Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2017年度刑法Ⅰ(第11回)刑事判例資料

2017-06-19 | 日記
【73】被害者の行為を利用した殺人――教唆か正犯か(最三決平成16・1・20刑集58巻1号1頁)
【事実の概要】
 ホストクラブのホストであるXは、被害者のAが店への遊興費を死はわえなかったでの、生命保険をかけさせて、自殺させ、保険金を取得しようと考えた。XはAと偽装結婚し、Aに生命保険に加入させ、自らが保険金の受取人となった。Xは、当初の計画を変更し、Aに暴行・脅迫を加えて自殺を強いる一方で、死亡が海中転落事故に起因するように見せかけることにした。自殺する気のないAは、Xを殺害して死を免れることも考えたが、結局、車ごと海に飛び込んで、そこから脱出するという可能性にかけ、死亡を装ってAから身を隠そうとした。
 犯行日の深夜、Xは、被害者を車に乗せて本件漁港に行き、ドアをロックし、窓を閉め、Aにシートベルトをするなどを指示し、もはや実行する他ないことを示すために、現場を離れた。それから間もなく、Aはシートベルトをせず、運転席ドアの窓ガラスを開けるなどしたうえで、車を運転し、漁港の岸壁から海に転落したが、車が水没する前に、運転席ドアの窓から脱出し、泳いで港内に停泊中の漁船にたどりつき、死亡を免れた。水深の深さや海水の温度、車からの脱出の可能性などを総合的に勘案すると、Aが死亡する危険性は極めて高かった。

 第1審および原審は、Xに対して、自殺教唆未遂ではなく、殺人未遂の正犯の成立を認めた。ただし、第1審は、AはXに命じられた行為以外の選択肢をとりえない状態にあり、意思決定の自由を欠いていたと認定したのに対して、原審は「意思決定の自由を完全に失っていなくても、行為者と被害者の関係、被害者の置かれた状況、その心身の状態等に照らし、被害者が他の行為を選択することが著しく困難であって、自ら死に至る行為を選択することが無理もないと言える程度の暴行・脅迫が加えられれば、殺人罪が成立する」と判断した。

 弁護人は、被害者が車ごと海に飛び込んだとしても、それは被害者が自らの自由な意思決定に基づいたものであるから、そうするように指示した被告人の行為は、殺人罪の実行行為とはいえず、また、被告人は、被害者に自由な意思に基づいて自殺を行なわせる意思を有していただけなので、殺人罪の故意があるとはいえない。

【裁判所の判断】
 被告人は、……本件犯行当時、被害者をして、被告人の命令に応じて、車ごと海中に飛び込む以外に行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。
 被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、……漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するよう命じ、被害者を死亡させる現実的危険性の高いを行為を、被害者自らに行なわせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為にあたるというべきである。また、……被害者には被告人の命令に応じて自殺する気持ちはなかったのであり、その点は被告人の予期したところに反していたが、被害者に対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたことについては、被告人には認識に欠けるところはなかったのであるから、上記の点は、被告人につき殺人罪の故意を否定すべき事情にはならないというべきである。

【解説】
 Xは、Aに対して、何を行なったのか。殺人未遂罪か。それとも、自殺教唆未遂罪か。

 Xは、Aを直接殺害しようとしたわけではない。Aに自殺するよう強要しただけである。そうすると、Xに成立するのは、自殺を教唆して、それを遂げなかった「自殺未遂の教唆罪」のように思われる。しかし、XがAに自殺させたのは、たんなる教唆ではなく、強要によるため、それは自殺を教唆したのではなく、自分の手で殺害したも同然であると解することもでき、「殺人未遂罪」のように思われる。ただし、客観的には殺人未遂であっても、Xには自殺の教唆の故意しかなかったので、自殺教唆の故意で殺意未遂を行なった抽象的事実の錯誤の事案として扱い、二つの犯罪の構成要件の重なる「自殺未遂の教唆罪」が成立するだけのように思われる。

 本決定は、XがAに自殺を命令して、「車ごと愛中に飛び込む以外に行為を選択することができない精神状態に陥らせ」た点に着目して、Xの行為を自殺の教唆行為ではなく、殺人罪の実行行為にあたると判断した。外形的な事実としては、XはAに命じて自殺させた自殺教唆行為を行なったように見えるが、意味的には、意思決定の自由が抑圧され、命令に抵抗できない精神状態に陥らされたAの行為を利用した殺人罪の実行行為であると評価しうるということである。この最高裁の判断は、第1審の判断方法と同じであるが、第2審の判断は、XがAに行なった暴行・脅迫が、Aの「意思決定の自由を完全に失っていなくても、行為者と被害者の関係、被害者の置かれた状況、その心身の状態等に照らし、被害者が他の行為を選択することが著しく困難であって、自ら死に至る行為を選択することが無理もないと言えるの暴行・脅迫」であったと認定して、殺人罪の実行行為にあたると同じ結論を導き出している。間接正犯論を支える「道具理論」は、被利用者や被害者が責任能力や(構成要件的)故意のない場合に間接正犯の成立を認めるので、その原則的な理解と適用という立場から見ると、第2審の判断方法は「道具理論」を修正させたものであるといわなければならない。

