イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

すみッコで済まないミゼラブル ~散財のアーム情~

2020-06-20 19:44:58 | 本と雑誌

 先日そんなわけでリラックマストアに一緒に行くことになった非高齢家族の知人若年女性は、すみッコぐらしの定番商品=てのりぬいぐるみの全キャラコンプリートを志しているらしく、「コレとコレは持ってる、親の家にある、コレとコレは持ってない」と、店がすいてるのを幸い、選びながらかなーり丹念に月河にキャラ別プロフィールを解説してくれました。

 ご存じの通り食べ物キャラ偏愛の月河も、ついつい食べ残されチームの“とんかつ”さんと“えびふらいのしっぽ”ちゃん、“あじふらいのしっぽ”ちゃんを買ってしまった。プチサイズのぬいぐるみにしては、それぞれのコロモの質感、色調の再現っぷりがこまやかです。

 4月からうちにいるサンリオ組こぎみゅん(←こちらはピュアに小麦粉そのものの妖精)の、ほわほわ感とは違う、パン粉由来のツブザラ感がなかなかリアル。「おにく1パーセント、しぼう99パーセント、あぶらっぽいので残されてしまった・・」とんかつの端っこさんは、お肉の中まで火が通るようにじっくり揚げられた結果、脂肪がにじみ出たのか、えびちゃんあじちゃんよりちょっと浅黒め。このへんもリアル。

 若年の連れがぬいぐるみとぶらさげマスコットを物色しているあいだに、当方は文房具の棚でA4の、いい感じに総イラストで透けないクリアファイルを見つけ、たまたま“すみッコたちがなぜかみんなで恐竜や古生物の着ぐるみを着て遊んでいる”絵柄のがいたく気に入りました。

 「キョウリュウジャーおもしろかったなあ・・リュウソウジャーは途中下車したけど」等とツボりながら絵柄を見ていて何の気なしに連れに「このさ、“とかげ”って、本当は恐竜なんだよね?」と話しかけたら「そう!そう!!すっごくかわいそうなのっっ!!」と怒涛の勢いで食いついてきて、物色中だったマスコットの“とかげ”と“とかげ(本物)”のタグを見せながらまたまたひとしきり熱く解説。なんだか、二十年ほど前の、平成ライダーの沼に沈み中だった自分を見るようで微笑ましくなりました。こうやって“世界観”を作って、贔屓キャラひとつできればそこからズブズブ、全ワールドすみずみまで掌握したい欲にとり憑かせていくシステムなんですよねぇ、キャラビジネスっちゅうものは。

 月河はライダーの後もスーパー戦隊をフォローしていたので、“”の心理はとてもよくわかります。いちキャラ個体だけに興味があって、同じグループ、ユニットの他メンはどうでもいい、とはなりません。今年のレッドかっこいいわ、斬新だわとなったら、ブルーにもイエローにもピンクにも、追加戦士にも敵キャラにも活躍場面がたくさんあってほしいし、キャラが立って、人気が出てほしいと思う。ひとりだけいつも冴えないキャラや、足引っ張りイラつかせ担当みたいのはできてほしくない。

 だから、サンリオのはぴだんぶいのように、ちょっと懐かしめになってきた中堅キャラを数個体あつめて、仮想バンド組ませてユニットでプレゼンしなおすというのは、古い様で、結構ツボを突いた商法だと思うんです。

 それからキャラ商法で要注意なのは、今般の連れの若年女性を見ててもわかるように、無用に“コンプリート志向”が芽生えてくることね。贔屓キャラ関連商品の“すべてをゲット”したくなるという。同時期に、ぐでたまならぐでたまの或るアイテムが4色とか5パターン売り出されると、最初にいちばん好みのカラーで好みのポージングのバージョンを買うのは当たり前なんですが、「ほかにもあんな色のも、こんなデザインのもあったな」と思うと、どうも落ち着かない。

 結局後日ショップを再訪して、前回買わなかったやつを買い足したりする。んで、たまたま、そのバージョンがソールドアウトで棚のスペースがそこだけ空いてたりすると「自分が気に入ったやつより、あれのほうが人気あって先に売れたんだ、クッソー」とかさらに無用に焦燥にかられたりなんかして、路線の反対方向の駅地下の別ショップまで探しに行ったり、そこにも無かったらネット検索して送料かけて取り寄せたりする。

