Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)糖によるオーキシン生合成の制御

2013-02-28 19:51:48 | 読んだ論文備忘録

Soluble Carbohydrates Regulate Auxin Biosynthesis via PIF Proteins in Arabidopsis
Sairanen et al.  The Plant Cell (2012) 24:4907-4916.
doi:10.1105/tpc.112.104794

シロイヌナズナの芽生えは、糖を添加することによって根の成長が促進される。同様に、オーキシンは根の成長を促進する作用がある。スウェーデン農業大学のLjung らは、糖とオーキシンとの関係を調査した。シロイヌナズナ芽生えを様々な濃度(1−7 %)のグルコース(Glc)で処理すると、その濃度に応じて遊離インドール-3-酢酸(IAA)量が増加した。また、IAAの前駆体であるアントラリネート(ANT)やトリプトファン(TRP)、IAAの異化物質である2-オキソインドール-3-酢酸(oxIAA)の増加も観察された。よって、GlcはIAAの生合成と分解を介してIAA量を制御していることが示唆される。Glc処理によるIAA量の増加はタンパク質合成阻害剤シクロヘキシミドの添加によって見られなくなることから、GlcによるIAA生合成の誘導には新規タンパク質合成が必要であることが示唆される。ショ糖はGlc以上にIAA生合成の誘導能力を有していた。IAA生合成は、Glc添加によって生じたストレスに応答しているのではなく、TRPからのIAA生合成はGlcや他の糖類によって厳密に制御されていることが示唆される。TRPはIAAの前駆体物質であり、幾つかの経路を介してIAAが合成される。Glc処理した芽生えでは、CYP79B2CYP79B3YUCCA8YUCCA9 の2つの異なるIAA生合成経路の主要な酵素をコードする遺伝子の発現量が増加していた。生体内の可溶性糖類の含量は日変化を示し、明期の終わりに最大となり、暗期の終わりに最小となる。内生糖含量の日変化に呼応して、明期の終わりのIAA生合成は暗期の終わりの約2倍になっていた。内生ヘキソース量の増加するグルコシルトランスフェラーゼ変異体dpe2-3 では、野生型と比較してIAA生合成が上昇していた。したがって、IAA生合成は内生糖含量によって制御されていることが示唆される。ヘキソースはリン酸化されることで活性を持つことから、HEXOKINASE1HXK1 )遺伝子が変異したgin2-1 変異体でのIAA誘導の変化を見たところ、gin2-1 変異体は定常状態でのIAA量とGlcによって誘導されるIAA生合成が野生型よりも低下していることがわかった。しかしながら、gin2-1 変異体においてもGlc添加によるIAA合成の誘導が起こることから、HXK1 とは独立した経路もこの応答に関与していることが示唆される。光や温度のシグナル伝達に関与しているPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)ファミリー転写因子がIAA生合成に関与しているという知見があることから、pif 変異体におけるGlcによるIAA生合成誘導を見たところ、pif1 pif3 pif4 pif5 四重変異体ではGlcによるIAA生合成誘導が野生型よりも高くなっていることがわかった。また、PIF5 過剰発現個体ではGlcによるIAA生合成誘導が低下していた。よって、PIFタンパク質はこの過程を負に制御していると考えられる。以上の結果から、糖、オーキシン、PIFタンパク質は、植物の成長、発達や環境応答を制御する因子としてネットワークを形成していると考えられる。

コメント

論文)サイトカイニンによる一酸化窒素の抑制

2013-02-26 19:56:04 | 読んだ論文備忘録

Cytokinins can act as suppressors of nitric oxide in Arabidopsis
Liu et al.  PNAS (2013) 110:1548-1553.
doi:10.1073/pnas.1213235110

