非国民通信

ノーモア・コイズミ

風力発電所の危険性も問われるべきだと思う

2012-05-22 23:03:35 | 社会

自然保護団体、風力発電所建設に反対 会津若松(読売新聞)

 会津若松市で計画されている風力発電所に対し、自然保護団体から反対の声が上がっている。鳥が風車の羽根に衝突する「バードストライク」や渡り鳥の飛行経路が遮断されるなど、鳥類の生息環境に影響を与えると懸念されるためだ。原発事故の教訓から、県では再生可能エネルギーへの転換を目指すが、事業者に配慮を求めている。

(中略)

 県は原発事故を受け、今年3月に見直した「県再生可能エネルギー推進ビジョン」で、2040年頃に県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量を再生可能エネルギーで生み出すことを目指す、としている。
 
 しかし、日本野鳥の会など3団体は16日に、背あぶり山には猛きん類で、環境省のレッドリストで絶滅危惧種のクマタカも確認され、希少な猛きん類が生息しているとし、県と同社に対し、環境影響評価の再度実施を求める要請書を提出した。
 
 同社の親会社のコスモ石油広報室は「再生可能エネルギーの推進を目指す福島県の施策に貢献したいと考えており、地元の理解を得たら事業化したい」と話している。

 

 再生可能エネルギーと言えば聞こえはいいですけれど、風がなくても発電できる技術とか暴風雨の中でも平常運転できる技術とか、あるいは常に需要に応じた風を吹かせる技術でも開発されない限り、風車で発電できるかどうかは運任せなわけです。特別に気候条件に恵まれているとか(一年中同じような風が吹く等)、広域で電力を融通できる仕組みができているとか(欧州全域など)、環境次第では一定の貢献が見込めても気候の変動が激しく国内ですら東と西に分断され電力は地産地消にならざるを得ない日本では、率直に言って風力発電は「向かない」ように思います。降雨量が多く高低差の多い日本に向いているのは水力発電くらいですね。もっとダム開発を進めましょう。スローガンは「DamNation Japan」とか。

 ともあれ、風任せの風力発電では風が吹かないときに備えて火力や原子力などの安定した発電設備を残すことが必須となるわけです。これが国境を越えた送電の容易なヨーロッパであれば隣国に残しておいてもらうという選択肢もありますが、日本ではそうも行きません。巨大風車の建設を進めれば「環境に配慮してますよ」というアピールには繋がるのでしょうけれど、既存の発電手段からの「転換」に繋がるとは考えにくいです。まぁ、風車を売り込むメーカーの口車に乗せられて、自治体側はすっかりその気になっているのかも知れません。営業の描いた青写真の通りに発電ができると、夢を膨らませているのでしょう。そして建設完了後、当初の見込みには全く届かない稼働率で採算は悪化するばかり、メーカーとの不毛な訴訟合戦に発展するとか――まぁ、既に他の地域でも見られることですね。家庭レベルでは悪質な業者による太陽光パネルの売り込みが問題になりがちですが、自治体レベルでは風力発電詐欺に注意して欲しいと思います。昨今の流行に乗じた、脱原発に依存する産業に金を出す前に、ちょっと頭を冷やしてみるべきでしょう。

 さて「環境に配慮してますよ」アピールには効果的なはずの風力発電であるにも関わらず、自然保護団体から反対の声が上がっていることが伝えられています。鳥が風車の羽に激突するケースが、割と頻繁にあるみたいですね。時には希少種の生息環境に影響を与えかねない可能性もあるとか。そうでなくとも、風力発電所近辺では騒音や低周波によって健康被害を訴える人も少なからずいるわけです。設置時は「影響がない」という範囲と考えられていたのでしょうけれど、いざ実際に稼働させてみたら周辺住民の中には体調を崩す人も出てきたと。原発のように初めからネガティヴなイメージの強いものであれば悪い意味でのプラセボ効果もあると推測されますが、風力発電のように「エコ」でポジティヴなイメージのあるものの場合は事情が異なります。原発への嫌悪感からストレスで体を悪くする人はいても(その原因となる原発への嫌悪感を高めようと、日々頑張っている人が少なくないのは困ったものですね)、風車でそういうことが起こりうるとは考えにくい、にも関わらず健康被害の訴えが続出しているのは「気のせい」では済まされない影響を巨大風車が日常的に発しているからではないでしょうか。

