Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)イネ発芽時のジベレリンや炭水化物量を制御する転写抑制因子

2013-08-19 22:34:29 | 読んだ論文備忘録

The rice GERMINATION DEFECTIVE 1, encoding a B3 domain transcriptional repressor, regulates seed germination and seedling development by integrating GA and carbohydrate metabolism
Guo et al.  The Plant Journal (2013) 75:403-416.
doi: 10.1111/tpj.12209

中国科学院遺伝学発生生物学研究所Chu らは、イネのT-DNA挿入変異集団の中から、種子発芽と幼苗の成長に異常が見られるgermination defective1gd1 )変異体を得た。gd1 変異体種子は野生型よりも発芽が遅く、発芽後はわい化して葉が野生型よりも小さい表現型を示した。多くのgd1 変異体は栄養成長の間に死んでしまうが、一部が花成した。gd1 変異体の穂は野生型よりも小さく、花にも異常が見られ、花粉の50%はヨード染色されなかった。T-DNAは第7染色体上の遺伝子LOC_Os07 g37610の第11エクソンに挿入されており、このことによって遺伝子がノックアウトされていた。GD1 はシロイヌナズナのVP1/ABI3-LIKEVAL )遺伝子と高い類似性が見られ、イネゲノムにはホモログ遺伝子OsVAL2 (LOC_Os07 g48200)があった。シロイヌナズナVALタンパク質は、ABSCISIC ACID INSENSITIVE3ABI3 )、FUSCA3FUS3 )、LEAFY COTYLEDON1LEC1 )、LEC2 といった胚の発達に関与するB3ドメインを有する転写因子をコードする遺伝子の発現を抑制して胚発達から種子発芽や栄養成長過程への移行に関与していることが知られている。GD1タンパク質、OsVAL2タンパク質には5つの保存されたドメイン、N末端のPHDドメイン、DNA結合に関与するB3ドメイン、CW-型のジンクフィンガー、核局在シグナル、C末端には転写抑制因子に見られるEARモチーフが含まれていた。また、GD1のN末端にはProやGlnの多く含まれた伸長領域があり、GD1は他のVALタンパク質とは異なる機能があると考えられる。GD1 は全ての組織において恒常的に発現しており、特に葉身や花での発現量が高く、若いシュート、葉鞘、根、茎での発現量は低い。葉のGD1 転写産物量は、アブシジン酸処理によってわずかに増加し、ジベレリン(GA)処理、ショ糖処理によって大きく増加した。GD1タンパク質は核に局在しており、C末端のEARモチーフは転写抑制活性を示した。ABI3、FUS3、LEC2はRYエレメントに結合してターゲット遺伝子の発現を正に制御することが知られているが、GD1タンパク質のB3ドメインもRYモチーフに結合することが確認された。gd1 変異体をGA処理すると、部分的にわい化が回復することから、GD1は生体内のGA量の維持に関与していることが示唆される。gd1 変異体の内生の活性型GA含量は野生型よりも少なく、GA不活性化遺伝子OsGA2ox3 の発現量が高く、GA生合成遺伝子OsGA30ox1OsGA20ox2OsGA3ox2 の発現量が減少していた。また、gd1 変異体をGA処理するとOsGA2ox3 の発現量が増加した。よって、GD1 はGA代謝の制御に関与していると考えられる。OsLFL1(LEC2/FUS3-LIKE)はB3ドメインを含んだタンパク質で、シロイヌナズナのLEC2やFUS3と同様に胚発達過程の制御に関与していると考えられている。gd1 変異体はOsLFL1 の転写産物量が増加しており、GD1 は胚の発達過程を負に制御していると考えられる。OsLFL1 遺伝子とGD1 遺伝子のプロモーター領域にはRYエレメントが含まれており、GD1タンパク質のB3ドメインはOsLFL1 遺伝子およびGD1 遺伝子自身の発現を直接制御していると考えられる。gd1 変異体では、発芽時にOsLFL1 や他の種子発達関連遺伝子の発現が抑制されないために発芽遅延が起こるものと思われる。OsLFL1 を過剰発現させた形質転換体は、gd1 変異体と同様のわい化した表現型を示し、OsGA2ox3 の発現量も増加していた。よって、OsLFL1GD1 の下流に位置するターゲット遺伝子であるとことが示唆される。gd1 変異体の茎組織は、野生型と比べてデンプン粒が少なくなっていた。また、止葉や上位2葉のデンプン含量が少なく、逆にグルコース、フラクトース、ショ糖の含量は高くなっていた。よって、GD1は炭水化物代謝の制御に関与していると考えられる。そこで、炭水化物代謝に関与する遺伝子の発現を見たところ、α-アミラーゼをコードするRAmy1ARAmy3D の発現量が増加し、デンプン合成酵素をコードするSSIIIa の発現量が低下していた。ただし、デンプン生合成の鍵酵素であるADP-グルコースピロフォスフォリラーゼの大サブユニットをコードするAGPL1 の発現量は増加しており、これは恐らく内生糖含量の増加によるフィードバック制御によるものと思われる。以上の結果から、GD1はターゲット遺伝子の発現を負に制御することでジベレリンや炭水化物の代謝を制御し、イネ種子発芽や幼苗の成長を制御している転写因子であると考えられる。

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論文)受容体様細胞質キナーゼによる免疫とブラシノステロイドシグナルの調節

2013-08-14 05:24:51 | 読んだ論文備忘録

Inverse modulation of plant immune and brassinosteroid signaling pathways by the receptor-like cytoplasmic kinase BIK1
Lin et al.  PNAS (2013) 110:12114-12119.
doi:10.1073/pnas.1302154110

