夕暮れ時、昼間の活気を失った小学校。そこのブランコで一人佇む女の人を見つけた。
僕はなんとなしにその隣に降りてみる。……小学生ではなさそう。中学……いや、高校生?
僕が近寄ると人によっては気味悪がって逃げたりもするけれど、この女の人はどうだろう?
「……あれ、カラス? 私は食べ物なんてもってないよ」
その声は優しかったけど、僕はむっとする。
別に食べ物が欲しくてこの人の傍に降りたわけじゃない。
(自分の食いぶちぐらいどうにでもなるさ)
なんたってカラスだし、そこら辺の残飯でも虫でもいけるからね。
「ん? 今……」
ふいに彼女がキョロキョロしだし、その反応で僕は気付く。彼女がどういう人なのか。
しかし気付いたところで声を発することができない僕は、代わりにもう一度念じる。
(あなた、幽霊ですね?)
「え? 今の声……誰? 誰か居るの?」
彼女は周りを何度も見回す。
その度に、彼女が座っているブランコがキィ、キィと音を立てた。
でもその音は僕と彼女以外、誰にも届かない。何故なら誰も居ないから。
(僕ですよ。そんなに見回さなくてもあなたの隣に居るでしょう? 隣のブランコに)
「隣って……このカラス? え、えっと……あなたが喋ってるの?」
会話してる相手に向かって『この』とは変な話ですね。まあいいや。
(そうです。正確には喋ってるって言うよりテレパシーみたいなものですがね。
そしてそれが通じるってことは……僕と同じ、幽霊だってことなんですよ)
「僕と同じって……? じゃあ、カラスさんも……」
彼女は目を白黒させて僕をじっと眺めている。
そりゃあ困惑するのも仕方ないでしょうね。僕だって始めは驚いたし。
(僕も幽霊です。あ、カラスの幽霊じゃないですよ?
生きてる頃は人でした。今はカラスに乗り移ってるだけなんです)
「ふ、ふうん……私にもできるのかな……? テレパシーとか乗り移りとか」
(多分無理だと思いますよ。いままで幽霊には結構逢ってきましたけど、
人の形を保ってる人ができた試しはないですし)
どうして僕だけがこうなのかは解らないけど。
「じゃあカラスさんは本当はどんな形なの?」
いや、僕自身はカラスじゃ……まあいいか。間違ってはいないし。
(形は……なかったです。説明しにくいですけど、意識だけがあるって感じで。
最初に乗り移ったのはなんでしたかねぇ。ハエでしたっけ?)
「ふーん……幽霊にも色々居るんだね。
って言っても自分以外の幽霊に逢ったの初めてなんだけど」
そう言って彼女は少し笑う。うん、見た目に違わずいい人そうだ。
(あなたはこうなってから、どのくらいなんですか?)
僕のその質問に、彼女は校庭の隅に生えている木を眺めた。
「一年くらいかな? ……うん、多分それくらい。暖かくなってきたし。カラスさんは?」
(僕もそれくらいですよ。
うーん……一年も経ってるなら、他の幽霊にも多分逢ってると思いますよ?
そうだと気付いてないだけで。見た目は生きてる人となんら変わりないですしね)
僕は僕の言葉に反応するかどうかでその人の生死を見分けることができる。
けど今まで逢ってきた殆どの人たちは、
彼女と同じく他の幽霊に逢ったことはないと言っていた。
そう言っているそのすぐ隣をさっき話し掛けた人が通り過ぎていても、だ。
その人にあの人も幽霊ですよ、と教えたときの反応は面白かったなぁ。
『えぇ!? あの人いっつもここ通ってるんだけど!?』
……あの時は笑った。と言っても『クァ、クァ』なんて、笑い声には聞こえないんだろうけど。
カラスだから仕方ないんだけどね。
「言われてみれば確かにそうだよね。私も生きてる時となんの違いもないし……
頭に三角の布とか、白い着物とか着てたら解りやすいかな?」
彼女はそう言って笑いながら、ブランコを少しだけ揺らした。
(解りやすいでしょうけど、僕だったらそんな格好の人に話し掛けたくありませんよ?)
幽霊がホントはそういうものじゃないって幽霊になっちゃった人なら皆身をもって知ってる。
その上でそんな格好してる人見かけたら、絶対引く。そんなのただの性質の悪いコスプレだ。
「あはは、それもそうか。私も怖くて近づけないかも。……あ、でもさ。
そういう感じの怖い幽霊……悪霊? って本当に居るものなのかな?」
そう言えば……どうなんだろう?
(逢ったことはないですけど、探せば居るんじゃないですか?
生きてる人でもおっかないのは居るんですし)
まだ生きてた頃に犯罪者の知り合いが居なかったのと同じような感じで、
運良く出会ってないだけかもしれない。接点がないって言うのかな?
「もしかしたらそういう人は地獄に行っちゃうんだったりして」
(あ、そうかもしれませんね。
……そしたら今度は地獄ってホントにあるのかなって話になりますが)
「ふふ。面白いね」
笑顔のまま、地面を足につけたまま、彼女はブランコを揺らしつづける。
そりゃあ小学生サイズだからどうしても足ついちゃいますよね。場所考えて……
(……あなたは、どうしてここに?)