 Xに殺人罪の故意があったと認定できるかという問題については、海中に車ごと転落するという生命侵害の危険性の高い行為をAに行なわせるためにその、意思決定の自由を抑圧する程度の強い暴行・脅迫を故意に行なったのであるから、その認識は殺人罪の故意にあたると認定することができる。



【74】間接正犯(最大決昭和58・9・21刑集37巻7号1070頁)
【事案の概要】
 被告人Xは、連れ子であるA(12才・養子)と巡礼の旅に出ていた。Aが、Xに逆らうような態度をとると、XはAにタバコの火を押しつけたり、ドライバーで頭をたたいたりして、自己の意に従わせていた。Xは、宿泊費用を工面するために、Aに寺から金銭を窃取させ、現金78万7750円と菓子などを盗ませた。

 第1審は、Xは刑事未成年者であるAを利用して窃盗を行なわせたとして、Xに窃盗罪の正犯を認めた。控訴審は、XはAを自己の意にまままに従わせ窃盗に利用したとして、窃盗罪の正犯を認めた。

 弁護人は、Aは窃盗が許されない行為であることを知っていたのであり、またタバコの火を押し付けられるなどして命令に従ったとはいえ、絶対的強制下にあったわけではないから、Aは主体的に窃盗を行なったといえる。従って、Aの行為は窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為であり、それを故意に行なった。ただし、刑事未成年により、その責任が阻却される。Xは、このように是非善悪の判断ができるAに命じて、窃盗を行なわせた。Xには、窃盗罪の教唆が成立する。このように主張した。

【裁判所の判断】
 被告人は、自己の日頃の言動に畏怖し、意思を抑圧されている同女を利用して、右各窃盗を行なったと認められるのであるから、たとえ所論のように同女が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても、被告人については、本件各窃盗の間接正犯が成立すると認めるべきである。

【解説】
 本件は、典型的な間接正犯の事案である。正犯と共犯を区別する基準は、構成要件論を基礎にした犯罪体系のもとでは、構成要件該当行為を行ない、その結果を発生させて、構成要件を実現した者が正犯、それ以外の行為(教唆・幇助)を行ない、構成要件の実現に関与した者を共犯とするというものである。構成要件を基準にして、それを実現した者が正犯(正に犯した)、教唆・幇助という行為を行なうことによって構成要件の実現に関与した者を共犯(共に犯した)である。

 このように理解すると、不都合で不合理な結論が出てくる場合がある。12才のAが行なう窃盗は、刑事未成年(刑41)ゆえに、刑事責任能力が認められず、犯罪ではなく、処罰されない。そうすると、Xは、Aを教唆して窃盗罪という「犯罪を実行させた」(刑61)とはいえないので、窃盗罪の教唆にはあたらないことになる。つまり、刑事未成年者を利用した行為については、誰も処罰されないということである。

 しかし、このような結論を認めることはできない。処罰の隙間を埋める必要がある。その埋め方には、2通りある。第1は、刑法61条の規定にある「犯罪」を「故意・過失の構成要件該当の違法で有責な行為」と解するのではなく、そこから有責性を除外し、「故意・過失の構成要件に該当する違法な行為」と解する方法である。これに従えば、Aは故意に窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為を行なっているので(刑事未成年ゆえに無罪)、XはAにそれを実行させたとして、窃盗罪の教唆の成立を認めることができ、処罰の隙間を埋めることができる。

 第2は、刑法61条の規定にある「犯罪」を「故意・過失の構成要件該当の違法で有責な行為」と解し、Aの行為は窃盗罪という犯罪にはあたらないので、Xにはその教唆が成立しないと解したうえで、Xに窃盗罪の正犯を認める方法である。つまり、Xは刑事未成年者Aに命じて窃盗を実行させたというのではなく、Aを「道具」として利用し、自ら窃盗罪を実行したと認定するのである。このような認定によって、処罰の隙間を埋めることができる。これを間接正犯といい、「道具理論」の考え方に基づいている。

 本件では、第2の方法が用いられて、Xに窃盗罪の正犯の成立が認められている。ただし、道具理論の捉え方しだいでは、結論が異なる場合もあるので、その具体的な内容を検討しておかなければならない。