 んで、次のアイテムからはネットであらかじめ発売スケから調べて全パターン予約入れたりなんかして。「絵柄違いばっかり4個もあったってどうすんだ」「好きな絵柄1個だけ買って、3個分の予算は次リリースの商品にとっておいたほうが絶対賢明」と百も自覚しているのに、絞って買った1個を目の前にして「あと3パターンあるんだよなぁ・・・」とモンモンとする。

 ・・・「買わなかった3パターンが売れ残って、次の商品開発のときは最初っから1パターンしか制作されなくなるかも」「全パターン完売した別のキャラに比べて人気がないとラクインおされて、来年度から予算減らされるかも」「アイテム数もロットも小さくなったら、当地みたいな田舎のショップや書店のミニコーナーには回ってこなくなるかも」・・・・等々とネガティヴな方向に妄想がエスカレートして、結局有りガネ数えて足りると確認したら「いけるいける」「推ししか勝たん」とかなんとか自分に言い訳してショップにかけつけることになる。

 こうなるともはや“買い物”“ショッピング”の域ではなく、限りなく推し活、オタ活、いっそ“貢ぎ”に近いですね。そこまでこのキャラ好きかァ自分?推したってキャラは自分に何も報いてくれないぞ?と醒めることも、大人ですからどこかの段階で毎度あるんですけど、「いま買っておかないと、他の誰かが買うか、売れ残って不人気のデータになるだけ」「いま買える自分がここに居るんだから、いまを謳歌しようがたいてい勝つ。

 ・・・どんだけ深いんだ、沼。

 ・・・・まだ沼の深度を自覚していない天衣無縫な若年の連れは、リラックマショップからの帰りがけ「コレいいよ、設定わかるし」「エモいよ」と、『すみッコぐらし キャラクターブック ここがおちつくんです』という書籍を教えてくれました。そうか、エモいか。人が肉声で言うのを初めて聞いたわ、その形容詞。

 税込964円。ソフトカバー110ページほどにしてはお高めですが、紙の地色がクリーム色、4コマの枠線がブラウンで目に優しいし、絵もみんなアースがかったパステルで柔らかく優しい。描線が柔らかめのエンピツっぽいのも見やすい。キャラがみんな物語をしょっていて、ここを突かれたらツラいという弱点がそれぞれ明示されているのがわかりやすい。スーパー戦隊同様、キャラモノの王道。

 キャラではないけど、“アーム”ってのが曲者、この世界観のキーパーソンと見ました。すみっこでホッとくつろいでいると、いきなりどこからともなく現れてすみッコをつかんで持ち上げ、すみっこから連れ出して行くクレーンゲームのアーム。あれは何のシンボルなんだろう。神の手かな。すみッコがすみっこに滞留して安らぎを得ていることを良しとしない何者か。でも、ぺんぎん?(←“?”が重要)さんが自分探しの冒険に出てガケから落ちそうになると、いきなり青天井から降りてきてガシッとつかんで着地させてくれたりもする。お母んか。

 エモいし、深いね。あぁ、月河がスーパー戦隊からやっと暫し距離を置いて関連散財から解放されると、こうして次なるキラーコンテンツがツメを研いでくる。

 世間では、「新型コロナは抑え込めている、緊急事態は解除した、外に出てよし経済回せ、回せったら回せ」と余計なお節介でうるさいですが、人の財布を懐から引きずり出してこじ開けておカネを出させよう、消費させようというタクラミが、世の中そこらじゅうに地雷のように埋まっているのだなあ。

 こうして、この記事を書いている間、傍らから、ぐでたまのもっちりマスコットがニラッとこちらを見ておるし。はいはいムニュムニュ。

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さようならTVBros. ~いつか居たthe future~

2018-04-01 16:37:41 | 本と雑誌

 4月からの年度替わりで区切りが訪れたものがもうひとつ。雑誌“TVBros.”が月一回刊にリニューアルとのことで、先々週発売の3月24日号に同封されてA4二つ折り4頁の「定期購読者各位」という文書が入ってきました。