 総じて「自然」とか「天然」、「エコ」の類に我々の社会は無警戒に過ぎるように思います。例えば、小麦アレルギーを発症させ意識不明に陥る人まで出るほどの重篤な健康被害を撒き散らした「茶のしずく石鹸」を思い出してください。あれもまた「無農薬栽培」「天然成分」「自然のまま」等とお決まりの美辞麗句で宣伝されていますけれど、実際は大変に危険な代物だったわけです。遺伝子組み換え作物や食品添加物のように健康への影響を厳しく検査されて安全が確認されているものもあれば、一方で「自然」や「天然」という錦の御旗の元、安全性を問われることもなく流通しているものも少なくありません。何かにつれ「人工的なもの」は有害で「天然由来のもの」は健康的という思い込みが罷り通っていますが、天然由来でも危険なものは危険なのです。しかし、自然/天然であるが故に周りの目が甘くなってしまう、そのために危険性が見過ごされてしまうものもあるように思います。巨大風車もまた然り、原発など他の発電設備に比べて、ちょっと安全性の審査が緩すぎるのではないでしょうか。事故を起こしたわけでもない平常運転中であるにも関わらず健康被害を訴える人が出てくるような、そんな危険な代物は建てないでくれと言いたくもなります。少なくとも私は、風力発電所の近所に住むのは御免です。でも、「再生可能エネルギー推進」みたいな旗印には勝てないのでしょうね。下手をすれば風車建設に反対しただけで、環境保護団体でさえ原発推進派云々とレッテルを貼られかねない時代ですから。

 

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8 コメント

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Unknown (ここ)
2012-05-22 23:41:30
>何かにつれ「人工的なもの」は有害で「天然由来のもの」は健康的という思い込みが罷り通っていますが、天然由来でも危険なものは危険なのです。しかし、自然/天然であるが故に周りの目が甘くなってしまう、そのために危険性が見過ごされてしまうものもあるように思います。


放射能問題を勉強して(自然放射能と人工放射能で人体に与える影響が違うということはない)、私も同様に感じました。

無農薬がもてはやされますが、無農薬だろうが、腐ってしまえば身体には有害です。また、最近、有害だとして禁止される添加物は天然の添加物が多いそうです。人体にダメージを与えるのは、無機物より有機物のほうが多い、というのも聞きました。

ミネラルウォーターの危険性はあまり知られていませんが、もともと井戸水などの衛生面の問題を解決するために水道技術が発達したのです。

死に至らしめるウィルスも有機物ですよね。そのために人工の医療技術が発達しました。

「人類は自然と戦ってきた」これも人類の歴史の一面です。

「人類は核を制御できない」という文章もよく見ますが、太陽光や風力発電が”お天気まかせで不安定”というのも「制御できない」ということです。工学者からは、物理現象である核のほうが制御しやすいという見方もあるのです。

特に日本人は天然・自然=健康・安全、人工=危険という思い込みが強いそうです。

この考え方は、ともすれば、「自然は人間が健康で安全に生きるために全てのものを与えてくれる」という傲慢な勘違いを生みますが、地震や津波で、私たちは自然の脅威も経験しているはずなのですが・・・。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-23 00:08:18
>ここさん

 ミネラルウォーターも一時期は大量に買い集める人が出たりしましたが、モノによっては基準が緩くて水道水より明らかにリスクが高そうな代物もあったみたいですね。天然・自然が良くて人工的なものは危険という思い込みは強固ですが、仰るようにあの地震と津波だって自然の産物のはず、それでも考え方が何も変わらない人ってどうなんだろうと思うところです。
返信する
Unknown ()
2012-05-23 01:48:37
「自然・天然だから安全」、「人工的なものは危険」という考え方には私も普段から疑問を持っています。自然由来のものであれ、人工物であれ、それぞれ何らかの化学式で表せる物質がいくつも混ざってできているものには違いがないですし、結局はその含まれる物質の中に危険なものが含まれているかどうかでしかないわけですから。生成の手段が何であれ、同じ物質で構成されていたら同じ化学的性質しか持ち得ないですし。「自然だから安全」というのは非常によく聞く話で、あたかも科学的根拠があると思い込んでる人もいそうですが、実際は一種の信仰と呼んでいいものですよね。