一酸化窒素(NO)は、植物の様々な生理現象の制御に関与しており、病害抵抗性の調節因子としても重要であることが知られている。しかしながら、NOの作用機作については不明な点が残されている。中国 首都師範大学He らは、シロイヌナズナ芽生えをNO供与体のニトロプルシドナトリウム(SNP)を高濃度処理をした際の成長阻害が起こらないcontinuous NO-unstressed 1cnu1 )変異体を単離し、解析を行なった。この変異体はSNPに対しての感受性が低下しており、SPN処理下での花成遅延が起こらず、野生型よりも花成時期が早くなった。これに呼応して、cnu1 変異体ではFLOWERING LOCUS CFLC )の発現が殆ど見られず、FLOWERING TIMEFT )の発現量が増加していた。マップベースクローニングにより、CNU1 は以前にALTERED MERISTEM PROGRAM1AMP1 )として報告されたAt3g54720であり、cnu1 変異体の表現型は、amp1 変異体の表現型として報告されている多子葉、葉の形成が早い、花成が早いといった形質と非常に類似していた。amp1 変異体はSNPに対する応答性がcnu1 変異体と同じように低くなっていた。AMP1 はグルタミン酸カルボキシペプチダーゼをコードしているが、生物学的な役割は明らかとなっていない。amp1 変異体では、未知の機構によってサイトカイニン生合成量が増加して分裂組織が肥大しており、amp1 とアレリックな変異体(pt/hptcop2 等)は全てゼアチン類のサイトカイニン生合成量が多い。cnu1 変異体のNO応答性の低下が内生サイトカイニン量の増加によるものであるとすれば、内生NO量が増加しているnitric oxide overexpression 1nox1 )変異体の花成遅延がゼアチン処理によって回復するはずである。nox1 変異体を低濃度ゼアチン処理をすると花成が促進され、FLC の発現量が減少し、FT の発現量が増加した。よって、サイトカイニンはNOに対する応答を抑制していると考えられる。ゼアチン処理はnox1 変異体芽生えの成長遅延も回復させ、成長回復には野生型の植物のおよそ1000倍のゼアチンが必要であることがわかった。nox1 変異体の葉は、葉脈が網目状となる表現型を示し、野生型植物を高濃度SNP処理をすると、葉脈が網目状になりクロロフィル含量が低下する。nox1 変異体をゼアチン処理すると、網目状の葉脈が消失し、クロロフィル含量も増加した。したがって、ゼアチンの添加はNOの増加によって生じるnox1 変異体の表現型を回復させる効果があり、サイトカイニンはNOと作用的に拮抗しているか、内生NO量を低下させる作用があると考えられる。NO感受性色素4,5-ジアミノフルオレセインジアセタート(DAF-2DA)を用いて内生NO量を定量したところ、nox1 変異体のNO量は野生型よりも10倍高く、cnu1 変異体のNO量は野生型よりも低くなっていた。cnu1 nox1 二重変異体のNO量は野生型よりも僅かに高かったが、nox1 単独変異体よりも低くなっていた。よって、サイトカイニン量の増加はNO量を低下させる作用があり、このことがcnu1 /amp1 変異体のNO応答性を低下させいていると思われる。cnu1 nox1 二重変異体は花成が早くなり、nox1 変異体よりもFLC の発現量が低く、FT の発現量が高くなっていた。このらの結果から、CNU1はNO生産の下流において作用しており、サイトカイニンは直接的にNO量を制御していると考えられる。細胞内では、NOはフリーラジカルの過酸化物と反応して強力な酸化体である過酸化亜硝酸を形成する。ゼアチンと過酸化亜硝酸を混合して生成物を逆相HPLCで分析したところ、未反応のゼアチンの他に3つのピ−クが検出された。また、サイトカイニンの1種であるN6-イソペンテニルアデニン(iP)も過酸化亜硝酸と反応して新たに3種の物質が生成された。過酸化亜硝酸とゼアチンの反応物はシロイヌナズナ芽生えをSNP処理することによっても生成され、生成量はcnu1 変異体で高くなっていた。したがって、cnu1/ amp1 変異体でのNOの効果低減は、サイトカイニンと過酸化亜硝酸の直接の反応によって内生NO量が低下することによってもたらされていることが推測される。サイトカイニンと過酸化亜硝酸の反応によって生成された物質には生物活性は見られなかった。

コメント

論文)シクロフィリン機能獲得変異体の形態変化

2013-02-21 19:31:33 | 読んだ論文備忘録

A gain-of-function mutation in the ROC1 gene alters plant architecture in Arabidopsis
Ma et al.  New Phytologist (2013) 197:751-762.
doi: 10.1111/nph.12056

中国 清華大学Liu らは、シロイヌナズナT-DNAアクティベーションタギングライブラリーから草丈が低くシュート分枝数の増加した1因子半優性の変異体を得た。この変異体の茎の表皮細胞は、野生型よりも短く幅広になっていた。変異体の花成時期は野生型と変わりはないが、変異体では抽だいが起こらず、ロゼットの中心から直接数個の花が出現した。変異体の花の各器官の発達、種子生産は正常だった。通常の植物体の育成は22-24℃の長日条件で行なっているが、変異体を28℃もしくは短日条件で育成することによって表現型が抑制され、16℃もしくは恒明条件で育成すると表現型が強まった。この変異体の表現型がジベレリン(GA)の生合成/シグナル伝達変異体のものと類似していることから、変異体をGA処理したが、茎の伸長に関して変異体の表現型を回復させることはできなかった。遺伝解析の結果、この変異体の表現型はT-DNA挿入とはリンクしていないことがわかり、原因遺伝子の探索を行なったところ、細胞質型シクロフィリン(CyP)をコードしているAt4g38740(ROTAMASE CYP 1ROC1 )遺伝子にCからTへの1塩基置換が起こり、173番目のCyPにおいて保存されている領域のセリン残基がフェニルアラニン残基に置換していることがわかった。CyPは様々な生物において見出されており、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ(ロタマーゼ)活性を有している。ロタマーゼは、タンパク質フォールディングの律速過程であるプロリンのペプチド結合のシス型からトランス型への転換を触媒しており、タンパク質輸送、細胞分裂、転写制御、シグナル伝達、RNAプロセッシングといった様々な過程において重要な役割を果たしている。シロイヌナズナでは29のCyP 遺伝子が同定されている。変異型ROC1roc1 )遺伝子が変異体の表現型をもたらしているのかを確認するために、roc1ROC1 プロモーターもしくは35Sプロモーター制御下で発現させた形質転換当代の表現型を調べたところ、一部の形質転換体がroc1 変異体様の表現型を示した。ROC1 を過剰発現させた個体やRNAiで発現抑制した個体では形態変化は起こらなかった。したがって、roc1 変異体の表現型はROC1 遺伝子の機能獲得変異によるものであることが示唆される。野生型植物において、ROC1 遺伝子は全ての器官において発現しており、roc1 変異体でのroc1 遺伝子の発現量もROC1 と同じであった。また、ROC1roc1 共に植物体をGA処理しても転写産物量の変化は起こらなかった。しかし、GA処理によるROC1タンパク質量の変化を見たところ、ROC1タンパク質量に変化は見られなかったが、roc1タンパク質量はGA処理によって増加することがわかった。ROC1 およびroc1 の転写産物量の育成温度による変化を見たところ、28℃ではどちらの転写産物量とも安定性が増して22℃よりも増加しており、16℃ではROC1 転写産物量は僅かに増加し、roc1 転写産物量は僅かに減少していた。また、温度変化による両タンパク質量の変化を35Sプロモーターでそれぞれを発現させた形質転換体で比較したところ、16℃でroc1タンパク質量の増加が観察された。よって、16℃でのroc1タンパク質量の増加がroc1 変異体の表現型を強めていると考えられる。ga1-3 変異体はGA生合成酵素が欠損しており、花茎の形成にはGA処理が必要となるが、roc1 ga1-3 二重変異体はGA処理をしても抽だいを起こさなかった。よって、roc1 変異はGAによる茎の伸長を抑制していることが示唆される。DELLAタンパク質をコードするGAI 遺伝子の機能獲得変異体gai はGAに対する感受性が低下して茎の伸長が抑制されるが、roc1 gai 二重変異体の表現型はgai 単独変異体と類似しており、gai 変異はroc1 変異による茎の伸長阻害と拮抗していることが示唆される。roc1 変異体においてGA処理によるDELLAタンパク質の分解に野生型との違いは見られなかった。したがって、roc1 変異はDELLAタンパク質を介したGAシグナル伝達には影響を及ぼしていないが、茎の伸長に関してGAシグナルと拮抗していると考えられる。