 スーパーの雑誌コーナーでパラパラ読みの後、買ってきたりラックに戻したり・・という薄っすい付き合いから始まってもう20年以上になります。隔週毎号買うようになってからは、表紙のヴィジュアルが号ごとに違い過ぎ、ある号がアニメキャラかと思えば次の号は洋画、次の号はミュージシャンそのまた次の号は変身ヒーロー・・と千変万化するので店頭で捜しにくいし見つけにくいなアと思ったこともありましたが、考えてみればその頃が自分の中での“Bros.黄金時代”だったような気がします。

 雑誌コーナーのあるスーパーの近くを通らない通勤コースになり、自宅直近のコンビニも交差点の向こうに移転して、「冬場月2回買いに行くのは面倒いから」と前払いの定期購読に切り替えたのが2010年、バンクーバー冬季オリンピックの頃だったと思います。茶封筒に入ってポストに配達された最初の号の表紙は、中学生で彗星のように五輪代表に選出されたスピスケ高木美帆選手でした。彼女がその後しばしの足踏みを経て、堂々金・銀・銅メダリストになった平昌オリンピック終了後にBros.がこうなるというのも何かのめぐりあわせかなと思います。

 “TV”雑誌なのに直接テレビと関係ない連載コラムや映画、音楽などの特集に山ほどページを割く独自の編集方針は月一回刊になっても変えないようで、テレビ番組解説記事だけでなくラジオや映画や音楽、アニメ、コミック、書籍その他“いま話題のもの”“Bros.読者が知りたいポップカルチャー”を幅広く取り上げていくようです。

 「これ本当にTV雑誌だっけ?」とときどきわけわからなくなるのが良くも悪しくも魅力になっている雑誌で、月河もそこが好きで20年来欠かさず頁を繰ってきたのですが、文書の冒頭で“テレビ番組表の掲載廃止”をはっきり打ち出されてみると、「あぁ、じゃあ要らないや」と、驚くほどきっぱり決められる自分がいました。

 デジタル放送になって8日後までの番組表はテレビでボタン一つで直に見られるようになったし、スマホユーザーならいちいちテレビのスイッチをつけなくてももっと詳しく見られるのかもしれませんが、高齢家族に「来週の〇曜日の何時からどこチャンネルでホラ・・」と開いてマーカーつけて見せられる紙媒体の、しかも二週間分の番組表はやはり便利で心強いものでした。それが載らなくて、ポップカルチャーや解説てんこ盛りなだけのホンが月一回届いてもあまり嬉しくないし、結局めくって見ないだろうなというかなり確実な予感がありました。

 結局、雑誌そのものが見ている方角というか射程の中に、月河が入らなくなってきたのだろうと思います。それ以上でもそれ以下でもない。先に書いた“黄金時代”と思える自分内Bros.盛(ざか)りの頃は、平成仮面ライダーにスーパー戦隊に東海テレビ制作昼帯ドラマ、深夜アニメMONSTERやウルヴズレインと、「別に巷間大ブームになっているわけじゃないけど自分内でブーム」な事と、Bros.でフォーカスされる分野とが恐ろしいほどシンクロしていました。当時は巻末プレゼントコーナー『こんな私でよかったら』の当選率も結構、高かったような。賞品が届くより、応募はがきに当該号の感想と次号以降への希望をねっちり書き込むのが楽しみでした。遅れてきた“はがき職人”時代ですな。

 自分が面白がっていることをBros.も面白がっているわというシンクロの楽しさ、誌面を開いて感じるワクワク感が味わえた最後は2013年春と秋の『あまちゃん』特集だったと思います。

 単なる皮膚感覚ですが、いつからだったかアーティスト星野源さんを繰り返し熱く表紙や特集で起用するようになった頃から、月河のBros.体温は右肩下がりになっていった気がします(星野さんはどちらかというと好きな俳優さんなんですけどね。いまだに『ゲゲゲの女房』で岩海苔採りに行って帰らぬ人となった貴史さん、『紅白が生まれた日』のGHQ通訳も)。

