サー・アーネスト・シャクルトンをご存知か?
僕はこの本をたまたま見つけるまで、恥ずかしながらこの人物についてまったく知らなかった。この本の邦訳は98年に新潮社から刊行されたが、僕が読んだのは01年発行の新潮文庫版。どうやら90年代ごろから海外でちょっとしたシャクルトン・ブームが起きたらしく、その波が日本の出版界にも上陸していたらしい。シャクルトンについては他にも多くの本が出ているそうで、「そして奇跡は起こった」というのも近所の図書館で読んだ。アマゾンのページではシャクルトン関連本はこの他にも複数出ているようだ。さらに映像化もおこなわれているようで、こんなドキュメンタリー映画や、BSで放送された英国のTVドラマ(ケネス・ブラナー主演)もあった。さらに「Uボート」のウォルフガング・ペーターゼンがラッセル・クロウで映画化とも言われているのだが、こっちのほうはその後の進展がよくわからない。(05年公開予定のはず?だったのだが)
さて、シャクルトンとは何者かといえば、南極点初制覇を目指した英国の探検家だ。1907年の2度目の南極遠征で極点まで150キロ程まで到達しサーの称号を得た彼は、3度目の探検旅行を計画する。しかし1909年のスコット(英)とアムンゼン(ノルウェー)の壮絶な一番乗り争いの結果、南極点はアムンゼンの手に落ちスコットのアタック隊は全滅した。初到達を逃したシャクルトンは南極大陸の初横断で自己と英国のプライドを取り戻そうとしたようだ。
資金集めに苦労し、手記・写真・映画化の権利も担保にしながらなんとか準備を整え、第1次大戦の開戦という困難にも遭いながら、ようやく出発したシャクルトン隊だが、上陸を前にウェッデル海で氷に囲まれて船はつぶされ、メンバー28名は氷原に退避せざるを得なくなる。
結局厳冬の南極海を1年以上さまよったあげく、南極海の北端に位置するエレファント島で立ち往生。保存食・アザラシ・ペンギンからそり用の犬まで食って命をつないできたが、ここに至って全員での移動は不可能と判断。小型のボートに6人が乗り込んで、1300km離れたサウスジョージア島へ助けを求めに決死隊として出発する。1ヶ月掛けて島にたどり着き、残されたメンバーの救援までさらに3ヶ月、17ヶ月に及ぶ遭難を通じて、一人の死者も出さずにシャクルトンは部下27名を生還させた。
この本はそのシャクルトン隊の遭難から帰還までを、多くの資料と証言を調査しながらまとめたノンフィクション。エンデュアランス号とはこの探検行に使われた船の名前だが、実際には船は探検初期に氷に閉じ込められ、やがて潰れて沈んでしまうので、あくまで物語の主人公は”リーダー”シャクルトンと彼が率いたメンバー達となる。
上陸どころか手前の氷原に投げ出されたメンバーは、優れたリーダーの下で一致団結して困難を克服、なんてそうそううまくいくはずもない。苦しい状況・先の見通しもなく食料も乏しくなれば、メンバー間の雰囲気が悪くなったり体調を崩す者も出てくる。そういった困難に対しても、隊長であるシャクルトンは常にリーダーとしての責任を果たそうと懸命に立ち向かう。もちろん彼も人間だから苦難に負けかかることもあるのだが、副長のワイルドをはじめとする信頼できる部下のサポートも受け、その場その場で最適と思われる方針決定を明確に示し、メンバーをがっちり引っ張っていく。部下の能力や性格、人間性にまで目を配り、問題解決していく姿はまるでよくできたドラマのようだが、すべて実際にあった出来事だというのだから感嘆するばかりだ。さらに各隊員が書き綴った日記の記述がまたすごい。極限に置かれた人間がどんなことを考え、どのように命の火をつないでいくのか、すさまじくリアルな迫力に圧倒されるばかりだった。
