非国民通信

ノーモア・コイズミ

安心よりも不安を煽る国

2008-02-16 23:34:45 | 非国民通信社社説

 去る2月1日、警察庁の犯罪統計(2007年度版)が公開されました。そうこまめにチェックしているものでもないだけに人に言われて気付いたのですが、意外に早いものなのですね。この手の統計資料、公開されている最新のものが3年前だったりとか、公表されるまでが非常に遅い場合が多いですので。せっかくですから警察庁を褒めてあげましょうか、よしよし、と。

 もう一つ、警察庁を褒めてやりたいことがあります。それは2007年の殺人認知件数が1199人と戦後最低を記録したことです。依然として殺人は発生しているわけですが、戦後最低の数値まで殺人は減りました。警察庁の努力の結果だけによるものではありませんが、治安維持の担い手である警察庁の功績は褒めてやっても良いでしょう。よしよし、よく頑張ったね、と。

 ところが、警察庁は検挙です。間違えました、謙虚です。殺人件数は戦後最低という治安機関としては素晴らしい功績を達成したにもかかわらず、全くそれを誇る素振りを見せません。隠しこそしないものの、自らの業績を人に自慢する様子は微塵もないのです。いやはや、なんと慎ましい、褒めてあげましょうか?

 さて、この偉業を報道した大手メディアは存在しないようです。せっかくの偉業達成ですから周りは大々的に祝福し、賞賛してやってもよさそうなもの、ところが誰からも無視されています。テストで過去最高の得点を記録したのに親からはまるで無視されているかわいそうな子供みたいですね。でも大丈夫、政府は違います。小さな政府から極小政府へと転換を目指し様々な公共サービスを縮小している政府与党ですが、治安関係の部門には予算増です。誰からも褒められませんでしたが、お小遣いは増えたわけですね。ふむふむ。


 一方、2007年には逆に過去最大の件数を記録したものもあります。その一つは死刑判決と死刑執行で、統計のある1980年以降の最多を記録しました。殺人を初めとする凶悪犯罪は順調に減少しているので一安心ですが、一方で増えているものがあるのが不気味です。今後の懸案事項はこちらでしょう。

 実際のところ、死刑判決と死刑執行の最大は主要メディアのほぼ全てで報道されました。こちらの方が重要という位置づけなのでしょうか。より知って欲しい、知らせたいニュースは殺人の減少ではなく死刑の増加だったようです。今なお、というより今だからこそ、治安の悪化や犯罪不安が声高に叫ばれますが、なるほどその統計に反する犯罪の脅威をより印象づけることの方が望ましいと判断されたわけです。


 何でも戦前に日本の国策映画、戦意高揚を狙って制作された映画を目にしたアメリカ人はしばしば「これは反戦映画ではないのか?」と首を傾げたそうです。大方のアメリカ人からすれば、厭戦気運が高まりそうな代物だったわけですね。しかし日本人とってそれは、紛れもなく戦意を高揚させるものでもあったのです。

 これは国民が何を望むか、どの方向を向いているかにも拠ります。安楽さや快適さ、豊かさを志向するか、それとも窮乏や試練、貧困を志向するか、です。アメリカ人は戦時の苦しい生活を目の当たりにすれば、もう戦争なんてやってられるか!と、そういう気持ちになると考えたのでしょう。ところが日本人はさに非ず、苦しいからこそ、もっと頑張ろう、国のために尽くそうと、そういう形で盛り上がったわけです。

 類型的に過ぎる? そうかも知れません。しかし、今の日本はどうでしょうか? ひとえに国民といってもそれぞれバラバラではありますが、特定の政党を半永久的に与党たらしめるに十分な数の人が、前段落の思考パターンを忠実に受け継いでいると私には感じられます。ほら、日本の治安状況とその受容を考えてみてください……

 治安は改善を続け、日本は以前にも増して安全になっている、そう思うよりも、治安が悪化している、日本はもはや安全ではない、そう信じる人の方が圧倒的に多いわけです。では、その治安悪化という感覚がどう作用したでしょうか? 治安が悪化している、政府及び警察は何をやっているのだ!と、治安関係者に非難が殺到したでしょうか? そうではなく、国家への信奉は高まるばかり、国民の生活に対する政府の介入を許す法案は次々と歓迎され、公共サービスが際限なく切り捨てられる中で治安部門への予算増額も承認される、そんなありさまです。


 どうやら日本人を相手にするときは、天国ではなく地獄を見せてやった方がポイントが高いようです。どこか別の価値観を持った国であれば、殺人事件がこれだけ減ったと、その功績を誇り、その功績が賞賛され、その功績によって支持が集まるのかも知れません。ところが日本は逆です。殺人事件が減ったなど、当の治安機関は元より政府与党も翼賛メディアも口が裂けても表に出さないわけです。制度上は民主国家としてデータは公開しますが、国民も敢えてそれに目を向けようとしません。そして語るのは反対のこと、治安の悪化に犯罪不安なのです。