 一般に「道具」とは、行為者によって自由自在に用いることのできる手段である。それが人間である場合、行為者が立てた犯罪の計画通りに行動する存在であると解される。それは、一般には心神喪失者のように、是非善悪の弁別能力を欠いた、規範的な障害(禁止・命令の規範に直面すること)のない存在であるということができる。本件の事案のAは、刑事未成年者であるが、12才という分別のつく年齢であり、かつさい銭を盗むことが違法であることも認識していたと考えられ、規範的な障害が認められるので、「道具」とはいえないように思われる。Xの弁護人の上告は、この点に着目したものである。つまり、Aは窃盗が許されない行為であることを知っていた。タバコの火を押し付けられるなどして命令に従ったとはいえ、絶対的強制下にあったわけではない。つまり、Aは許されないことを知りながら、自ら主体的に窃盗を行なった。したがって、Aの行為は窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為である。その故意も認められる。ただし、刑事未成年により、その責任が阻却される。それに対して、XはAに命じて窃盗を行なわせた。それは窃盗罪の教唆である。

 最高裁は、道具理論における「道具」には、心神喪失者のような規範的障害のない者だけでなく、規範的障害があっても、意思を抑圧された精神状態にある者も含まれると解し、Xに窃盗罪の間接正犯を認めた。



【75】共謀共同正犯(1)――練馬事件(最大判昭33・5・28刑集12巻8号1718頁)
【事実関係】
 A・Bは、巡査P・Qに暴行を加えることを企図し、その実行をBが指導することと決めた。

 D・E・F・Iは、氏名不詳の2名とともにF方に集合し、そこにBも加わって、Qに暴行を加えることを協議した。

 Pの所在が不明であったため、Bが連絡指示して、H・J等もQに暴行を加えることを決めた。

 さらに、C・Gもこれに加担することとした。

 こうして(A・Bが共謀を行ない、実行指導役のBがD・E・F・Iに指示をし、さらにBがH・J、C・Gに指示をして)、A~Jの10名は、Qに対する暴行の「順次共謀」を遂げた。

 C~J8名は、Qに暴行を加えるために、現場に赴き、Qに暴行を加えて、死亡させた。

 A・Bは、現場には行かなかった。

 第1審(東京地判昭和28・4・14)は、 A・Bを含む全員に傷害致死罪の共同正犯が成立すると判断した。C~Jが傷害致死罪の(実行)共同正犯であることは明らかであり、A・Bがその実行に関与していなくても、共謀への関与があったことを理由に、傷害致死罪の(共謀)共同正犯の成立を認めた。

【裁判所の判断】
 共謀共同正犯が成立するためには、2人以上の者が、特定の犯罪を行なう共同意思の下に、一体となって、相互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。従って、このような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として行なったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するを相当とする。
 数人の共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、かつその数人間に一個の共謀が成立することを必要とするものではなく、同一の犯罪について、甲と乙が共謀し、次いで乙と丙が共謀すえるというようにして、数人の間で順次共謀が行なわれた場合は、これらの者にすべての間に当該犯行の共謀が行われたと解するを相当とする。

【解説】
 刑法60条は、2人以上共同して犯罪を実行した者は正犯とする、と規定している。この条文には、2通りの解釈の可能性がある。

・2人以上の者が、犯罪の実行を共同する。すなわち共同正犯とは、犯罪の実行共同正犯である。実行共同正犯であるためには、2人以上の者全員が、その犯罪の実行していなければならない。

・共同した2人以上の者が、犯罪を実行する。共同した2人以上の者のうち、犯罪を実行した者がその一部であっても、共同した者全員が正犯となる。その共同の方法としては「共謀」がありうる。すなわち共同正犯には、犯罪の実行共同正犯だけでなく、共謀共同正犯も含まれる。

 単なる犯罪の「共謀」を共同して行なっただけでは、形式的には犯罪の構成要件該当行為を行なったとはいえないが、その「共謀」にかかる犯罪が、他の共謀者によって実行された場合には、共謀だけに関与した者であっても、正犯としての責任が問われる。なぜならば、共謀に関与した者は、実行行為者の行為を自己の手段として利用して、自分もまた同じ様に犯罪を行なったものと認定されるからである。つまり、実質的に見れば、限定的ではあっても、共謀への参加を犯罪の実行への関与と同視することができるからである。

 以上のような理由から、刑法60条には、実行共同正犯だけでなく、共謀共同正犯も含まれると解されている。ただし、この練馬事件の決定は、共謀関与者に無条件で共同正犯を認めたわけではない。それには一定の条件が必要である。

(1)2人以上の者が、特定の犯罪を行なう共同意思の下に、一体となって、相互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする共謀を行なっていること
(2)その謀議の内容の犯罪が実行されていること

 以上の1・2が認めれれば、共謀参加者は、直接実行行為に関与していなくても、他人の行為をいわば自己の手段として行なったという意味において、正犯の責任が認めらる。その場合、特に重要なのは、2人以上の者が、特定の犯罪について、事前に明示的な意思の連絡に基づいて共謀した事実である(明示的な意思の連絡と客観的な謀議行為)。