受容体様細胞質キナーゼのBotrytis-Induced Kinase 1(BIK1)は、植物の免疫シグナルに関与しており、フラジェリン受容体Flagellin Sensing 2(FLS2)とブラシノステロイド(BR)シグナル伝達に関与しているBRI1-associated kinase 1(BAK1)との複合体(FLS2/BAK1)と相互作用をし、BAK1によってリン酸化されることが知られている。bik1 変異体はフラジェリンを介した様々な応答や非病原性細菌の感染に対する応答が損なわれるが、一次根の伸長がやや低下する、開花が早まる、稔性が低下するといった成長過程における変化も見られる。また、bik1 変異体は葉柄が伸長して湾曲するといったBRI1 過剰発現個体においてしばしば観察される表現型を示す。よって、BIK1はBRシグナル伝達にも関与していることが推測される。米国 テキサスA&M大学 植物ゲノム学・バイオテクノロジー研究所Shan らは、BIK1とBRシグナルとの関係を解析し、bik1 変異体は恒常的にBRに応答している表現型を示し、BR処理に対する感受性が高く、BR生合成阻害剤ブラシナゾールに対する感受性が低下していることがわかった。よって、BIK1 の機能喪失はBRシグナルが活性化することが示唆される。bik1 変異体はサリチル酸(SA)含量が高いことが報告されていることから、SA生合成変異のsid1bik1 変異体に導入した二重変異体を観察したところ、bik1 sid1 二重変異体もBR感受性が高いことがわかった。よって、bik1 変異体のBR高感受性はSA含量の増加によって生じているのではないと考えられる。BRシグナル伝達過程において、2つの転写因子bri1 -Ems-Suppressor(BES1)とBrassinazole-Resistant 1(BZR1)が脱リン酸化されることで、ターゲット遺伝子の発現を制御している。bik1 変異体は、野生型と比較して、BR処理に関係なく脱リン酸化されたBES1量が多く、BRによって負のフィードバック制御を受けるターゲット遺伝子の発現量が低くなっていた。よって、BIK1はBES1のリン酸化よりも上流においてBRシグナル伝達を負に制御していると考えられる。BIK1はBR受容体Brassinosteroid Insensitive 1(BRI1)の細胞質キナーゼドメインと相互作用をすることが確認され、この相互作用はBR処理によって低下することがわかった。よって、BIK1はBRI1がBRを受容すると受容体複合体から解離するものと思われる。また、BIK1はBRI1によるリン酸化を受け、このリン酸化はBRによって誘導されることがわかった。フラジェリンの22アミノ酸ペプチド(flg22)処理によってBIK1はリン酸化されるが、BR処理ではBRI1 を過剰発現させた場合のみリン酸化が観察された。よって、BR処理によるBIK1のリン酸化はフラジェリン処理によるリン酸化とは異なることが示唆される。キナーゼ活性のない変異型のBIK1もしくは変異型のBRI1は、正常なBRI1もしくはBIK1と相互作用をするが、BR処理による解離は起こらなかった。よって、BIK1とBRI1のキナーゼ活性は両者の相互作用には必要でないが、BRによって誘導されるBIK1-BRI1の解離には必要であると考えられる。BIK1はフラジェリン非存在下ではFLS2と相互作用をしており、flg22処理をすると相互作用は低下する。flg22によって誘導されるBIK1のリン酸化はBAK1によって直接なされており、bak1-4 変異体ではflg22処理によるBIK1-FLS2の解離が起こらない。一方BIK1-BRI1のBR処理による解離はbak1-4 変異体でも起こった。よって、BAK1はBRによって誘導されるBRI1からのBIK1の解離には関与していないことが示唆される。したがって、BRI1はBIK1を直接リン酸化することでBRシグナルを制御し、BAK1はBIK1をリン酸化することでflg22シグナルを伝達していると考えられる。bik1 bri1 二重変異体はbri1 変異体の成長抑制を部分的に回復させることから、BIK1はBRシグナル伝達においてBRI1の下流において作用していると考えられる。以上の結果から、BIK1は、BAK1によるリン酸化とBRI1によるリン酸化を介して、植物免疫の正の制御とBRによる成長促進の負の制御の2種類のシグナル伝達に関与していると考えられる。

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論文)ABI5は細胞質で分解される

2013-08-05 22:49:34 | 読んだ論文備忘録

Cytoplasmic Degradation of the Arabidopsis Transcription Factor ABSCISIC ACID INSENSITIVE 5 Is Mediated by the RING-type E3 Ligase KEEP ON GOING
Liu & Stone  J. Biol. Chem. (2013) 288:20267-20279.
doi: 10.1074/jbc.M113.465369

シロイヌナズナABSCISIC ACID INSENSITIVE 5(ABI5)は、bZIP型転写因子ファミリーに属しており、アブシジン酸(ABA)による種子成熟や芽生えの成長の制御に関与している。ABI5タンパク質の代謝回転は26Sプロテアソーム系によって調節されており、主にRING型E3リガーゼのKEEP ON GOING(KEG)がABA非存在下でABI5量を負に制御することでABA応答を抑制している。KEGタンパク質はトランスゴルジネットワーク/初期エンドソームに局在しているが、ABI5タンパク質は核に局在しているので、どのようにしてKEGがABI5と相互作用をしているのかは明らかとなっていない。カナダ ダルハウジー大学Stone らは、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとABI5を用いてBiFCアッセイを行ない、蛍光シグナルが細胞質において見られることを明らかにした。また、完全長KEGを用いた場合には蛍光シグナルは見られなかった。KEGとABI5との相互作用には、KEGのアンキリンリピートが関与している。ABI5にはbZIP DNA結合ドメインの他に保存された領域が4箇所(C1〜C4)あり、このうちC3領域がKEGのアンキリンリピートと相互作用をすることがわかった。また、C4領域を含むC末端領域を欠いたABI5は、KEGと相互作用を示すが、26Sプロテアソーム系による分解を受けず、複合体は細胞質に局在することがわかった。ABI5タンパク質には、N末端側に核輸送シグナル(NES;LGRQSSIYSLTL)とC末端領域に3箇所核局在シグナル(NLS1〜3)と推定される配列が見られる。NLS1/2を欠いたABI5は核と細胞質の両方に局在していることから、NLS1とNLS2はABI5の核局在には必須でないと考えられる。また、このABI5は完全長KEGとのBiFCアッセイで蛍光シグナルを示すことから、KEGはNLS1/2を欠いたABI5をターゲットとしないことが示唆される。NLS3もしくはNLS3とその周辺のアミノ酸を欠いたABI5は核に局在し、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとのBiFCアッセイを行なった蛍光シグナルが観察され、完全長KEGを用いた場合には蛍光シグナルは見られなかった。したがって、NLS3はABI5の安定性に関与していると考えられる。NLS1/2/3を欠いたABI5は主に細胞質に局在し、RING E3リガーゼドメインに変異の入ったKEGとも完全長KEGとも相互作用を示した。ABI5のNLS1/2領域にはLys残基が4つあり、Lys残基はユビキチン結合部位として機能することが知られている。これらのLys残基のうち、344番目のLys残基をAlaに置換したABI5はKEGによる分解を受けないことがわかった。また、このアミノ酸置換によるABI5の機能喪失は起こらないことがわかった。以上の結果から、ABA非存在下で、KEGは細胞質においてABI5のC3領域と相互作用をしてABI5のユビキチン化・分解を引き起こしていると考えられる。