コメント

論文)アブシジン酸による花成抑制機構

2013-02-19 19:26:21 | 読んだ論文備忘録

The inhibitory effect of ABA on floral transition is mediated by ABI5 in Arabidopsis
Wang et al.  Journal of Experimental Botany (2013) 64:675-684.
doi:10.1093/jxb/ers361

アブシジン酸(ABA)がシロイヌナズナの花成を抑制することが知られているが、その機構については明らかとなっていない。中国 武漢大学のWu らは、ABAシグナル伝達に関与しているbZIP型転写因子のABSCISIC ACID-INSENSITIVE MUTANT 5(ABI5)が花成に及ぼす影響について調査した。ABI5 を恒常的に発現させたシロイヌナズナは、長日条件で花成遅延を起こし、abi5 変異体は僅かに花成が促進された。しかしながら、短日条件ではこれらの植物体の花成時期は野生型と同等であった。花成抑制因子として機能するFLOWERNG LOCUS CFLC )の発現を見たところ、長日条件では、abi5 変異体でFLC の発現量が低下し、ABI5 過剰発現系統ではFLC の発現量が増加していた。また、短日条件ではFLC の発現量に変化は見られなかった。したがって、長日条件においてABI5はFLC の発現を正に制御していることが推測され、このことがシロイヌナズナの花成に影響していると考えられる。FLC プロモーター制御下でルシフェラーゼ(LUC)を発現するコンストラクト(pFLC::LUC)と35Sプロモーター制御下でABI5 を発現するコンストラクト(p35S::ABI5)を導入したシロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストのLUC活性を見たところ、LUC活性はプロトプラストをABA処理することによって、その濃度に応じて増加することがわかった。また、プロトプラストをタンパク質キナーゼ阻害剤K252aで処理してABI5のSnRK2によるリン酸化を阻害すると、ABAを添加してもLUC活性が見られなかった。したがって、ABAによる花成制御は、ABI5によるFLC の転写制御を介してなされていることが示唆される。ABI5にはリン酸化されうる保存されたアミノ酸残基が4つあるが、これらのアミノ酸残基を置換したABI5を用いた試験から、ABI5のリン酸化修飾は花成時期制御において重要であることがわかった。アミノ酸置換したABI5は、pFLC::LUCを導入したシロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストのABA処理によるLUC活性上昇をもたらさなかった。snrk2.2 /2.3 /2.6 三重変異体の葉肉細胞プロトプラストでは、ABI5 を発現させてもABA処理によるLUC活性の上昇が見られなかった。SnRK2.6ABI5 を同時に発現させたプロトプラストでは、ABAを添加しなくてもLUC活性が検出された。SnRK2によってリン酸化されうるABI5以外のbZIP型転写因子のアブシジン酸応答エレメント(ABRE)結合因子(ABF)類(ABF1、ABF3、ABF4)も、ABA存在下でpFLC::LUCを導入したシロイヌナズナ葉肉細胞プロトプラストのLUC活性上昇を引き起こし、この活性上昇はsnrk2.2 /2.3 /2.6 三重変異体の葉肉細胞プロトプラストでは見られなかった。したがって、SnRK2はABI5やABF類を介したFLC の転写活性化において重要であると考えられる。FLC 遺伝子のプロモーター領域にはABRE様エレメントが6箇所あり、bZIPタンパク質が結合するG-boxエレメントが1つある。クロマチン免疫沈降アッセイにより、ABI5はFLC 遺伝子のプロモーター領域の様々なDNA断片と結合することが確認され、特に強い結合を示すDNA断片にはG-boxとABRE様エレメントが1つ含まれていた。そこで、このモチーフに変異を導入してFLC プロモーター活性を見たところ、ABRE様エレメントに変異を導入しただけでは活性に変化は見られなかったが、G-boxにも変異を導入したところプロモーター活性が低下した。したがって、ABI5は直接FLC プロモーター領域に結合してFLC の発現を制御していると考えられる。以上の結果から、ABAによる花成の抑制は、ABI5やABFといったABAシグナル伝達に関与しているbZIP型転写因子によるFLC の発現促進によって引き起こされていると考えられる。

コメント

論文)側根誘導におけるPIN3の役割

2013-02-17 11:51:56 | 読んだ論文備忘録

Auxin reflux between the endodermis and pericycle promotes lateral root initiation
Marhavý et al.  EMBO Journal (2013) 32:149-158.
doi:10.1038/emboj.2012.303

