Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)同じ揮発性物質が送粉者と捕食者を誘引する

2017-06-15 05:37:30 | 読んだ論文備忘録

Tissue-Specific Emission of (E)-α-Bergamotene Helps Resolve the Dilemma When Pollinators Are Also Herbivores
Zhou et al. Current Biology (2017) 27:1336-1341.

DOI: 10.1016/j.cub.2017.03.017

(E)-α-ベルガモテンは、食害を受けた植物の葉が局所的もしくは全身で放出するセスキテルペンで、捕食者であるヒメオオメカメムシ属(Geocoris spp.)を誘引することで間接的な防御に関与しているが、花からも放出されている。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Xu らは、(E)-α-ベルガモテンの食害による誘導と花からの放出について野生タバコN. attenuata を用いて解析した。N. attenuata の花は主に夜間に(E)-α-ベルガモテンを放出している。放出は花冠が開く午後6時頃から急速に増加し、午後8時から午前1時にかけて放出量が最大となり、その後は朝にかけて減少していった。この放出パターンは、花が放出する主要な誘引物質であるベンジルアセトンの放出パターンと類似しており、送粉者であるタバコスズメガ(M. sexta )の活動と一致している。葉では、恒常的に(E)-α-ベルガモテンを放出しており、朝の放出量が最大で、午前2時までに徐々に減少していくが、放出量は非常に少ない。葉に傷を付けて傷口にタバコスズメガ幼虫の口内分泌物を付けることで食害を模倣すると、(E)-α-ベルガモテンの放出は処理によって誘導をかけた日の午後12時から8時の間と翌日の午前6時から10時の間の2回のピークが見られた。この食害処理による(E)-α-ベルガモテンの放出時間帯は、フィールドでのヒメオオメカメムシの活動や発生量と一致していた。N. attenuata の自然系統23種について花および食害誘導した葉からの(E)-α-ベルガモテン放出量を見ると、系統間での差はあるが、両器官の放出量に相関が見られた。したがって、系統間での(E)-α-ベルガモテン放出量の差異は花と食害誘導葉とも同じ遺伝学的な制御によるものであることが示唆される。(E)-α-ベルガモテン放出量の少ないアリゾナ産の自殖系統と放出量の多いユタ産の自殖系統を交雑して作成したアドバンストインタークロス組換え近交系(AI-RIL)集団を用いてQTLマッピングを行ない、(E)-α-ベルガモテンの食害誘導放出を制御する2つのQTL遺伝子座(QTL1、QTL2)が見出された。QTL1とQTL2は優性で相加的に作用した。主要なQTL遺伝子座のQTL2についてトマトゲノムのシンテニー領域の解析を行ない、テルペンシンターゼ(TPS)クラスター内のTPS38 が見出された。NaTPS38N. attenuata の葉の食害によって強く誘導された。また、NaTPS38 は花の花冠筒部で強く発現していたが花冠では発現していなかった。大腸菌でNaTPS38 を発現させた試験から、NaTPS38 は(E)-α-ベルガモテン生合成に関与していることが示唆された。ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)でNaTPS38 をサイレンシングしたN. attenuata は、花や葉、メチルジャスモン酸処理した葉での(E)-α-ベルガモテン放出量が減少していた。花や食害誘導葉でのNaTPS38 転写産物量は、N. attenuata 自然系統23種の間で(E)-α-ベルガモテン放出量と相関が見られた。これらの結果から、N. attenuata における食害誘導葉や花での(E)-α-ベルガモテンの放出はNaTPS38 を介してなされていると考えられる。NaTPS38の生成物はセスキテルペンだが、NaTPS38 はモノテルペンシンターゼクラスター(TPS-bクレイド)に属している。系統樹解析から、TPS38 はナス科植物特異的であることがわかった。モノテルペンシンターゼは多くの場合プラスチドに局在するが、セスキテルペン類は主に細胞質で合成される。NaTPS38タンパク質は細胞質に局在しており、祖先型から葉緑体トランジットペプチドを喪失したことが示唆される。また、細胞内局在以外にも、NaTPS38 は進化の過程においてN. attenuata 集団で正の自然選択がなされてきたと思われる。花での(E)-α-ベルガモテン放出の生態学的な機能を調査するために、タバコスズメガの触角電図を計測したところ、花のヘッドスペースに相当する(E)-α-ベルガモテンの濃度で弱い反応が見られることが判った。また、この濃度の(E)-α-ベルガモテンでガの口吻においてニューロン反応が見られた。(E)-α-ベルガモテンはスズメガが口吻を伸ばして周囲を探索するプロービング行動を延長させる効果があり、(E)-α-ベルガモテンを放出しないN. attenuataVIGS-NaTPS38 )の花よりも放出する花の方がプロービング時間が長かった。観察されたプロービング行動の変化が植物の適応度に対して直接の影響があるかを調査するために、半自然環境の巨大テントの中にタバコスズメガを放ち、花冠筒部に(E)-α-ベルガモテンを添加した除雄花と対照の除雄花の稔実を比較したところ、(E)-α-ベルガモテンの添加は蒴形成数と花当りの種子数を増加させることがわかった。したがって、花の(E)-α-ベルガモテンはタバコスズメガを介したN. attenuata の他家受粉を高めていることが示唆される。以上の結果をまとめると、N. attenuata の花はNaTPS38 を発現して(E)-α-ベルガモテンを夜間に放出し、タバコスズメガによる授粉を促進するが、一部の送粉者は同じ植物の葉に卵を産み、葉が孵化した幼虫に食べられてしまう。しかし、タバコスズメガ幼虫によって食害を受けた葉は日中に同じ遺伝子を発現させて同じ物質を放出して幼虫の捕食者を誘引し、結果的に食害を抑える。したがって、NaTPS38 とその生成物である(E)-α-ベルガモテンの組織特異的かつ時間特異的な発現は防御と送粉者誘引の両方に寄与し、自らに適合した送粉者が貪欲な植食者でもあるというN. attenuata が直面しているジレンマの解決に貢献している。さらに、植食者と送粉者との相互作用は、植物の進化に相乗的もしくは相加的に作用しうることが示唆される。

マックス・プランク化学生態学研究所のプレスリリース

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 植物観察)箱根 | トップ | 植物観察)北海道バイケイソ... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL