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論文)硝酸銀をエチレン作用阻害剤として用いる際には注意が必要

2010-01-16 22:06:14 | 読んだ論文備忘録

Silver Ions Increase Auxin Efflux Independently of Effects on Ethylene Response
Strander et al.  Plant Cell (2009) 21:3585-3590.
doi:10.1105/tpc.108.065185

硝酸銀がエチレン作用を阻害する現象は1976年に発見され、以来、多くの基礎研究、応用研究に利用されてきた。例えば、オーキシン(IAA)による根の伸長阻害において硝酸銀を添加することによりIAAがより高濃度必要となるが、これは、IAA処理によって生成されたエチレンが根の伸長阻害をさらに強めているためであると解釈されてきた。米国 ライス大学のBartel らは、この仮説を検証するために幾つかの実験を試みた。シロイヌナズナ芽生えの根がIAAにより伸長阻害される際にエチレン生合成阻害剤のアミノエトキシビニルグリシン(AVG)もしくは硝酸銀を添加してオーキシンに対する応答の変化を見たところ、硝酸銀はAVGよりもIAA応答の抑制効果が高かった。しかし、合成オーキシンである2,4-Dによる根の伸長阻害に対する抑制効果は硝酸銀もAVGも同等であった。よって、硝酸銀とIAAの相互作用は2,4-Dとの相互作用とは異なることが示唆される。次にエチレン応答変異体ein2 に同様の実験を行なったところ、ein2 変異体はエチレン非感受性であるのもかかわらず、硝酸銀添加によりIAAによる根伸長阻害が抑制された。よって、硝酸銀はエチレン応答の阻害とは別のところでIAAに対する応答を抑制していると考えられる。オーキシンキャリアの変異体であるeir2/pin2aux1 においても硝酸銀はIAA感受性を低下させていることから、硝酸銀はオーキシンキャリアに作用してIAA感受性を低下させているのではない。また、硝酸銀はその濃度に応じてAux/IAAタンパク質のIAAによる分解を抑制したが、2,4-Dによる分解には影響しなかった。これらの結果から、硝酸銀のIAA感受性に与える影響はオーキシンシグナルのかなり上流でIAA特異的に影響していると考えられる。そこで、硝酸銀がIAAの蓄積に与える影響をトリチウム標識したIAAを用いて調査したところ、硝酸銀はAUX1、EIR1/PIN2などによるオーキシン輸送やエチレンシグナルによる抑制に関係なくIAAの蓄積量を減少させることがわかった。以上の結果から、硝酸銀(銀イオン)は未知の機構を介してオーキシンの細胞外への排出を促進していると考えられる。よって、硝酸銀をエチレン作用阻害剤として実験に利用する際には注意が必要である。

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