【76】共謀共同正犯(2)――スワット事件(最一決平成15・5・1刑集57巻5号507頁)
【実の概要】
 被告人は、遊興等の目的で、上京することを決め、秘書2名とスワット4名の随行を受けて、羽田空港に到着し、そこに現地のスワット3名が加わり、用意されてあった複数の自動車に乗り、遊興先に向かった。被告人らは遊興後、宿泊先に向かうため自動車を走行させたところ、警察官から停止を求められた。警察官は、あらかじめ発布されていた拳銃等の捜索差押令状を示し、車内を捜索したところ、スワットの乗車する自動車内から拳銃を発見・押収した。被告人とスワットは、拳銃の不法所持の嫌疑で現行犯逮捕された。

【裁判所の判断】
 被告人は、スワットらに対して、拳銃を携行して警護するように直接的な指示をしなかったが、そうであっても、スワットらが被告人を警護するために自発的に拳銃等を所持することを確定的に認識しながら、それを当然のこととして受け入れて容認していたのであり、そのことはスワットらも承知していた。
 前記事実関係によれば、被告人とスワットらとの間に、拳銃等を所持することにつき、黙示的な意思の連絡があったといえる。スワットらは、被告人の警護のために本件拳銃を所持ながら、終始被告人の近辺にいて、被告人と行動をともにしていたものであり、彼らを指揮命令する権限を有する被告人の地位と彼らによって警護を受けるという被告人の立場を併せて考えれば、実質的には、被告人がスワットらに本件拳銃を所持させていたと評しうるのである。

【解説】
 この事案もまた共謀共同正犯に関する事案である。

 問題は、被告人自身は、拳銃を所持していなかったが、スワットのた拳銃の不法所持につき共謀していたかである。

 この問題を「練馬事件」の決定で示された判断方法に基づいて考えると、
 被告人とスワットの間に、拳銃の不法所持に関する事前の明示的な意思連絡があったか
 あったとすれば、それはいつ、どこで成立したのか、
 また、意思連絡は明示的ではなく、黙示的なもので足りるのか、
 黙示的な意思連絡で足りるとすれば、
 それはいつ、どこで成立したのか、
 という点を検討することになる。

 この点について、黙示的な意思の連絡があったと認定している。本件の被告人とスワットの関係は、練馬事件のような集団の指揮・命令の関係とは異なり、一定の組織性・規律性を備えた上下関係・支配従属関係であるので、明示的な意思の連絡、しかも客観的な謀議行為はあえて不要とされたのではないかと思われる。



【82】承継的共犯(最二決平成24・11・6刑集66巻11号1281頁)
【事実の概要】
 Yらは、共謀して、Aらに暴行を加えて傷害を負わせた後、被告人が、Yらに共謀加担したうえ、金属製はしごや角材を用いてBの背中や足、Aの頭、肩、背中や足を殴打し、Bの頭を蹴るなどさらに強度の暴行を加え、少なくとも共謀加担後に暴行が加えられた上記部位については、YらがAらに加えた傷害を相当程度重篤化させた。

 第1審松山地裁は、被告人については、それが加担する以前のYらによる傷害を含めた全体について、傷害罪の承継的共同正犯の成立を認めた。第2審高松高裁もまた、同旨を述べて被告人側の控訴を棄却した。これに対して、被告人側が上告した。

【裁判所の判断】
 被告人は、共謀加担前にYらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれを因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってAらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の……認定は、被告人において、AらがYらの暴行を受けて負傷し、逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが、そのような事実があったとしても、それは、被告人が共謀加担後に更に暴行を行なった動機ないし契機にすぎず、共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって、傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。

【解説】
 Yらは、被告人が共謀加担する前に、Aらに対して暴行を加え、傷害を負わせていた(加担前傷害)。その後、被告人、Yらと共謀して暴行に加担し、Aらに傷害を負わせた(加担後傷害)。

 被告人は、いずれの傷害に対して共同正犯の責任を負うべきか。加担後の傷害の共同正犯の責任か。それとも、加担前の傷害にも共同正犯の責任を負うべきか。後者の場合、被告人は、その加担前にYらが行なった傷害を「承継」することことが前提となる。

 本決定は、「傷害罪の承継的共同正犯」に関して、最高裁として初めて示した判断である。その内容は、上記に記したように、共謀加担前にYらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれい基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後に、傷害を引き起こすに足りる暴行によってAらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負うというものである。妥当な判断であると思われる。

 ただし、気になるのは、かりにXがYらによる共謀加担前の傷害を承継するとした場合に成立するのは、同じく傷害罪の共同正犯であり、結論的には異ならないことである(量刑判断に差が生ずる可能性がある)。かりに、被害者が死亡した場合には、このような判断では済まされないので、理論的には検討を加える必要がある。

