非国民通信

ノーモア・コイズミ

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2014-07-20 10:50:14 | 社会

裁判官「あなたの職業は?」
「詩を書いています。誌の翻訳もしています。僕の考えでは……」
裁判官「あなたの考えなど聞いていません。ちゃんと立ちなさい! 壁にもたれないで! まっすぐ前を見て、きちんと答えなさい! 定職はもっていますか?」
「それが定職だと思いますが」
裁判官「正確に答えなさい!」
「僕は詩を書いてきました。その詩が出版されると考えていました。僕の考えでは……」
裁判官「あなたがどう考えようと、そんなことに我々は関心ありません。あなたの専門は?」
「詩人です。翻訳家の詩人です」
裁判官「誰があなたを詩人だと言ったのです? 誰があなたを詩人だと認定したのです?」
「誰も。では、誰が僕を人間だと認めたのですか?」
裁判官「で、あなたは専門の勉強をしたのですか?」
「何の?」
裁判官「詩人になるためのです。あなたはそのための教育を受けようとしましたか……」
「教育によって詩人になれるなんて考えてもみませんでした……」
裁判官「では、どうすればなれます?」

 これはソ連の裁判所における一幕で、被告人はヨシフ・ブロツキー、就職も就学もしていなければ職業訓練を受講中でもない――日本風に言えばニート――との嫌疑で捕まった時のことです。ブロツキーは自らの職業を詩人であると答えましたが、ソヴェトの司法はそれを認めませんでした。詩を生産する会社に就職しているわけでもなければ詩人になるための専門学校に通っているわけでもない、それでは詩人とは認められない、と。かくして自称・詩人のブロツキーは服役を余儀なくされました。

 

女性器3Dデータ配布容疑 自称芸術家の女「ろくでなし子」を逮捕(Sponichi Annex)

 警視庁保安課は14日までに、自身の女性器の3Dデータを配布したとして、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで、「ろくでなし子」の名前で活動する自称芸術家五十嵐恵容疑者(42)=東京都世田谷区=を逮捕した。同課によると、3Dデータをわいせつ物と認定して立件するのは全国初。

 データは数字や文字の羅列だが、保安課は3Dプリンターに入力すると石こうなどで形状を再現できるとして、わいせつ物に当たると判断した。

 逮捕容疑は3月、インターネットを通じて自身の陰部の3Dデータを香川県の男性会社員(30)に配った疑い。保安課によると、「そのものの画像ではなく、警察がわいせつと認めたことに納得がいかない。私にとって手足と一緒と思っている。データがわいせつとは思わない」と否認している。

 

 ……で、先週はこんなことがありました。時に「自称芸術家」という肩書きで報道される人がいるわけです。今回の「ろくでなし子」氏に関しては「自称」を付けずに「芸術家」として報道しているメディアの方が多いようではありますが、しかし人は何によって「芸術家」と認められるのでしょうね。冒頭のブロツキーは「天賦の才能」と語ったようですけれど、それは公的には認められませんでした。日本ではどうなのでしょうか、日本でも人を芸術家と認めるためのハードルが高い人は少なくないようです。

 男性器を模した像は、しばしば信仰の対象として日本でも飾られていたりもするところです。男性器に比べると女性器のタブー視は強くて、その辺は疑義の一つもあって良さそうに思わないでもありませんし、この「ろくでなし子」氏の活動の中にはそうした意味合いもあるようです。ところが警察にしてみれば女性器の3Dデータは「わいせつ物」であり即座に逮捕の対象になるとのこと。独立した女性器の3Dデータで興奮できるのはかなりの上級者ではないかという気がしますけれど、警察にはその手の人が多いのでしょう。

 真面目に考えれば、結局は警察へのみかじめ料が足りなかった、3Dデータに関しても○○倫理協会の類でポストを用意して警察には甘い汁の一つも吸わせてやらないとダメだったのだろうと推測されます。警察から身を守るための対策は、ちゃんと考えないといけませんね。なお「ろくでなし子」氏は「データがわいせつとは思わない」とコメントしているようです。世の中には、常人の想像を超えたものに性的な興奮を覚える人がいるもの、何が猥褻であるかは極めて個人差が大きいわけですが、一般論として「逮捕されるほどのことではあるまい」と感じる人が多いのではないでしょうか。

 そもそも芸術とは同時代の人間にとってしばしば不道徳なものです。往々にして芸術について理解がある風を装っている人ほど、既に権威を確立済の芸術を追認するばかりで芸術について凝り固まったイメージを持っているところですが、現代において「高尚な」扱いを受けている芸術作品の多くは、その産み出された当時の評論家からは悪し様に言われてきたケースが少なくありません。芸術とは昔から露出趣味であって裸体を隠したりはしないもの、その当時の価値観に喧嘩を売ってきた類は数知れないはずです。この「ろくでなし子」氏のように、ちょっと危ない橋を渡る人にこそ十分に「芸術家」を名乗る資格はあると思いますね。

 

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