Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジャスモン酸による一次代謝の変化が植食昆虫に与える影響

2015-07-02 05:57:25 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate-dependent depletion of soluble sugars compromises plant resistance to Manduca sexta
Machado et al.  New Phytologist (2015) 207:91-105.

DOI: 10.1111/nph.13337

ジャスモン酸(JA)は植物の二次代謝を制御して植食昆虫に対する防御応答を誘導しているが、一次代謝に対する影響やそれが植食昆虫に与える効果については明らかとなっていない。スイス ベルン大学Erb らは、野生タバコ(Nicotiana attenuata )を実験材料に用いて、JA生合成酵素allene oxide cyclaseが発現抑制された形質転換体(irAOC)およびJA-Ile受容体coronatine insensitive 1の発現抑制個体(irCOI1)の葉の一次代謝産物量を対照と比較した。可溶性タンパク質量は何れの遺伝子型においても各成長過程で差異は認められなかった。デンプン量は、初期ロゼット期、ロゼット期、伸長期では各遺伝子型で差異は見られなかったが、初期開花期ではirCOI1個体のデンプン量が対照よりも高くなっていた。グルコース量とフラクトース量は、初期ロゼット期、伸長期、初期開花期のirAOC個体、irCOI1個体は対照よりも高く、ロゼット期ではirAOC個体のフラクトース量が対照よりも高くなっていた。irAOC、irCOI1以外のJA欠損形質転換体について、可溶性糖類量、JA量、JA-Ile量との相関を見たところ、可溶性糖類量とJA量との間に負の相関が見られ、可溶性糖類とJA-Ile量との間には相関は見られなかった。これらの結果から、JAは野生タバコの葉の可溶性糖類量に対して負に作用すると考えられる。可溶性糖類の日変化を見ると、irAOC個体は対照と比較して13時から17時のショ糖蓄積量が少なく、10時から21時のグルコースとフラクトースの蓄積量が多くなっていた。また、irAOC個体は13時から21時の可溶性インベルターゼ活性が対照よりも高くなっていた。irAOC個体の葉での糖蓄積量増加が植食昆虫の成長に影響しているかを見るために、irAOC個体においてRuBisCO活性化酵素(RCA)を発現抑制させてグルコースとフラクトースの蓄積量を減少させたが、irAOC × irRCA個体を摂食したタバコスズメガ(M. sexta )幼虫の成長はirAOC個体を摂食した幼虫よりも良くなった。光合成有効放射(PAR)を減らすことで対照もirAOC個体も糖含量が減少するが、このような個体はどちらも通常の光照射個体よりも幼虫の成長が良くなった。irAOC個体は対照よりも糖含量が高いが二次代謝産物が少ないので、両方の因子が幼虫の成長に影響していると考えられる。対照の葉に糖を添加してirAOC個体の糖含量と同程度にすると幼虫の成長が鈍くなった。また、予め幼虫の口腔分泌物処理をすることで低下した対照の糖含量を無処理と同等もしくはirAOC個体と同等となるように添加した場合、幼虫の成長は糖無添加の葉よりも鈍くなった。したがって、口腔分泌物処理による防御機構の誘導はタバコスズメガ幼虫の成長をJAに依存して抑制させるが、JAに依存し口腔分泌物によって誘導される糖含量の低下は幼虫の成長を促進し、誘導された抵抗性を打ち消していることが示唆される。幼虫に人工飼料を与えることでグルコースとフラクトースの個々の影響を見たところ、糖の組み合わせに関係なく糖の量に依存して幼虫の成長が悪くなり、フラクトースはグルコースよりも成長悪化の程度が高くなった。しかし、人工飼料に添加するタンパク質量を増やすと、糖含量の高い飼料の方が幼虫の成長が良くなった。以上の結果から、ジャスモン酸は可溶性インベルターゼを阻害して野生タバコのグルコース量とフラクトース量を低下させ、この糖含量の低下はタバコスズメガの成長を促進してジャスモン酸によって誘導される植物の植食昆虫に対する抵抗性を低下させていることが示唆される。

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論文)腋芽成長におけるサイトカイニンの役割

2015-06-28 08:46:09 | 読んだ論文備忘録

Cytokinin is required for escape but not release from auxin mediated apical dominance
Müller et al.  The Plant Journal (2015) 82:874-886.