 まともに考えれば、危機を語るよりも成果を語った方が好印象を与え、支持を集められそうなものです。ところがこの国では危機を語ることがなによりも有効で、国民はその危機を招いた、危機を防げなかった原因を解消しようとする代わりに、危機を前にして団結することを美徳とします。そうして自分を犠牲にして「公」を守るわけです。

 その危機が現実の脅威であるならば、それに立ち向かうことも結構なことです。しかし治安悪化などの実体を伴わない脅威を前にした団結とは独り相撲に過ぎず、ただ踊っているに過ぎません。自分が苦しい思いをしながら! そして守るべき「公」もまた同様、国民の寄り集まったものが「公」であるならいざ知らず、「私」とは相容れないものとして位置づけられた「公」であるならば、それを守ろうとすることは自身を殺すことに他なりません。


 いずれにせよ、この作られた犯罪不安を背景に、政府及び治安機関は信用を失墜させるどころか、ますます以てその権限を強めています。国民の承認の元に! 殺人の減少という功績を伝えようとしない権力は、この国民のことをよくよく理解しているようです。国民の支持を固めるには、危機を印象づける方が好ましい、と。

 孤立を深めるばかりの日本外交は、単純に見ると愚かさの極みに見えます。しかし、ある立場から見れば、それは理に適っているのかも知れません。つまり国際的に孤立することで、国際社会からの非難、周辺諸国の脅威といったものをより強く国民に印象づけることが出来る、その時に国民はどう動くでしょうか? 一部の国民は政府の愚策を批判するでしょう、しかしより多くの国民は、より強固に国家を支持するようになります。そして党が所有する国家において、国家への支持とは政府与党への支持、国際的に孤立することで政府与党は自らの権力をより安定したものに出来るというわけです。

 もしかしたら、北朝鮮政府が倒れないのは北朝鮮の国民に日本人と似たメンタリティがあるからかもしれません。国際的な非難は政府のイデオロギーを正当化し、孤立は国民を団結させる、そして周辺国の脅威が政府権限の拡大と国民の献身を当然視させるわけです。AFP通信の報じるところによれば北朝鮮のミサイルだけが日本を目覚めさせることができる」と東京都知事が語ったそうですが、なるほど確かにそうでしょう。仮にそのような事態が起こったならば、そこまで事態を悪化させてしまった外交上の失策を改める代わりに、国民はより一層の権力を支配者に対して献上することでしょうから。

 

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12 コメント

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官憲と脅迫と脅威 (往楽)
2008-02-17 03:55:57
警察機構が犯罪をどう取り締まろうとも、官憲機構(政府)は賞賛だけはしないのでしょう。

彼等からすれば、犯罪発生率が低く成ろうと高く成ろうと、結局の所、犯罪発生率は零ではないと言う議論のもと警察機構の必要性を民衆に対して説くのであると、私は考えます。

結局の所、脅威と言う物は中国脅威論よろしく、空虚な論説を持ってして如何にも最もそうでそうであるかの様にも説ける上に尚且つ、中身があるようにも説明つけられるからです。

本当に打って来るのかさえ解らない核ミサイル相手に盆踊りを繰り返す、空虚な脅迫にせまられているかの様に感じえる昨今では、こうした警官がいる方が無駄に安心感を得ることが出来るのでしょう。

愚かな光景 (Bill McCreary)
2008-02-17 09:15:05
非常に象徴的ですね。殺人事件は減っても死刑判決は増える。そしてマスコミは前者を報道したがらない。これはきわめて非常識です。

警察庁の幹部は、殺人事件が減ったことを喜ばず、検察や裁判所は死刑判決が増えることを誇りに思い(でしょう、おそらく)、首都の知事は、北朝鮮のミサイルに期待をもつ。

ある種の権力者のメンタリティはそのようなものですが、それにしても日本の行政、マスコミ、有権者その他の無知と馬鹿さ加減にはうんざりさせられます。

それはそうと、東京都って、オリンピックの招致を目指しているわけでしょう。そのトップがこんなこと語って、こいつ精神状態大丈夫なのかな。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-17 23:21:15
>往楽さん

 自分の功績として誇ってもよさそうなものを、敢えてそれを伏せて脅威を煽るわけですよね、しかもそれが、不思議と説得力を持って受け容れられてしまっています。踊らされているだけだと、いつになったら気付くのやら……