僕はなんとなしにその隣に降りてみる。……小学生ではなさそう。中学……いや、高校生?
僕が近寄ると人によっては気味悪がって逃げたりもするけれど、この女の人はどうだろう?
「……あれ、カラス? 私は食べ物なんてもってないよ」
その声は優しかったけど、僕はむっとする。
別に食べ物が欲しくてこの人の傍に降りたわけじゃない。
(自分の食いぶちぐらいどうにでもなるさ)
なんたってカラスだし、そこら辺の残飯でも虫でもいけるからね。
「ん? 今……」
ふいに彼女がキョロキョロしだし、その反応で僕は気付く。彼女がどういう人なのか。
しかし気付いたところで声を発することができない僕は、代わりにもう一度念じる。
(あなた、幽霊ですね?)
「え? 今の声……誰? 誰か居るの?」
彼女は周りを何度も見回す。
その度に、彼女が座っているブランコがキィ、キィと音を立てた。
でもその音は僕と彼女以外、誰にも届かない。何故なら誰も居ないから。
(僕ですよ。そんなに見回さなくてもあなたの隣に居るでしょう? 隣のブランコに)
「隣って……このカラス? え、えっと……あなたが喋ってるの?」
会話してる相手に向かって『この』とは変な話ですね。まあいいや。
(そうです。正確には喋ってるって言うよりテレパシーみたいなものですがね。
そしてそれが通じるってことは……僕と同じ、幽霊だってことなんですよ)
「僕と同じって……? じゃあ、カラスさんも……」
彼女は目を白黒させて僕をじっと眺めている。
そりゃあ困惑するのも仕方ないでしょうね。僕だって始めは驚いたし。
(僕も幽霊です。あ、カラスの幽霊じゃないですよ?
生きてる頃は人でした。今はカラスに乗り移ってるだけなんです)
「ふ、ふうん……私にもできるのかな……? テレパシーとか乗り移りとか」
(多分無理だと思いますよ。いままで幽霊には結構逢ってきましたけど、
人の形を保ってる人ができた試しはないですし)
どうして僕だけがこうなのかは解らないけど。
「じゃあカラスさんは本当はどんな形なの?」
いや、僕自身はカラスじゃ……まあいいか。間違ってはいないし。
(形は……なかったです。説明しにくいですけど、意識だけがあるって感じで。
最初に乗り移ったのはなんでしたかねぇ。ハエでしたっけ?)
「ふーん……幽霊にも色々居るんだね。
って言っても自分以外の幽霊に逢ったの初めてなんだけど」
そう言って彼女は少し笑う。うん、見た目に違わずいい人そうだ。
(あなたはこうなってから、どのくらいなんですか?)
僕のその質問に、彼女は校庭の隅に生えている木を眺めた。
「一年くらいかな? ……うん、多分それくらい。暖かくなってきたし。カラスさんは?」
(僕もそれくらいですよ。
うーん……一年も経ってるなら、他の幽霊にも多分逢ってると思いますよ?
そうだと気付いてないだけで。見た目は生きてる人となんら変わりないですしね)
僕は僕の言葉に反応するかどうかでその人の生死を見分けることができる。
けど今まで逢ってきた殆どの人たちは、
彼女と同じく他の幽霊に逢ったことはないと言っていた。
そう言っているそのすぐ隣をさっき話し掛けた人が通り過ぎていても、だ。
その人にあの人も幽霊ですよ、と教えたときの反応は面白かったなぁ。
『えぇ!? あの人いっつもここ通ってるんだけど!?』
……あの時は笑った。と言っても『クァ、クァ』なんて、笑い声には聞こえないんだろうけど。
カラスだから仕方ないんだけどね。
「言われてみれば確かにそうだよね。私も生きてる時となんの違いもないし……
頭に三角の布とか、白い着物とか着てたら解りやすいかな?」
彼女はそう言って笑いながら、ブランコを少しだけ揺らした。
(解りやすいでしょうけど、僕だったらそんな格好の人に話し掛けたくありませんよ?)
幽霊がホントはそういうものじゃないって幽霊になっちゃった人なら皆身をもって知ってる。
その上でそんな格好してる人見かけたら、絶対引く。そんなのただの性質の悪いコスプレだ。
「あはは、それもそうか。私も怖くて近づけないかも。……あ、でもさ。
そういう感じの怖い幽霊……悪霊? って本当に居るものなのかな?」
そう言えば……どうなんだろう?
(逢ったことはないですけど、探せば居るんじゃないですか?
生きてる人でもおっかないのは居るんですし)
まだ生きてた頃に犯罪者の知り合いが居なかったのと同じような感じで、
運良く出会ってないだけかもしれない。接点がないって言うのかな?
「もしかしたらそういう人は地獄に行っちゃうんだったりして」
(あ、そうかもしれませんね。
……そしたら今度は地獄ってホントにあるのかなって話になりますが)
「ふふ。面白いね」
笑顔のまま、地面を足につけたまま、彼女はブランコを揺らしつづける。
そりゃあ小学生サイズだからどうしても足ついちゃいますよね。場所考えて……
(……あなたは、どうしてここに?)