最終場面で捕鯨基地のあるサウスジョージア島にたどり着いたシャクルトンと部下5人は、潮に流され島の反対岸への上陸を余儀なくされてしまう。最後の困難に対し、シャクルトンは体力のある2人を引き連れ、1000mを超える島の中央山脈を登山装備もなしに横断し、奇跡的に捕鯨基地にたどり着いて救援要請の目的を達成する。
(この島の横断はシャクルトン達以外では1隊だけ、40年後の55年に冬季登山装備を備えた英国隊が達成しただけだという。いかに厳しい山越えだったのかがよくわかる)
奇跡の生還を果たしたシャクルトンと部下たちだが、ドラマはさらに続く。帰国し英雄として迎えられたメンバーには第1次大戦で戦死したものも多い。シャクルトンは戦後ふたたび南極を目指す。’22年1月にあのサウスジョージア島に到着した彼は、心臓の発作により急逝してしまう。結局彼はエンデュランスで達成できなかった南極探検を実現できぬままにこの世を去ってしまうのだが、その思いは一体どんなものだったのだろうか?想像もできない。
初めから結末・エピローグまで、あまりにあまりに劇的な人生にはただただ呆然とするばかりだが、困難に突き当たってますます闘志を駆り立てて立ち向かっていく姿には感嘆させられるばかりだった。
アムンゼンやスコット、あるいは白瀬の名前は知られていても、シャクルトンの偉大な業績はそれほど知られていない。このリーダーと仲間たちの記録から何を読み取るか?人それぞれの感じ方もあるだろうが、分厚い1冊に詰められた人間たちの思いと叫びは、まさに「偉業」としてぼくの心に突き刺さってきた。
本当に読んでよかったと思わせられる1冊だった
*要所に収録された写真が見せる重さも特筆物。氷と岩の中で懸命に生き延びようとする人間のあまりに弱弱しい姿、嘆くでもなく怒るでもなくなにやら呆然とするかのような表情、どれもこれも作り物でない本物の迫力を感じさせた。この写真にのすばらしさもこの本の値打ちを高めていると感じた。BSでドラマ版も見たのだが、ドラマよりやはり本の持つ迫力に比べるとずいぶん食い足りなかった。
僕はこの本をたまたま見つけるまで、恥ずかしながらこの人物についてまったく知らなかった。この本の邦訳は98年に新潮社から刊行されたが、僕が読んだのは01年発行の新潮文庫版。どうやら90年代ごろから海外でちょっとしたシャクルトン・ブームが起きたらしく、その波が日本の出版界にも上陸していたらしい。シャクルトンについては他にも多くの本が出ているそうで、「そして奇跡は起こった」というのも近所の図書館で読んだ。アマゾンのページではシャクルトン関連本はこの他にも複数出ているようだ。さらに映像化もおこなわれているようで、こんなドキュメンタリー映画や、BSで放送された英国のTVドラマ(ケネス・ブラナー主演)もあった。さらに「Uボート」のウォルフガング・ペーターゼンがラッセル・クロウで映画化とも言われているのだが、こっちのほうはその後の進展がよくわからない。(05年公開予定のはず?だったのだが)
さて、シャクルトンとは何者かといえば、南極点初制覇を目指した英国の探検家だ。1907年の2度目の南極遠征で極点まで150キロ程まで到達しサーの称号を得た彼は、3度目の探検旅行を計画する。しかし1909年のスコット(英)とアムンゼン(ノルウェー)の壮絶な一番乗り争いの結果、南極点はアムンゼンの手に落ちスコットのアタック隊は全滅した。初到達を逃したシャクルトンは南極大陸の初横断で自己と英国のプライドを取り戻そうとしたようだ。
資金集めに苦労し、手記・写真・映画化の権利も担保にしながらなんとか準備を整え、第1次大戦の開戦という困難にも遭いながら、ようやく出発したシャクルトン隊だが、上陸を前にウェッデル海で氷に囲まれて船はつぶされ、メンバー28名は氷原に退避せざるを得なくなる。