側根形成は、内鞘細胞にオーキシンが蓄積することによって始原細胞が誘導され、この細胞が不均等細胞分裂を起こし、側根原基を生じる。この過程において、オーキシン排出キャリアのPIN3が重要な役割を演じていることが知られている。ベルギー フランダースバイオテクノロジー研究機関(VIB)のBenková らは、GFPを付加したPIN3をPIN3 プロモーター制御下で発現させたシロイヌナズナを用いて、側根誘導の際のPIN3の局在を調査した。PIN3-GFPは内鞘細胞を含む中心柱組織で検出されたが、側根原基の始原細胞となる内鞘細胞を覆っている内皮細胞においても検出された。根の屈曲によって側根が誘導される際のPIN3-GFPのシグナル変化を見たところ、PIN3-GFPシグナルは内鞘細胞でのオーキシン蓄積が起こった後に隣接する内皮細胞で見られるようになることがわかった。そして側根原基か形成されるにつれて、内皮細胞でのPIN3-GFPシグナルは消失していった。pin3 変異体では誘導される側根の密度が減少するが、側根始原細胞の密度は大きく増加していた。また、始原細胞と誘導される側根を合わせた密度は、野生型とpin3 変異体で同程度であった。よって、pin3 変異体は始原細胞から側根原基が誘導される過程が不完全であると考えられる。シロイヌナズナのPINファミリーの中でPIN3 に最も近いPIN7 の発現を見たところ、PIN3と同様に根冠中央部と中心柱で発現が観察されたが、内皮細胞での発現は観察されなかった。よって、側根原基誘導過程での内皮細胞での発現はPIN3 特異的であることが示唆される。pin7 変異体の始原細胞密度は野生型よりも高くなっており、始原細胞からの側根原基の誘導に異常は見られなかった。よって、PIN7活性の欠損は始原細胞の特異化の過程に異常をもたらし、始原細胞から側根原基が誘導される過程には影響していないと考えられる。側根原基を覆う内皮細胞ではPIN3 以外のPIN 遺伝子は発現しておらず、PIN3が主要なオーキシン排出キャリアとなっていると思われる。内皮細胞で特異的に発現するSCARECROWSCR )プロモーター制御下でPIN3-YFP を発現させたpin3 変異体は、pin3 変異体での始原細胞密度の増加や側根原基誘導密度の低下が見られなくなった。よって、始原細胞や側根原基誘導時の内皮細胞でのPIN3活性は、始原細胞を側根原基へ発達させる過程を促進していると考えられる。中心柱でのPIN3活性が側根原基誘導に関与しているかを見るために、中心柱での発現活性があるSHORT ROOTSHR )プロモーター制御下でPIN3-YFPpin3 変異体で発現させたが、側根原基数の増加は見られなかった。したがって、中心柱や内鞘細胞でのPIN3活性は始原細胞から側根原基が誘導される過程には関与していないと考えられる。内鞘細胞において、PIN3は内鞘細胞に接する側の細胞膜に局在していた。また、SCR プロモーターでPIN3-YFP を発現させた個体を用いた試験から、通常の状態ではPIN3-YFPの内皮細胞内の局在に局性は見られないが、根を屈曲させて側根原基の誘導を起こすことによって、PIN3-YFPの局在化が起こることがわかった。このPIN3-YFPシグナルの局在化は、根をオーキシン処理することによっても側根分化領域特異的に起こった。以上の結果から、側根始原細胞の特異化の後に内皮細胞において発現誘導されたPIN3は、内鞘細胞側に局在してオーキシンを始原細胞に供給し、側根原基形成を促していると考えられる。

コメント

論文)WOXタンパク質の活性化因子から抑制因子への進化

2013-02-13 23:15:57 | 読んだ論文備忘録

Evolutionarily conserved repressive activity of WOX proteins mediates leaf blade outgrowth and floral organ development in plants
Lin et al.  PNAS (2013) 110:366-371.
doi:10.1073/pnas.1215376110

野生タバコ(Nicotiana sylvestris )のlam1 変異体は、葉の葉肉の分化が見られず、葉身が退化して細長いひも状になり、花の形態にも異常が見られる。この表現型は、変異体にタルウマゴヤシ(Medicago truncatula )のWUSCHEL関連ホメオボックス(WOX)遺伝子のSTENOFOLIASTF )のゲノム断片を導入することによって回復する。表現型の回復の程度はSTF の発現量によって変化することから、STF は葉身の成長を制御していると考えられる。米国 オクラホマ州立大学Tadege らは、STF の機能について解析を行なった。シロイヌナズナプロトプラストを用いたルシフェラーゼ一過的発現アッセイ系試験から、STFは転写抑制因子として機能することがわかった。STFタンパク質のWUS-boxのアミノ酸を置換した変異型STF(STFm1)では転写抑制活性が低下していることから、STFタンパク質のWUS-boxが抑制活性に関与していると考えられる。STFm1lam1 変異体で発現させても葉身や花の形態の回復は起こらなかったが、STFm1のN末端側にSRDXリプレッションドメインを付加(SRDX-STFm1)してlam1 変異体で発現させたところ、表現型が完全に相補されて野生型と同等になった。一方、STFm1に単純ヘルペスウイルスVP16タンパク質活性化ドメインを付加(STFm1-VP16)してlam1 変異体で発現させたところ、lam1 変異体の細葉表現型がさらに強くなった。以上の結果から、STF は葉身や花の形成過程の細胞分裂をWUS-boxを介して抑制していると考えられる。シロイヌナズナのWUS 遺伝子もlam1 変異体の表現型を相補しうることから、シロイヌナズナの15のWOX 遺伝子のうちの11について相補性試験を行なったところ、種子植物にのみ見られるWOXWUSWOX1WOX7 )のうちのWOX7 以外で形態の相補が見られた。また、ヒカゲノカズラ網を含む維管束植物に見られるWOX9 を発現させたlam1 変異体は細葉表現型がさらに強くなった。したがって、進化の過程において、種子植物が獲得したWOX 遺伝子群はWOX7 を除いて葉身を成長させる機能があると考えられる。STFm1と同様に、WUS-boxに変異を導入したWUSWUSm1 )を発現させたlam1 変異体では表現型の回復は弱くなっていたことから、STF の代替としてWUS が機能するためにはWUS-boxが必要であることが示唆される。さらに、SRDXドメインを付加したWUSm1SRDX-WUSm1 )を発現させたlam1 変異体は表現型が回復し、VP16ドメインを付加したWUSm1WUSm1-VP16 )を発現させたlam1 変異体は表現型が強まった。WUS、WOX7、WOX9および維管束植物以外の蘚類や緑藻類にも見られるWOX13の転写活性をルシフェラーゼ一過的発現アッセイで見たところ、WUSはルシフェラーゼ活性を抑制したが、WOX7、WOX9、WOX13は対照よりもルシフェラーゼ活性が強くなり、特にWOX9が強い活性化を示した。WUS-boxのコアモチーフであるTLXLPFは、種子植物で見られるWOX7以外のWOXタンパク質において保存されており、他の古いタイプのWOXタンパク質ではTL配列がなく、LPF配列にも変化が見られた。よって、WOXによる葉身成長はWUS-boxによる転写抑制活性によって引き起こされており、WOX 遺伝子群がWUS-boxを獲得したのは進化の過程の比較的後期であると考えられる。WOX7WOX9WOX13 にSRDXドメインまたはWUS-boxを付加してlam1 変異体で発現させると表現型の回復が見られた。したがって、WOX 遺伝子は進化の過程においてWUS-boxを獲得することで抑制因子活性を持つようになったと考えられる。