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論文)種子一次休眠制御の分子機構

2013-07-31 22:10:14 | 読んだ論文備忘録

ABI4 Regulates Primary Seed Dormancy by Regulating the Biogenesis of Abscisic Acid and Gibberellins in Arabidopsis
Shu et al.  PLoS Genet (2013) 9:e1003577.
doi:10.1371/journal.pgen.1003577

種子の休眠から発芽への移行はアブシジン酸(ABA)とジベレリン(GA)によって制御されており、ABAは種子の休眠状態の維持に、GAは休眠解除と種子発芽を制御している。しかしながら、ABAとGAのクロストークについての分子機構は明らかとなっていない。中国科学院遺伝学発生生物学研究所Xie らは、シロイヌナズナにおいてABAシグナル伝達に関与するAP2/ERF型転写因子 ABA INSENSITIVE 4(ABI4)の機能喪失変異体abi4 は、さく果が土に落ちると野生型よりも早く発芽することを見出し、詳細な解析を行なった。abi4 変異体種子は、播種2日後の発芽率(80%)が野生型植物種子(40%以下)よりも高く、芽生えの子葉は野生型よりも早く緑化した。したがって、abi4 変異体は種子休眠が浅いと考えられる。1週間乾燥貯蔵した種子を播種後3日間4℃で層積処理をし、その後通常の条件で育成すると、abi4 変異体と野生型との間の発芽率と子葉緑化の差異がやや縮まった。また、種子を6ヶ月間乾燥貯蔵して十分に後熟させると、層積処理の有無に関係なく、abi4 変異体の早期発芽や早期子葉緑化といった表現型は失われた。よって、abi4 変異体は一次休眠が低下していると考えられる。2週間乾燥貯蔵したabi4 変異体種子のABA含量は野生型種子よりも低く、ABI4はABA生合成を正に制御していることが示唆される。3日間の層積処理をすると、abi4 変異体種子も野生型種子もABA含量が低下し、両者は同程度になった。ABI4 を過剰発現させた形質転換体種子は、野生型よりも休眠が強くなっていた。ABI4 過剰発現個体は、種子発芽と子葉緑化においてGA生合成阻害剤パクロブトラゾールに対する感受性が高く、abi4 変異体は抵抗性を示した。GA処理をした場合、abi4 変異体、野生型、ABI4 過剰発現個体の種子発芽、子葉緑化の程度は差が見られなくなった。abi4 変異体乾燥種子の活性型GA量は野生型種子よりも多く、ABI4はGA生合成を負に制御していることが示唆される。したがって、abi4 変異体種子のABA量の減少とGA量の増加が、一次休眠を制御していると考えられる。abi4 変異体種子では、GA生合成に関与しているGA3GA3ox1GA20ox1GA20ox3KAO1KAO2GA20ox2 の浸漬後の発現誘導量が野生型よりも高くなっていた。一方、GA不活性化に関与しているGA20ox8 の転写産物量は野生型よりも低くなっていた。また、種子発芽時の種皮の裂開を抑制に関与しているDELLAタンパク質をコードするRGL3 の転写産物量は、乾燥種子、浸漬種子共に、abi4 変異体では野生型よりも低くなっていた。abi4 変異体において、ABA生合成に関与しているNCED2NCED3 の転写産物量は野生型よりも低く、ABAの不活性化に関与しているCYP707A1CYP707A2CYP707A3 の転写産物量は高くなっていた。したがって、ABI4はGA生合成を負に制御し、ABA生合成を正に制御していると考えられる。ABI4は、CACCGモチーフに結合してターゲット遺伝子の発現を促進し、CCACエレメントに結合してターゲット遺伝子の転写を阻害することが知られている。CYP707A1CYP707A2CYP707A3 のプロモーター領域にはCCACモチーフが複数含まれており、クロマチン免疫沈降(ChIP)-定量PCRアッセイから、ABI4はCYP707A1CYP707A2 のプロモーター領域に直接結合することが確認された。よって、ABI4はこれらの遺伝のプロモーター領域に含まれるCCACモチーフに結合して発現を抑制していると考えられる。GA生合成経路の初期過程に欠損のあるga1 変異体種子は、発芽するためにGAの添加か必要となる。abi4 ga1 二重変異体は、GAを添加しなくても正常に発芽し、子葉も正常に緑化した。また、GAを添加した場合、abi4 ga1 二重変異体はga1 変異体よりも早く種子発芽、子葉緑化を起こした。よって、ABI4はGA生合成を負に制御していると考えられる。cyp707a1 変異体やcyp707a2 変異体は野生型よりもABA含量が高く、発芽が遅延するが、abi4 cyp707a1 二重変異体やabi4 cyp707a2 二重変異体はそれぞれのcyp 単独変異体よりも発芽率が高く、abi4 単独変異体よりも低くなっていた。また、abi4 cyp707a2 二重変異体のABA含量はcyp707a2 単独変異体よりも低くなっていた。したがって、cyp707a1 変異体やcyp707a2 変異体の発芽率低下がABI4 の変異によって回復するのは、ABA生合成の低下によって引き起こされていると考えられる。以上の結果から、ABI4はABA生合成を正に制御し、GA生合成を負に制御することで、種子の一時休眠を制御していると考えられる。

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論文)ジャスモン酸シグナル伝達を負に制御するbHLH型転写因子

2013-07-26 05:38:19 | 読んだ論文備忘録

A bHLH-Type Transcription Factor, ABA-INDUCIBLE BHLH-TYPE TRANSCRIPTION FACTOR/JA-ASSOCIATED MYC2-LIKE1, Acts as a Repressor to Negatively Regulate Jasmonate Signaling in Arabidopsis
Nakata et al.  The Plant Cell (2013) 25:1641-1656.
doi:10.1105/tpc.113.111112

