一寸の兎にも五分の魂~展覧会おぼえがき

美術展のおぼえがきと関連情報をすこしばかり。

「鹿島茂コレクション3 モダン・パリの装い」その1@練馬区立美術館

2013-07-28 | 展覧会
今年も練馬区立美術館で開催されている、鹿島茂先生のコレクション展。

3回目の今年は、「モダン・パリの装い 19世紀から20世紀初頭のファッション・プレート」と題して開催中です。



すでにTwitterをはじめ各方面で絶賛されていますし、昨日は鹿島先生ご自身の案内で作品を鑑賞するという贅沢なイベントも開催され(わたしは仕事のためうかがえず……残念)、展覧会の全容についてはブログ等でも報告されているので、ここでは私自身が心ひかれたいくつかのトピックに絞ってご紹介します。

展示は1階と2階にわかれており、1階は19世紀前半、2階は19世紀後半から20世紀にかけての作品がわりあてられています。


(1階展示室の入り口。ギンガムチェックがかわいらしい)


(展示室入り口のわきには、記念撮影コーナーも)

本展覧会の看板娘、ガヴァルニ描くハイパーおしゃれなおねえさんにはここで会えます。


(ガヴァルニ描く、ハイパーおしゃれなおねえさん、『ラ・モード』1831年より)

個人的には、この1階の作品群のクオリティの高さに度肝をぬかれました。

オラース・ヴェルネ(HORACE VERNET, 1789-1863)が描くファッション・プレート(ファッションイラストの版画)ドレスと帽子のデザインの奇抜さ、ユニークさは、時代を超越した斬新さを秘めています。

何本も百合を差したような帽子やローズ色の房飾りをいくつもつけた白いドレスがなんとも愛らしい「イタリアの麦わら帽。中国風の重ね上着」

ピンクのチェックの使い方がすでに現代的な「薄布のフィシュを上に載せたパーケールのキャポット。パーケールのドレス」

首もとからそでにかけて何重にも重なったレースとちょうちん袖が斬新すぎる、歩くウエディングケーキのような「クレープのついた麦わら帽。モスリンの飾りのついたパーケールのドレス」

形のおもしろさに加えて、色使いの繊細さにもうっとりで、すでにこの段階でわたしとしては興奮気味。

作品は大きさにかわりなく非常に繊細な描写なので、単眼鏡は必須で、じっくり見出すと先に進めません。

ルイ=マリ・ランテ(LOUIS-MARIE LANTE, 1789-)の『才能、地位、美貌により有名となった女性たちのフランス・ギャラリー』という挿絵本はとりあげられる女性たちのラインナップにもわくわくしますが、描かれている衣装の端麗なことに目がくぎづけになります。

ドレスのたて半分(!)に空色の鳥(インコ?いや、オウムか?)の柄をあしらった「ドフィーヌ・ドーヴェルニュの侍女」がダントツに美しく、ほかにもマルグリット・ド・ヴァロワやカトリーヌ・ド・メディシスなど歴史好きにはおなじみの女性たちも登場しますので、フランス史やフランス文学ファンの方にもおすすめです。


(左がランテ、右がガヴァルニの絵はがき。色合いはもっともっとクリアです)

そしていよいよ、ガヴァルニ(GAVARNI, 1804-1866)登場。

前の二人より少し時代がさがったガヴァルニのファッション・プレートはファッションセンスも色彩感覚も人物描写もよりモダンで、日本の少女漫画のテイストにより近い印象が。

あの看板娘のお姉さんは、『ラ・モード』というモード誌のためにガヴァルニが描いたファッション・プレートで「Travestissement Nouveau(ニュー・タイプの仮装)」というタイトル。1831年生まれです。

前にも書きましたが、この赤の色合いと使い方が絶妙です。

とても今から200年近くも前に描かれたファッションとは思えない粋で洒落たセンスにつくづく唖然とします。

そして、女の子の得意毛な表情やポーズの愛らしいこと!鹿島先生曰く、ガヴァルニ描くファッション・プレートの少女たちは「萌え」現象の第一号というのもうなずけます。


ちなみにガヴァルニの作品は実際にはかなり小さいです。しつこいようですが、この展覧会には単眼鏡は必携ですので、お忘れなく。

この展示室には京都服飾文化研究財団が所蔵する当時のドレスが展示されています。

白地に赤の色彩感覚が愛らしいデイ・ドレスなど、ガヴァルニ・テイストなドレスは必見です。


ガヴァルニのファッション・プレートは当時の女性にも男性にも大うけし、ガヴァルニは一躍、ファッション・プレートのスターの座に輝いたそうで、それについては納得。

しかし、当時、「版画」という複製芸術であるファッション・プレートは「芸術」のヒエラルキーにおいては最下位に位置していたので、このことはむしろガヴァルニの「芸術家」としてのキャリアにおいてはマイナスに働き、その後のガヴァルニはファッション・プレートのスターとしての自らのキャリアを「抹殺」した、と鹿島先生の論考には書かれています(鹿島茂「ファッション・プレートの誕生 版画という複製芸術のアイデンティティ」求龍堂刊行の公式図録より)。


(左が「特別出品衣装解説BOOK」。京都服飾文化研究財団のドレス等の写真と解説が掲載されていて、図録には掲載されてません。美術館で300円で販売。右が公式図録。色の再現性が非常によく、必携です。求龍堂刊)

当時、版画芸術に対してもたれていた二流、亜流のイメージについてはわかってはいたつもりでしたが、このクオリティの高さ、すぐれたセンスにもかかわらず、「ガヴァルニのキャリアを傷つけた」とまで書かれてしまうその事実に軽い衝撃を受けます。

夢のような1階展示室をあとにして、2階へ……と思ったのですが……、

……気になったトピックだけを選ぶつもりが、2階にたどり着く前に長くなってしまい、タイム・リミットがきてしまいました。

2階展示室で心奪われたマルティ。そして、マルタンとサティの洒脱について書きたかったのですが……、それはまた次回。

おやすみなさい。

おまけの追記:

ちなみにガヴァルニが『ラ・モード』で活躍した1830年~1831年という年に、どういう絵画作品が描かれていたのかといいますと、

1830年にはドラクロワが7月革命をテーマに「民衆を導く自由の女神」を描き、翌年1831年5月のサロン展に出品して、フランス政府のお買い上げとなります。

文学のほうでは1830年にはスタンダールが『赤と黒』を、バルザックが『あら皮』を書いています。

なるほど、時代の雰囲気が伝わってきますね。




****開催概要****

【会期】:平成25年7月14日(日曜)から9月8日(日曜)
【休館日】月曜日(ただし7月15日は開館、翌日休館)
【開館時間】午前10時~午後6時※入館は午後5時30分まで
【観覧料】一般500円、高・大生および65歳から74歳300円、中学生以下および75歳以上無料(その他各種割引制度あり)
【主催】練馬区立美術館/読売新聞社/美術館連絡協議会
【後援】在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
【特別協賛】資生堂
【協賛】ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン、日本テレビ放送網

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