 気がつけば『鎧武(がいむ)』を最後に仮面ライダーからは離れ、昨年の年度途中に放送時間帯も変わり、東海テレビ昼帯ドラマはどんどん予算が縮小されて作品に勢いが無くなり、2016年度末で枠自体廃止されました。自分の中での、テレビ、テレビの番組、テレビに出ている人たち・・等に対する興味関心が薄まってくる、というより興味関心高かったエリアが下火になってくるのと、Bros.購読への体温低下とは(いくらテレビ以外のコラムや特集が満載でも)意外なほどに同時進行だったようです。

 これだけ長く欠かさず座右に、あるいは枕頭に置き続けてきた紙媒体は、高齢家族がいまだに宅配購読している全国紙新聞を除けば、自腹ではTVBros.だけでした。ひょっとすると紙媒体“全般”との付き合いも、これを機会に見直すべき時期にきているのかもしれません。

 TVBros.の毎号の表紙の誌名ロゴの傍に“the TV magazine of the future”というキャッチフレーズが、月河が店頭でパラパラするようになってからずっと現在に至るまであり、隔週刊最終号となった3月24日号では表紙下部のPerfumeと広瀬すずさんの写真の下に黒太ゴシック体ででかでかと印刷されています。

 月一回刊になってもこのキャッチは引き継がれるのかもしれないし、引き継がれてほしいとも思いますが、そのfutureの中に、月河は居ません。いつか戻ることがあったとしても、そのときは全然違うBros.になっているのでしょうね。それもまた良し。

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ボスの機嫌のいい時に

2009-05-28 00:05:51 | 本と雑誌

本日発売のTV Bros530日号、掲載番組表は5.30>>6.12.)、表紙の追悼・忌野清志郎さんは本当にいい顔をしておられますね。

この顔を全面に載せるために、いつもの同誌表紙の、ごちゃごちゃおもしろカオスレイアウトな特集リードとか見出しはいっさい無し。TV、ラジオでも追悼特集組んだ媒体は数多かったけれど、音楽専門誌でもないのにこれだけドアタマから表敬した雑誌は他にないんじゃないでしょうか。

…こういうことをブログで書くときは画像ぐらい載せるもんだよとブチブチ言ってるそこのアナタ、そうアナタ!今日発売ですから、いまからでも遅くはない、直近のコンビニに飛び込んで、手に取って有難く拝みたまえ。そして特集記事熟読用、番組表チェック用、友人知人に布教用、永久保存家宝用と、最低4冊は買うよろし。1210円、4冊買ったって840円、向こう1ヶ月“週一はビール禁”を貫けば浮く金額ではないか。

月河は“向こう4ヶ月、月一禁”で浮かせようと思ってるわけですが。繰り延べ繰り延べ。

いや、別に東京ニュース通信社の回し者ではないんですけど、追悼アピールこんなに直球だと、ものすごくスペシャル感があるんですね。念を押すようだけど、音楽・ロック専門誌ではないのだし。

清志郎さんの御尊顔アップを改めて眺めるに、顔のあの位置にヒゲ立ててあんだけ似合う人も稀有ですね。成人男性なら、生やし伸ばせばヒゲは必ず生えるし伸びますが、ヒゲの伴う顔のパーツ数ある中で、ほかは剃ってアソコだけ伸ばそう、立てよう、保とう、と考える人は少ないと思います。

考えて、かつ実行する人はさらに少ないし、実行して、かつ似合う、絵になるサマになる人はさらに少ないと思う。そこらの一般人がアレ、やってごらんなさいな。怪しいチャイニーズマフィアにしかなんないから。

媒体で訃報に接して、「忌野清志郎(本名・栗原清志)さん(58歳)」に、あぁ本名も、年齢もあったんだ、と不思議な感覚さえ持ちました。ナチュラルヘアメイクの近影だと、普通に日本人の、50代にしては若々しい男性なのに、なぜか国籍も出生地も不詳に見える。

ひょっとしたら清志郎さん、報道では、法的にも、亡くなったことになっていますが、「ちょっと、いままでとは違うどこかに行ってみてる」だけかもしれない。“この世”も“日本”も、彼にとっては同じ地平の部分集合なのではないかと。

