君は中2の夏休みに密航してきた。夏休みだけお願いします、そうお母さんから言われ、君が苦手だった1学期の電流電圧の復習をかなりしつこく、英語や数学以上の密度でさせたことを覚えている。夏休み明けの試験対策で過去の問題の答案を眺め、ほぼ仕上がったと確信したのは夏休みもあと数日を残す頃。これでお別れだなと思い、少し複雑な気持ちで最後の夏を過ごしたことを覚えている。
夏休みや冬休み、夏季講習や冬季講習なるものはウチの塾にはないが、それでもそんな感じを期待して塾に密航してくる生徒はこんな塾でもそこそこはいる。しかし、それ以降の通塾への勧誘はしない。営業意欲もなければ、営業センスもない・・・粛々と与えられた仕事に没頭する。さよならだけが人生さ・・・お礼の挨拶に来てくれた時は廊下を降りていく背中越しにつぶやく。たぶん、そんなふうに君を見送ることだと思っていた。
ところが君はさも当然のように9月からも塾に居座っては勉強していた。そんな君に俺は言った、「8月に塾に密航してきた生徒はさ、今までみんな津高に受かってるねん。責任重いで」 ちなみに事実、・・・しかし嫌な奴ではある。
中3になり進学指導ではことごとく津高は無理・・・かなり成績も上がり勝負できると踏んだ2学期末の三者懇談でもダメ押しされた。お父さんとお母さんは津西の同級生カップル・・・そんなご両親、当然のごとく愛する出身校への進学を勧めた。身体を削るような勉強をしてまで津高に行かなくてもいい・・・きっとそんな気持ちからだったのだろう。
毎晩のように午前様、俺のエスティマの長い歴史のなか、戸木のあの狭い路地は最大の強敵だった。その強敵との対峙がひと冬続く。最後の三者懇談直前に、君は視線を逸らしながら俺に言った・・・「先生、津西でもいいかな?」 「そりゃ構へん、オマエが主役の勝負や」
ところが土壇場に弱気になった君に最後の印籠を渡したのは担任の先生、「さつきチャン、ここまで頑張ったんだから津高を受けてみれば・・・」
・・・ったく、一番いいところを持っていったのは担任の先生だ。
そして津高に合格、君は合格発表会場で瞭(20期生・名古屋大学工学部機械航空2年)や慎也(20期生・大阪大学工学部2年)や祐(20期生・明治大学法学部3年)などの津高の先輩から祝福のコーラを悠に50本はかけられていた。スカートのすそからコーラがしたたり落ちる・・・コーラでうすく茶色に変色したシャツを着た君の歓喜の表情・・・あの写真は君の将来の旦那様に謹んで進呈しよう。

君に出会えてよかった。
これからも鼻っ柱の強さを笑顔でひた隠し、闊達として歩んでいくことを願う。