doi: 10.1111/tpj.12862

腋芽の成長はサイトカイニンによって促進され、サイトカイニンの生合成はオーキシンによって阻害されることから、摘心によって頂芽優勢から解放されると腋芽へのサイトカイニン供給が増加し、腋芽の成長が始まると考えられている。腋芽の成長過程におけるサイトカイニンの作用を遺伝子レベルで解析するために、英国 ケンブリッジ大学Leyser らは、シロイヌナズナにおけるサイトカイニン生合成とシュート分枝の関係を調査した。シロイヌナズナにはサイトカイニン生合成の初期課程を触媒するイソペンテニルトランスフェラーゼ(IPT)をコードする遺伝子が9つあり、このうちIPT1IPT3IPT5IPT7 は根と栄養成長期のシュートで発現していることから、シュート分枝に関与していることが推測される。そこで、単離二節系を用いて、これら4遺伝子の発現を解析した。その結果、摘心によってIPT3 遺伝子の発現量が8倍に増加し、他のIPT 遺伝子は発現量が殆ど変化していないことがわかった。次にこれらIPT 遺伝子の機能喪失変異体の分枝形成を観察したところ、4つのIPT 遺伝子の単独変異体は分枝が有意に減少し、ipt1,3,5,7 四重変異体は分枝が形成されなかった。ipt3,5,7 三重変異体と野生型との間の接木試験から、野生型の台木(根)もしくは穂木(シュート)に変異体を接ぐことで野生型と同等に分枝することがわかった。よって、根で生産されたサイトカイニンは変異体穂木のサイトカイニン生合成の低下を相補し、植物体の全体で生産されたサイトカイニンが分枝形成に貢献していることが示唆される。摘心後の分枝形成数を見たところ、4つのIPT 遺伝子の単独変異体の分枝形成数は野生型と同等となり、ipt3,5,7 三重変異体やipt1,3,5,7 四重変異体の分枝形成数は減少した。ipt3,5,7 三重変異体やipt1,3,5,7 四重変異体では腋芽のない葉腋が多く見られることから、これらの変異体では腋芽の発達自体が低下していることにより摘心後の分枝形成数が減少していると考えられる。したがって、サイトカイニン生合成は無傷植物の分枝形成に必要であるが、摘心後の腋芽の活性化には必要ではないことが示唆される。野生型もipt3,5,7 三重変異体も摘心後に腋芽が成長し、摘心部にオーキシン(NAA)を与えると腋芽の成長が遅延するるが、腋芽の成長速度やオーキシン処理による成長遅延の程度は野生型とipt3,5,7 三重変異体の間で違いは見られなかった。よって、ipt3,5,7 三重変異体の腋芽は野生型と同じように成長し、オーキシンに対する応答性も示すことが示唆される。茎頂部から供給されるオーキシンによって成長が阻害されている腋芽でのサイトカイニンの効果を見るために、茎頂部からオーキシンを与えるのと同時に基部からサイトカイニン(BA)を与えて、腋芽の転写産物量の変化を包括的に解析した。オーキシンとサイトカイニンを同時処理した腋芽は、サイトカイニンオキシダーぜ(CKX5 )と芽の休眠関連遺伝子(DRM2 )の発現量が無処理の腋芽よりも高くなっていた。対照と比較してオーキシン供給によって発現量が減少し、オーキシンとサイトカイニンの同時処理によってオーキシン単独処理よりも発現量が増加する遺伝子は220あり、変化の大きい上位12遺伝子のうち11は、プロモーター領域にARR1 応答エレメント(AAGATT)を含んでいた。12遺伝子にはCKX5 および5つのタイプA ARR 遺伝子(ARR4ARR5ARR6ARR7ARR15 )が含まれていた。タイプA ARR 遺伝子が機能喪失したarr3,4,5,6,7,15 六重変異体は、ipt 変異体と同様に、無傷個体の分枝数が野生型よりも少なくなるが、摘心後の分枝形成数は野生型と同等であった。単離した節を用いた試験において、arr3,4,5,6,7,15 六重変異体の腋芽の成長速度や茎頂部オーキシン処理による腋芽成長阻害の程度は野生型と同等であったが、サイトカイニン同時添加による腋芽成長阻害の克服は六重変異体では低下していた。しかし、この時のサイトカイニン応答遺伝子の転写産物量は野生型と同じように増加していた。したがって、タイプA ARR 遺伝子はサイトカイニンによる腋芽の活性化には関与しているが、サイトカイニンに応答した転写の変化には関与していないことが示唆される。また、サイトカイニンは、オーキシンによる頂芽優勢からの開放に関与しているのではなく、茎頂部から供給されるオーキシンによる腋芽成長阻害を克服するように作用し、無傷植物の分枝を促進していると考えられる。腋芽の成長はサイトカイニンとストリゴラクトン(SL)の比によって制御されており、両者はオーキシンの影響を受けている。よって、低オーキシン条件でSLによる腋芽成長の阻害が見られないのは、サイトカイニン供給の増加がSLの効果を消しているとも考えられる。そこで、単離した節の基部から合成SLのGR24を与えてみたところ、野生型もarr3,4,5,6,7,15 六重変異体も同じように腋芽が成長した。したがって、これらの結果から、腋芽の活性化には茎頂部からのオーキシン供給が喪失すれば十分であり、SLの低下やサイトカイニンの増加は必要ではないことが示唆される。分枝形成は植物に供給される窒素量によっても変化し、高窒素条件で腋芽は活性化する。一方、窒素はサイトカイニン生合成を促進するので、高窒素条件での腋芽の活性化はサイトカイニンによって引き起こされているとも考えられる。そこで、窒素条件を変えてサイトカイニン変異体を育成し、分枝数を調査したところ、高窒素条件ではipt3,5,7 変異体、arr3,4,5,6,7,15 六重変異体の分枝数は野生型よりも少なく、低窒素条件では野生型と同等であった。したがって、サイトカイニンは低窒素条件での分枝には関与していないが、高窒素条件では分枝の増加にとって重要であることが示唆される。以上の結果から、サイトカイニンは、オーキシンによる腋芽成長抑制や頂芽優勢からの開放の際に作用しているというよりも、オーキシン存在下で頂芽優勢を回避して腋芽を活性化させる作用があると考えられる。

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論文)ストリゴラクトンによるイネの不定根形成制御

2015-06-19 20:33:08 | 読んだ論文備忘録

A strigolactone signal is required for adventitious root formation in rice
Sun et al.  Ann Bot (2015) 115:1155-1162.