コメント

論文)シュート再分化時のオーキシンとサイトカイニンのクロストーク

2013-02-08 20:37:55 | 読んだ論文備忘録

Pattern of Auxin and Cytokinin Responses for Shoot Meristem Induction Results from the Regulation of Cytokinin Biosynthesis by AUXIN RESPONSE FACTOR3
Cheng et al.  Plant Physiology (2013) 161:240-251.
doi:10.1104/pp.112.203166

カルスからの器官の再分化にはオーキシンとサイトカイニンが関与しているが、両者の相互作用の分子機構については不明な点が残されている。中国 山東農業大学Zhang らは、シロイヌナズナの雌ずいをオーキシンを含むカルス誘導培地(CIM)で培養して生じたカルスをサイトカイニンを含むシュート誘導培地(SIM)に移植し、再分化過程の分子機構を解析した。GFPをオーキシン応答プロモーターDR5rev 制御下で発現させたカルスは、周縁部に均一にGFPシグナルが見られる。カルスをSIMに移植すると、幹細胞の誘導が始まっていない2日目でシグナルは外側の細胞層の特定の領域に移動し、4日目には幹細胞の誘導に関与するWUSCHELWUS )の発現の高い領域の頂端の周縁に環状にシグナルが局在していた。シュート分裂組織が形成されるSIM移植6日目では、GFPシグナルはWUS 発現領域の頂端部に見られた。したがって、幹細胞誘導からシュート分裂組織形成の間のオーキシン応答の分布は、WUS 発現領域とは相容れないことが示唆される。サイトカイニン応答合成プロモーターTCS 制御下でGFPを発現させたカルスでは、GFPシグナルの見られる領域はオーキシン応答と一致していたが、SIMに移植した後にはWUS 発現領域と一致するようになった。以上の結果から、シュートを誘導する前の段階ではサイトカイニン応答領域とオーキシン応答領域は一致いているが、SIM移植4日目ではオーキシン応答領域はリング状となり、サイトカイニン応答領域はリングの中心のWUS 発現部位へ移行しており、シュート分裂組織が形成される過程で両者の応答領域は分かれることがわかった。オーキシン応答領域は、オーキシンの局所的な生合成か輸送の結果生じると考えられる。シュート誘導時のYUCCAYUC )遺伝子の発現を見たところ、YUC1YUC4 の転写産物量が増加しており、これらを介したオーキシン生合成がオーキシン応答領域の分布に関与していると考えられる。オーキシン排出キャリアのPIN1はSIM移植前は極性をもった膜局在をしていなかったが、SIMでの培養が進むにつれてWUS が発現している領域の頂端部の外側の細胞層において極性をもった分布が見られるようになった。SIMに移植したカルスにオーキシン輸送阻害剤のNPAを処理すると、オーキシン応答領域やWUS 発現領域は未分化カルスと同じような状態となった。また、yuc1 yuc4 二重変異体やPIN1 をアンチセンス抑制したカルスは再分化効率が低下していた。したがって、新規のシュート再分化には局所的なオーキシン生合成とオーキシン輸送が重要であることが示唆される。SIMでの培養の間のサイトカイニン合成酵素遺伝子ATP/ADP ISOPENTENYL TRANSFERASEAtIPT )の発現を見たところ、AtIPT3AtIPT5AtIPT7 が上昇していることがわかった。AtIPT5 の発現部位について詳細に調査したところ、誘導前のカルスでは細胞表層全体で発現が見られたが、SIMでの培養が進むにつれて前分裂組織以外での発現が消失していった。AtIPT の変異体は再分化効率が低く、AtIPT によるサイトカイニン生合成は新規のシュート再分化にとって重要であることが示唆される。PIN1 の発現抑制とNPA処理は、SIM培養によるサイトカイニン応答領域の形成を乱し、NPA処理はSIM培養時のWUS の発現やAtIPT5 発現領域の局在化を抑制した。したがって、サイトカイニン応答領域の形成やサイトカイニン生合成は、オーキシンの極性輸送、おそらく正しいオーキシン応答領域の形成に依存していると考えられる。SIM移植4日目の幹細胞の誘導が始まったカルスの内生オーキシン量は移植前の未分化カルスよりも高く、このオーキシン量の増加はオーキシン生合成遺伝子の発現量増加と関連していると考えられる。SIMでの培養の間にオーキシン応答因子のAUXIN RESPONSE FACTOR3ARF3 )の発現量が上昇しており、その発現パターンはオーキシン応答領域と類似していた。ARF3 の変異体であるarf3/ett のカルスは再分化効率が低く、AtIPT との二重変異体ett atipt5 の再分化効率はett 単独変異体よりも僅かに低くなっていた。ARF3は転写抑制因子として機能しているが、ARF3以外の転写抑制因子として機能するARFはシュートの再分化に影響を及ぼしていなかった。したがって、ARF3は新規シュート再分化時のオーキシン応答における重要な因子であると考えられる。arf3 変異体カルスでは、SIM移植後のAtIPT5 発現部位の前分裂組織局在が見られず、カルス表面で一様に発現していた。よって、ARF3は高オーキシン応答領域でのAtIPT5 の発現を抑制していると考えられる。AtIPT5 遺伝子プロモーター領域のオーキシン応答エレメント(AuxRE)に変異を導入したプローモーターにレポーターとしてGUS 遺伝子を接続したコンストラクトを導入したカルスは、GUS活性がカルス表面で一様に見られるが、SIM移植後のGUS活性部位の局在化は起こらなかった。また、ARF3はAtIPT5 プロモーター領域に直接結合することが確認された。以上の結果から、ARF3によるAtIPT 遺伝子の発現抑制によってサイトカイニン生合成部位が限定されることがシュート再分化を誘導しており、ARF3はオーキシンとサイトカイニンのクロストークにおいて重要な役割を演じていると考えられる。