 一般に、承継的共同正犯が問題になるのは、どのような事案であるか。それは、承継の有無が成立する犯罪に影響を及ぼす場合である。それは、結果的加重犯の承継的共同正犯の場合である。例えば、XがAから財物を強取する目的で暴行を加えた後、それを傍らで見ていたYが自らもAから財物を奪う意思を生じたので、すかさずXに協力することを申し入れ、Xと共同して財物を強取した場合である。Xは、財物強取のために暴行し、財物強取を行なっているので、強盗罪が成立することは明らかである。では、Yはどうか。Yは財物の奪取にしか関与していないので、窃盗罪が成立するだけなのか、それとも強盗罪が成立するのか(いずれにせよ、Xとは共同正犯になる)。

 そもそも、共同正犯とは、故意犯の共同正犯であると考えるならば、共同正犯が成立するのは、同一の故意の犯罪についてだけである(犯罪共同説)。そのように考えると、Yには強盗罪の共同正犯が成立することになり、論理的にYはXが単独で行なった暴行を承継することを認めなければならなくなる。しかし、他人が過去に行なった行為を、その後、関与した者が、なぜ承継できると解しうるのか。その説明は明らかではない。それに対して、行為共同説は、共同正犯とは故意犯の共同正犯に限られず、過失犯の共同正犯、さらには異なる犯罪の間で共同正犯が成立することを認めるので、例えば強盗罪と窃盗罪の共同正犯というのも十分にありうる。そうすると、XがYの暴行を承継するということを議論する必要はない。
 このように解すると、承継の可否は、結局は犯罪共同説か行為共同説かの学説の立場によることになるが、もう少し検討を加えると、行為共同説は、Yが行なった強盗罪は「単独の暴行」と「財物の奪取」という「2個の行為の結合」であるので、Xは後者の部分の「財物の奪取」にだけ共同したと分割思考的に理解しているように思われる。これに対して、犯罪共同説は、強盗罪は暴行と財物の奪取から成り立っているが、それは部分に分割できない「1個の有機的な全体」であるので、XがYの行為の後半部分だけを共同するというのは理論的に不可能であると全体思考的に理解しているように思われる。

【94】共犯関係の解消(1)(最三決平成21・6・30刑集63巻5号475頁)
【事実の概要】
 被告人を含む共犯者(A・B・C・D・E・F・G)が住居侵入と強盗を共謀した。A・Bが住居に侵入した後、強盗の実行に着手する前に、見張り役のCが離脱の意思を一方的でに表明した。A・Bは、Cの離脱の意思を了承しなかった。その後、Cは被告人とDに相談し、その場から立ち去った。A・Bは、侵入した住居からいったん出た後、被告人、C、Dが立ち去ったことを知ったが、E・F・Gと侵入して、強盗を実行した。その手段行為である暴行によって、家人は負傷した。

【裁判所の判断】
 被告人は、共犯者7名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ、共犯者のA・Bが住居に侵入した後、見張り役のCが電話で、A・Bに、「犯行をやめたほうがよい、先に帰る」などと一方的に伝えただけで、被告人とCらは、それ以降、格別にA・Bの犯行を防止する措置を講ずることなく、待機していた場所から共に離脱したにすぎなかった。A・Bは、そのまま強盗に及んだ。そうすると、被告人が離脱したのは、A・Bが強盗の実行に着手する前であり、たとえ見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱していたとしても、またA・Bが住居から出てきて、被告人の離脱を知ったという事情があったとしても、当初の共謀関係が解消したということはできず、その後のA・B、E・F・Gの住居侵入、強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。