彼が“ちょっと”どこへ行って留守にしようと、彼の音楽は不滅に残されています。

歌い続けていれば、我々も、“ちょっと”彼のいる場所に行けるかもしれません。

ところでそのTV Bros今号、裏表紙、編集上言うところの4ね。これも「おぉ!」でした。もちろん、広告なんですけどね。具体的に言えば、保健機能食品のガムです。プロ野球チームも持ってるあの会社の広告です。

1の清志郎さんに釣り合うように、コレ持ってきたのかな。あるいは広告のご本人が「表1がソレなら俺、表4出たいんだけど、そこんとこヨロシク、OK、ビッグ」とか“逆オファー”して……なんてことは…

島崎俊郎さんたち、ヒップホップのひょうきん族時代のネタでは共演してますしね……いや、自分がそう思いたいだけか。

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えころじいすと

2009-02-09 21:33:55 | 本と雑誌

最終GP放送前日にどうにか入手した『炎神戦隊ゴーオンジャーキャラクターブックLet’s GOON!!!!!!!(←“!”が7ヶ。もちろんメンバーの人数にこだわったんでしょうな)』(定価税込2,200円、東京ニュース通信社)を深夜読みふけって寝そびれてしまいました。

…しかし、日本全国でいちばん不況の淵の、そのまたどん底深度に落ちぶれ倒していると思しき当地の、商業施設閉鎖・廃業・休業・良くて縮小移転ラッシュはすさまじいものがあります。2ヶ月3ヶ月先の発行予定の本の予約などうっかりできない勢いになってきました。

ネット通販の至便性は理解しつつも、なるべく近隣の古くからある本屋さん、レコード屋さんがこの先も存続できるよう買い支えたいなと思っていたのですが、悲しいかなそんな悠長なことも言ってられなくなってきたかも。ちょっと脱線。

この本は2,200円分のモトをとるためにもとことん熟読するつもりなので今後もちょくちょく文中言及すると思いますが、いちばん興味深かったのが巻の後半深いところに収録されているP三人衆匿名…ではない座談会(匿名にしたら『噂の眞相』になってしまいますね)。特に、主要キャスト選びの話は興趣尽きないものがありました。

イエローの逢沢りなさんは全P一致で「一目惚れ」。

とにかく「オーディションに来た子の中で、いちばん可愛かった」(郷田龍一P)。プロフィール真っ白(=過去の出演経験がない)で、とりあえずマネージャーさんに連れて来られましたみたいな感じだったけれど、理屈抜き可愛い、性格もいい、抜群の存在感で、演技力なんたらもいっさいぶっ飛ばす勢いだった様子。いち視聴者として見ていると、序盤は当然メンバー中いちばん素人っぽかったのですが、確かに“性格のよさと現場での好感受け容れられ度でお釣りが来てる”とひしひし伝わってきてました。こういう新人さんは週刻みで上達するなと思ったら、果たせるかな週ごとどころか、1話の中でもわかるくらいみるみるこなれてきた。

シルバーの杉本有美さんは、すでにグラビアで大人気で、オファー出演依頼してもいいくらいの認知度があったそうですが、書類選考に来た中にさらっと名前があって「おおっ、山の中に(宝が)入ってた!」(和佐野健一P)と嬉しい驚きだったそう。動いている絵を見たことが無くそこが不安かなと思ったら、ちょうど直前に舞台に出演中で、演技もいけることが確かめられたとのこと。

こういう話を聞くと、役者さんと作品との出会いは本当に縁(えにし)の糸だなという気がする。カッコいい、かわいいニューカマー毎年カモンなヒーロー番組を手がけるPさんなら、巷にあふれるグラビア・グラフ・ポスターの類は年中チェックしていて、「このコいいな」と脳内パドックに入れている顔、名前はひとりふたりではないはず。なのに声をかける前に“山の中に入ってた”ということは、要するに『ゴーオンジャー』という作品が、パドック周回中の他の顔ではなく、杉本さんをピンポイントで選んで呼び寄せたのです。「ここだよ、ここに来れば輝けるよ!」

 ボーイズ諸君の選考秘話も納得を通り越して、ほとんど抱腹もの。グリーンの碓井将大さんは「いちばん(イメージしていたグリーンの)役とシンクロしていた」「(演技)経験はないんだけど感覚だけでセリフを読むと、その感覚がズバ抜けていた」(和佐野P)グリーンの、というより炎神バルカのキャラともシンクロしてルデンテ(苦)。