コメント

論文)転写メディエーターによる根毛形成の制御

2013-02-04 15:52:59 | 読んだ論文備忘録

PFT1, a transcriptional Mediator complex subunit, controls root hair differentiation through reactive oxygen species (ROS) distribution in Arabidopsis
Sundaravelpandian et al.  New Phytologist (2013) 197:151-161.
doi: 10.1111/nph.12000

転写メディエーターはRNAポリメラーゼIIと転写因子とを架橋して転写開始を誘導し、様々な成長過程を調節している。台湾 中央研究院 植物及微生物學研究所Schmidt らは、シロイヌナズナのメディエーターサブユニット遺伝子のT-DNA挿入系統における根毛の形態を観察し、2つのメディエーターサブユニット、MED8とMED25のT-DNA挿入変異体において根毛の数と長さが減少することを見出した。MED25は以前にPHYTOCHROME AND FLOWERING TIME1(PFT1)として報告されており、ジャスモン酸を介した防御応答遺伝子の発現に関与していることが知られている。mad8 pft1 二重変異体は根毛形成の抑制に対して相加的に作用し、両変異は独立して機能していることが示唆される。pft1 変異体と野生型植物の間では発現量の異なる遺伝子が304個存在し、大部分の遺伝子(261)はpft1 変異体で転写産物量が減少していた。これらの遺伝子の中には酸化還元に関与するものが含まれており、pft1 変異体では13のクラスIIIパーオキシダーゼ遺伝子の発現量が減少していた。また、4つのクラスIIIパーオキシダーゼ遺伝子と3つのNADPHオキシダーゼ遺伝子の転写産物量が野生型よりも高くなっていた。これらのPFT1によって制御を受けるクラスIIIパーオキシダーゼ遺伝子とNADPHオキシダーゼ遺伝子は主に根毛領域で発現していることから、PFT1は活性酸素種シグナルを制御して根毛形成に関与していることが示唆される。pft1 変異体の根では過酸化水素量が減少しスーパーオキシド量が増加していた。よって、PFT1は根における活性酸素種のバランス維持に関与していると考えられる。pft1 変異体の根を過酸化水素もしくはパーオキシダーゼ阻害剤のKCN処理をすると根毛形成が回復したことから、過酸化水素の量もしくは分布が根毛形成にとって重要であることが示唆される。また、NADPHオキシダーゼ阻害剤のジフェニレンヨードニウム(DPI)処理をしてスーパーオキシド量を減少させると根毛形成が回復した。以上の結果から、PFT1は根における活性酸素種の分布を制御することで根毛の分化を調節していると考えられる。

コメント

論文)断続的な低温ストレスによる花成遅延

2013-01-31 20:06:58 | 読んだ論文備忘録

The E3 Ubiquitin Ligase HOS1 Regulates Arabidopsis Flowering by Mediating CONSTANS Degradation Under Cold Stress
Jung et al.  JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY (2012) 287:43277-43287.
DOI:10.1074/jbc.M112.394338