doi: 10.1093/aob/mcv052

不定根の形成は植物ホルモンによる制御を受けており、その中でもオーキシンが重要な役割を演じている。ストリゴラクトン(SL)も不定根形成を制御しており、シロイヌナズナやエンドウのSL欠損変異体やSL非感受性変異体は不定根の発達が旺盛となることから、SLは不定根形成に対して抑制的に作用すると考えられている。しかしながら、単子葉植物のイネではSLが不定根の伸長に対して促進的に作用することが報告されている。中国 南京農業大学Zhang らは、イネのSL生合成変異体d10 とSLシグナル伝達変異体d3 は野生型よりも分けつあたりの不定根数が少なく、不定根長も短いことを見出した。イネの成長過程を追って調査すると、成長初期からd 変異体の不定根数は野生型よりも少ないが、d 変異体の分けつ数が増加する成長後期では不定根数は野生型よりも多くなっていた。よって、d 変異体成熟個体の全不定根数は野生型よりも多くなるが、d 変異体は分けつ数が増加するので、分けつあたりの不定根数は野生型の1/3となった。野生型イネに合成SLのGR24を与えても効果は見られないが、d10 変異体に与えると分けつあたりの不定根数が野生型と同等にまで回復した。d 変異体では苗のシュートと根の接続部の内生オーキシン(IAA)含量が野生型よりも高く、GR24処理をすることによって、d10 変異体の接続部のオーキシン含量はGR24処理をしていない野生型と同程度になった。よって、SLはイネのオーキシン極性輸送を阻害していることが示唆される。d 変異体の接続部ではオーキシン極性輸送に関与しているPINファミリータンパク質をコードする遺伝子の発現量が野生型よりも高く、PIN 遺伝子の発現は、GR24処理をすることで、野生型においてもd10 変異体においても減少した。したがって、SLはPIN 遺伝子の転写を調節することでオーキシン極性輸送を阻害していると考えられる。野生型イネに合成オーキシンのNAAを処理したところ、不定根数と分けつあたりの不定根数が増加したが、d 変異体では変化は見られなかった。オーキシン極性輸送の阻害剤のNPAを処理すると、野生型もd 変異体も不定根数が減少した。接続部でのオーキシンレポーターDR5::GUS のNAA処理やNPA処理による発現パターンの変化は、野生型とd 変異体との間で違いは見られなかったが、いずれの処理においても不定根数は常に野生型の方が多かった。よって、d 変異体におけるオーキシン含量の増加は、不定根形成の抑制とは関連していないことが示唆される。以上の結果から、イネにおいてストリゴラクトンはオーキシンの極性輸送を阻害することで不定根形成を制御していると考えられる。

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論文)インドール酢酸の非トリプトファン生合成経路

2015-06-11 05:31:55 | 読んだ論文備忘録

Tryptophan-independent auxin biosynthesis contributes to early embryogenesis in Arabidopsis
Wang et al.  PNAS (2015) 112:4821-4826.

doi:10.1073/pnas.1503998112

インドール-3-酢酸(IAA)はトリプトファン(Trp)から生合成される経路が広く知られている。一方、Trpを介さない経路(非トリプトファン経路)の存在も提唱されているが詳細は明らかとなっていない。中国科学院遺伝及び発育生物学研究所Li らは、細胞質に局在するインドールシンターゼ(INS)がTrpを介さないインドール化合物生合成に関与しているのではないかと考え、解析を行なった。シロイヌナズナTrpシンターぜαサブユニット(TSA)の変異体trp3 およびTrpシンターぜβサブユニット(TSB)の変異体trp2 はTrp含量が低いが、INS のヌル変異体はTrp含量は正常であった。TSAとTSBは葉緑体に局在することから、クロロプラストトランジットペプチド(cTP)を付加したINS(cTP-INS)をtrp3 変異体で過剰発現させたところ、Trp含量が回復した。しかし、INSを過剰発現させたtrp3 変異体では回復の程度は部分的であった。よって、INSは細胞質でインドールを生産しており、葉緑体で発現させることによってTrp生合成経路に基質を供給しうることが示唆される。trp3 変異体、trp2 変異体は野生型よりもIAA含量が高いが、ins 変異体はIAA含量が減少していた。よって、INSはオーキシン生合成に関与していると考えられる。trp3 変異体をTrp処理すると、根端部でのオーキシンレポーターDR5:GUS の発現パターンや根の成長が野生型と同等となり、IAA蓄積量の野生型との差異が縮まった。一方、ins 変異体をTrp処理してもDR5:GUS の発現パターンは完全には回復せず、IAA蓄積量の増加は野生型よりも少なかった。アントラニル酸はTrp経路と非Trp経路の両方においてIAA生合成の基質となっている。芽生えを標識したアントラニル酸で処理し、その際にTrpを与えることで標識されるIAA量を比較したところ、野生型とins 変異体では標識IAA量が減少したが、trp3 変異体では減少は見られなかった。よって、ins 変異体では非Trp経路によるIAA生合成が欠失しており、trp3 変異体ではTrp経路によるIAA生合成が欠失していることが示唆される。ins 変異体の芽生えは高温(28 ℃)処理による胚軸伸長促進が低下しており、Trp経路においてIAA生合成に関与しているTAA1 のヌル変異wei8-1ins 変異体の伸長促進低下に対して相加的に作用した。したがって、高温による胚軸伸長制御においてINSとTAA1は並行して作用していると考えられ、INSは非Trp経路によるIAA生合成に関与していることが示唆される。ins 変異体の胚発生は初期の細胞分裂に異常が見られ、ins trp3 二重変異体は胚性致死となった。trp3 変異体やtrp2 変異体の胚発生は野生型と同等であった。ins 変異体の胚珠のIAA含量は野生型よりも低く、trp3 変異体ではやや高くなっていた。trp2 変異体はIAA含量が高く、ins trp2 二重変異体もIAA含量が高くなっていた。これはtrp2 変異によって葉緑体内に蓄積したインドールが細胞質へ拡散してins 変異を相補しているためだと思われる。INS は胚発生過程の初期の1細胞期から強い発現が見られたが、TSA は4細胞期以降から発現が見られるようになった。DR5:GFP の胚での発現パターンを見ると、trp3 変異体は野生型と同等であったが、胚の形態が異常なins 変異体では発現パターンが乱れ、ins trp3 変異体では発現が見られなかった。よって、非Trp経路によるIAA生合成は胚発生初期のオーキシンの重要な供給源として機能していると考えられる。Trp経路のIAA生合成に関与しているYUCCA(YUC)の二重変異体yuc4 yuc6 は、胚の形態に程度の軽い異常が見られ、ins yuc4 yuc6 三重変異体ではins 変異体よりも胚の形態異常やIAA含量の低下が悪化した。ins 変異体もyuc4 yuc6 二重変異体も分枝が増加するが、ins yuc4 yuc6 三重変異体では分枝数が相加的に増加した。よって、INSとYUC並行した独立の経路で胚発生や分枝を制御していると考えられる。以上の結果から、細胞質に局在するINSは非Trp経路によるIAA生合成の主要な構成要素であり、シロイヌナズナの胚発生初期過程パターン形成にとって重要であることが示唆される。