独立行政法人 産業技術総合研究所高木らは、ジャスモン酸(JA)シグナル伝達に関与する転写因子を同定するために、SRDX(SUPERMAN Repression Domain X)リプレッションドメインを融合してキメラリプレッサーとした転写因子を用いたCRES-T(chimeric repressor silencing technology)システムを用いて探索を行なった。キメラリプレッサーを35Sプロモーター制御下で発現するシロイヌナズナのうち、JA非感受性となって根の伸長阻害が起こらない系統を選抜したところ、JAシグナル伝達に関与しているMYC2に類似したbHLH型転写因子(At2g46510)のCRES-T系統が見出され、この遺伝子をJA ASSOCIATED MYC2-LIKE1JAM1 )と命名した。JAM1は、以前にアブシジン酸(ABA)シグナル伝達に関与する転写因子ABA-INDUCIBLE BHLH-TYPE TRANSCRIPTION FACTOR(AIB)として報告されていた。JAM1-SRDXをJAM1 プロモーター制御下で発現させた形質転換体もJA非感受性となった。JAM1 は、MYC2JAZ といった他のJA応答遺伝子と同様に、JA処理や傷害によって1時間以内に発現が誘導された。JAM1-SRDXを発現するJAM1 CRES-T植物は、JA処理によって誘導されるアントシアニンの蓄積が減少しており、アントシアニン合成に関与しているDIHYDROFLAVONOIL 4-REDUCTASEDFR )、LEUCOANTHOCYANIDIN DIOXYGENASEPRODUCTION OF ANTHOCYANIN PIGMENT1 の発現が抑制されていた。また、JAM1 CRES-T植物は、トライコームの形成が抑制されていた。植物に連続して傷害を与えるとJA合成やJAシグナルの影響で成長が抑制されるが、JAM1 CRES-T植物は傷害を与えない状態で野生型植物よりも大きい上に、傷害による成長抑制の程度も低かった。よって、JAM1 CRES-T植物のJA非感受性は成長過程においても影響していることが示唆される。JAM1 CRES-T植物では、MYC2JAZ3TYROSINE AMINOTRANSFERASE1TAT1 )、VEGETATIVE STORAGE PROTEIN1VSP1 )といったJA応答遺伝子の発現誘導が低下していた。JAM1 CRES-T植物は、葯の裂開が遅れて稔実率が低下し、花は野生型よりも大きく、種子数は野生型の1/4程度になり、花糸が短いという表現型を示していた。JAM1 CRES-T植物のJA-Ile含量は野生型と同等であることから、JAM1 CRES-T植物において観察される表現型はJA合成量の低下ではなくJAシグナル伝達に障害があることによるものであると考えられる。JAM1はIIId bHLHグループに属しており、転写活性化因子MYC2の属するIIIeグループと全体的に類似しているが、MYC2において活性ドメインとして機能しているとされている酸性領域がない。よってJAM1は転写活性化因子として作用していない可能性がある。そこで、GAL4結合配列を付加した35Sプロモーター制御下でレポーターとしてルシフェラーゼを発現するコンストラクトとGAL4-JAM1を一過的に発現させたレポーター-エフェクターアッセイを行ったところ、GAL4-JAM1はルシフェラーゼ活性を低下させることがわかった。よって、JAM1は転写抑制活性を有していると考えられる。JAM1とGFPの融合タンパク質を35Sプロモーター制御下で発現させたところ、JAM1は核に局在することが確認され、JAM1-GFP 発現個体はJAによる根の伸長阻害に対する感受性、アントシアニンの蓄積、稔性が低下していることがわかった。よって、JAM1は転写抑制活性を有しており、SRDXの付加はJAM1の抑制活性を強めていると考えられる。jam1 機能喪失変異体は、JAによって誘導されるアントシアニンの蓄積、DRFMYC2VSP1JAZ3JAZ10 の発現が野生型よりも強くなっており、弱いわい化を示し、傷害に対する感受性が高くなっていた。jam1 変異体のJA-Ile含量は野生型と同等であることから、jam1 変異体はJA-Ileに対する感受性が高くなっていることが示唆される。以上の結果から、JAM1はJAシグナル伝達の負の制御因子として機能し、JAM1の機能喪失はJA高感受性の表現型を示し、JA無添加でも成長阻害を起こしていると考えられる。coi1-30 変異体は約が裂開せず花糸が短いために稔性が低下するが、JAM1にVP16活性化ドメインを付加した融合タンパク質を発現させることによって受粉可能となり稔性が回復した。よって、JAM1-VP16は転写活性化因子として機能しており、JAM1はJAシグナル伝達においてCOI1の下流に位置していることが示唆される。JAは草食昆虫に対する防御応答において重要な役割を演じていることから、ジェネラリストであるシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )の幼虫にJAM1 CRES-T植物、jam1 変異体を摂食させた際の幼虫の体重変化を見たところ、JAM1 CRES-T植物で育成した幼虫は野生型植物で育成した場合よりも体重が増加し、jam1 変異体で育成した場合は体重が減少した。したがって、JAM1はJAシグナルを介した草食昆虫に対する防御応答において重要な機能を有していると考えられる。野生型植物をJA処理すると403遺伝子の発現量が1時間以内に増加するが、JAM1 CRES-T植物ではこれらJA初期応答遺伝子の36.0%(145/403)の発現が抑制され、MYC2-SRDXを発現させた植物では65.8%(265/403)の発現が抑制された。JAM1 CRES-T植物とMYC2-SRDX発現個体の両方で発現抑制される遺伝子は27.0%(109/403)あり、これらにはJA代謝酵素やJAシグナル伝達に関与する因子をコードする遺伝子が含まれていた。よって、JAM1はMYC2と同様にJAシグナル伝達経路の中心的な因子として機能しており、JAM1とMYC2のターゲット遺伝子の多くは重複していることが示唆される。JAM1によるJA応答抑制機構として、MYC2と二量体を形成してMYC2の活性を阻害することが考えられるが、JAM1はMYC2とは相互作用を示さない。JAM1のbHLHドメインはMYC2のbHLHドメインよく似ていることから、ゲルシフトアッセイによりJAM1がMYC2ターゲット配列に結合するかを見たところ、G-box(CACGTG)、TG-box(CACGTT)、rd22 のMYC2結合配列(MBS;CACATG)にJAM1が結合することがわかった。また、レポーターコンストラクトを用いたアッセイから、JAM1は生体内においてMYC2結合配列であるG-boxやMBSに結合することが確認された。また、MYC2とJAM1はこれらのシスエレメントに競合的結合をすることが確認された。以上の結果から、JAM1は、JAシグナル伝達の活性化因子であるMYC2のターゲット遺伝子のシスエレメントにMYC2と競合的に結合することでJAシグナル伝達を抑制する因子として機能していると考えられる。