シロイヌナズナに断続的な低温処理(1日に数時間の4℃処理)をすると花成遅延を起こす。花成抑制因子FLOWERING LOCUS CFLC )の欠損変異体の花成は断続的低温処理による影響を受けないことから、この過程にFLC が関与していると考えられるが、断続的低温処理によるFLC の発現誘導は遅いことから、低温処理にすぐに応答するFLC 以外の因子が存在すると推測される。韓国 ソウル大学校Park らは、断続的低温処理による花成遅延の分子レベルでの解析を行なった。シロイヌナズナを16時間の長日条件で育成し、明期の後半6時間に4℃の低温処理をすると花成遅延が起こる。この時、花成を促進するCONSTANSCO )やSUPPRESSOR OF EXPRESSION OF CO 1SOC1 )の発現は誘導されるが、FLOWERING LOCUS TFT )の発現は抑制されていた。また、FT mRNAの日変化も見られなくなっていた。よって、断続的低温所処理による花成遅延はFT の発現抑制によるものであることが示唆される。断続的低温処理によるFT の発現抑制は日長花成誘導の変異体gi-2co-101 では見られないことから、この過程には日長感応花成誘導経路が関与していると考えられる。断続的低温処理は花成抑制因子のTARGET OF EAT1TOE1 )の発現を誘導するが、toe1-2 機能喪失変異体においてもFT の発現は抑制されているので、FTTOE1 とは独立して低温処理による花成制御に関与していると考えられる。CO を35Sプロモーターによって恒常的に過剰発現させた形質転換体を低温処理するとCOタンパク質量が急激に減少し、低温から常温に戻すことによってCOタンパク質量は増加した。一方、これらの処理によるCO mRNA量の変化は見られなかった。よって、低温ストレスはCOタンパク質量の減少を引き起こしていることが示唆される。低温条件でのCO 転写産物量は、COタンパク質量の減少を相補するフィードバック制御によって増加していると考えられる。低温ストレスによるCOタンパク質量の変化は、プロテアソーム阻害剤のMG132を処理することによって打ち消されることから、COタンパク質は低温ストレスによってユビキチン/プロテアソーム系によって分解されることが示唆される。実際に、低温ストレスによってポリユビキチン化されるCOタンパク質量は増加しており、低温ストレス時にMG132を添加することでCOタンパク質量が増加するとFT の発現量も増加した。よって、低温ストレス下でのユビキチン/プロテアソーム系を解したCOの分解がFT の発現抑制をもたらしていることが示唆される。断続的低温処理をした際に、FLC の発現に変化は見られないことから、低温ストレスによるFT の発現抑制はFLCとは独立したものであると考えられる。FT を過剰発現させた個体では断続的低温処理による花成遅延が起こらないことから、低温処理によるCOタンパク質量の変化が花成遅延をもたらしていると考えられる。暗黒期のCOタンパク質の分解には、E3ユビキチンリガーゼのCONSTITUTIVE PHOTOMORPHOGENIC 1(COP1)が関与していることが知られている。明所で低温処理をした際のCOタンパク質の減少は、常温で暗黒処理をした場合よりも緩やかであることから、COタンパク質量の変化に対する暗黒処理の効果は低温処理よりも勝っていることが示唆される。常温において、COタンパク質は夜明けと共に増加し、夕方にピークとなるが、低温では、夜明けに増加した後に基底レベルにまで減少した。低温ストレスによるCOタンパク質量の変化は、光の波長を変えても起こり、光受容体の変異体でも見られることから、低温によって誘導されるCOタンパク質の分解は光条件には依存していないとことが示唆される。cop1 変異体においても低温処理によるCOタンパク質の分解やFT の発現抑制が見られることから、この過程にはCOP1は関与していないと考えられる。RINGフィンガーE3ユビキチンリガーゼのHIGH EXPRESSION OF OSMOTICALLY RESPONSIVE GENE 1(HOS1)は、日中のCOタンパク質の分解に関与しており、hos1 変異体は花成促進されることが知られている。また、HOS1は低温ストレス応答に関与していることが報告されている。常温において、hos1-3 変異体のCOタンパク質量は野生型の2倍程度になっており、低温ストレスによるCOタンパク質のユビキチン化や分解が抑制されていた。よって、低温ストレスによるCOのユビキチン化にHOS1が関与していることが示唆される。HOS1はPHYTOCHROME B(PHYB)を介した光シグナルに応答してCOタンパク質の分解を誘導することが知られている。hos1 変異体では低温ストレスによるCOタンパク質の分解が抑制されているが、phyB 変異体での抑制効果は僅かであることから、低温処理によるCOタンパク質量の変化にPHYBは関与していないと考えられる。以上の結果から、断続的低温処理に応答してHOS1がCOタンパク質を分解し、花成遅延が起こると考えられる。

コメント

論文)bHLHタンパク質による細胞伸長の制御

2013-01-29 20:04:46 | 読んだ論文備忘録

A Triantagonistic Basic Helix-Loop-Helix System Regulates Cell Elongation in Arabidopsis
Ikeda et al.  The Plant Cell (2012) 24:4483-4497.
doi:10.1105/tpc.112.105023