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論文)イネの分けつ形成を制御するWUSCHELオーソログ遺伝子

2015-05-27 22:09:22 | 読んだ論文備忘録

Axillary Meristem Formation in Rice Requires the WUSCHEL Ortholog TILLERS ABSENT1
Tanaka et al.  The Plant Cell (2015) 27:1173-1184.

doi:10.1105/tpc.15.00074

シロイヌナズナのような双子葉植物の茎頂分裂組織(SAM)の幹細胞は、CLAVATA-WUSCHEL(CLV-WUS)の負のフィードバックループによって維持されている。しかしながら、単子葉植物のイネでのWUS オーソログの機能は明らかとなっていない。東京大学平野らは、イネWUS オーソログの機能を解析するために、TILLING法でOsWUS の機能喪失変異体を単離した。この変異体は分けつが出来ず、腋芽が形成されない変異体であった。シロイヌナズナのwus 変異体は分枝が増える表現型を示すので、区別する意味でこの変異体をtillers absent1tab1 )と命名した。シロイヌナズナwus 変異体は、数枚の葉を展開した後にSAMの機能が喪失するが、イネtab1 変異体では野生型と同じ数の葉が形成されるので、SAMの活性は失われていないことが示唆される。生殖成長期に入ると、枝梗の短い穂が1つ形成され、小穂の発達が悪く、数も少なく、分裂組織の未分化細胞の指標となるOSH1 の発現量も低下していた。よって、TAB1 は腋芽形成と花序発達に関与していると考えられる。tab1 変異体の腋芽の表現型は、1)若い葉の葉腋において腋芽が形成されない(タイプⅠ)、2)前出葉はあるが分裂組織もしくは葉原基が見られない異常な腋芽が形成される(タイプⅡ)、3)前出葉が早期に伸長して葉のようになる(タイプⅢ)の3つのタイプが見られた。よって、tab1 変異体の分けつの欠如は、腋性分裂組織発達が抑制されて腋芽が形成されないことによるものと考えられる。腋芽形成過程を経時的に見ると、tab1 変異体では様々なステージで前分裂組織領域の発達が止まり、シロイヌナズナのSHOOT MERISTEMLESSSTM )のホモログで分裂組織のマーカー遺伝子のOSH1 の発現が低下していた。したがって、TAB1 活性は腋性分裂組織の発達初期過程に必要であり、おそらく、OSH1 の発現を促進することで前分裂組織領域の細胞の未分化状態を維持しているものと考えられる。tab1 変異体では、腋性分裂組織の誘導に関与しているMOC1LAX1 の発現に変化は見られなかった。TAB1 は腋芽形成初期に前分裂組織領域の先端および中央部で発現しており、この発現領域はOSH1 の発現領域内に含まれていた。しかし、OSH1 とは異なり、TAB1 の発現はその後消失してしまうことから、TAB1 は腋性分裂組織が形成される過程において一過的に発現し、前分裂組織領域の発達に関与していると考えられる。TAB1 はSAMや発生過程にある胚では発現していなかった。イネにおいてSAMの活性に関与しているWUSCHEL関連ホメオボックス(WOX)遺伝子WOX4 の転写産物は、腋性分裂組織形成過程において、前分裂組織領域では検出されないが、葉原基が誘導されつつある腋性分裂組織では強い発現が見られた。このWOX4 の発現パターンは腋芽と茎頂で類似していた。よって、TAB1WOX4 の2つのWOX 遺伝子は腋性分裂組織の発達過程において交互に入れ替わって発現している。tab1 変異体の胚発生過程のSAMに異常は見られないことから、TAB1 はSAMの形成や維持には関与していないと考えられる。以上の結果から、TAB1 は茎頂分裂組織の維持ではなく腋性分裂組織の誘導に関与していると考えられる。


東京大学のプレスリリース

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論文)カロテノイドイソメラーぜによるイネの成長制御

2015-05-19 05:57:52 | 読んだ論文備忘録

Ethylene Responses in Rice Roots and Coleoptiles Are Differentially Regulated by a Carotenoid Isomerase-Mediated Abscisic Acid Pathway
Yin et al.  The Plant Cell (2015) 27:1061-1081.

