代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

スーパー堤防事業への固執は災害リスクをさらに高める

2015年09月13日 | 治水と緑のダム
 今回の台風災害における鬼怒川などでの堤防決壊を受けてスーパー堤防を仕分けた民主党政権のせい(とくに蓮舫仕分け人の責任)というごうごうたるネット世論が巻き起こっています。私も、利根川・江戸川の河川整備計画を立案する際の有識者会議の委員としてスーパー堤防事業を予算の範囲で整備することは不可能、予算の裏付けのない非現実的事業と批判し続けましたので、ツイッターで私に対する批判もされていました。

 私は声を大にして主張します。このままスーパー堤防事業を推進することは、日本列島における災害リスクをさらに高めるだけです。その根拠を簡潔に書きます。効率的に安全性を高める賢明な予算の使い方は他にあるのです。

(1)点としてのスーパー堤防整備は線としての堤防全体の強化を遅らせる

 スーパー堤防事業は、堤防幅を堤防高の30倍程度に拡幅するもので、下図のように、拡幅された区間に居住する多くの周辺住民の立ち退きを伴います。スーパー堤防の整備予算は、立ち退かされる住民の数にもよりますが、都心では1mの長さの堤防を整備するのに3000万円から7000万円程度もかかります。利根川・江戸川河川整備計画で、提案されているのは江戸川の左右両岸22km区間ですが、それだけで軽く事業費は1兆円を超えます。よしんば1兆円の予算をねん出できて、その22km区間のスーパー堤防を整備したとしましょう。私たちのなけなしの血税を、その22km区間に集中投下するために、数百キロに及ぶ、利根川の他の堤防の脆弱な区間の堤防強化工事や安全対策がおろそかにされてしまうのです。


出所)国交省近畿地方整備局
https://www.yodogawa.kkr.mlit.go.jp/activity/maintenance/possess/super/super_b1.html

(2)40億円かけて100mの長さのスーパー堤防を整備するのと40億円で10kmの区間の堤防強化工事をするのとどちらが流域住民の安全を高めるでしょうか?

 下の写真は現在、整備されている江戸川区北小岩のスーパー堤防です。写真は、強制的に立ち退かされる以前の様子。現在、これらの住宅はすべて強制的に破却され、盛り土がされつつあります。北小岩のこの区間はわずか120m。長さ120mの堤防を整備するのに要する予算はじつに42億円です。

  

出所) 江戸川生活者ネット、いなみや須美さんのブログより
 http://inamiya.seikatsusha.me/blog/2014/07/04/5702/

 前の記事で紹介したスーパー堤防に代わる堤防強化の代替策は、堤防拡幅を伴わずに、既存の堤防を越流しても破堤しにくい耐越水型へと強化するという提案でした。遮水シートを貼り、ソイルセメントを注入するTRD工法などを併用すれば、越流にもかなりの時間耐えられる耐越水型堤防になります。それに要する予算は、スーパー堤防の100分の1程度ですむことでしょう。
 いったい、私たちのなけなしの税金を40億円使って100m程度の区間をスーパー堤防化するのと、その同じお金で100倍の長さの10kmの区間の堤防を耐越水型に強化するのと、どちらが賢明な税金の使い方でしょうか? 納税者であるならば、答えは自ずから明らかでしょう。
 
 今回決壊した鬼怒川は、そもそもスーパー堤防の対象外です。鬼怒川まで含めてスーパー堤防を整備しようとすれば完成は400年以上先のことになります。危険個所を400年先まで放置せよというのでしょうか? スーパー堤防の推進する人々こそ、喫緊の安全対策を軽視しているのです。


(3)盛り土の上に住むのは地震のときなどかえって危険

 上のスーパー堤防の図をもう一度見て下さい。いちど家を壊されて立ち退かされた住民は、堤防の家にもう一度家を建ててそこに住むように促されています。図をよく見ながら考えてください。皆さんは、盛り土をした堤防の上の脆弱な地盤の上に家を建てて住みたいと思いますか? 盛り土の地盤が、首都圏直下地震に耐えられると思いますか?

 2011年の東日本大震災の際には、利根川津ノ宮地区など複数のスーパー堤防で、盛り土のひび割れや法面のすべり、道路の亀裂、建物の地盤沈下が発生しています。
 詳しくは、スーパー堤防訴訟の以下のサイトなどをご参照ください。
http://www.tobu-law.com/bengosi/archives/15


 スーパー堤防は、かりに洪水のときには良かったとしても、地震のときのリスクを高めてしまいます。現在、江戸川区などで立ち退かされている方々の多くも、やはり堤防の上には住みたくないと考え、いちど立ち退かされたらもう戻らないという選択をしています。盛り土の上に住むのは、明らかに相対的に危険度は大きいのです。洪水に対するリスク対策をしつつ、他の災害リスクを怠るようなことをしてはなりません。

 
 

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