【解説】
 複数人で犯罪を実行することを共謀して、①その実行に着手する前に、あるいは②その実行の着手した後に、そこから離脱することができるか。例えば、X・Y・Z・Vが「強盗罪」の実行を共謀し、その予備を行なった後、①Vが被害者に暴行を加える前(強盗の実行に着手する前)に離脱の意思を表明し、②そのあとX・Y・Zが被害者に暴行を加えた後(強盗の実行に着手した後)、Zが離脱の意思を表明して立ち去り、その後、残されたX・Yが財物を強取した場合、どのような犯罪が成立するか。X・Yが財物の強取まで行っているので、この2人に強盗既遂罪の共同正犯が成立するのは明らかである。では、Z・Vはどうか。このような問題については、強盗の実行の着手の前後に分けて議論される。
 1まず、実行の着手前の離脱についてである。X・Y・Z・Vが強盗の共謀後、Vがその実行に着手する前に離脱の意思を表明した場合、他のX・Y・Zがそれを了承することによって、Vの離脱が認められ、強盗の共謀が解消される。VはX・Y・Zと強盗の共謀後、その予備を行なっているので、少なくとも強盗予備罪が成立するが、予備後に実行の着手前に離脱したので、中止未遂の規定を「準用」して、その刑を減軽・免除すべきであろう。
 2次に、実行の着手後の離脱についてである。Vの離脱後、X・Y・Zが強盗の実行に着手し、Zが離脱の意思を表明した場合、他のX・Yがそれを了承するだけでは、Zの離脱は認められない。Zは、X・Yの犯行の継続を防止するなどの措置をとらなければならない。
 ようするに、共犯関係の解消または共犯からの離脱の要件は、着手前の段階においては、離脱の意思表明と他の共同正犯者による了承、さらに着手後の段階においては、それに加えて、他の共謀者の犯行の継続の防止が必要であるというのが、これまでの学説・判例の立場である。
 では、本件の事案について考察すると、A・B・C・D・E・F・Gと被告人が強盗を共謀し、A・Bが住居に侵入したが、母屋に入れない状況において、Cが離脱の意思を表明し、その後、Dと被告人と現場を立ち去った。住居から出てきたA・Bは、C・D・被告人がいないことを知り、その後、E・F・Gとともに住居に入って、家人を負傷させ、財物を奪った。この事案について、A・B・E・F・Gに強盗致傷罪の共同正犯が成立することは明らかであるが、C・Dと被告人についてはどうか。被告人らが現場から立ち去ったのは、A・Bが住居侵入し、強盗の実行に着手する前であった。したがって、本件では被告人らに住居侵入の共同正犯が成立するが、強盗の実行の着手前であったので、被告人らの共犯からの離脱は、A・Bらが被告人らの離脱の意思を了承することによって認められることになる。しかし、本決定は、着手前の離脱の事案であるにもかかわらず、「見張り役のCが電話で、A・Bに、『犯行をやめたほうがよい、先に帰る』などと一方的に伝えただけで、被告人とCらは、それ以降、格別にA・Bの犯行を防止する措置を講ずることなく、待機していた場所から共に離脱したにすぎなかった」と述べ、「そうすると」と続けて、「被告人が離脱したのは、A・Bが強盗の実行に着手する前であり、たとえ見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱していたとしても、またA・Bが住居から出てきて、被告人の離脱を知ったという事情があったとしても、当初の共謀関係が解消したということはできず、その後のA・B、E・F・Gの住居侵入、強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である」と述べている。これは、本件の事案が着手後の事案であるという理解に基づいているかのような記述である。
 この決定をどのように理解すればよいのだろうか。この決定の箇所で、犯行の継続の防止に言及されているのは、単に事実関係を踏まえただけであり、最高裁も着手前の離脱の事案であると理解していると解することもできる。また、本件の事案は、実行の着手前の離脱の事案ではあるが、強盗罪と牽連判の関係にある住居侵入が行なわれ、強盗の実行の着手まで時間的・場所的に近接した状況にあったので、財物強取の現実的な危険性が高まっているので、そのために従来の着手前の離脱の類型とは異なる様相の事案であると理解していると解することもできる。もし、最高裁の理解が後者であるならば、被告人・弁護人の側からは、着手前の離脱の要件が詳細な説明なしに着手後の離脱のように厳格に扱われていることを批判すべきである。また、A・Bら残された共犯者が、被告人らが離脱したことを知るに至った後、「どうしようか。当初の計画では無理だな。少し計画を変更しようか」というようなことを言って、E・F・Gと計画を練り直して実行したのであるならば、それは「新たな住居侵入と強盗の共謀」であり、「当初の共謀」による強盗は未遂に終わったと認定することもできるであろう。そうすると、被告人らに成立するのは、強盗致傷罪の共同正犯ではなく、強盗未遂罪の共同正犯である。



【95】共犯関係の解消(2)(最一決平成元・6・26刑集43巻6号567頁)
【事実の概要】
 Yの舎弟分であるXは、AをYのところに連れて行き、暴行を加えることを共謀した。Xは、Yと共同してAに暴行を加えた。その後、Xは、「オレ帰る」とだけ言い、現場をそのままにして帰った。Yは、その後もAに暴行を加えた。Aは死亡した。A死亡の原因が、X・Yが共同して行なった暴行か、それともXが帰宅した後にYが単独で行なった暴行のいずれであるのかは明らかではなかった。

【裁判所の判断】
 Xが帰った時点では、YはAになお暴行を加えるおそれがあったが、Xはそれを防止する措置を講ずることなく、成り行きにまかせて現場を去ったに過ぎないので、Yとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできない。

【解説】
 本件は、2人以上の者が犯罪の実行に着手した後、結果が発生する前の離脱であり、そのなかでも、結果的加重犯の事案である(傷害致死罪、強盗致死傷罪など)。

 結果的加重犯は、故意に行なった基本犯から加重結果が発生した場合をいう。基本犯と加重結果の間に因果関係が必要である。XとYが故意にAに暴行を加え、その後、Aが死亡したのであれば、XとYが暴行を共同して行なった以上、Aの死亡がXの暴行に起因するのか、それともYの暴行に起因するのかが明らかでなくても、またXまたはYの暴行に起因することが明らかであっても、XとYに傷害致死罪の共同正犯が成立する。