doi:10.1105/tpc.15.00080

中国科学院 遺伝及び発育生物学研究所のZhang らは、イネのエチレン応答性変異体mhz5 について解析を行った。この変異体の黄化幼苗は、エチレンによる根の伸長阻害が野生型よりも弱く、エチレンによる子葉鞘伸長促進が野生型よりも強い。mhz5 変異体のシュートはエチレン応答遺伝子の発現量が野生型よりも高く、エチレン処理による発現量の増加が野生型よりも高くなった。また、エチレン処理によって根において発現量が増加する遺伝子はmhz5 変異体では発現誘導が見られなかった。したがって、mhz5 変異体は子葉鞘のエチレン感受性が高く、根のエチレン感受性は低い。mhz5 変異体成熟個体は分けつ数が多く、穂が小さく、1次および2次枝梗数が減少し、節間が短く、籾は野生型よりも細長くなっていた。mhz5 変異体幼苗の主根、不定根、側根は野生型よりも短く、不定根数は減少し、側根数は増加していた。よって、MHZ5 の機能喪失は農業形質に強く影響すると考えられる。マップベースクローニングにより、MHZ5 はLOC_Os11g36440であることが判明した。この遺伝子はカロテノイドイソメラーぜ(CRTISO)をコードしており、この酵素はカロテノイド生合成経路においてプロリコペンを全トランスリコペンに異性化する反応を触媒している。野生型幼苗をカロテノイド生合成の阻害剤であるフルリドン(Flu)で処理したところ、子葉鞘の伸長促進と根の伸長阻害においてmhz5 変異体と類似した結果を示した。よって、カロテノイド生合成の欠損はイネ幼苗のエチレン応答性に影響すると考えられる。プロリコペンは光照射することよって光異性化を起こして全トランスリコペンとなり、光照射はカロテノイドイソメラーぜの部分的な代替となる。そこで、mhz5 変異体を連続光下で育成したところ、野生型と同じエチレン応答性を示した。よって、カロテノイド生合成はイネ幼苗のエチレン応答性制御に関連していることが示唆される。mhz5 変異体の黄化葉ではカロテノイド生合成経路においてMHZ5ステップの上流に位置するプロリコペンやノイロスポレンが蓄積しており、mhz5 変異体の根ではプロリコペンが蓄積していた。mhz5 変異体を光照射すると葉と根のプロリコペン量が低下し、全トランスリコペン、ゼアキサンチン、アンテラキサンチン量が増加した。mhz5 変異体黄化幼苗の葉はプロリコペンが蓄積しているためにオレンジがかった黄色をしており、光照射後の緑化が野生型よりも遅かった。Flu処理試験や光回復試験から、mhz5 変異体のエチレン応答性の異常はカロテノイド由来のシグナル物質の欠乏によることが考えられる。そこで、ストリゴラクトン(SL)について調査したところ、mhz5 変異体では内生SL(epi-5DS)が減少していたが、合成SLのGR24を与えてもエチレン応答性に変化は見られなかった。またSL生合成遺伝子D17 やSLシグナル伝達に関与するD3 の発現を抑制してもエチレン応答性に変化は見られなかった。よって、mhz5 変異体黄化幼苗のエチレン応答性異常はSLの合成やシグナル伝達の変化によるものではないと考えられる。カロテノイド生合成経路から派生して合成されるもう1つの重要なシグナル物質のアブシジン酸(ABA)は、mhz5 変異体黄化幼苗中の含量が野生型よりもかなり低く、MHZ5/CRTISOはABA生合成に関与していることが示唆される。mhz5 変異体黄化幼苗に低濃度のABAを添加すると、根の長さが野生型と同程度までに伸長した。よって、根の成長には基底レベルのABAが必要であることが示唆される。また、ABAの添加はmhz5 変異体の子葉鞘と根のエチレン応答性を回復させた。よって、イネ黄化幼苗エチレン応答性にはABAの機能が必要であると考えられる。エチレンはシュートのABA蓄積を阻害するが、根のABA蓄積は促進しており、組織特異的制御が存在していると考えられる。MHZ5 転写産物はエチレン処理によってシュートにおいても根においても増加することから、エチレンはMHZ5 の発現を誘導することでABAの蓄積を促進していることが示唆される。ABA生合成経路の律速酵素であるNCEDの基質となるネオキサンチンの含量はエチレン処理によって増加し、mhz5 変異体の根ではエチレン処理に関係なくネオキサンチンが検出されなかった。NCEDの阻害剤であるノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)を添加すると、エチレンによるABA蓄積が抑制され、エチレンによる根でのIAA20 の発現誘導も抑制された。よって、エチレンによる遺伝子発現誘導にABAが関与していることが示唆される。mhz5 変異体黄化幼苗はエチレン生産量が野生型の3倍近くあり、ABA処理をするとエチレン生産量は野生型と同程度にまで減少した。よって、MHZ5 を介したABA生合成はイネ黄化幼苗のエチレン生産を阻害していることが示唆される。mhz5 変異体ではエチレン生合成酵素遺伝子のACS2ACS6ACO5 の発現量がシュートにおいても根においても野生型よりも高くなっていた。mhz5 変異体黄化幼苗をエチレン生合成阻害剤のアミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理をすると、子葉鞘の伸長程度が野生型と同程度にまで低下したが、ここにさらにエチレンを処理をすると子葉鞘は野生型よりも長くなった。したがって、mhz5 変異体の内生エチレン生産は、子葉鞘のエチレン高感受性とは関連していないことが示唆される。mhz5 変異体のシュートでは、エチレンシグナル伝達に関与しているEIN2 の発現量が野生型よりも高く、mhz5 変異体の根ではEIN2 の発現量に差は見られなかった。よって、mhz5 変異体子葉鞘のエチレン高感受性はEIN2 発現量が高いためであると考えられる。MHZ5 を過剰発現させた黄化幼苗は野生型よりも子葉鞘と根が短く、エチレン処理をしても子葉鞘の伸長程度は野生型よりも小さく、エチレン応答性が低下していた。しかし、MHZ5 過剰発現系統の根は、mhz5 変異体と同様に、野生型よりも短くなっていた。これは、MHZ5 過剰発現系統のABA量が根の成長にとって適切な量から外れていることによるものと思われる。MHZ5 過剰発現黄化幼苗は、子葉鞘においてエチレンに応答する遺伝子の発現が抑制され、根でエチレンに応答する遺伝子の発現量は増加していた。また、MHZ5 過剰発現個体の子葉鞘でのEIN2 発現量は野生型よりも低くなっており、このことがエチレン応答性の低下をもたらしていると考えられる。mhz5 ein2 二重変異体はエチレン処理による子葉鞘伸長促進が抑制され、根のエチレン応答性が失われた。mhz5 変異体でEIN2 を過剰発現させた個体をエチレン処理すると、mhz5 変異による子葉鞘の伸長促進が強くなり、EIN2 過剰発現による根の伸長阻害が緩和された。ein2 変異体でMHZ5 を過剰発現させた個体は、子葉鞘ではエチレン応答性が見られなかったが、根では僅かに伸長阻害が起こった。以上の結果から、エチレン、MHZ5/カロテノイドイソメラーぜ、ABAの相互作用は、イネのエチレン応答性や器官の成長を制御していることが示唆される。

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論文)転写因子の細胞内局在制御によるブラシノステロイドシグナル伝達制御

2015-04-18 07:50:55 | 読んだ論文備忘録

Formation and Dissociation of the BSS1 Protein Complex Regulates Plant Development via Brassinosteroid Signaling
Shimada et al.  The Plant Cell (2015) 27:375-390.