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論文)JAZ10スプライスバリアントの生理学的意味

2013-07-17 22:11:06 | 読んだ論文備忘録

Negative Feedback Control of Jasmonate Signaling by an Alternative Splice Variant of JAZ10
Moreno et al.  Plant Physiology (2013) 162:1006-1017.
doi:10.1104/pp.113.218164

ジャスモン酸(JA)シグナル伝達の抑制因子として機能しているJASMONATE-ZIM DOMAIN(JAZ)タンパク質は、C末端側に位置するJasモチーフを介してbHLH型転写因子のMYC2やそのパラログのMYC3、MYC4と相互作用をし、これらの転写因子の活性を抑制している。また、JasモチーフはJA-Ile存在下でのJAZタンパク質とF-boxタンパク質CORONATINE INSENSITIVE1(COI1)との相互作用にも関与しているデグロンでもある。シロイヌナズナゲノムにはJAZタンパク質をコードする遺伝子が12個含まれているが、JAZ10 遺伝子はJasモチーフを欠いたスプライスバリアントJAZ10.4を生成する。しかしながら、スプライスバリアントの生理学的意味は明らかとなっていない。米国 ミシガン州立大学Howe らは、酵母two-hybrid法によりJAZ10.4と相互作用をするタンパク質の探索を行ない、MYC2、MYC3、MYC4、NINJA、GENERAL REGULATING FACTOR6(GRF6)の5種類のタンパク質を候補として見出した。JAZ10.4は、MYC2、MYC3、MYC4のN末端側領域と、NINJAのC末端側領域と相互作用をしていると考えられる。また、これらの相互作用は生体内でも起こることを確認した。これまでの研究から、MYC2とJAZタンパク質との相互作用にはJasモチーフが必須であるとされていたが、JAZ10.4とMYC2との相互作用の強度は、Jasモチーフを含んでいる完全長スプライスバリアントのJAZ10.1との相互作用と同程度であることがわかった。JAZ10.4とMYC2との相互作用に関与するモチーフの探索を行なったところ、N末端の47アミノ酸を欠いたJAZ10.4や16番目から47番目までのアミノ酸を欠いたJAZ10.4はMYC2と相互作用を示さず、16番目から58番目までの43アミノ酸からなる断片はMYC2と相互作用を示した。この断片はJasモチーフにおいて保存されている配列と非常によく似た9アミノ酸からなる配列(26-FQKFLDRRR-34)を含んでいた。そしてこのアミノ酸配列の後ろ3つのR残基をAに置換するとMYC2との相互作用が起こらなくなった。よって、JAZ10.4のRRRモチーフがMYC2との相互作用に必要であると考えられる。JAZ10タンパク質の1番目から78番目までのN末端とJasモチーフを欠いたJAZ3タンパク質のC末端側との融合タンパク質はMYC2との相互作用能力を有しており、RRRモチーフをAAAに置換した完全長JAZ10.1タンパク質はMYC2と相互作用を示した。35Sプロモーター制御下でJAZ10.4を発現させた形質転換体はJAに対する感受性が低下するが、RRRモチーフをAAAに置換したJAZ10.4を恒常的に発現させた形質転換体のJA応答性は野生型と同等であった。RRRモチーフを置換したJAZ10.4も通常のJAZ10.4と同様に核に局在することから、このモチーフの置換はJAZ10.4の細胞内局在には影響しない。したがって、JAZ10.4のN末端にはMYC2結合部位が存在し、この結合はJA応答の抑制に関与していると考えられる。JAZ10.4はNINJAと相互作用を示すことから、JAZ10.4によるJA応答の抑制はZIMドメインを介したNINJA-TOPLESS(TPL)コリプレッサー複合体との相互作用によってなされていると考えられる。そこで、JAZ10のZIMドメインのNINJAとの相互作用をJAZ8のキメラタンパク質を用いて調査した。JAZ8のZIMドメインはNINJAとの相互作用を示さないが、N末端側にあるEARモチーフがTPLと相互作用をするためにJA応答を抑制する。EARモチーフを欠いたJAZ8(JAZ8ΔEAR)はコリプレッサー複合体と相互作用をしないためにMYC2との結合はするがJA応答を抑制しない。しかし、JIMドメインをJAZ10のJIMドメインに置換したJAZ8ΔEAR(JAZ8ΔEAR-ZIM10)はNINJAと相互作用を示し、JAZ8ΔEAR-ZIM10を恒常的に発現させた形質転換体はJA非感受性となった。JAZ10.4のJIMドメインのTIFYモチーフ内のIle-107残基をAlaに置換すると、NINJAとの相互作用が低下し、JAZ10.4の二量体化が起こらなくなった。したがって、JAZ10.4はZIMドメインを介してNINJAと相互作用をし、JA応答を抑制していることが示唆される。JAZ10.4をJAZ10 プロモーター制御下でJA高感受性jaz10-1 変異体において発現させたところ、JA感受性が低下し、JAZ10.4タンパク質の蓄積量とJA感受性との間には負の相関が見られた。以上の結果から、JAZ10 のスプライスバリアントであるJAZ10.4は、JA応答の負のフィードバックループの形成に関与していると考えられる。

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論文)オーキシン極性輸送に影響を及ぼすタンパク質

2013-07-05 13:44:12 | 読んだ論文備忘録

ROOT ULTRAVIOLET B-SENSITIVE1/WEAK AUXIN RESPONSE3 Is Essential for Polar Auxin Transport in Arabidopsis
Yu et al.  Plant Physiology (2013) 162:965-976.
doi:10.1104/pp.113.217018