植物の細胞伸長はさまざまな因子によって制御されている。PREサブファミリーに属するbHLHタンパク質のPACLOBUTRAZOL RESISTANCE1(PRE1)は、ジベレリンによって発現誘導され、細胞伸長に対して促進的に作用する。また、bHLHタンパク質のILI1 binding bHLH1(IBH1)は細胞伸長に対して抑制的に作用し、IBH1 を異所的に発現させたシロイヌナズナはわい化する。ブラシノステロイド(BR)シグナル伝達に関与しているBRASINAZOLE-RESISTANT1(BZR1)はPRE1 の発現を活性化し、IBH1 の発現を抑制する。IBH1 過剰発現個体でPRE1 を過剰発現させると、わい化する表現型が抑制されることから、PRE1はジベレリンおよびBRシグナルに応答してIBH1による細胞伸長抑制を阻害していることになるが、その詳細な分子機構は明らかではない。独立行政法人 産業技術総合研究所の高木らは、CRES-T 法を用いて細胞伸長制御機構の解析を行なった。SRDXリプレッションドメインを付加したIBH1IBH1-SRDX )を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナ(Pro35s:IBH1-SRDX )は、わい化し、葉が丸みを帯び、葉色が濃くなり、葉柄、長角果、根が短くなり、側根が減少した。この表現型はBR非感受性変異体であるbri1 と類似しており、暗所育成芽生えの胚軸伸長も抑制されていた。この形質転換体のわい化は細胞伸長が抑制されているために起こっていた。形質転換体芽生えをブラシノライド(BL)処理をしても胚軸伸長が起こらないことから、この個体はBR非感受性となっていることが示唆される。この形質転換体ではXTH 遺伝子やEXP 遺伝子のBL処理による発現量の増加が起こらず、IBH1はBRによる遺伝子発現も制御していることが示唆される。IBH1 を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナ(Pro35s:IBH1 )は、Pro35s:IBH1-SRDX 個体と同じ表現型を示すことから、IBH1は転写抑制因子として機能していると考えられる。IBH1 のRNAiをIBH1 プロモーター制御下で発現させた個体(ProIBH1:IBH1RNAi )は、Pro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体とは逆の表現型を示し、野生型よりも大型化し、胚軸や葉が長くなり、EXP8 遺伝子の発現量が増加していた。よって、IBH1は転写抑制因子として機能してBRシグナル伝達と器官伸長を負に制御していると考えられる。IBH1タンパク質のアミノ酸配列にはリプレッションドメインに分類されるようなモチーフが見られない。したがって、IBH1は受動的な抑制因子として機能していると考えられる。一般的に、受動的抑制因子は直接的な抑制活性を有しておらず、他の転写因子とシスエレメントへの結合を競合して機能している。しかしながら、IBH1タンパク質はDNAに直接的にも間接的に結合しないことがわかった。また、IBH1タンパク質のbHLH領域は典型的なbHLHタンパク質とは異なっており、bHLHタンパク質がDNAのE-box(CAGCTG)やG-box(CACGTG)に結合するために必要なアミノ酸残基が欠けていた。このようなDNA非結合型のbHLHタンパク質は、他のbHLH型転写因子とヘテロ二量体を形成することが知られている。そこで、酵母two-hybrid 法によってIBH1タンパク質と相互作用をする転写因子の探索を行なったところ、22の陽性クローンが得られ、このうち16はbHLH型転写因子をコードしていた。この中には、bHLH049、bHLH074、bHLH077といった転写因子や、PREサブファミリーのPRE1、PRE3、PRE4、PRE5が含まれていた。系統樹解析によると、bHLH049、bHLH074、bHLH77は同じサブファミリーに属しており、このサブファミリーに属する12のbHLHタンパク質についてIBH1との相互作用を見たところ、CRYPTOCHROME INTERACTING BASIC-HELIX-LOOP-HELIX1(CIB1)とCIB5もIBH1と相互作用をすることがわかった。さらにBiFCアッセイによって、bHLH049、bHLH074、bHLH077、CIB5はIBH1と核でヘテロ二量体を形成することがわかった。そこで、bHLH049、bHLH074、bHLH077をそれぞれACTIVATOR FOR CELL ELONGATION1(ACE1)、ACE2、ACE3と命名した。ACEとCIB5にSRDXリプレッションドメインを付加して恒常的に発現させたところ、ACE1-SRDXACE2-SRDXCIB5-SRDX を発現させた個体はPro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体と類似した表現型を示し、ACE3-SRDX を発現させた個体は野生型と類似した表現型を示した。ACE およびCIB5 を恒常的発現させた個体は胚軸が僅かに長くなり、ACE1ACE2CIB5 を発現させた個体の子葉は細長く、葉色が淡くなって、Pro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体とは逆の表現型を示した。ACE1CIB5 を発現させた個体の花弁とがく片は野生型よりも大きくなり、IBH1 を発現させた個体の花は野生型よりも小さくなった。ACE1CIB5 を発現させた個体での花弁の拡大は、細胞伸長が増加したことによるものであった。したがって、ACE1、ACE2、CIB5は転写活性化因子として機能し、細胞伸長を正に制御していることが示唆される。ACE1タンパク質がCIB1結合エレメント(CIBE)に結合することを指標として、IBH1がACE1の活性に対してどのように影響しているのかを見たところ、IBH1はACE1の転写活性化活性を阻害するが、CIBEへの結合に対してACE1と競合はしていなことがわかった。また、ゲルシフトアッセイからもIBH1は添加する濃度に応じてACE1-CIBE複合体形成を抑制し、IBH1自身はCIBEに結合しないことが確かめられた。これらの結果から、IBH1はACE1とヘテロ二量体を形成することでACE1のCIBEへの結合を阻害していると考えられる。PRE1は細胞伸長の正の調節因子として機能し、IBH1と相互作用をすることが知られている。IBH1がACE1の転写活性化活性を抑制する際に、同時にPRE1が存在するとACE1の活性が回復した。よって、PRE1はIBH1のACE1に対する負の効果を相殺していると考えられる。ゲルシフトアッセイの結果から、PRE1およびPRE1-IBH1複合体はCIBEに結合しないこと、PRE1はACE1-CIBE複合体と相互作用をしないことがわかった。また、PRE1とACE1は相互作用をしないことが確認された。これらの結果から、PRE1はIBH1のACE1に対する負の効果を阻害することでACE1の活性を促進していると考えられる。ACE1はEXP8 遺伝子プロモーター領域のG-box様エレメントに結合し、EXP8 の発現を直接活性化するが、この活性化はIBH1によって抑制させれ、IBH1による抑制活性はPRE1によって阻害された。したがって、EXP8 の発現は3種類のbHLHタンパク質、典型的なbHLH型転写活性化因子であるACE1と2種類のDNA非結合bHLH型阻害因子のIBH1とPRE1によって制御されていると考えられる。BRはIBH1 の発現を抑制しているが、ACE1CIB5ACE2 の発現はBR処理によって変化することはなかった。したがって、BRはBZR1を介したIBH1 の発現抑制によって細胞伸長を誘導していると考えられる。野生型植物でのIBH1 の発現は、茎の基部、完全に展開した古い葉や長角果といった成長の止まった器官で高くなっていた。PRE1 の発現は、IBH1 とは逆に、伸長過程にある器官において高くなっていた。ACECIB5 の発現パターンには、成長過程やIBH1 の発現量との相関は見られなかった。以上の結果から、細胞伸長はbHLHタンパク質による三敵対的な機構によって制御されていると考えられる。bHLH型転写活性化因子のACEやCIB5は細胞伸長に関与する遺伝子の発現を直接活性化することで細胞伸長を促進している。IBH1はACEとヘテロ二量体を形成してACEのG-box結合を抑制することで細胞伸長を負に制御している。PRE1はIBH1とヘテロ二量体を形成してIBH1によるACE活性の阻害を抑制し、細胞伸長を正に制御している。ジベレリンやブラシノライドのシグナルによる細胞伸長もこれらのbHLHタンパク質を介してなされていると思われる。

産業技術総合研究所のプレスリリース

コメント