doi:10.1105/tpc.114.131508

ブラシノステロイド(BR)のシグナル伝達において、BIL1/BZR1が正の制御因子として機能していると考えられている。BIL1/BZR1タンパク質はBR処理によって細胞質から核に移行して遺伝子発現制御を行なうが、核への移行を制御する機構は明らかとなっていない。理化学研究所の中野らは、BRシグナル伝達に関与する新規因子を探索するために、シロイヌナズナアクティベーションタグ系統の黄化芽生えにBR生合成阻害剤ブラシナゾール(Brz)処理をし、Brzによる胚軸伸長抑制効果が野生型よりも高いBrz-sensitive-short hypocotyl1-1Dbss1-1D )変異体を単離した。明所で育成したbss1-1D 変異体はBR生合成変異体やBRシグナル伝達変異体と類似したわい化した表現型を示すことから、bss1-1D 変異体はBRシグナル伝達が抑制されていると考えられる。bss1-1D 変異体では、T-DNA挿入部位の1 kb上流にあるAt3g57130 の発現量が増加しており、この遺伝子を過剰発現させた形質転換体はbss1-1D 変異体と類似した表現型を示した。よって、At3g57130BSS1 であると言える。BSS1 はアンキリンリピートを含んでいるBTB-POZドメインタンパク質をコードしており、このタンパク質は葉の形態形成やパターンの制御に関与していることが報告されているBLADE ON PETIOLE1(BOP1)としても知られている。BSS1/BOP1 過剰発現個体では、BR処理によって発現が誘導されるTCH4BAS1IAA19SAUR-AC1 の発現量が通常条件で野生型よりも低く、Brz処理によって発現量はさらに低下した。bss1-1D 変異体とBSS1/BOP1 過剰発現個体では、リン酸化型および脱リン酸化型のBIL1/BZR1タンパク質量が野生型よりも少なくなっていた。よって、bss1-1D 変異体やBSS1/BOP1 過剰発現個体でのBRシグナル伝達は、BIL1/BZR1の上流で抑制されていると考えられる。Brz処理したbop1-3 変異体、bop2-1 変異体、bop1-3 bop2-1 二重変異体の黄化芽生えの胚軸は野生型よりも長くなり、bop1-3 bop2-1 二重変異体ではBR処理によるTCH4BAS1IAA19 の発現量の増加が野生型よりも高くなっていた。また、bop1-3 変異体、bop1-3 bop2-1 二重変異体ではリン酸化型および脱リン酸化型のBIL1/BZR1タンパク質量が野生型よりも多くなっていた。これらの結果から、BSS1/BOP1 の機能喪失はBRシグナルを強め、BSS1/BOP1タンパク質はBIL1/BZR1タンパク質の安定性に対して負に作用することが示唆される。BSS1/BOP1 の発現量はBrz処理をすることで濃度に応じて増加し、BR処理によって減少した。BSS1/BOP1 は明所育成芽生えでは胚軸において強く発現しており、この発現は黄化芽生えでは見られなかった。よって、BSS1/BOP1 は発芽初期のBRシグナルを負に制御することで胚軸伸長を制御していると考えられる。BSS1/BOP1タンパク質は核と細胞質の両方に局在していることが報告されているが、BSS1/BOP1-GFP融合タンパク質を用いて改めて調査したところ、細胞質ではGFP蛍光が拡散した状態に加えて斑点状に局在しており、Brz処理によって斑点の数が増加して拡散しているシグナルが減少し、BR処理をすると細胞質の拡散シグナルも斑点数も減少した。この斑点はエンドソームやゴルジ装置とは関係がなく、BSS1/BOP1タンパク質自身がオリゴマーとなって斑点を形成していた。このオリゴマーはBSS1/BOP1タンパク質どうしがジスルフィド結合して形成した複合体で、BR処理によって解離し、Brz処理によって会合した。bss1-1D bil1-1D 二重変異体はbil1-1D と類似した表現型を示すことから、bil1-1Dbss1-1D よりも上位に位置し、BIL1/BZR1はBSS1/BOP1の下流で作用していると考えられる。酵母two-ybrid試験や免疫沈降試験からBSS1/BOP1とBIL1/BZR1は直接相互作用をすることが確認された。BiFCアッセイを行ったところ、BSS1/BOP1とBIL1/BZR1の相互作用による蛍光は細胞質のみで観察され、核では検出されなかった。また、斑点状の蛍光はBrz処理をすることで増加した。BR処理をすると蛍光は細胞質と核に拡散して分布した。このことから、拡散したBSS1/BOP1はBIL1/BZR1と二量体を形成し、BIL1/BZR1はBR処理によって核への移行が可能となることが示唆される。BIL1/BZR1-GFP融合タンパク質もBrz処理後をしたりbri1-116 変異体では細胞質で斑点状の局在を示すことから、BR欠乏条件ではBSS1/BOP1とBIL1/BZR1が斑点を形成すると考えられる。bop1-3 bop2-1 変異体のBIL1/BZR1-GFP蛍光は野生型と比較すると核で強く、Brz処理をした際の核の蛍光の減少が殆ど起こらなかった。野生型ではBrz処理によってBIL1/BZR1-GFP蛍光が斑点を形成するが、bop1-3 bop2-1 変異体では斑点形成は起こらなかった。したがって、BSS1/BOP1の欠損は、BIL1/BZR1の細胞内局在や斑点形成におけるBrzの効果を低下させていることが示唆される。一方、BSS1/BOP1過剰発現個体では核のBIL1/BZR1-GFP蛍光が弱くなっていた。よって、BSS1/BOP1とBIL1/BZR1との結合およびBSS1/BOP1の斑点状の複合体形成は、BIL1/BZR1の細胞質から核への移行を阻害することでBRシグナル伝達を阻害していると考えられる。