現在は原発は電力不足で経済や人々の生活にダメージを与えることが予測できても即座に全廃すべき完全なる悪玉とされる一方、再生可能エネルギー関連は魔法の技術のごとく持ち上げられている風潮がありますね。数年前までは再生可能エネルギーに関して起きている問題もしばしば報道などで取り上げられていたはずですが。しかしこういった風潮は結局は発電の構成比を変えていくことを目指すという点でも悪影響のほうがはるかに大きいと思います。そもそも短期間で発電の構成比を変えることは技術的に不可能なので、それを達成するためには長期的な視野に立って計画を立て、それぞれの発電技術のメリット・デメリット(安全性・発電の安定性・コスト・立地可能地域etc.)を徹底的に洗い出したうえで、簡単に上手く行くものではないことを踏まえつつ慎重に進めていく以外にありません。しかし今のような風潮ではそのような慎重さも計画性も全く期待できず、導入した再生可能エネルギーによる発電設備でも問題が頻発し、そのたびに陰謀論と責任転嫁が幅を利かせるという事態にしかならないと思います。
返信する
Unknown (Taka)
2012-05-23 10:19:22
バードストライクや発電が不安定といった風力発電の欠点は、技術の進歩で少しずつ解決されてきていますね。科学番組や情報誌などで、最近よくそのような報告を見聞きします。
「だから未来は明るい」
その手のメディアは、大抵いつもそのように締めくくられます。
大いに結構なことで、自分も、日々努力されている技術者の皆様方を素直に頼もしく思います。
そして自分は、原発に関してもこの風力発電の例と同じように考えることができます。
でも悲しいかな、こと原発となると、この考えは極めて少数派なんですよね。自分はただ、あらゆる物事に対し、なるべく偏見を持たないよう、主観を廃すよう、常に意識しているだけなんですけど。
己に自信のありすぎる人や、自然や国籍、あるいは特定の神などの、自己を盲目的に依存できる対象を持つ人たちを、時々うらやましく思うことがあります。

楽でいいなって。
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Unknown (ice)
2012-05-23 18:30:49
クリーンエネルギーにクリーン推進の人たちが反対するのも面白いですね。バードストライクを想像すると想像すると本当に可哀想に感じます。頻繁に起きているとなると環境保護派は怒りますよね...。

風力は人里離れた場所に建つ事が多いものの、かなりうるさいし、何度も横切る「ブレードの影」の問題もあると思います。

>「自然」とか「天然」、「エコ」の類に我々の社会は無警戒に過ぎるように思います。

管理人さんと視点がちょっと異なりますが、既存の電源には散々文句ばかりつけて、宗教のように自然エネルギーが崇拝される世情には前々から狂気を感じます。

水力は自然破壊、火力は大気汚染、原発は放射能汚染...。それでも配慮はしてきたはずです。電力が半官半民だった頃は水力が主流でしたが、徐々に火力が主流になって、今はコンバインドサイクル発電というものが登場していますし、二酸化炭素を出さない大電源として原発が登場しました。これらに比べれば自然エネは環境に優しいと礼賛されがちです。

自然エネには既存の電力網との相容れ難さという「危険性」があったりします。今のまま連系量が増えていけば大規模停電の頻発が避けられず、特に夜間は発電所が減らされていて「均す電力」もなく、中央給電指令所から停止命令が出るはずで、これからますます国民と技術の軋轢が酷くなるという「危険性」もあります。

なんかいろいろ書きましたが、自然エネだからといってその危険性がほとんど謳われる事なく、一方的に礼賛される風潮は危険だと思いました。
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宿題が多いのも確かです。 (伊東勉)
2012-05-23 19:03:53
 こんにちは、伊東です。
 コメント入れるのはだいぶ久しぶりになります。2012年もよろしくお願いします(遅すぎる)。

