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論文)フック形成におけるジベレリンとオーキシンのクロストーク

2012-11-29 19:57:46 | 読んだ論文備忘録

WAG2 represses apical hook opening downstream from gibberellin and PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR 5
Development (2012) 139:4020-4028.

doi: 10.1242/dev.081240

ドイツ ミュンヘン工科大学Schwechheimer らは、シロイヌナズナのジベレリン(GA)の生合成やシグナル伝達の変異体ではオーキシンの極性輸送に異常が見られることに着目し、オーキシン輸送の制御に関与しているセリン/スレオニンキナーゼのサブファミリーAGCVIIIキナーゼファミリーをコードする遺伝子のGA処理による発現量変化を調査した。その結果、GA生合成欠損ga1 変異体をGA処理することによってWAG2 遺伝子の転写産物量が増加すること、野生型植物をGA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理することによってWAG2 転写産物量が減少することを見出した。GA処理によるWAG2 転写産物量の変化は、タンパク質生合成阻害剤シクロヘキシミド(CHX)の添加によっても起こることから、この機構は、GAによるDELLAタンパク質の分解誘導のように、タンパク質の新規生合成を介さずに起こると考えられる。WAG2 転写産物量は、gid1a gid1c 二重変異体、gai-1 変異体、sly1-10 変異体のようなDELLAタンパク質の蓄積を起こす変異体では減少し、DELLA機能喪失変異体のrga-24 gai-t6 では増加していた。暗黒下で育成した芽生えを明所に移すとWAG2 転写産物量が減少することから、WAG2 の転写はフィトクロム相互作用因子(PIF)のような光照射によって不安定化する転写因子によって制御されていることが示唆される。したがって、WAG2 の発現はDELLAによって制御され、おそらくPIFの下流に位置しているものと思われる。WAG2 の発現が暗所育成芽生えにおいて増加することから、wag2 変異体芽生えの暗所での形態変化を観察したところ、この変異体ではフックの屈曲の度合いが野生型よりも開いていることがわかった。しかも、このフックの開きは発芽3~4日目のフックが開く際の芽生えでのみ観察され、発芽2日目のフック形成過程では野生型との差は見られなかった。よって、WAG2 はフックが開く際に抑制的に作用していると考えられる。WAG2 のパラログとされているWAG1 の変異体wag1 では正常にフック形成が起こることから、WAG1はこの過程には関与していないと考えられる。ga1 変異体ではフックが形成されないが、GA処理をすることで形成される。wag2 ga1 二重変異体ではGA処理をしてもフックは開いたままであり、WAG2 はGAよりも下流において暗所育成芽生えのフックの開きを抑制していることが示唆される。WAG2 プロモーター制御下でGUSを発現させてWAG2 の発現部位を調査したところ、フックの凹面でGUS活性が見られた。WAG2 の発現は、pif5 変異体では減少し、pif4 変異体では増加していた。pif1 変異体、pif3 変異体では変化が見られなかったが、pif1 pif3 二重変異体では減少していた。また、PIF5 過剰発現個体ではWAG2 の発現量が増加していた。よって、WAG2 の発現において、PIF5は活性化因子、PIF4は抑制因子、PIF1とPIF3は冗長的に活性化因子として機能していると考えられる。クロマチン免疫沈降(ChIP)試験から、PIF5はWAG2 遺伝子プロモーター領域にあるG-boxに結合することが確認されたことから、PIF5は直接WAG2 の発現を制御していると考えられる。オーキシン排出キャリアのPINタンパク質はフックの維持にとって重要であり、変異体の解析から、PIN3が特に重要であることが示唆されている。wag2 pin3 二重変異体はそれぞれの単独変異体よりもフックが開くことから、WAG2PIN3 は共にフックの開きに対して抑制的に作用していることが示唆される。WAG2はPIN2をリン酸化して根の皮層細胞におけるPIN2の極性を制御していることが知られている。今回、in vitro でのリン酸化試験を行なったところ、WAG2はPIN2以外にもPIN1、PIN3、PIN4、PIN7もリン酸化することがわかった。そこで、野生型植物とwag2 変異体でPIN1、PIN3の細胞内局在を比較したが、両者においてPINタンパク質の分布や量に違いは見られなかった。オーキシン応答レポーターDR5を用いて暗所育成芽生えフック部分のオーキシン分布を見たところ、wag2 変異体のフックでは、野生型植物において観察されるフック凹面側でのレポーターの発現が抑制されており、GA処理をしてもレポーターの発現に変化は見られなかった。よって、WAG2はフック部分での側面方向のオーキシン極大形成を正に制御していると考えられる。以上の結果から、以下のモデルが考えられる。GAによるDELLAタンパク質の分解誘導によってPIF5の活性抑制が解除され、WAG2 の発現が誘導される。WAG2はPINタンパク質をリン酸化し、このことによってオーキシンの極性輸送の変化、フック凹面でのオーキシン極大形成が起こり、フックの開きが抑制される。

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