非国民通信

未来なんてあるわけがない

それで就職できるわけじゃないし

2012-01-18 23:05:59 | 社会

大学4年間で読む本の数、日本は100冊、米国は400冊(日経ビジネスONLINE)

 前回、日本は今何よりも教育に投資しなければならないにもかかわらず、教育に対する公的支出のGDPに対する比率がOECD加盟国中で最低であることを指摘した。特に知識集約型産業を育成するためのカギとなる高等教育(大学)への支出はGDP比で0.5%。OECD加盟国平均(1.0%)の半分でしかないのは深刻な問題である。

(中略)

1.日本はOECD加盟国中で教育に対する公的投資が最低水準である。
2.特に知識集約型産業を発展させるカギとなる高等教育への公的投資はOECD平均(対GDP比1.0%)の半分(0.5%)でしかない。
3.日本の高等教育は家計負担が大きい(1.0%)。このことが社会階層を固定化する原因となっている。

 という3点が、日本の教育が抱える財政的“過少”問題である。

 この財政的過少問題に加えて、もう1点指摘しておかなければならない“わが国の教育に関する深刻な問題”がある。それは「大学生が勉強しない」ことである。

 日本の教育に関する公的予算が著しく低いことは遍く知られるところであり、日本という国家の教育軽視の姿勢が伝わってくるものです。一方でバブル経済崩壊後の景気後退に歩調を合わせる形で日本の大学進学率は急上昇に転じており、家計負担に支えられた高等教育としての色合いを強めています。まぁ、いかにも自己責任の国と言うべきでしょうか、政府は国民の教育水準を高めようとしない(ただテストの点が低かった学校の教員を吊し上げようとする首長がいるだけです)、あくまで教育は個人任せ、教育費を払える人だけが受けてくださいという形になっているわけです。

 このような日本の教育方針は、教育水準の高さを活かすよりも人件費を抑えて新興国と競い合おうとする日本の産業界との整合性は取れています。もっとも、この結果が日本の経済的衰退なのですから、継続すべきものか改めねばならないものなのかは考えるまでもないでしょう。とはいえ、経済合理性や損得よりも自らの理想や善悪を追うのが日本の経済政策というものです。教育水準の高い「生意気な」高賃金の労働者が闊歩する社会よりも、命令通りに単純作業を繰り返すだけの「従順な」低賃金労働者が傅いてくれる社会の継続を望む人が、とりわけ政財界や自称経済誌には多いように思います。

 何はともあれ日本政府の教育軽視は顕著なのですが、それに加えて「大学生が勉強しない」などと言い出す人がいるわけです。本当でしょうか? 本当であるなら、それは何故かを考えてみなければいけません。

 

 「日本の大学生が勉強しない」ことについてはPISAのような公的調査やデータが存在しない。だが、簡単な断片的調査や状況証拠のようなものはあちこちで見受けられる。

 最近ネット上のコラムなどで象徴的な事例をしばしば見かけることがある。「日本の大学生は4年間で100冊しか本を読まないが、アメリカの大学生は400冊読む。ハーバードやエールでは1000冊は読む」「日本の大学生は学外での勉強時間が1日平均で1〜2時間であるのに対して、アメリカの大学生は1日6〜8時間勉強する」という実態報告などである。

 どちらも、同じ期間に同じ調査方法によって科学的に調べたものではなく、雑誌などが行った簡易調査のようである。とはいえ、こうした実態について、私としても実感がある。またアメリカに留学したり、アメリカの大学で教えたりした経験のある者に聞いてみても、みな上記のデータは納得感があると言う。

 ひたすら伝聞と憶測に頼った調査によると、「日本の大学生は4年間で100冊しか本を読まないが、アメリカの大学生は400冊読む」そうです。俄には信じがたい話で、母集団の偏りや「ネット上のコラム」みたいな誇張と歪曲だらけの世界を真に受けすぎではないかという気がしてなりません。そもそも、「アメリカの大学生」とよろしく4年間で400冊の本を読んだ人の就職状況はどうなのでしょうか? 状況証拠や実感で構わないのなら、むしろ結果は逆です。たとえば私であれば学部に在籍した4年間で読んだ本の数は優に400を超えますが、今に至るもマトモに就職できていないわけです。類は友を呼ぶのか私の学生時代の友人も勉強家は割と多かったですけれど、軒並み就職に関しては芳しい成果を得られていません。

 同級生が一瞬しかない応募機会を逃すまいと、それこそ24時間体制で求人サイトに張り付いていたり、あるいは毎日のように説明会や面接に足を運んでいたりする中で、自分はのうのうと大学で勉強していました。ある意味で自分は「就職するための努力」を怠っていたわけで、その「就職するための努力」を怠った人間が、大学生活をなげうって就職活動に全身全霊を捧げている人に追い越されていくのは、まぁ当然の成り行きでしょう。勉強を捨ててまで就職のために頑張った人が報われないというのも、考えようによっては不憫な話ですから。しかし、就職のために勉強を諦める人が多い日本で「大学生が勉強しない」などと平然と言い出す人がいます。いったい、どういう神経をしているのでしょうか?