 しかし、本件の事案では、X・Yが共同して暴行を加え(X・Yの共同暴行)、Xが帰宅した後にもYが暴行を継続したため(Yの単独暴行)、Aの死亡がX・Yの共同暴行に起因するのか、それともYの単独暴行に起因するのかが問題になるが、Y単独暴行がXとの「当初の共謀」に基づいたものであるならば、それはXとの共同暴行の継続とみなされ、Xにも傷害致死罪の共同正犯が成立することになる。つまり、Xは「オレ帰る」とだけ言い残して、現場から立ち去っても、Yとの当初の共謀は解消されず、暴行の共同正犯から離脱することはできないということである。

 従って、問題は、X帰宅後においても、なおも「当初の共謀」が継続していたか否か、それをどのように判断するかである。Xが帰宅する際に、Yに対して、「オレ帰る」、「それ以上やらないように」と言い残し、Yも明示的に「分かった」と返事をしていたならば、暴行の共謀関係は解消され、その後の暴行はYによって単独で行なわれたものであると認定できる。しかし、本件ではX・Y間において、そのようなやりとりは行なわれなかった。その限りでは、Yの暴行はXとの共謀のうえに行なわれたと評価することもできる。




【96】共犯関係の解消(3)(最三判平成6・12・6刑集48巻8号509頁)
【事実関係】
 被告人Xは、Aと口論となり、Aが仲間のBの髪をつかむなどしたため、友人のY、Z、Wと共同してAに暴行を加えた(反撃行為)。Aは、Bの髪を放したが、Xらに悪態をつき、応戦する姿勢を見せ、場所を移動した。XらはAの後を追いかけた。YとZは、応戦の姿勢を崩さないAに手拳で襲いかかろうとしたが、いずれもWによって制止された。その直後、YがAの顔面を殴打し、Aは加療7ヵ月半を要する傷害を負った(追撃行為)。その間、Xは、自ら暴行に加わることはなかったが、YとZの暴行を制止したわけでもなかった。

 原審の判断
 AがBの髪の毛を放すに至るまでの間、XらはAに対して暴行を行ない(反撃行為)、その後Y・ZはAに暴行を行ない、傷害を負わせた(追撃行為)。Xが行なった反撃行為は、正当防衛であるが、Y・Zが行なった追撃行為は、それと一連一体のものとして行なわれたものであるので、それによって生じた傷害について、X・Y・Zには傷害罪の共同正犯であり、それに過剰防衛(刑36②)が適用される(量的過剰)。

【裁判所の判断】
 被告人らの本件行為を、AがBの髪の毛を放すに至るまでの行為(反撃行為)と、その後の行為(追撃行為)とに分けて考察しなければならない。被告人に関しては、反撃行為については正当防衛が成立するが、追撃行為については、Y・Zとの間で共謀に基づいて行なわれたものとは認められない。従って、反撃行為と追撃行為を一連一体のものとして総合評価することはできない。それゆえ、Xは追撃行為には関与していないので、傷害罪の共同正犯は成立しない。

【解説】
 原審の判断は、X・Y・Z(・W)が、AのBに対する侵害を排除するために反撃行為を行い、Aの急迫不性の侵害が終了した後も、それを継続して行ない、負傷を負わせた「量的過剰」の事案として捉えている。単独の行為者による量的過剰の場合、追撃行為は、急迫不正の侵害の終了後、反撃行為と時間的・場所的に近接した関係において行なわれ、客観的に行為態様が共通し、また主観的にも同一の意思決定に基づいて行なわれているので、追撃行為と反撃行為との一連性・一体性を認め、過剰防衛として認定することができる。原審は、このような単独の行為者による量的過剰の判断方法を、本件の共同正犯にも適用したものと思われる。

 しかし、最高裁は、このような判断方法を適用しなかった。Xら4人がAに対して反撃行為を共同して行ない、急迫不正の侵害の終了した後、なおも他の共同正犯者が追撃行為を継続して行なった場合、反撃行為と追撃行為が時間的・場所的に近接し、客観的に行為態様が共通していても、追撃行為は、共同実行の意思に基づいていたとはいえないからである。4人による正当防衛は終了し、その意思は一旦は終息しているので、追撃行為について「新たな共謀」が形成されていなければ、傷害罪の過剰防衛の共同正犯は成立しない。最高裁は、このように考えているようである。