米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校Estelle らは、オーキシン応答に影響を及ぼす遺伝子を単離することを目的に、レポーター遺伝子としてDR5rev:GFP を導入した形質転換シロイヌナズナ種子5000粒をEMS処理し、M2世代の根でのGFPの発現に変化の見られる変異体の選抜を行なった。そして、weak auxin response3wxr3 )変異体を単離し、詳細な解析を行なった。wxr3 変異体芽生えは、一次根や胚軸が野生型よりも短く、子葉が小さく、茎頂部分にアントシアニンの蓄積が見られた。また、オーキシン(2,4-D)処理をしても根端部のGFPの発現が増加しなかった。wxr3 変異体の根は、根毛が伸長せず、コルメラ細胞が少なく、伸長領域は少数の長い細胞で構成され短くなっていた。変異体の根端部では細胞分裂の指標となるサイクリン依存キナーゼCYCB1;1 の発現量が低く、根の幹細胞の指標であるSCARECROWSCR )やSHORTROOTSHR )の発現量も低下していた。このように、wxr3 変異体は根の発達に異常を示すが、ロゼット葉や花序の発達には大きな変化は見られなかった。wxr3 変異体では、オーキシン処理によるAXR3/IAA17タンパク質の分解やGH3 遺伝子、Aux/IAA 遺伝子の発現誘導が起こることから、SCFTIR1/AFB を介したオーキシン受容・シグナル伝達は正常に機能していると考えられる。wxr3 変異体のオーキシン輸送に対する効果を見るために、2,4-Dの他にNAAやIAAを添加した際の根の伸長抑制の程度を比較したところ、オーキシン排出キャリアによって輸送されない2,4-Dでは阻害程度が低下していることがわかった。よって、wxr3 変異体はオーキシンの取り込みに異常があると考えられる。また、DR5rev:GFP の発現を見たところ、2,4-D処理ではGFPシグナルの増加が見られないのに対して、NAA処理ではわずかに増加し、IAA処理ではGFPシグナルが強まっていた。しかしながら、IAA処理によるDR5rev:GFP の発現領域に違いが見られ、wxr3 変異体では細胞分裂領域でのGFPシグナルが低下し、伸長領域での発現が強くなっていた。さらに、wrx3 変異体はオーキシン排出阻害剤ナフチルフタラミン酸に対する感受性が低下していた。以上の結果から、wrx3 変異体はオーキシン極性輸送に異常があると考えられる。このことをさらに詳細に調査したところ、wxr3 変異体では、根端から与えたIAAの輸送能力が低下していること、芽生え地上部の内生遊離IAA含量が野生型よりも高いが、根端部の含量は低いことがわかった。したがって、wxr3 変異体では地上部で合成されたオーキシンの根端部への輸送が十分に行なわれておらず、オーキシン分布に異常が生じていると考えられる。そこで、wxr3 変異体でのAUX1やPINといったオーキシントランスポーターの量や分布を見たところ、AUX1、PIN1、PIN2、PIN3の量が野生型と比べて少なくなっていることがわかった。しかしながら、PINタンパク質の細胞内局在に変化は見られなかった。wxr3 変異体のAUX1PIN1PIN2PIN3 の転写産物量は野生型と同等であり、トランスポーターの減少に転写は関与していないと考えられる。また、wxr3 変異体でのPINタンパク質の減少は分解の増加によるものではないこと、この変異は細胞膜ATPアーゼのような他の膜タンパク質の蓄積には影響がないことがわかった。wxr3 変異体のオーキシントランスポーターの減少にエンドソームによるリサイクリング経路が関与しているかを調査したところ、wxr3 変異体は初期エンドソーム、後期エンドソームともに野生型よりも減少していることがわかった。wxr3 変異体の原因遺伝子の探索を行なったところ、At3g45890遺伝子の第2エクソンの3’末端のGがAに置換しているために、この遺伝子の第2イントロンのスプライシングエラーが生じ、未成熟終始コドンが形成されることがわかった。At3g45890は、UV-Bに対する応答に関与しているROOT ULTRAVIOLET B-SENSITIVE1RUS1 )として同定されていた。RUS1/WXR3タンパク質は、C末端にDUF647(domain of unknown function 647)ドメインを有したDUF647タンパク質ファミリーに属しており、以前に同定された他のDUF647タンパク質WXR1/RUS2の変異体wxr1wxr3 変異体と同様な根の形態やオーキシン極性輸送の異常を示す。wxr1 wxr3 二重変異体は、オーキシン輸送や形態に単独変異体よりも強い異常を示すことから、WXR1/RUS2とWXR3/RUS1は機能が重複していると考えられる。WXR3 プロモーター制御下でWXR3-GUS を発現させてWXR3の局在を見たところ、主に子葉、根、胚軸で発現が見られ、特に葉脈、根の維管束、根端、側根原基で強い発現が観察された。また、WXR3タンパク質はプラスチドに局在していた。WRX3 を35Sプロモーターで過剰発現させた形質転換体の根の成長には顕著な変化は見られなかったが、誘導プロモーター制御下で発現させたところ、根毛の誘導と伸長が促進された。以上の結果から、RUS1/WXR3は細胞膜上のオーキシントランスポーターを適切な量に維持することでオーキシンの極性輸送を制御していると考えられる。

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論文)MADS-box転写因子によるイネ分けつ形成の制御

2013-07-02 20:24:01 | 読んだ論文備忘録

The interaction between OsMADS57 and OsTB1 modulates rice tillering via DWARF14
Guo et al.  NATURE COMMUNICATIONS (2013) 4:1566
DOI:10.1038/ncomms2542

