非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本には認めてもらえない現実

2008-07-22 22:37:45 | ニュース

芥川賞受賞「時が滲む朝」の価値を、中国には認めてもらえない現実(ダイヤモンド・オンライン)

 芥川賞受賞作の「時が滲む朝」を買いに行った。自転車で近所の本屋に出かけたが売り切れで、月末にならないと入荷しないという。それから3軒の書店を回ったがどこも売り切れ。とうとう1時間も離れた大型店まで自転車で走って、ようやく手に入れることができた。さすがは史上初の中国人作家による芥川賞だけあって、注目度が高いということだろう。

 購入後、さっそく読んでみた。中国人著者、楊逸氏が書いた日本語は、やや雑なところもあり、文章に深さを感じられない部分もあった。しかし、私個人的には天安門事件に深い想いがあり、天安門事件に参加した主人公たちの緊張感ややり切れない気持ちは、ひしひしと伝わってきて、深い感銘を受けた。

(中略)

 この受賞に何より意味があるのは、天安門事件のことが書かれた本が、中国ではなく、日本で評価されたことである。北京五輪後、これからの中国がどう変わるのか? 中国は民主化への移行を進めることができるのか? 楊逸氏の芥川賞受賞は、中国の変化を触発する大きなきっかけになるだろう。賞を与えた日本の文壇にも、そうした意図があったのかもしれない。

 ただ残念なことに、日本では「天安門事件で民主化運動に身を投じた青年が大学を追われて日本に渡る」となっているこの小説の紹介文を、中国のメディアではそうは伝えていない。「中国の農村から日本に渡った中国人男性が体験した理想と現実の落差を描いた」などと紹介されている。

 読んでから(見てから)判断すべきだ、というのが一般論ではありますが、著作を読んだからと言って的確な批評ができるかと言えばさに非ず、頓珍漢なことを言い出してしまうケースも時に見受けられます。例によって私はまだこの芥川賞受賞作を読んでいないわけですが、どちらかというと作品そのものより、それを評価する人々の反応の方が興味深くもあったりします。

 引用元のコラムの著書は、受賞作が天安門事件を主題にした小説であると確信しており、本の紹介文もそれに近いものになっているとか。一方で中国メディアでは「中国の農村から日本に渡った中国人男性が体験した理想と現実の落差を描いた」と紹介されているそうです。日本や中国の、それも体制側に属する人が「何を見たがっているか、何から目を背けたがっているか」、それが本の取り上げ方に滲み出ているようです。

 時事通信の伝えるところでは、中国紙・新京報が「20年近く前の中国社会の変動を背景に、中国青年が風波(天安門事件)前後に遭遇した運命と喪失を描いた」と紹介したそうで、一概にそうも言えないようですが、ただ今なお天安門事件はデリケートな話題、中国国内では扱いにくい題材とも聞きます。それゆえに、受賞作の中国での紹介は作品を構成する要素から「天安門」を差し引いた残りの部分に光を当てる形になるのかもしれません。その結果が「中国の農村から日本に渡った中国人男性が体験した理想と現実の落差を描いた」と。

 ただ私には思われるのですが、中国側が天安門事件の要素を素通りしたがったのと同じように、日本側メディアも同様に素通りしたがっているのではないでしょうか。日本に渡った中国出身者が体験せざるを得ない理想と現実の落差を、です。中国政府側には触れて欲しくないものがあるように、日本財界の太鼓持ちにもまた触れて欲しくないものがある、だからこそ「この作品は天安門事件が主題なのだ」と片面にのみ強い光を当てたがっているように見えます。もう一つの側面を陰に隠すために。

 アメリカとメキシコの国境にはフェンスが設けられていますが、どうせならこう書いておくべきだと思います。「その先に希望はない」と。あるいは「ブローカーの甘言に瞞されないでください、アメリカはあなたを食い物にします」とか。日本に陸続きの国境はありませんが、状況は似たようなものです。低賃金労働に依存するビジネスモデルが幅を利かせている社会では、立場の弱さにつけ込む雇用主が手ぐすね引いて待ちかまえています。移民など、格好のカモです。

 人権侵害の温床でしかない外国人研修制度やフィリピン人介護士の輸入などを挙げるまでもなく、少なからぬ領域で外国人の低賃金労働に依存する社会が出来つつあります。外国出身者の低賃金労働で成り立っているサービスなど珍しくもありません。そんな時代において「中国の農村から日本に渡った中国人男性が体験した理想と現実の落差を描いた」小説が芥川賞を受賞したことに異議を見出すことも可能ではないでしょうか。ただ残念なことに、日本のメディアはそうは伝えていないのです。

 

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2 コメント

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本筋ではなく、補足の方へのコメントで恐縮ですが。 (GX)
2008-07-23 17:43:23
 そういえば、以前、外国人1万人の受け入れの話しが出たときレイシストの皆さんは「移民ではなく侵略だ。」と言っていましたね。外国人が大勢入って来れれると日本がむちゃくちゃになるそうで。現存の社会とは違う価値観を持つ人々が入ってきただけで崩れる社会なら、調整していけばいいだけの話なのですが、外国人のために自分達の(実際は問題点が山積みの)貴重な文化が失われるとでも思っているのでしょうかね。

 それよりも、非国民さんも書かれている通り、外国人を酷な環境で利用するという事態が続いているようですし、仮に受け入れたとしても、大変な仕事に回され、人権などあってないがごとしの扱いを受けるのではないかと考えております。さらに選挙権を与えたとしても、日本人の方が圧倒的多数ですし、政府側の強行可決も平然として行われる現状ですと、移民の皆さんの声が黙殺される可能性も十分ありえます。

 と、いうわけで、レイシストの皆さんは、移民を受け入れるようなことになっても、侵略されるということはないと思いますので、安心していただいても結構です。私としてはそのうち「日本は外国人を差別し、奴隷として扱う排他的国家」として認識されないかどうか心配なんですけどね・・・。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-07-23 23:35:08
>GXさん

 レイシストの被害妄想は何とも逞しいですからね。その創造性をもっと別のことに生かせればいいのですが、まぁ日本は創造性を殺す社会ですから。

 現実論として外国人労働者はかつての黒人奴隷と同じ様な目的で「輸入」が企図されているわけで、これを侵略と感じるのは盗っ人猛々しいと言うべきですが、黒人奴隷を脅威と感じたホワイトトラッシュもいるようで、日本であれば尚のこと……

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