。
痛みをこらえる、歪んだ泣き顔だった。

僕は、車のドアを閉めて、親子の方へ歩いた。
女の子は、包み紙から中の物を出した。

赤い帽子のてるてる坊主。

つながった。
僕の中で全てが、つながった。
「僕に任せて」心で叫んだ。
僕は、女の子に駆け寄った。

「大丈夫」
「すみません。やっぱり無理だったみたい。」
「救急車呼びますか」
「いえ、家に戻って、薬飲んで、温かくしていれば、落ち着いてくると思います。学校の前の・・・」
「わかってます。」
「えっ」
「後は、僕に、任せて。早く家に、戻って」
僕は、女の子から、プレゼントを預かった。
手紙に綾子と書かれていた。
「アヤちゃん」
なんだか、急に、涙が溢れてきた。小さかったマミコと重なった。
僕も、小さな頃の自分に戻っていた。

僕は、プレゼントを抱えて、学校の前の赤い帽子のてるてる坊主を目指し、走った。

 時を重ねた 思い出の 数々を
 今更のように 眺めてみる
 掛け違えた ボタンのように
 ずれたままの 今の僕

アヤちゃんが、僕の歌を歌って、呼びかけてくれた。
アヤちゃんが、僕に想いをたくしてくれた。
僕の歌を歌ってくれた。
 
 やさしい 笑顔なんて いらないから
 その声を この手のひらの上に、のせて下さい。

左に曲がると、学校の前が見えた。
マロニエの樹と、赤い帽子のてるてる坊主と、男の子が、遠い昔の僕の写真のように目に写った。
男の子は、寒さをこらえて、アヤちゃんを待っていた。

僕は、息をきらせながら、男の子の前で、足を止めた。そして、プレゼントを渡した。
「アヤちゃん。無理だった。でも、頑張ったんだよ。ゆっくりと向かっていたんだ、君のもとまで、ほんの少しだったけど、距離を縮めたんだよ。僕は、同じアパートの住民。たまたま側にいて、代わりに、このプレゼントを渡してほしいと頼まれたんだ。」
「ありがとうございます」
「じゃあね」
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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」7話

2008-11-29 21:17:02 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
綾子は、金曜日に渡す、手紙を書いていた。

啓太くへ
元気で。がんばってね。
いつも、ベランダのしたから、声をかけてくれて、ありがとう。
クリスマスには、まだ早いけど、わたしからの、クリスマスプレゼントです。
赤いぼうしのてるてる坊主。
ひっこしした家にクリスマスの日まで、かざってくれたら、うれしいです。
それでは、さようなら。     アヤコ

「アヤちゃん。何だか、今日から、また冷え込むって。今夜から雪が続くみたい。ママ、やっぱり心配だな。金曜日。」
「行ってみるよ。見て。手紙と、てるてる坊主。渡したいよ」
「わかった」


冷たい風が、昔住んでいた、町を、吹き飛ばしたようだ。今夜から、雪が降るらしい。風が強くなってきた。目の前の景色は、昔の面影は、何一つ存在していなかった。
「公宅も、全部、建て替えたんだな。」
僕は、5号棟。マミコは6号棟。その昔の公宅は、最新のデザインに変わっていた。短いようで、長い25年。
僕の背中の方にあるはずの、土管公園も、姿を消していた。全てが、きれいに、消し去られていた。
「本当に、短いようで、長い25年なんだな。」
そうだよなと思った。
だって、小さな、僕と、マミコが、この町に住んでいたのは、間違いのない事実だけど、あまりにも、目の前の景色ときたら、僕たちの状況ときたら。
「変わりすぎた」

確かめようのない、マミコの告白。25年振りの告白。

左頬に、冷たいものが、当たった。
「雪だ」
その、瞬間に、かなりの雪が、横にラインを描き始めた。

さて、これから僕が、マミコにしてあげられる事は、あるのだろうか。
祈ること、だけですか。
そうなのだと、思う。待つしかないのだと思う。
「帰ろう。この風じゃ、てるてる坊主が心配だ。折角の、赤い帽子が飛んでいってしまったら大変だ。今日は、バンドの練習日だったな」


綾子は、外を眺めていた。横殴りの雪が、予報通りに、降り始めたからだ。少し、センチメンタルになっていた。
「あーあ。雪。もう、嫌になっちゃう。てるてる坊主さん。何とかなりませんか」

その時、雪に混じって、赤いものが、一緒に目の前を通った。
「あれっ。ママ。ちょっと来て。ベランダの窓開けて」
「どうしたの。啓太君」
「違う。あっ、飛んじゃう」
お母さんは、慌てて、窓を開けた。その瞬間に、赤いものは、又、風に運ばれてしまった。アパートの裏の小さな小道の地面に落下した、白く染まりはじめた地面にとても、目だった。赤い物の位置を確認して、お母さんは、外に出た。

綾子は、わくわくして、赤い点を、部屋から、見ていた。
お母さんは、赤いものを拾い上げて、綾子に合図を送った。
そしたら、今度は、指を指して、笑っている。綾子は、目を丸くして、自分を指して、お母さんを見た。
お母さんは、違うという振りをして、隣っていう合図をしていた。何だかわからなかった。
でも、それが、赤いてるてる坊主の帽子である事だけは、わかった。
「何で」