 4人は、防衛の意思に基づいて、Aに対して共同して反撃行為を行ない、その後、Y・ZはAに対して共同して追撃行為を行なっているが、Xには追撃行為の意思はなかったので、4人よる反撃行為とY・Zによる追撃行為は、異なる意思に基づいて行なわれたものであって、一連・一体の関係にはない。従って、Xの罪責としては、Y・Z・Wと共同して行なった暴行は、AによるBへの侵害を排除するための防衛行為である。

 防衛の意思に基づいて行われた反撃行為とその後の追撃行為とが、時間的・場所的に近接して行なわれ、客観的に行為態様が共通しているにもかかわらず、この2つの行為を侵害終了前後で区別して考察しているのは何故か。94の判例の場合、A・Bらの強盗は、被告人らとの「当初の共謀」に基づく行為として一体的に捉えられている。95の判例でも、被告人Xが帰宅した後のY単独の行為も「当初の共謀」に基づく行為として一体的に捉えられている。それにもかかわらず、本件については、侵害終了前後で2つの行為に分けて捉えられている。それは何故か。それは、反撃行為は防衛の意思に基づいて行なわれ、その後の追撃行為は防衛の意思に基づいて行なわれていないので、この2つの行為は内容的・性質的にも異なる行為であると理解されているからである。それゆえ、2つの行為には一連性・一体性が否定されているものと思われる。




【97】共犯と中止犯(最二判昭和24・12・17刑集3巻12号2028頁)
【事案の概要】
 XとYは、共謀して強盗の実行に着手したが、Xは自らの意思でその継続を中止することにし、Yに対して、「帰ろう」と言って、立ち去るよう勧告して、1人で外に出た。Yはその勧告を受け入れ、いったんは手にした金銭を元の場所に戻したが、再びそれをポケットに入れ、Xが外に出た3分後に出て、2人で帰った。

 原審は、X・Yに強盗既遂罪の共同正犯の成立を認め、Xに懲役3年の実刑判決を言い渡した。これに対して、弁護人は、Xには刑法43条但書の中止未遂の規定を適用すべきであると主張して、上告した。

【裁判所の判断】
 Xは、Yの金銭強取を阻止せずに放任した以上、中止未遂の規定を適用することはできない。

【解説】
1共犯と中止の関係
 共犯と中止犯の問題は、次のように考えなければならない。それは、共犯からの離脱または共犯関
係の解消が認められたうえで、離脱者が自己の意思により犯罪を中止していなければならない。

2共犯からの離脱または共犯関係の解消
 共犯からの離脱は、犯罪の実行の着手の前後に分けて考えられる。
 XとYが、強盗を共謀し、その準備をした後、その実行に着手する前に、Xが離脱するためには、XがYに離脱の意思を表示し、それがYによって了承された場合に、Xには離脱が認められ、それまでの行為(強盗予備罪)について責任を負うだけである。強盗の実行の着手後の離脱の要件は、XがYに離脱の意思を表示し、それがYによって了承され、さらにXがYの犯行の継続を阻止すれば、Xには(Yにも)、強盗未遂の共同正犯が成立するだけである。

3実行の着手後の未遂に対する中止未遂の規定の適用の要件
 犯罪の実行に着手した後、これを遂げなかった場合、未遂が成立するだけであるが、それが自己の意思に基づく犯罪の中止による場合、中止未遂として、その刑を減軽または免除される。強盗の実行に着手した後、Xが自己の意思により犯罪の中止を決意し、それをYに表示し、Yがそれを了承し、さらにXがYの犯行の継続を阻止した場合、Xの強盗未遂に中止未遂の規定を適用することができる。Xの強盗未遂の刑は、減軽または免除される(Yの強盗未遂は強盗の「障碍未遂」でしかない)。

4実行の着手前の予備に対する中止未遂の規定の準用の可能性
 中止未遂は、実行の着手後に適用される規定なので、実行の着手前に離脱したXに対して、中止未遂の規定を適用する余地はない。Xには強盗予備罪が成立するだけであり、その刑は減軽・免除されない。

5着手後の未遂の刑が免除されたが、着手前の予備の刑が減軽・免除されない場合のアンバランス
 着手後の未遂に中止未遂の規定が適用されて、刑が免除されたが、着手前の予備の刑が免除されな場合、アンバランスではないだろうか。実行の着手後の離脱は、着手前の離脱よりも、違法性が低く、また非難可能性も低いが、着手後の未遂に中止未遂の規定が適用され、刑が免除されるにもかかわらず、着手前の予備の刑が減軽・免除されないのは、やはりアンバランスな感は否めない。このアンバランスを解消するためには、犯罪の予備後、自己の意思に基づいて、犯罪の実行に着手するのを中止した場合、予備罪に中止未遂の規定を「準用」することが考えられる。
 この問題は、殺人予備罪、放火予備罪の場合は、「情状」により、予備罪の刑を免除することができるにもかかわらず、強盗予備罪には「情状」による刑の免除の可能性がないため生じている。
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