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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ヨーロッパに侵入したブタクサの特性

2014-04-05 17:19:45 | 読んだ論文備忘録

Germination and seedling frost tolerance differ between the native and invasive range in common ragweed
Leiblein-Wild et al.  Oecologia (2014) 174:739-750.
DOI 10.1007/s00442-013-2813-6

侵略的外来種は全世界において生物多様性に対する大きな脅威とみなされている。また、その脅威は気候変動によって拡大している。ブタクサ(Ambrosia artemisiifolia L.)は北アメリカ原産の一年草で、ヨーロッパには19世紀に小麦や農産物に混入して進入した。現在では鳥の餌が最も大きな進入経路となっている。ブタクサは、多くのヨーロッパ諸国において、農耕地、道端や建設現場のような荒地で生育しており、南東ヨーロッパ、ポー川流域、南フランスを中心に分布している。ブタクサは他の一年生植物に比べてライフサイクルが長く、早くに発芽し、痩果は10月まで成熟しない。よって早春に発芽した芽生えは霜に当たることがある。このことから、異なる地域のブタクサ集団は成長や開花のフェノロジーのような生活史に違いがあり、遺伝的に高度に多様化していることが推測され、発芽特性や霜耐性にある程度の変動があると思われる。ドイツ 生物多様性と気象研究センター(BiK-F)Leiblein-Wild らは、ヨーロッパに進入したブタクサ集団と自生地である北アメリカの集団の発芽特性と霜耐性について調査した。ヨーロッパの17地域と北アメリカの10地域の集団の種子を5℃から25℃まで5℃間隔の温度条件で発芽させたところ、ヨーロッパ進入集団も北アメリカ自生集団も15℃で発芽率が最も高く、それ以上およびそれ以下の温度条件では発芽率が低下した。また、全ての温度条件において進入集団は自生集団よりも高い発芽率を示した。また、種子が50%発芽するまでの日数(T50)は全ての温度条件で進入集団よりも自生集団のほうが長く、低温(5℃)条件では5.9日、発芽至適温度(15℃)で24.0日、高温(25℃)条件では17.8日長かった。各集団の発芽至適温度を見ると、13.8℃から21.8℃の間にあり、両集団で有意な差は見られなかった。発芽最高温度は23.6℃から40.3℃の間にあり、進入集団のほうが高く、発芽最低温度は平均3.1℃で進入集団のほうが低かった。したがって、進入集団は発芽温度の幅が自生集団よりも広い。最終的な発芽率は、全集団の平均で70.1%であり、進入集団のほうが高かった。次に、11の進入集団と12の自生集団の芽生えに、春の夜に霜が降りる状態を模倣して2℃ 9時間、-5℃ 6時間、2℃ 9時間の順に処理をして霜耐性を評価したところ、進入集団(37.0±12.8%)は自生集団(23.3±7.8%)よりも耐性が高く、自生集団の耐性の変動の幅(12.9から36.8%)は進入集団の変動幅(7.9から56.8%)よりも狭くなっていた。試験に使用した両集団の種子重量と最終的な発芽率、霜耐性の間には正の相関が見られたが、最低発芽温度とT50については種子重量との相関は見られなかった。両集団の採種地の環境要因(緯度、経度、平均気温、春期霜害リスク)と発芽特性との相関を見たところ、自生集団では最終的な発芽率と経度との間に負の相関があり、東部の大洋に近い集団は発芽率が低かった。しかし、進入集団の発芽特性は環境要因との相関は見られなかった。霜耐性に関しては、自生集団においては春期霜害リスクと強い正の相関が見られたが、進入集団では環境要因との相関は見られなかった。以上の結果から、ブタクサヨーロッパ進入集団は北アメリカ自生集団よりも発芽率、芽生えの成長速度、霜耐性、発芽温度領域において優れており、これらの特性はブタクサと他植物との競争に有利に作用し、ヨーロッパへの侵入に成功をもたらしていると考えられる。

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