Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)TIME FOR COFFEEによる根の分裂組織の制御

2014-01-30 19:49:55 | 読んだ論文備忘録

TIME FOR COFFEE controls root meristem size by changes in auxin accumulation in Arabidopsis
Hong et al.  Journal of Experimental Botany (2014) 65:275-286.
doi:10.1093/jxb/ert374

TIME FOR COFFEE(TIC)は概日時計の調節因子として機能しているが、MYC2タンパク質の蓄積を抑制してジャスモン酸(JA)シグナルを負に制御することが報告されており、シロイヌナズナtic 変異体芽生えはJAによる根の伸長阻害に対して高感受性を示す。しかしながら、JAを添加していない条件で発芽10日目のtic-2 変異体の根の長さは野生型と同等であり、TIC が根の成長に対してどのように関与しているかは明らかではない。中国 武漢大学のLu らは、シロイヌナズナtic-2 変異体芽生えの1次根の成長を野生型と比較し、発芽から3、4日目ではtic-2 変異体の1次根は野生型よりも短いが、その後は伸長阻害が見られないことを見出した。したがって、TIC は根の初期成長に関与していると考えられる。tic-2 変異体の根は分裂領域の長さと細胞数が野生型よりも減少しており、TIC は分裂領域の細胞数を制御することで根の伸長に影響していることが示唆される。興味深いことに、tic-2 変異体の根の伸長領域の長さは野生型と同等であり、成熟領域の細胞は野生型よりも大きいことがわかった。TIC は概日時計の調節因子なので、日長を変えることで分裂領域の長さや細胞数に変化が見られるかを調査したが、明確な違いは見られなかった。根の伸長量は日変動するが、tic-2 変異体の根の伸長の日変動は野生型と同じであった。また、tic-2 変異体の分裂領域の長さと細胞数は明方においても夕方においても野生型よりも少なくなっていた。tic-2 変異体は分裂組織の細胞分裂能が明方も夕方も野生型よりも低下していた。tic-2 変異体の中には、静止中心細胞やコルメラ細胞の数が増えたり、新たな幹細胞列の見られる個体もあり、TIC は幹細胞周辺のポテンシャルにも関与していると考えられる。TIC は調査した全ての組織で恒常的に発現しており、特に花での発現量が高くなっていた。根においてTIC は分裂組織で高い発現が見られ、TIC が根の分裂組織に作用していることと一致している。オーキシンは根の分裂組織の維持にとって重要であり、オーキシン量の低下した変異体は分裂組織が小さくなる。tic-2 変異体でオーキシン応答DR5::GFP マーカーを発現させたところ、明方も夕方も蛍光強度が野生型よりも低いことがわかった。また、tic-2 変異体の根の内生IAA量は明方も夕方も野生型よりも低くなっていた。よって、オーキシン量の減少がtic-2 変異体の分裂組織の大きさを変化させていることが示唆される。そこで、tic-2 変異体にIAAを与えてみたところ、分裂組織の大きさや細胞数が増加した。野生型植物において、オーキシン添加によるTIC 発現量の変化は見られなかった。標識したIAAを用いた試験から、tic-2 変異体では明方も夕方も根へのオーキシン極性移動量が減少していることがわかった。したがって、tic-2 変異体の根のオーキシン量の低下は求頂的なオーキシン輸送量の低下によるものと考えられる。地上部の茎頂や若い葉で合成されたオーキシンは根の成長にとって重要であることから、芽生えの地上部を切除して根の成長を見たところ、野生型植物では分裂組織の長さや細胞数が減少してtic-2 変異体の根のようになったが、tic-2 変異体では大きな変化は見られなかった。また、tic-2 変異体はオーキシン生合成遺伝子の根での発現量が野生型よりも低く、オーキシン生合成能力もtic-2 変異体の表現型に影響していると考えられる。根の分裂組織の大きさは、PIN1PIN2PIN3PIN7 によって制御されており、tic-2 変異体ではこれらの遺伝子の転写産物量が野生型よりも大きく減少していた。したがって、PIN 遺伝子の発現量の低下がtic-2 変異体のオーキシン輸送の低下の原因となっていると考えられる。根の幹細胞の維持・制御にはSCARECROWSCR )/SHORT-ROOTSHR )とPLETHORAPLT )の2種類の経路が関与している。tic-2 変異体ではSCR /SHR の発現量に変化は見られなかったが、PLT1PLT2 の発現量が低下していた。よって、オーキシン量の低下によるPLT1 /2 の発現量の低下がtic-2 変異体の分裂組織の大きさに影響を及ぼしていると考えられる。JAはMYC2を介して根の成長を阻害するので、tic-2 変異体では根分裂組織でのMYC2蓄積量が増加しているために根の成長が抑制されているとも考えられる。しかし、tic-2 myc2-1 二重変異体の根分裂組織はtic-2 変異体と同様に長さが短く、myc2-1 変異体の分裂組織の長さは野生型と同等であった。よって、tic-2 変異体の根分裂組織が短いことにMYC2 は関与していないと考えられる。これらの変異体にJA処理をして分裂組織の長さを比較すると、myc2-1 変異体は野生型よりも長く、過去知見が示すように、JAを介した分裂組織の長さの制御にはMYC2 が関与していることが示された。tic-2 myc2-1 二重変異体もJAの根に対する感受性が低下していたが、tic-2 変異体はJAに対する感受性が高くなっていた。これは、tic-2 変異体ではMYC2タンパク質が蓄積していることによると考えられる。以上の結果から、tic-2 変異体の根の分裂組織の長さや細胞数の減少は、PIN の発現量低下によるオーキシン蓄積量の減少によってPLT1 /2 発現量が低下して幹細胞の活性が低下していることが原因であり、MYC2 を介したジャスモン酸シグナルはおそらく関与していないと考えられる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論文)ストレスによる花成誘... | トップ | 論文)MORE AXILLARY GROWTH2... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事