お母さんは、ニコニコして、戻ってきた。手には、赤い帽子を持っていた。
「どこから、飛んできたんだろう。学校からなわけないよね」
「と・な・り」
「えっ」
「帽子のなくなった、てるてる坊主が、風にゆれてた」
「ひろってくれたんだね」
二人は、面白くて、笑い転げた。

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「クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主」6話

2008-11-27 23:02:51 | クリスマスデイ 赤い帽子のてるてる坊主
買物を終えて、アパートの敷地内に入ると、さっきの男の子とすれ違った。入口の方に目をやると、お隣のお母さんが、見送っていた。隣同士だというのに、初めて、姿を見たような気がする。細い人だな。肩のラインが、あまりにも、弱々しく感じた。白のフワフワのカーディガンが優しそうな笑顔を引き立てていた。直射日光をさけるように左手で髪をかき上げる仕草。シャランと音が聴こえるような、動きを見せた、黒くて、とても長い真っ直ぐな髪。男の子に、笑顔で手を振っていた。僕にも、会釈したような気がしたけど、違うと思う。振り返り、階段を登っていった。僕は、自分の場所に車を停めた。買物袋から、ボジョレヌーボが顔を出していた。買ってしまった。

今日のメニューは、アサリと大葉のパスタ。エリンギのグリル。カキフライ(20%オフのお惣菜)。こんなところでしょうか。千円以内のワインの目標が、いとも簡単に誘惑に負けてしまった。調理に取り掛かる前に、パソコンのメールをチェックをしようと思った。マミコのメールがとにかく、気にかかり、毎日、今日こそはと、開いていた。立ち上がりの合間に、35缶のビールを開けて、5口流し込んだ。

「来た。マミコからだ」
クリック。

ケンジへ。
ゴメン。本当に、ゴメンナサイ。心配させてしまいました。ちょっと、混乱しています。どうしたらいんだろう。
病状、かなり悪いかも。旦那の気の使いようからも、それを感じます。
自分で、そう感じます。色々なものが、又、見えるようになってきて。感じるようになってきて、おかしくなりそうです。息子も悲しませてしまっている。
どうしよう。
ケンジとの再会も、ある意味、残り少ない私へのプレゼントだったのかな。
どうしよう。
こんな、状態だからって、ケンジに会うなんて事も、出来ない。旦那と、息子。家族が何よりも、大切だから。
だから、こんな状態だからって、ケンジも会いになんて、絶対、来ないでね。
でも、辛いな。
治療に専念します。可能性を信じます。
いい報告が出来る様に、治療に専念します。
ケンジ。
ケンジ。
このメールをひと区切りにします。
必ず、必ず、いい報告のメールをします。
再び、メールが届く事を信じて、祈っていて下さい。
「サンタさん。ケンジと会えます様に」
ケンジ。
ケンジ。
一つ、黙っていた事があります。あの頃住んでいた、公宅って、まだあるかな。
ケンジが毎日遊んでいた、土管公園まだ、あるかな。
25年振りの告白。
引越しのトラックに乗り込む、少し前に、私、土管公園に行って、土管に潜り込んだ。マジック持って。何色の土管だったかな。大き目のやつだった。何て書いたと思う。

ケンジ 今日のこの日まで大好きでした。今も。マミコ

そう書いて、公園を出ようとした。私の視線に、ケンジの後姿を見つけたの。
空っぽになった、私の部屋を見上げるケンジを見つけたの。

私、心の中で、ゴメンナサイって言ってた。
土管に戻って、書いた言葉を、塗りつぶしたの。

私の、思い出。私だけの思い出。初公開。

ケンジ。これは、時のいたずらなの?教えてよ。
何で、今頃出会うのよ。
みんな、大切すぎる
25年振りの再会なのに
25年の時の壁をどう払えるっていうのかしら。

会うべきではないと思う。
例え、元気な自分だとしても、会うべきではないと思う。

許して。
こんな、メールを許して。
どうか、気持ちだけ、どうか、この言葉だけ。ただ、一方的に言わせて下さい。

心の中は、土管にいる私に、戻ってしまった。
大好きです。
大好きです。
ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。ケンジ。kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk


僕は、怒りに似た、やり場の無い、感情で、マミコのメールをただただ、眺めていた。マミコのやり場のない、感情も、最後の文字から響いてきた。僕は、ボジョレーをあけ、そのままラッパ飲みした。

時の壁の厚さに 手を伸ばしても
届かない 届かない
君の声は届いた気がしたのに

この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい
この腕で抱きしめたい

訳も、わからず、感情を歌にしていた。弦を切ってしまいたかった。指が切れてもいいと思った。おかしいくらいに涙が溢れ出していた。今すぐこの腕で抱きしめたかった。

どうして 抱きしめて上げられないの
どうして ここにいないの


綾子とお母さんは、何も話さず、ギターの音に反応して、壁に近づいた。いつもと感じが違った。
「泣いているの」
「私も、涙が出てきちゃう」

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