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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)重力シグナルの伝達機構

2017-11-08 21:31:17 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis LAZY1 Family Plays a Key Role in Gravity Signaling within Statocytes and in Branch Angle Control of Roots and Shoots
Taniguchi et al. Plant Cell (2017) 29:1984-1999.

doi:10.1105/tpc.16.00575

植物が重力屈性を示す際には、平衡細胞が重力シグナルを感知し、オーキシンの非対称分布が起こり器官が屈曲する。しかしながら、両者を結ぶ分子機構は明らかとなっていない。名古屋大学森田らは、シロイヌナズナのシュートの平衡細胞において重力シグナルを制御している遺伝子を同定するために、野生型と重力屈性を示さないshoot gravitropism1sgr1 )/scarecrowscr )変異体およびendodermal amyloplast less1eal1 )/sgr7/short-rootshr )変異体の花序茎のマイクロアレイ解析を行なった。そして、sgr1 /scr 変異体とeal1 /shr 変異体で発現量が低下しているLAZY1 ファミリー遺伝子に着目し、これらの遺伝子をLAZY1-LIKE1LZY1 )、LZY2LZY3 と命名して詳細な解析を行なった。これら3遺伝子は発現パターンが異なっていたが、一部重複して発現する部分も見られ、花序茎や胚軸の内皮では共通して発現していた。各遺伝子のT-DNA挿入変異体の表現型を見ると、lzy2 変異体、lzy3 変異体、lzy2 lzy3 二重変異体の花序茎の重力屈性応答に変化は見られなかったが、lzy1 変異体は重力屈性応答が低下し、側枝が水平方向に成長する傾向が見られた。lzy2 変異はlzy1 変異体の表現型を強調させたが、lzy3 変異はそのような効果を示さなかった。また、lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体はlzy1 lzy2 二重変異体よりも強い重力屈性応答の低下を示し、一次シュートは完全に重力屈性を失って、地面を這うように成長した。黄化芽生えの胚軸では、単独変異体、二重変異体の重力屈性応答の変化は僅かであったが、三重変異体は有意に応答性が低下していた。これらの結果から、LZY 遺伝子はシュートの重量屈性に対して冗長的に異なるレベルで機能していることが示唆される。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体は光刺激に応答した非対称器官成長は示すことから、LZY 遺伝子は屈曲応答の際の器官伸長の前の過程に関与していることが示唆される。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体においてLZY 遺伝子をシュートと根の内皮特異的に発現するSGR1 /SCR プロモーター制御下で発現させたところ、重力屈性の回復が見られた。よって、LZY 遺伝子は分子機構に冗長性があることが示唆される。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の花序茎の内皮は正常であり、胚軸の内皮ではデンプンの蓄積が見られ、重力刺激を与えることでアミロプラストの沈降が起こった。したがって、LZY 遺伝子はシュートの平衡細胞でのアミロプラストによる重力感知以降の過程に関与しているものと思われる。LZY 遺伝子プロモーター活性解析から、LZY2LZY3 は主根および側根のコルメラ細胞で発現していることが判明し、lzy2 lzy3 二重変異体は根の重力屈性が低下していた。lzy2 lzy3 二重変異体とlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の根の重力屈性に差異が見られないことから、LZY1 は根の重力屈性には関与していないと思われる。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体においてACTIN DEPOLYMERIZING FACTOR9ADF9 )プロモーター制御下でLZY 遺伝子を根の平衡細胞であるコルメラ細胞で発現させたところ、根の重力屈性の回復が見られた。よっていずれのLZY 遺伝子も根の重力屈性に関して同じ機能を有していると考えられる。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の主根や側根の根冠の形態やデンプンの蓄積は野生型と同等であり、コルメラ細胞でのアミロプラストの沈降も正常であった。よって、LZY 遺伝子はシュートと同様に根の平衡細胞においてもアミロプラストによる重力感知以降の過程において作用していることが示唆される。また、lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の根では、重力刺激後のオーキシン応答マーカーDR5rev:GFP の非対称発現が見られないことから、LZY 遺伝子はオーキシン非対称分布の形成に関与していると考えられる。LZYファミリータンパク質には機能ドメインもしくはモチーフと思われる領域が見られないが、全てのLZYファミリータンパク質においてC末端14アミノ酸配列が保存されていた。そこでこのドメインを「conserved C terminus in LAZY1 family proteins(CCL)」と命名した。CCLドメインを欠いたLZY2タンパク質やLZY3タンパク質はlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の根の重力屈性を回復させなかった。よって、CCLドメインは根におけるLZY2 およびLZY3 の機能にとって重要であると考えられる。LZY2、LZY3は細胞膜に局在しているが、LZY1は核に局在していた。CCLドメインを欠いたLZY3も細胞膜に局在することから、CCLドメインはLZYタンパク質の局在性には関与していないと考えられる。CCLドメインとmCherryの融合タンパク質をlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体で発現させると芽生えの根が上向きに成長した。CCLドメインを野生型植物で発現させてもlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体よりも弱いが根の重力屈性の異常は見られた。この時、アミロプラストの沈降は正常であった。よって、CCLドメインを発現させたlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体は重力の方向シグナルを認識しているが、シグナルの異常によって負の重力屈性を示していると考えられる。CCLドメインをコルメラ細胞で発現させたlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の根端でのDR5rev:GFP の発現パターンは、野生型と同等であったが、重力刺激の方向を変えることによるGFP蛍光の非対称分布が見られなかった。よって、CCLはコルメラ細胞において重力シグナル伝達を妨げ、根端でのオーキシン輸送の方向性の喪失を引き起こしているものと思われる。lzy2 変異体、lzy3 変異体、lzy2 lzy3 二重変異体では側枝の成長方向は野生型と同等であったが、lzy1 変異体の側枝はほぼ水平方向に成長し、lzy2 変異、lzy3 変異はlzy1 変異体の表現型を強調した。lzy3 変異体の側根は野生型よりも伸長する角度が開いていた。これらの結果から、LZY 遺伝子は側枝や側根の成長角度の制御に対しても重要であると考えられる。lzy2 lzy3 二重変異体やlzy1 lzy2 lzy3 三重変異体の側根はやや上向きに伸長した。lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体芽生えを上下逆さまにしても側根は上へと成長することから、三重変異体の側根は重力は感知しているが成長方向が逆になっている。そこで、側根の発達過程を追ってDR5rev:GFP でオーキシン分布を調査したところ、野生型では根冠の下側にGFP蛍光が観察されるが、lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体では上側に蛍光が見られた。コルメラ細胞でのオーキシン輸送にはPIN3が関与しており、PIN3の局在を見ると、野生型の側根では細胞の下側に多く局在しているが、lzy1 lzy2 lzy3 三重変異体では上側に多く局在していた。このPIN3の非対称分布は、DR5rev:GFP の発現パターンや側根の成長方向と一致しており、LZY 遺伝子は側根コルメラ細胞においてPIN3の局在に影響することで重力方向へのオーキシン輸送に関与していると考えられる。以上の結果から、LZY 遺伝子は、重力に応答したオーキシンの非対称分布の形成に関与していると考えられる。

名古屋大学のプレスリリース

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