 この風力発電に関して言えば、先日、全国でも先進地の岩手県葛巻町に行きまして、自然エネルギーの状況を見てきました。条件が整っていて、2カ所の風力発電、他に近年整備してきた太陽光や糞尿から出るガスをもとにした発電がなされていた様子を見ましたが、これを全国単位で実行するには宿題が多いな、と感じました。

 記事中で触れられていたバードストライクや生態系(大船渡市の風力計画はこれで頓挫)、さらに低周波(ヒュンヒュン音がなるのは、住まいが近くにある所では…)バイオマスでは採算性も問題となっていました。この部分、帰りの車の中で「可能性と現実」でだいぶ話しましたね。ホンに、多くの宿題も見つけた一日となりました。

 管理人さんとは所々で意見分かれる事もあります。それでもだいぶ時間はかかりますが自分の態度を磨くものになっているのでその部分助かっています。
 それに、今日の記事でも書きましたが、一部の方のモノ言いがとても…という部分もあって食傷気味にもなっていまして。しばらくツイッター主体にしていましたが久しぶりによらせていただきました。
 今日も長々と失礼しました。
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風力発電はアカン (あるみさん)
2012-05-23 22:56:38
風力発電先進国のデンマークでは、風力発電の変動を自国の送電線網で吸収することができず、ドイツの送電線に送っています…でドイツはその分、電力をデンマークに輸出しているわけです。で、デンマークから来た電力はドイツでどうなっているか…おそらく送電線の中で熱エネルギーとして「ムダ」になっているでしょう。
原発事故のすぐ後、田中某と坂本隆一が対談し、田中氏が「房総沖には日本の原発をしのぐ風力エネルギーがある!」とかなんとか言ったそうですが、風力エネルギーがある(風が吹いている)ことと、そこから安定したエネルギーを取り出すこととは全く別であることを知らないこの発言には「失笑」してしまいました。(以来、田中某氏の発言については、かなり懐疑の目で見ております)
我が土木業界も「海洋大規模風力発電」構想を原発事故前からあれこれ考えてはおりますが、原発と同じ程度…あるいはそれ以上の…ムダ(投入したエネルギーを回収できない)に陥るでしょう。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-05-23 23:15:22
>毛さん

 結構、再生可能エネルギーが叩かれていた時代もあったはずですよね。ゴミ燃料発電とか、役所のムダ遣いとしてバッシングされることが目立っていたはずですが、まぁ世間が手のひらを返すのは早いと言いますか…… ともあれ、あくまで将来への投資レベルのものと、今の時点でアテにできるものの区別は付けて欲しいと思うばかりです。

>Takaさん

 まぁ、それを言うなら原発だって高速増殖炉だって技術の発展に伴い諸々の問題を次々と解決していく世界ではありますからね。原発の未来だって明るいことになるわけですが……

>iceさん

 結局、クリーンエネルギーと呼ばれているものだって、別に全面的にクリーンというわけじゃないんですよね。私の大好きな水力発電だって、作るまでには大きく自然に手を入れることになりますし。不安定性もさることながら、「本当にエコか」という観点も必要だと思います。

>伊東勉さん

 ましてや発電した分を強制的に電力会社に「買わせる」ことができる事業者ならまだ採算は取れても、燃料費が嵩んで大赤字の電力会社ともなれば自然エネルギーみたいなコスト高の代物は、真っ先に切り捨てたくもなるのではないでしょうかね。まずはリストラありきの世論ですけれど、電気料金の値上げを厭うなら高コストの自然エネルギーからは全面撤退とかも現実的なシナリオなんじゃないかと思いますよ。

>あるみさん

 デンマークのように「脱・地産地消」を成し遂げていれば、それでもいいんですけれど日本には真似のできない世界ですからね。「海洋大規模風力発電」とやらも、スーパー堤防に期待できるくらいの気長さと有り余る予算がなければ微妙な代物ですし。
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