>Bill McCrearyさん

 何か良いことを見せるよりも、偽りの恐怖で脅しつける方を権力者が好む上、それが有効でもあると言うことなのでしょう。そのような権力に対する拒否の姿勢がもっと出てくるべきなのですが、これがなかなか…… 石原発言も、その支持者にとっては何でもない発言なのでしょうかね、国際的な評価は確実に低下すると思いますが、本人は自信満々、世界が見えていないようです。
Unknown (Unknown)
2008-02-18 00:34:17
電波芸としてはオモシロイです。でも一緒にノレルほどではありません。

解釈が飛躍しすぎで、ドン引きです。



このような解釈なら、近年のマスコミの劣化は視聴者である国民が自身を相対的により知的であると思い込ませる知的中流化策であると言うべきなんじゃない?
心配無用 (kama)
2008-02-18 12:46:59
死刑大好き論者さんが
「死刑執行と判決増加のお陰で殺人事件が減少したんだ~」
とプロバガンダに使ってくれますから・・・
Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-18 22:55:48
>Unknownさん

 せめて意味の通じるように書いたらいかがでしょうか?

>kamaさん

 関連性のないものを、さも関連性があるかのように語るのは死刑愛好家のお家芸ですからね。治安悪化を語っていたことなど平気で棚に上げて、新たな口実を作り上げることくらい、当たり前のようにやってくるでしょうか。
物事を複雑怪奇に観るか (goen)
2008-02-19 08:53:06
 どう表現するか、どう訴えるか...言論報道の在り方の姿勢を感じます。表現の最終目的は自己表現で賛同者を確保する手段か、報道には二面性があります。状況に対する客観的な報道は、その事実をどの様に伝えるかを究極まで突き詰めた姿だと思います。従ってそこには主張が織り込まれます、手段としてとの方法で納得させるか、或いは賛同させるかは事実と無縁な事柄が使われる場合が多いです。民衆は(一般者)その事実の裏に何が織り込まれたかを探る見識が必要だとの指摘ですね。その意見には賛成です、但し、余り面倒な考察は其れを受け入れる為の時間が足りない..其れが一般民衆です。出来ればシンプルに生きる事が出来ればと願います。
同感です (una)
2008-02-19 10:09:11
正に、物事の検証が苦手な国民を
操る方法ですよね。

政府発表や御用学者の言葉を鵜呑みにします。
「本当?」と疑わない素直な日本人がいます。

(ドン引き・された方は、HNさえ見せず、
持論を述べられても、ナンダカナ~@@
典型的な日本人ですね。)

非国民さんが考えた”メンタリティー”の問題は、
確かに、北朝鮮も似たり寄ったりなのでしょう。
でも、北朝鮮の場合は、
言論統制など日本の戦前のような状態なので
同情の余地があります。

ところが今の日本では、
得ようとすれば得られる
より正しいと思われる情報を
得ようとしない国民は、
より始末が悪いですね。
とは言いながら (kama)
2008-02-19 14:55:46
「事件」にしたくない(もしくはどこかからの圧力で)
警察が「事件」にしていない「自殺」「事故死」が結構あるような気もしますが
ま、何が本当か解らない困った世の中ということで^^;

Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-19 23:37:41
>goenさん

 まぁ、シンプルに己の欲望に忠実に行動するようになれば、今の自民党政権は支持を失うのでしょうけれど、途中で価値観の倒錯がある、それが現政権の支持に繋がるわけです。戦時下の国策映画を見て、反戦映画ではないかと感じたアメリカ人はシンプル、一方で戦意高揚を感じた日本人はその当時の捻れから抜け出せていないのではないかと。

>unaさん

 強要された結果としての政府支持なら情状酌量の余地はありますが、日本の場合は制度上の自由が保障された中で、自ら選んだ結果がこれですからね。政府が情報統制して国民に必要なことを知らせないのではなく、それなりに情報が公開されているわけですから、「知らない」は言い訳にならないと思うのですけれど……

>kamaさん

 企業による殺人である労災など、認定は至難の業ですものね。そう言えば相撲部屋の傷害致死事件も当初は遺体ごと闇に葬られるところだったわけで、その辺の曖昧さはあるかも知れません。
Unknown (カックエイ)
2008-02-20 22:41:51
昔のプロパガンダ映画は
売ってたり借りたりできるので
何本か見たことがありますが
あれは反戦映画にみえますよね。
当時の人はこれを見てどう思いながら
みたのだろうと考えたりしました。

以前、自殺の報道が多かった時
その年前半の自殺数は減少傾向で
報道の印象と現実は逆でした。
Unknown (非国民通信管理人)
2008-02-20 23:57:39
>カックエイさん

 私も大学時代に戦時の映画を見る機会がありましたが、これが戦意高揚に繋がるとは、当時の国民の意識はどんなものかと不思議に思ったものです。しかし現在も尚、政府与党や御用メディアが偽ってまで物事を悪い方に伝えようとする、それが一定の支持を集めているところに危うさを感じないではいられません。

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