…ただ、イエローの逢沢さんと、碓井さんと、メンバー中2人が実年齢16歳ということになり、“車を運転する”というゴーオンジャーの設定上リアリティがなくなるのでは、との心配はあったそうですが、案じめさるな。後から自薦で加わった2人のもう1人、ブラックの海老澤健次さんが「いちばんの予想外(笑)」(和佐野P)のキャラ立ちで、きっちりグリーンと描き分けられて大成功。

P さんたちが愛をこめて“エビちゃん”と呼ぶ海老澤さんはオーディションの途中までは、ふにゃっとした感じとか癒し可笑しい系の笑顔が前面に出て、「コイツは(ハードボイルドキャラの)ブラックだけはないな」(日笠淳P)と思われていたのが、3次オーディションぐらいまで行ったとき、「彼がコワモテを演じるときの、滲み出てくる変な感じが、急に“うわっ、面白い!”と思えちゃった瞬間があって、以降それ以外見えなくなった」(同)「ボクは全然印象がなくて、最終選考でも“(セリフを)もっと渋く、低音で”とやらせてみたんだけどなかなかうまくいかなくて」(郷田P)「でもその、一生懸命ニヒルを演じても隙があるのが、いま思えば今の軍平の魅力の原点になっている」(和佐野P)。

観た側から言うと、海老澤さんも役者としてフレッシュないい味を出していたし軍平も立っていたことは確かですが、もっと言えば“元・警官”かつ“刑事熱望の交番勤務おまわりさん”という設定があっぱれクリーンヒットだったと思う。海老澤さんが軍平役に決まってから練り足された設定なのか、あらかじめだったのかはわかりませんが、“正義のヒーロー志願”「カッコよすぎる…!」(←結構見てくれに食いつく)と、“交番のおまわりさん”との取り合わせが、日笠Pの言う“滲み出てくる変な感じ”とこの上なくナイスマッチだったんですな。杉本有美さんが“『ゴーオン』という作品に呼ばれた”としたら、海老澤さんはそれこそゴーオン次元に波動レベルで存在していた“石原軍平”に呼ばれて、実体を与えたと言っていい。

ブルーの片岡信和さんは「断トツでさわやか」(郷田P)「(オーディションのとき)黙って控室にいた中では目立ってかっこよくて、そこでまず注目。芝居をやらせたらふわっと優しい感じが、今年のブルーにうまくはまった」(日笠P)「いい意味で生真面目。“(セリフを)あと偏差値10ぐらい下げてやってみて”って言ってもなかなかできない。何回やっても、博識で、みんなを一歩引いて見てる感じが出てしまう」「古原(靖久さん)が走輔だとしたら、もう片岡は連、という感じだった」(和佐野P)。

かつては“クール理知的”の代名詞だった戦隊ブルーが“ふわっとして優しい”だけでもかなり解釈咀嚼がむずかしいのに、“世話好きオカン”という属性を加えられて、たぶん7人の中ではいちばん難役だったのではないでしょうか。これも片岡さんがブルーに決まってから出来た設定かどうかわからないのですが、この難関をほとんど“生真面目”だけで貫ききったのが、片岡さん自身もスタッフさんも偉いし度胸がある。

家族の中における“オカン”とはどういう役割どういうポジションだからして、演技としてはこれこれこういう…みたいな、いやが上にもコムズカシくする逆算分析をいっさいスルーして、“作った料理が美味しく安心して食べられそう”という清潔感、几帳面さをとことん前に出した。他のメンバー(キビしく言えばガールズも含めて)のプライベート料理姿、出来上がりっぷりを想像すればわかる。

月河個人的には、オカンキャラがらみのエピより、ガイアクアを浴びて“期間限定ワル”化し、走輔と「コウサカさん」「走の字」と呼び合っていた回の連が好きです。一度ワル化ヴァージョンを見せてくれたことで、地の連の魅力が鮮明になった。俳優としての片岡さんは、今度は思いっきり根性捩じくれた意地悪役、いじめ役とか、病的に嫉妬深い役なんかで見てみたい。連のような難役でもこれだけ演れるのだから、もっともっと引き出しのある人のはず。