MADS-boxファミリー転写因子は、植物の様々な形態形成の制御に関与している。中国科学院植物研究所Chong らは、イネのMADS-boxファミリー転写因子OsMADS57に着目し、機能解析を行なった。OsMADS57 遺伝子にT-DNAが挿入されたosmads57-1 変異体は、翻訳産物のC末端24アミノ酸残基が挿入されたT-DNAのコードする7アミノ酸残基に置換したタンパク質を過剰発現している。この変異体は、発芽初期の主根の成長が抑制され、第4葉期以降に分けつ数が増加する表現型を示す。OsMADS57 をアンチセンス抑制した形質転換イネは分けつ数が減少し、OsMADS57 を過剰発現させた形質転換イネは分けつ数が増加した。よって、osmads57-1 変異体は機能獲得変異体であると考えられる。OsMADS57 は、miR444aのターゲットの1つと考えられており、miR444a を過剰発現させた形質転換イネは、OsMADS57 をアンチセンス抑制した形質転換イネと同様に、分けつ数が減少した。したがって、OsMADS57 の発現はOsMIR444a によって抑制され、分けつ形成が制御されていると考えられる。イネの公的マイクロアレイデータベースを調査したところ、OsMADS57 の発現は分けつや茎伸長の時期に高く、葉組織において発現量が高いことがわかった。定量PCRを行なったところ、OsMADS57 転写産物は葉鞘や葉に多く、稈では転写産物が検出されなかった。miR444aの発現は根以外のすべての器官において見られた。RNA in situ ハイブリダイゼーションを行なったところ、OsMADS57 は主に茎頂分裂組織と腋芽において発現しており、このことから、OsMADS57 は腋芽の成長に関与していることが示唆される。OsMADS57タンパク質は核に局在し、酵母one-hybridアッセイから、OsMADS57は転写阻害活性を有することがわかった。マイクロアレイ解析から、osmads57-1 変異体では野生型よりも175遺伝子の発現量が高く、19遺伝子の発現量が低いことがわかった。これらの発現量変化の見られる遺伝子は、転写因子、ホルモン、細胞分裂、代謝、膜関連のものであり、GA2ox4GA2ox6GA2ox9 といった分けつ形成を促進する遺伝子は発現量が増加していた。発現量変化の見られる遺伝子のうち、86の発現量が増加する遺伝子と11の減少する遺伝子にはMADS-boxファミリー転写因子の結合するシスエレメントのCArGボックスが含まれていた。プロモーター領域にCArGボックスが見られる遺伝子の中に、分けつの発達制御に関与しているDWARF14D14 )が含まれていた。そこで、D14 の転写産物量を定量PCRで確認したところ、osmads57-1 変異体で大きく減少し、OsMADS57 過剰発現個体でも減少が見られ、アンチセンス個体やmiR444a 過剰発現個体では増加していた。よって、D14 の発現はOsMADS57によって負に制御されていることが示唆される。D14 遺伝子のプロモーター領域には2つのCArGボックスが存在し、OsMADS57は両者ともターゲットとしていた。D14 は稈での発現量が高く、根、葉、穂、腋芽での発現量は低くなっていた。また、野生型植物では、茎頂分裂組織や腋芽で発現が見られ、OsMADS57 の発現部位と重複しており、osmads57-1 変異体では発現量が低下していた。したがって、OsMADS57はD14 を発現抑制する直接のターゲットとしていると考えられる。D14 はストリゴラクトン(SL)のシグナル伝達に関与しており、d14 機能喪失変異体はわい化して分けつ数が増加する。植物体を合成ストリゴラクトンGR24で処理すると、野生型植物、osmads57-1 変異体ともにSL生合成遺伝子D27 の転写産物量が減少し、osmads57-1 変異体では減少量が野生型よりも大きくなっていた。D14 の発現は野生型植物、osmads57-1 変異体ともにGR24処理によって誘導され、野生型植物では腋芽の成長が抑制されたが、osmads57-1 変異体は、d14 変異体と同様に腋芽の成長抑制は見られなかった。miR444a 過剰発現個体ではGR24処理に関係なく腋芽の成長が見られなかった。したがって、OsMADS57 は分けつ形成においてD14 を介したSLシグナル伝達に関与していると考えられる。TCPファミリー転写因子のOsTB1は分けつ数の制御に関与しており、tb1 変異体は、osmads57-1 変異体やd14 変異体と同様に、分けつ数が増加する。酵母two-hybridアッセイにおいて、OsTB1とOsMADS57が相互作用をすることが確認されたことから、両者はヘテロ二量体を形成することが示唆され、共免疫沈降試験から、OsTB1とOsMADS57は生体内において結合することがわかった。D14 プロモーター制御下でレポーター遺伝子のLUC を発現するコンストラクト(D14:LUC )を導入したプロトプラストを用いた試験から、OsMADS57はD14:LUC の発現を抑制するが、同時にOsTB1 を発現させると抑制が弱まることがわかった。したがって、OsMADS57はOsTB1と直接相互作用をしてOsMADS57によるD14 転写阻害を弱めていると考えられる。以上の結果から、OsMADS57はストリゴラクトンの受容・シグナル伝達に関与するD14 の発現を直接抑制して分けつの発達を誘導しているが、OsMADS57タンパク質はOsTB1との相互作用による負の活性調節を、OsMADS57 遺伝子はmiR444aによる負の発現制御を受けており、miRNA/MADS/TCP/D14の複数の因子が相互に関与してイネの分けつ形成を制御していると考えられる。

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論文)BRANCHED1による腋生分裂組織の花成遅延

2013-06-28 20:18:37 | 読んだ論文備忘録

BRANCHED1 Interacts with FLOWERING LOCUS T to Repress the Floral Transition of the Axillary Meristems in Arabidopsis
Niwa et al.  The Plant Cell (2013) 25:1228-1242.
doi:10.1105/tpc.112.109090