理化学研究所のプレスリリース

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論文)植物の齡が進むことによるシュート再分化能の低下

2015-04-11 15:39:46 | 読んだ論文備忘録

An Intrinsic MicroRNA Timer Regulates Progressive Decline in Shoot Regenerative Capacity in Plants
Zhang et al.  Plant Cell (2015) 27:349-360.

doi:10.1105/tpc.114.135186

植物細胞は分化全能性があり、分化した器官から個体を再生する能力がある。この過程には、オーキシンとサイトカイニンの2つの植物ホルモンが関与している。この能力は植物の齡が進むにつれて失われていくが、その機構は明らかとなっていない。中国科学院 上海生命科学研究院 植物生理生態研究所Wang らは、タバコとシロイヌナズナの葉切片からのシュート再生能力が植物の齡によって変化するかを調査した。その結果、タバコでは若い葉ほどサイトカイニン(6-BA)添加培地でのシュート分化率が高くなることがわかった。シロイヌナズナの葉切片では、オーキシンを含むカルス誘導培地で形成されたカルスをサイトカイニン(2-IP)を含むシュート誘導培地に移植してシュートを分化させる。この時、カルス誘導に関しては葉の齡による変化は見られなかったが、シュート分化率は若い葉の方が高くなっていた。よって、シュート再生能力は植物の齡が進むにつれて低下すると言える。また、タバコもシロイヌナズナも培地に添加するサイトカイニン量が増えるとシュート再生率が高くなった。マイクロRNAのmiR156は、SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE(SPL)転写因子をターゲットとしており、多くの植物において若齢期から成熟期への移行に関与していることが知られている。miR156を過剰発現(Pro35S:MIR156 )させたタバコは野生型と比べて再生能力が高まったが、miR156を不活性化するターゲットミミックMIM156を過剰発現(Pro35S:MIM156 )させたタバコは再生能力が低下した。miR156の過剰発現は齡によるシュート再生の低下を抑制した。シロイヌナズナ葉切片のカルス誘導において野生型とPro35S:MIR156 およびPro35S:MIM156 の間で違いは見られなかったが、シュート再生能力とmiR156量との間には正の相関が見られた。また、培地に添加するサイトカイニン量を増やすことでPro35S:MIM156 での低いシュート再生能力が改善された。これらの結果から、miR156はシュート再生能力に関与していることが示唆される。miR156のターゲットとなるSPLは、SPL3、SPL4、SPL5のグループと、SPL2、SPL6、SPL9、SPL10、SPL11、SPL13、SPL15のグループの2つに別れる。miR156のターゲットとならないSPL3rSPL3 )を過剰発現させた個体はシュート再生率が野生型と同等であったが、rSPL9 を過剰発現させた個体は再生率が低下した。よって、SPL9 グループ遺伝子がシュート再生能力を制御していることが示唆される。spl9-1 spl15-2 二重変異体のシュート再生能力は野生型よりも高く、miR156過剰発現個体よりも低いことから、miR156のターゲットとなるSPL9 グループ遺伝子はシュート再生に関して機能的冗長性があると考えられる。miR156過剰発現個体の内生サイトカイニン量は野生型と同等であり、miR156は内生サイトカイニン量を制御することでシュート再生能力を制御しているのではないと考えられる。シロイヌナズナにおいてサイトカイニンシグナル伝達に関与しているB-タイプARR転写因子の変異体arr2-4 arr12-1 およびarr1-3 arr10-5 arr12-1 はシュート再生能力が低下しているが、miR156を過剰発現させても再生能力の回復は見られなかった。よって、miR156とそのターゲットであるSPLはB-タイプARRを介してシュート再生能力を制御していることが示唆される。miR156過剰発現個体ではサイトカイニンレポーターProTCS:GFP の発現量が増加しているが、オーキシンレポーターProDR5:GFP 発現量に変化は見られなかった。よって、miR156-SPLによるシュート再生制御ではオーキシン応答制御は関与していないと考えられる。酵母two-hybrid 解析から、SPL9グループのSPL2、SPL9、SPL10はB-タイプARRのARR1、ARR2、ARR10、ARR12と結合するが、A-タイプARRとは結合しないことがわかった。両者の相互作用は、BiFCアッセイやCoIPアッセイから、生体内でも起こることが確認された。ARR2タンパク質は、N末端側の受容体ドメイン、中央のGRAP DNA結合ドメイン、C末端側のトランス活性化ドメインから構成されており、トランス活性化ドメインがAPL9との結合に関与していた。B-タイプARRはサイトカイニン処理によって受容体ドメインのAsp残基がリン酸化されるが、リン酸化はARR2-SPL相互作用に関与していなかった。ARR2 を過剰発現させたタバコではProTCS:LUC の発現量が増加するが、rSPL9 を過剰発現させたタバコでは発現量が減少した。B-タイプARRrSPL9 を同時に過剰発現させるとProTCS:LUC の発現量は減少することから、SPL9 の過剰発現はタバコでの内生サイトカイニン応答を阻害していることが示唆される。ARR2のトランス活性化ドメイン(ΔARR2)と酵母GAL4のDNA結合ドメインとの融合タンパク質(BD-ΔARR2)を過剰発現させた植物ではレポーターのPro6xUAS:LUC の発現量が増加するが、rSPL9を同時に発現させるとBD-ΔARR2によるレポーターの活性化は抑制された。ARR2 を過剰発現させた個体は野生型よりも再生能力が高く、SPL9 を発現させることによって低下していた再生能力を回復させた。以上の結果から、齡の進んだ植物ではmiR156のターゲットとなるSPL の発現量が増加することでB-タイプARRの機能が抑制され、サイトカイニンを介したシュート分化能力が低下するものと考えられる。

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論文)外生菌根菌による側根形成促進

2015-04-05 15:04:55 | 読んだ論文備忘録

Volatile signalling by sesquiterpenes from ectomycorrhizal fungi reprogrammes root architecture
Ditengou et al.  Nature Communications (2015) 6:6279.

