非国民通信

ノーモア・コイズミ

5年後の現実

2016-02-10 23:19:57 | 社会

避難者の糖尿病「1.6倍」 原発事故後の南相馬、相馬(福島民友)

 南相馬と相馬両市民を対象に、東京電力福島第1原発事故前後で慢性疾患の割合を比較し、糖尿病と高脂血症の発症が事故前より高くなったとの研究を日英の研究者がまとめた。避難した人の糖尿病の発症割合は事故前の約1.6倍となった。研究チームは「人間関係や仕事など生活環境の変化が影響している可能性がある」と分析している。

(中略)

 糖尿病は避難者で13年以降、約1.6倍に増え、避難していない人も約1.3倍に増えた。高脂血症は避難者で事故翌年の12年以降に上昇、14年は事故前の1.2倍になった。避難しなかった人も13年以降に増加した。一方、高血圧は事故前後で大きな変化はなかった。

 

 たとえば飛行機に乗らなければ飛行機事故に遭う確率は下がりますが、代わりに自動車で移動すれば、ずっと高い確率で自動車事故に見舞われるわけです。リスクを考えるときは最低限、「何かをした場合」の特定のリスクだけではなく「何かをしなかった場合」の別のリスクも併せて見ていく必要があります。この原発事故に伴う避難も然り、代表的な生活習慣病である糖尿病や高脂血症の発症割合を調べた結果が伝えられていますが、果たしてリスクを最小化できるのは「避難する/させる」ことだったのでしょうか、それとも「避難しない」ことの方だったのでしょうか。

 そもそも半強制的な移住のリスクは、チェルノブイリの事故からも既に明らかなことでした。闇雲な避難は(元)居住者の生活を破壊し、ひいては多大な健康被害にも繋がる、それは最近になって判明したことではなく、5年前の時点で結論の明らかになっていた事実でもあります。しかし、当時の愚かな政府はあまりにも広すぎる地域の住民に避難を強い、国民に健康被害をもたらしたわけです。これは、予想外のことではありません。チェルノブイリ事故など過去の失敗から学んでいれば、容易に避けられたことのはずです。

 日本中が集団ヒステリーの渦に巻き込まれた2011年の段階でも、不要不急の避難はデメリットの方が大きいと警鐘を鳴らした人は――多数派ではないにせよ――いました。しかし、そうした理性の声を我々の社会は罵倒を持って迎え、あろう事か政権与党は率先してヒステリーを煽り立てる醜悪なポピュリズムに終始していたと言えます。問答無用の避難指示を出した人々、避難すべきと遠くから連呼していた人々、避難しなければ危ないとの印象操作に励んでいた人々は、この5年後の結果に対して責任があるのではないでしょうか。

 まぁ、会社なんかでも「話題になっているリスク」に全力投球するばかりで俯瞰的視点を持つことは忌避されますよね。何か小さな物事が問題視されていて、その小さな穴をふさぐために莫大な労力が費やされ、他のところに大きな穴ができたりする、どこの会社でもよくあることです。「そんな小さなことに固執するはバランス感覚を欠いているのではないですか?」と意見して、上長を激怒させたことは今の職場でも前の職場でもありました。我々の社会で重んじられるのは、何よりも「話題のリスク」なのかも知れません。2011年の日本は「被曝のリスク」を最小化することが全てだったと言えます。住民の生活を破壊して健康被害を出すことに繋がろうとも、とにかく被曝さえ避けられれば我々の社会は満足だったのでしょう。

 結局のところ原発事故で最も心配すべきは、放射線ではなくヒステリーの方なのだと言わざるを得ません。本当に避けなければならなかったのは、あるかないかもはっきりしないごく微量の被曝による健康被害ではなく、チェルノブイリ他の教訓から明らかな生活破壊のリスクの方だったはずです。避難した人の方が避難「しなかった」人よりも大きく健康を損ねている――この十分に予測できたはずの現実を我々の社会は直視する必要があります。健康被害を及ぼしたのは愚かな当時の政府であり、恐怖を煽ったメディアであり、それに迎合した世論でもある、電力会社を咎め立てする前に自らを省みるべき人は多いはずです。

・・・・・

 ついでに言えば、今からでも可能なことはあるように思います。たとえば除染作業の費用を削って、その分を福祉なり雇用創出なりに回せば、もう少し状況は改善できるのではないでしょうか。放射線量を限りなく0に近づけようとする不毛な努力よりも、住民の生活ひいては健康を向上させるために有効なことは、もっと他にあるのですから。

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