 まさに「超」の付く買い手市場の中、「選ぶ」主導権は採用(企業)側が完全に握り続けています。俺が企業を選んでやるのだと意気込んだところで、ちょっとマトモな企業ともなれば採用予定数の何十倍、何百倍もの応募がある中では蟷螂の斧もいいところです。そして膨大な応募の中から選び抜かれたのがリクルートスーツに身を包み、リクルートカットにリクルートスマイルで決めたコミュニケーション能力の高い学生であり、大学時代に400冊以上の本を読んできた学生ではないのであれば、学生が勉強しなくなるのも当たり前と言えます。勉強する意欲のある学生なら日本にだっているけれど、そんなことをしていては就職に乗り遅れる、それが日本の現状なのです。

 上の方でも書きましたが、日本の大学進学率が急上昇を始めたのはバブル崩壊として知られる景気低迷と歩調を合わせてのことです。高卒でも就職先に困らなかった、高卒でも給料が増えていくことが期待できた時代が終わって、より幅広い就職機会を求めて進学を選んだ人も少なくないことが容易に推測されます。就職のための進学は多かれ少なかれ他の国でも見られることと思いますが、では「就職するため」に何が要求されるのか、それが「勉強しない」とされる日本と、そうでない(とされる)国とを隔てているのではないでしょうか。就職するために進学した人にとって、進学は就職のための手段です、そして就職のために要求されるのが勉強することではなくコミュニケーション能力であるのなら、結果がどうなるかは考えるまでもありません。

 

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日本の教育 コミュニケーション能力 大学進学率 バブル崩壊 バブル経済 日本の産業 日経ビジネス
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5 コメント

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失われた学びを求めて (不備)
2012-01-19 01:24:09
 人件費の削減で、大学の教員の「まともな」研究教養の科目ほとんどが非常勤講師の担当になり、非常勤講師たちは食べるために短期間の任期しかないポストを目指して、目立つ「社会的業績」をあげることに血道を上げている。

 学生さんたちを見ていると、そんな「大学」に白けているんじゃないかな、と最近感じています。視点を転じれば、大学こそ、勉強をする場のレベルに達していないと感じているのではないか、と

 社会も大学も、そんな姿に変えてしまった政治・行政・企業の主導者たちにこそ、「もっと本を読んで勉強しろ」と言いたいですね。そして、いかに自分たちがエゴむき出しで、社会も未来もダメにしているのか、猛省して欲しいものです。絶対しないでしょうけど。
Unknown (IBA)
2012-01-19 22:45:15
 思ったこと

 読書量なんて個人差が大きいんじゃ……
 量より質というか、有害図書(?)をたくさん読んでもしょうがないし……
 就職のために読書するなんて、実につまんない人生ですね。
Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-19 22:52:29
>不備さん

 ただその辺は、勉強そのものを目的として進学してきた人に限られるように思います。日本に限らずとも、やはり将来的な就職など人生設計の一環として進学が組み込まれることはどうしても多いわけですが、そこにニンジンがぶら下がっていない、勉強することが求められない構造があって、それが大学側の体制にも影響しているのではないでしょうか。

>IBAさん

 ぱっと見、わかりやすい指標なのかも知れませんが、ただ本をたくさん読めば良いというものではありませんからね。本当に4年で1000冊も読んでいる人がいるとしたら、むしろ「質」の面で疑わしく思えるところですし。まぁ、幸か不幸か日本は就職するためには読書が「求められない」社会なんですよ。
Unknown (princessmia)
2012-01-20 11:38:13
『就職力 就活は一日二〇〇ページの読書から 始めなさい!』(齋藤孝)という書籍があります。

内容を要約すれば、学生時代にたくさん読書をして哲学や文学の造詣を深めれば就職にも有利だ、みたいな感じです。

この人大学教授のくせにまったくわかっていないなと幻滅させられました。

就職には企業との相性が重要なわけで、読書量や学業成績なんて微塵も見てくれません。

Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-20 23:01:45
>princessmiaさん

 そんなことをしたって就職には何の役にも立たないのに、しょうもないハウツー本を書いて儲けようとする人は後を絶たないものなんですよね。読書量や大学の成績なんて聞かれたことがありませんし(まだしも血液型の方が頻繁に聞かれるくらいです)、ましてや哲学や文学なんて失笑ものですが、まぁ真に受ける学生もいるのでしょうか。それで勉強するようになれば、別の面での意味はあるのかも知れませんが……

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