シロイヌナズナを長日条件のような花成誘導条件に曝すと、子葉や葉の師部コンパニオン細胞でFLOWERING LOCUS TFT )が発現し、FTタンパク質は茎頂分裂組織へ移動してbZIP型転写因子FDと転写複合体を形成し、花成を誘導する。京都大学荒木らは、酵母two-hybrid法を用いてFTと相互作用をするFD以外の転写因子の探索を行なった。その結果、TCPファミリー転写因子に属するBRANCHED1(BRC1)がFTと相互作用をすることを見出した。FT-BRC1複合体は生体内においても形成され、核に局在していることが確認された。FTとFDの転写複合体形成は14-3-3タンパク質を介してなされていると考えられているが、FTとBRC1の相互作用は14-3-3タンパク質を必要とせず、この相互作用はFT-FD複合体形成とは機構が異なると考えられる。BRC1 は腋生分裂組織で発現しているが、腋生分裂組織でのFT の発現は見られなかった。しかし、葉で発現したFTタンパク質が腋芽へ移動しうることが確認されたことから、FTタンパク質は腋芽にも存在すると考えられる。brc1-2 変異体は、シュートを形成する腋生分裂組織が野生型よりも多く、ほとんど全ての腋芽が主茎が抽だいすると葉を形成せずにすぐに生殖成長へと移行した。また、brc1-2 変異体では、花芽特異的に発現するAPETALA1AP1 )を発現している腋芽が野生型よりも多かった。したがって、brc1-2 変異体では腋生分裂組織での花成への転換が促進されていると考えられる。野生型植物と比較して、ft-2 変異体の腋芽から形成されたシュートは葉数が多くなっており、腋生分裂組織の花成への転換が遅れていると考えられる。brc1-2 ft-2 二重変異体は、茎生葉の腋生シュートの葉数がft-2 変異体と同程度であることから、brc1-2 変異体の腋生分裂組織の花成転換の加速化には、茎生葉の葉腋で機能するFT が必要であると考えられる。しかし、brc1-2 ft-2 二重変異体のロゼット葉の葉腋から形成されるシュートは、ft-2 変異体よりも伸長して葉数が少なくなっていた。ft 変異体では、TWIN SISTER OF FTTSF )が栄養成長期延長の際の花成転換を促進していることが知られている。酵母two-hybridアッセイにおいてTSFタンパク質はBRC1と相互作用をすることから、brc1-2 ft-2 二重変異体ではTSF がロゼット葉の腋生分裂組織での花成転換を引き起こしていることが考えられる。そこで、brc1-2 ft-2 tsf-1 三重変異体の表現型をft-2 tsf-1 二重変異体と比較したところ、両者の茎生葉の葉腋から形成されるシュートの葉数は同じで、どちらもロゼット葉の腋芽の発達が見られなかった。したがって、brc1-2 変異体での腋生シュートの花成転換や伸長にはFTTSF どちらかの機能が必要であることが示唆される。FDと相互作用をすることで花成誘導に対して抑制的に作用するTERMINAL FLOWER1(TFL1)の変異tfl1-17 は、brc1-2 変異と相加的に作用し、brc1-2 tfl1-17 二重変異体では腋生シュートの葉数がさらに減少した。酵母two-hybridアッセイでBRC1とTFL1は相互作用を示さないので、BRC1TFL1 は腋生分裂組織の花成転換の抑制に対して独立して作用していると考えられる。茎頂分裂組織での花成転換においてFTと転写複合体を形成するFDは、腋性分裂組織においても発現が見られる。brc1-2 fd-1 二重変異体は、brc1-2 ft-2 二重変異体と同様に、brc1-2 変異体の表現型が抑制されていた。したがって、FD も腋性分裂組織での花成転換促進に関与していることが示唆される。FT-FD花成転換経路の下流に位置しているAP1FRUITFULLFUL )、SUPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO1SOC1 )のロゼット葉の葉腋での発現を、長日条件に移行した野生型植物とbrc1-2 変異体で経時的に比較したところ、brc1-2 変異体でのAP1FUL の発現は野生型よりも高く、経時的に大きく増加していった。SOC1 の発現量は、長日条件移行初期には大きな差は見られなかったが、その後は徐々に増加していった。花芽分裂組織の形成においてFTとは独立して機能しているLEAFYLFY )の発現は、長日条件移行初期にはbrc1-2 変異体の発現量が高くなっていたが、その後の増加は見られなかった。これらの結果から、BRC1 は、腋芽において、日長に依存したFT 下流遺伝子の発現を抑制していると考えられる。SOC1 は腋性分裂組織の花成転換に関与しており、soc1-2 変異体の腋性シュートは野生型よりも多くの葉を形成するが、soc1-2 変異体の表現型はbrc1-2 変異によって抑制された。したがって、brc1-2 変異体の表現型は、FTTSF とは異なり、SOC1 の機能に完全には依存していないと考えられる。以上の結果から、BRC1は腋芽に輸送されてきたFTやTSFと相互作用をして機能を阻害し、腋性分裂組織の花成への転換を抑制していると考えられる。BRC1FD プロモーター制御下で茎頂分裂組織特異的に発現させた形質転換体は、長日条件下で主茎の花成遅延が起こった。

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論文)ジャスモン酸による防御応答を制御する因子

2013-06-25 20:28:19 | 読んだ論文備忘録

JAV1 Controls Jasmonate-Regulated Plant Defense
Hu et al.  Molecular Cell (2013) 50:504-515.
DOI:10.1016/j.molcel.2013.04.027

中国 清華大学Xie らは、ジャスモン酸(JA)による防御応答機構を解明するために、JAによって誘導される遺伝子のヘアピンRNAライブラリーを導入したシロイヌナズナ約2万個体に灰色カビ病菌(Botrytis cinera )を感染させ、抵抗性を示す個体を単離した。この個体のヘアピンRNAは、At3g22160に対応していた。At3g22160転写産物はJA処理によって誘導され、機械的傷害によってCOI1を介して蓄積が起こる。At3g22160遺伝子はVQモチーフを含んだ機能未知のタンパク質をコードしており、このことから、jasomonate-associated VQ motif gene 1JAV1 )と命名した。JAV1タンパク質には核局在シグナル様の配列が含まれており、GFPを融合させたJAV1タンパク質の発現解析から、JAV1は核に局在することが確認された。JAV1 をRNAiで発現抑制した形質転換体は、根の成長、花序、花、種子、その他成長過程に変化は見られず、JAV1 はJAによって制御されている成長・発達過程には関与していないと考えられる。JAV1 RNAi個体のB. cinera に対する抵抗性を、野生型、JA非感受性のcoi1 変異体との間で比較したところ、JAV1 RNAi個体は明確な抵抗性を示し、coi1 変異体は罹病性が高くなっていた。したがって、JAV1 はJAを介したB. cinera 抵抗性を制御していると考えられる。JAV1 RNAi個体は、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )、キノコバエ(Bradysia impatiens )、モモアカアブラムシ(Myzus persicae )といった昆虫類に対しても抵抗性を示した。そこで、JAV1 RNAi個体における、PLANT DEFENSINE 遺伝子PDF1.2 、抗真菌性遺伝子THIONIN2.1THI1.2 )、病原応答遺伝子のPR4 およびPR5 、転写因子のWRKY30 およびMPK3 といった防御応答遺伝子の傷害やJA処理に応答した発現を見たところ、野生型よりも増加していることがわかった。さらに、サリチル酸(SA)応答遺伝子のNPR1PR2EDS1 のJA処理やSA処理による発現パターンの変化を見たところ、JAV1 RNAi個体と野生型との間で違いは見られなかった。JAV1 を過剰発現させた形質転換体は、灰色カビ病菌の罹病性が高く、シロイチモジヨトウの食害を強く受けた。また、傷害やJAに応答したPDF1.2THI1.2 、傷害関連遺伝子VSP1 の発現誘導が抑制されていた。したがって、JAV1 はJAによる防御応答の負の制御因子として機能していると考えられる。生体内のJAV1タンパク質はJA処理によって減少し、この減少は26Sプロテアソーム阻害剤MG132処理によって抑制された。したがって、JAは26SプロテアソームによるJAV1タンパク質の分解を誘導していると考えられる。JA処理と同様に、傷害もJAV1タンパク質の分解を誘導した。JA処理や傷害によるJAV1タンパク質の分解はcoi1 変異体では起こらないことから、この分解にはCOI1が関与していると考えられる。しかしながら、JAV1とCOI1との間に直接の相互作用は見られないことから、COI1はJAV1をターゲットした分解に直接的には関与していはないことが示唆される。以上の結果から、JAV1は、植物の成長過程には関与せずにジャスモン酸を介した防御応答を負に制御する因子として機能していると考えられる。

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