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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)オーキシン応答因子による花器官形成制御

2014-12-11 05:49:24 | 読んだ論文備忘録

AUXIN RESPONSE FACTOR 3 integrates the functions of AGAMOUS and APETALA2 in floral meristem determinacy
Liu et al.  The Plant Journal (2014) 80:629-641.

DOI: 10.1111/tpj.12658

MADS-ドメイン転写因子のAGAMOUS(AG)は、雄ずいと心皮の形成に関与しており、分裂組織の維持に関与しているWUSCHELWUS )の発現を抑制している。そのため、ag-1 機能喪失変異体は、WUS の発現時期が延長し、花の中に花ができる表現型を示す。弱いag アレルのag-10 変異体は、長角果の内部で組織形成が起こることで膨らんだ形態を示すものが生じる場合があり、これは花分裂組織の幹細胞活性が維持されて花器官の属性異常が起こることによって引き起こされていると考えられる。米国 カリフォルニア大学リバーサイド校Chen らは、ag-10 変異体をEMS処理して得られた集団から、すべての長角果が膨らんだ形態を示し、ag-1 変異体ほど極端な表現型とならない変異体を単離した。このag-10 変異が強調された変異体は、がく片、花弁、雄ずいの形態は正常だが、内部に器官が形成されることで膨らんで癒合しない心皮を生じた。マップベースクローニングの結果、この変異はAUXIN RESPONSE FACTOR 3ARF3 )遺伝子の第8エクソンと第8イントロンの接合部がGからAに置換してmRNAの正常なスプライシングを妨げていることがわかった。arf3-29 と命名したこの変異の効果を検証するために、arf3/ett アレルの機能喪失変異ett-3ag-10 変異体に導入して表現型を観察したところ、ag-10 arf3-29 変異体と同様の形態異常を示した。また、ARF3 を自身のプロモーター制御下で発現させたag-10 arf3-29 変異体は表現型が回復した。したがって、arf3-29 変異はag-10 arf3-29 変異体の花分裂組織異常の強調に関与していることが示唆される。arf3-29 単独変異体は、雄ずい群の発達異常などのett-3 変異体と類似した表現型を示した。ag-10 arf3-29 変異体の花分裂組織の属性異常を分子レベルで解析するために、in situ ハイブリダイゼーションでWUS の発現パターンを見たところ、花序でのWUS の発現部位に関してはag-10 arf3-29 変異体とag-10 変異体の間で違いは見られなかったが、ag-10 arf3-29 変異体ではWUS の発現がag-10 変異体よりも長く続いていることがわかった。よって、ARF3WUS の発現抑制に関与していることが示唆される。ARF3WUS の遺伝的な関係を見るために、ag-10 arf3-29 wus-1 三重変異体を作成して形態を観察したところ、この変異体はwus-1 単独変異体と同様に花器官の発達が未成熟な段階で止まることがわかった。よって、wus-1 変異はag-10 arf3-29 変異よりも上位にあると考えられる。arf3-29 変異体でのAG 遺伝子の転写産物量は野生型と同等であり、ARF3タンパク質はAG 遺伝子に結合しないことから、ARF3AG の発現を制御していないと考えられる。ag-10 変異体ではARF3 の転写産物量が減少しており、グルココルチコイド受容体を付加したAGを発現させたag-1 変異体をDEX処理するとARF3 転写産物量が増加した。しかしながら、AGタンパク質はARF3 遺伝子に結合しなかった。よって、AGは間接的にARF3 の発現を制御していると考えられる。ag-1 arf3-29 二重変異体はag-1 単独変異体よりも花の形態異常が強まること、ag-10 arf3-29 二重変異体にAGのターゲット遺伝子で花分裂組織の属性に部分的に関与しているKNUCKLESKNU )の機能喪失変異knu-1 を導入すると花の形態異常がより強くなることから、ARF3 は花器官の属性決定においてAG経路とは一部独立して機能していると考えられる。AGとは独立して花分裂組織の属性を制御しているAPETALA2(AP2)は、直接ARF3 の発現を抑制していることがわかった。花器官の発達過程におけるARF3 の発現パターンをin situ ハイブリダイゼーションで観察したところ、花序分裂組織では花分裂組織が形成される末端部で発現しており、その後分裂組織の葉脈部で発現が強まり、雄ずいと心皮の原基に発現が集中した後、発達後期には花弁、雄ずい、雌ずいの背軸側で発現が見られた。GFPを付加したARF3をARF3 プロモーター制御下で発現させてARF3-GFPタンパク質の分布を見たところ、GFP蛍光はARF3 mRNAの分布していない部位においても見られた。花器官の発達過程においてARF3-GFPが検出される部位とWUS が発現している部位は重複が見られた。そこで、tasiR-ARFsによる制御受けないARF3mとGFPの融合タンパク質をWUS プロモーターおよびターミネーター制御下でag-10 arf3-29 変異体で発現させたが、花分裂組織の属性の回復は起こらなかった。よって、ARF3 が適切な部位で発現することが花分裂組織の属性決定において重要であると考えられる。WUS 遺伝子にはプロモーター領域と第1イントロンにARFファミリーが結合するAuxRE(TGTCTC)に類似した配列が含まれており、ARF3はWUS プロモーター領域の配列に結合することがわかった。AGもWUS 遺伝子プロモーターに結合することが知られており、AGはARF3のWUS 遺伝子プロモーター領域への結合を促進することがわかった。以上の結果から、花器官原基におけるARF3 遺伝子発現およびARF3タンパク質の分布は、AGとは独立して花分裂組織の属性決定に関与していることが示唆される。

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