結局厳冬の南極海を1年以上さまよったあげく、南極海の北端に位置するエレファント島で立ち往生。保存食・アザラシ・ペンギンからそり用の犬まで食って命をつないできたが、ここに至って全員での移動は不可能と判断。小型のボートに6人が乗り込んで、1300km離れたサウスジョージア島へ助けを求めに決死隊として出発する。1ヶ月掛けて島にたどり着き、残されたメンバーの救援までさらに3ヶ月、17ヶ月に及ぶ遭難を通じて、一人の死者も出さずにシャクルトンは部下27名を生還させた。
この本はそのシャクルトン隊の遭難から帰還までを、多くの資料と証言を調査しながらまとめたノンフィクション。エンデュアランス号とはこの探検行に使われた船の名前だが、実際には船は探検初期に氷に閉じ込められ、やがて潰れて沈んでしまうので、あくまで物語の主人公は”リーダー”シャクルトンと彼が率いたメンバー達となる。
上陸どころか手前の氷原に投げ出されたメンバーは、優れたリーダーの下で一致団結して困難を克服、なんてそうそううまくいくはずもない。苦しい状況・先の見通しもなく食料も乏しくなれば、メンバー間の雰囲気が悪くなったり体調を崩す者も出てくる。そういった困難に対しても、隊長であるシャクルトンは常にリーダーとしての責任を果たそうと懸命に立ち向かう。もちろん彼も人間だから苦難に負けかかることもあるのだが、副長のワイルドをはじめとする信頼できる部下のサポートも受け、その場その場で最適と思われる方針決定を明確に示し、メンバーをがっちり引っ張っていく。部下の能力や性格、人間性にまで目を配り、問題解決していく姿はまるでよくできたドラマのようだが、すべて実際にあった出来事だというのだから感嘆するばかりだ。さらに各隊員が書き綴った日記の記述がまたすごい。極限に置かれた人間がどんなことを考え、どのように命の火をつないでいくのか、すさまじくリアルな迫力に圧倒されるばかりだった。
最終場面で捕鯨基地のあるサウスジョージア島にたどり着いたシャクルトンと部下5人は、潮に流され島の反対岸への上陸を余儀なくされてしまう。最後の困難に対し、シャクルトンは体力のある2人を引き連れ、1000mを超える島の中央山脈を登山装備もなしに横断し、奇跡的に捕鯨基地にたどり着いて救援要請の目的を達成する。
(この島の横断はシャクルトン達以外では1隊だけ、40年後の55年に冬季登山装備を備えた英国隊が達成しただけだという。いかに厳しい山越えだったのかがよくわかる)
奇跡の生還を果たしたシャクルトンと部下たちだが、ドラマはさらに続く。帰国し英雄として迎えられたメンバーには第1次大戦で戦死したものも多い。シャクルトンは戦後ふたたび南極を目指す。’22年1月にあのサウスジョージア島に到着した彼は、心臓の発作により急逝してしまう。結局彼はエンデュランスで達成できなかった南極探検を実現できぬままにこの世を去ってしまうのだが、その思いは一体どんなものだったのだろうか?想像もできない。
初めから結末・エピローグまで、あまりにあまりに劇的な人生にはただただ呆然とするばかりだが、困難に突き当たってますます闘志を駆り立てて立ち向かっていく姿には感嘆させられるばかりだった。
アムンゼンやスコット、あるいは白瀬の名前は知られていても、シャクルトンの偉大な業績はそれほど知られていない。このリーダーと仲間たちの記録から何を読み取るか?人それぞれの感じ方もあるだろうが、分厚い1冊に詰められた人間たちの思いと叫びは、まさに「偉業」としてぼくの心に突き刺さってきた。
本当に読んでよかったと思わせられる1冊だった
*要所に収録された写真が見せる重さも特筆物。氷と岩の中で懸命に生き延びようとする人間のあまりに弱弱しい姿、嘆くでもなく怒るでもなくなにやら呆然とするかのような表情、どれもこれも作り物でない本物の迫力を感じさせた。この写真にのすばらしさもこの本の値打ちを高めていると感じた。BSでドラマ版も見たのだが、ドラマよりやはり本の持つ迫力に比べるとずいぶん食い足りなかった。
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