DOI: 10.1038/ncomms7279

外生菌根菌は植物の側根成長を促進することが知られている。ドイツ フライブルク大学Palme らは、2室に区切られたシャーレの一方でオオキツネタケ(Laccaria bicolor )の菌糸体、他方でポプラもしくはシロイヌナズナの幼植物体を育成し、両植物とも菌糸体との直接の接触がないにも関わらず側根形成が促進されることを見出した。このことから、菌糸体の発する揮発性有機化合物(VOC)が側根形成を刺激していると考察した。オオキツネタケとは異なるVOCを発する外性菌根菌のCenococum geophilum を用いて同様の試験を行なったが、側根形成は促進されなかった。オオキツネタケのVOCに暴露した根は側根密度が高くなっていることから、側根原基の誘導が促進されていると考えられる。オオキツネタケVOCは根毛の成長に関しても促進効果を示した。根毛の成長は活性酸素種(ROS)と関連があり、ROS生成を触媒するNADPHオキシダーゼの阻害剤であるジフェニレンヨードニウム(DPI)を添加すると根毛伸長が抑制される。オオキツネタケVOCはDPI添加による根毛伸長阻害を克服させることができないことから、オオキツネタケVOCによる根毛伸長促進はROSに依存した機構であると考えられる。シロイヌナズナROOT HAIR DEFECTIVE 2RHD2 )遺伝子はNADPHオキシダーゼをコードしており、rhd2 変異体は根毛が非常に短くなる。rhd2 変異体ではオオキツネタケVOCによる根毛伸長も側根形成促進も見られないことから、オオキツネタケVOCによる側根と根毛の成長促進はRHD2によるROS生成が関与していると考えられる。オオキツネタケVOCに暴露した根はスーパーオキシドイオンを検出するニトロブルーテトラゾリウム(NBT)によって染色された。側根形成にはオーキシンが関与しているが、オーキシンレポーターDR5:GFP を用いた試験から、オオキツネタケVOCによる側根や根毛の成長促進においてオーキシンシグナル伝達は関与していないことがわかった。オオキツネタケVOCにはセスキテルペン類(SQTs)が多く含まれており、C. geophilum やシロイヌナズナの発するVOCには含まれていなかった。オオキツネタケのSQTs生合成をロバスタチンを添加して阻害したところ、シロイヌナズナもポプラも側根形成促進が見られなくなった。ロバスタチン処理によって(-)-ツジョプセンとβ-カリオフィレンの2種類のSQTの生成量が大きく減少していることから、それぞれのSQTを単独で処理したところ、(-)-ツジョプセンはシロイヌナズナにおいてもポプラにおいても側根形成に促進的に作用した。また、ロバスタチン処理によってオオキツネタケのSQTs生合成を阻害した状態で(-)-ツジョプセンをしたところ側根形成促進が回復した。以上の結果から、オオキツネタケの発するセスキテルペンは植物の側根形成を促進する効果があり、このことは植物にとっては根の表面積を拡げ養分吸収を高め、外生菌根菌にとっては植物の根から入手する滲出物が増加するwin-winの関係にあると考えられる。

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論文)銅ゴケが高銅濃度環境に定着するメカニズム

2015-04-01 20:15:01 | 読んだ論文備忘録

Copper mediates auxin signalling to control cell differentiation in the copper moss Scopelophila cataractae
Nomura et al.  Journal of Experimental Botany (2015) 66:1205-1213.

doi:10.1093/jxb/eru470

ホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae )は、銅を含む環境を好む「銅ゴケ」の一種で、世界中に分布する。日本では寺社の銅葺き屋根や銅鉱山の周辺で見られる。このコケは体内に銅を蓄積し銅に対する強い耐性を示す。ホンモンジゴケは胞子体の形成はまれにしか起こさず、無性芽による増殖が新たな生息域を拡張する主要な手段となっている。原糸体からの無性芽形成は環境中の銅濃度の影響を受けており、銅濃度が低い条件では無性芽形成頻度が高くなることが報告されている。理化学研究所 環境資源科学研究センターの野村らは、ホンモンジゴケが銅を多く含む環境で成長する機構について解析した。ホンモンジゴケの無性芽の発芽は、培地中の銅濃度条件の影響を受けないが、クロロネマ細胞からカウロネマ細胞への変化は高銅濃度条件で促進された。ホンモンジゴケは銅以外の重金属に対しても耐性を示すが、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛はカウロネマ細胞への分化や無性芽形成の抑制を引き起こさなかった。クロロネマ細胞からカウロネマ細胞への分化はオーキシンによる正の制御を受けていることが他のコケにおいて報告されている。ホンモンジゴケを高銅濃度条件で育成すると内生インドール酢酸(IAA)量が対照条件よりも高くなり、サイトカイニンのイソペンテルアデニン(iP)量も高くなった。低銅濃度条件で培地にオーキシンを添加するとクロロネマ細胞からカウロネマ細胞への分化が促進され、無性芽形成が抑制された。しかしながら、サイトカイニン添加では細胞分化に変化は見られなかった。これらの結果から、銅による細胞分化の制御はオーキシンを介してなされていることが示唆される。オーキシンのアンタゴニストであるPEO-IAAとオーキシンを同時に添加するとオーキシンによる分化誘導が抑制され、PEO-IAAと銅を同時に添加すると銅によるカウロネマ細胞分化が抑制された。また、オーキシン生合成酵素を阻害するL-キヌレニンを添加すると、濃度に応じて銅によるカウロネマ細胞分化を抑制した。よって、ホンモンジゴケのカウロネマ細胞分化の銅による誘導はオーキシンシグナルを介してなされていると考えられる。以上の結果から、ホンモンジゴケは環境中の銅濃度に応じてオーキシン蓄積量を調節しており、銅濃度の低い環境では無性芽を形成して銅濃度の高い環境を求めて分布を拡大させ、銅濃度の高い環境では内生オーキシン量が増加することで無性芽形成が抑制されカウロネマ細胞への分化が促進されて茎葉体を形成し環境に定着するものと考えられる。

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