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論文)FT転写産物の選択的スプライシングによる花成制御

2017-02-26 12:08:17 | 読んだ論文備忘録

Regulation of FT splicing by an endogenous cue in temperate grasses
Qin et al. Nature Communication (2017) 8:14320.

DOI: 10.1038/ncomms14320

イネ科ヤマカモジグサ属のミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon )は、フロリゲン遺伝子FLOWERING LOCUS TFT )のオーソログを2つ(FT1FT2 )持っている。中国農業科学院作物科学研究所のWu らは、ミナトカモジグサでのFT 遺伝子の発現パターンをPCRで調査し、FT2 は選択的スプライシングによって2種類の転写産物が形成されることを見出した。そのスプライシング産物は第1エクソンの5'末端側が84塩基欠失しており、翻訳産物はN末端領域のフォスファチジルエタノールアミン結合タンパク質(PEBP)ドメインに28アミノ酸の欠失が生じていた。FT1 転写産物には変異スプライス産物は見られなかった。そこで、正常な転写産物をFT2α 、選択的スプライス転写産物をFT2β と命名し、解析を行なった。FT2β/FT2α 比は植物体の育成温度によって変化し、高温条件で低下した。FT2α を過剰発現させた個体は花成促進されるが、FT2β を過剰発現させた個体は出穂が遅延し、FTの下流で作用しているAPETALA1 のミナトカモジグサオーソログであるVRN1 の発現量が劇的に減少していた。FT2β 過剰発現個体でのFT2α 転写産物量は野生型と同等であった。したがって、FT2αとFT2βは花成誘導に対する効果が異なっていると考えられる。酵母two-hybridアッセイの結果、FTと相互作用をするFD様タンパク質FDL2は、FT2αとは相互作用をするがFT2βとの結合は確認されなかった。また、ベンサミアナタバコを用いたBiFCアッセイやCo-IPアッセイから、生体内においてもFT2βとFDL2は相互作用をしないことが確認された。FTと相互作用をする14-3-3タンパク質のGF14bとGF14cについても同様のアッセイを行なったところ、FT2αとは相互作用を示すが、FT2βとの相互作用は確認されなかった。したがって、FT2スプライス変異型は14-3-3タンパク質やFDと物理的に相互作用をする能力が失われているものと思われる。酵母three-hybridアッセイの結果、FT2βはFT2αとFDL2もしくはGF14bとの相互作用を抑制することがわかった。また、競合BiFCアッセイから、FT2βは生体内でのFT1、FT2αとFDL2、GF14bとの相互作用を抑制することが確認された。FT2βはFT1やFT2αとヘテロ二量体を形成するが、FT2βのホモ二量体は形成されなかった。これらの結果から、FT2βによる花成遅延は、FT2βがFT2αやFT1と結合することでFDや14-3-3タンパク質との複合体形成が妨げられることで生じているものと思われる。FT2β 転写産物量は、ミナトカモジグサの成長初期4週間目まではFT2α 転写産物量よりも多いが、その後はFT2α 量の方が多くなり、植物体が成長するにつれてFT2β/FT2α 比は減少していった。よって、選択的スプライシングによるFT の転写後制御は、ミナトカモジグサの花成時期の制御に関与し、若い植物体にFT2β量が多いことは早熟な花成を抑制する作用があると推測される。人工マイクロRNAによってFT2β をノックダウンした植物は、対照よりも出穂日が早くなり、VRN1 の発現量が増加していた。この早期花成の程度と人工miRNAの発現量との間には相関が見られることから、FT2βの減少による花成促進は、花成複合体形成がより多く形成されVRN1 発現量が増加することによるものであると思われる。FT2α をノックダウンする人工miRNAを発現させた個体は、花成が遅延し、VRN1 発現量も減少した。したがって、FT2βとFT2αはミナトカモジグサの花成において拮抗的に作用していると考えられる。シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシではFT2 オーソログの選択的スプライシングは見られなかったが、ミナトカモジグサと同じイネ科イチゴツナギ亜科のタルホコムギ、コムギ、オオムギではミナトカモジグサと同じ領域が欠失したFT2 スプライス変異型が見られた。また、コムギやオオムギのFT2β は、8週間目の植物体では発現量がFT2α よりも低いが、2週間目の植物体ではFT2α の転写産物量が減少していた。したがって、発生過程でのFT2 選択的スプライシングの変化は温帯のイネ科植物で保存された花成制御機構であると考えられる。

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