メンバー中別格の俳優キャリアを持ち、唯一オファーキャスティングだったゴールド徳山秀典さんは、イエロー逢沢さんとは別の意味でP一同ラブだったようですね。和佐野Pが『仮面ライダーカブト』ですでに付き合いがあり、大翔のキャラが『カブト』の矢車さんと近いため、「(徳山くんが)同じような役しかできないと思われてしまうのではないか」と逆に申し訳ない気持ちもあったものの、そうした不安を払拭して余りある魅力が彼にはあると判断したそうです。「本当に人格者。性格が良くて顔もいい、歌も作れる」(和佐野P)「芝居ができる、ボクシングもできる。こんなヤツいないよ。生まれ変わったら徳山になりたい(笑)」(日笠P)。いや生まれ変わらないでください。徳山さんはひとりだからいいので(笑)(←マネしてつけてみた)。

観ていた印象では、大翔はやさぐれ兄貴矢車さんとかぶるところは、外枠設定としても内面性としても、そんなにないと思うのですがね。逆に言えばかぶらないように“須塔大翔”を造形した、そこに徳山さんのセンスと力量を見るべきなのかも。

そしてお待たせしました、我らがレッド古原靖久さんは「彼との出会いが『ゴーオンジャー』の準備段階の中で最大の発見」「オーディションではいきすぎた元気とか、周りの空気読めてません!的なところが“どうなってるんだコイツは!?”と思ったけど、そういう、本来なら欠点と思われるところがすべて、いまの走輔の魅力になってる」(和佐野P)「“大丈夫か!?”と思ったところが、ぜんぶ大丈夫だった(笑)」「レッド以外はありえない人」(日笠P)と、ほとんど“古原がいたからこそ『ゴーオン』は成った”と言うに等しい絶賛を浴びてますよ。

“レッド以外ありえない人”とは言い得て妙じゃないですか。月河も古原さんのレッドは、平成戦隊レッドの、と言うより、もっと厳密に言えば21世紀レッドのひとつの頂点をきわめたと言っていいと思う。“熱血”“正義一直線”“リーダーシップ”という伝統的レッドキャラに、“ツッコみどころ満載”という、視聴者側の味読の方法論が加わったからこそ、ゴーオンレッドも企画され得て、誕生し得たし、古原さんが起用され得た。強くてカッコよくてリスペクタブルなレッドに“ツッコむ”という楽しみ方が、前世紀には未発見か、少なくとも未定着だったのです。

21世紀の“ヒーローのカッコよさ”には、“ツッコみどころ”が必須で、逆に“ツッコみ拒絶”は、“ダサい”“愛されない”に直結してしまう。

他と比べて高所にある頂点と言うより、“唯一無二”と言ったほうがいいかもしれない。“ツッコみカモン世代”代表のレッドとしては、今後どんなレッドが現われても、ゴーオンレッドのマネっこに見えてしまうでしょう。それくらい古原レッドはオリジナルだった。

彼の場合は、作品が呼んだキャラが呼んだではなく、2008年=平成20年という時代が、ゴーオンレッドと俳優・古原靖久を、サーキット『ゴーオンジャー』に連れてきて引き会わせたと言うべき。

“時代”と言えばつくづく奇縁だなぁと思うのは、ゴーオンジャーの年2008年が、リアルヒューマンワールドでは世界的に、かつ劇的に“新車販売台数が落ち込んだ”年だったということですね。前述のPトリオ鼎談の冒頭にも、「戦隊シリーズにおける2大ヒット要素は“動物”と“クルマ”」との記述があり、『ゴーオン』はまさに両ツボ押さえた作品だったのですが、大人たちのほうが財政的な問題だけか、他に興味が移ったせいもあるのか、とにかく“クルマ”にあまり食いつかなくなってしまった。

でも子供たちは依然“クルマ”が大好きなんですね。しかも話ができ、コミュニケーションが取れ、「相棒」「バディ」と呼んでくれて友達のように交流してくれたら、もう夢中ですよ。

なんとなく、いまは不本意にも沈滞をきわめる自動車産業の、浮上の手がかりと未来図をも描き出してくれた『ゴーオン』…なんつったら話がサンギョーカクメイですな。

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