とかく公的部門に対して「民間では~」と民間企業の水準に合わせることが求めらがちです。その大半は民間企業と同じ基準で運用すべきではないケースが多いように思われるのですが、中には民間企業と合わせて欲しいものもあります。たとえば「働けるかどうか」の基準ですね。生活保護なんかの窓口では「働ける」と判断されるのに、いざ民間企業に出向いてみると「働けない」と判断される、そういうケースが山のようにあるはずですから。これに関しては、役所が民間企業の水準に合わせるべきだと思います。
<指針の対象>
青少年(0歳から30歳未満の者)が対象。ただし、施策によっては、40歳未満までの者も対象とします。
さて、神奈川では40歳になるまで「青少年」の枠に含めようとしているようです。そして施策の中身はと言えば、申し訳程度に就労支援などに触れられているものの、メインはあくまで表現規制や各種行動の規制、とりわけ性関係を筆頭とした「不道徳な」行為の規制となっています。神奈川では40歳を超えるまでは大人扱いされない、清く正しく子供らしく生きよということなのでしょう。例によって民間企業の求人に応募してみれば30歳でも若者扱いされないわけですが、神奈川県の基準では40になるまでバリバリの青少年とのこと、こちらは民間企業の方が、「公」の基準に合わせて欲しいところです(それを実現させることができれば就労支援にもなりますし)。
しかるにこの神奈川県の青少年育成指針なるものも色々とアレなのですが、横浜市の方はもっとイカレていました。
アダルトメディアは女性差別か? 思想を押しつける横浜市の男女共同参画事業(日刊サイゾー)
「市民の半数がアダルトビデオに怒りを覚える街づくり」が横浜市で進んでいる。
事の発端は、横浜市が発表した「第3次横浜市男女共同参画行動計画(素案)」だ。これは、横浜市が行っている事業の一環で、DVやセクハラを防止する施策。保育や子育て支援をよりよい形にすることを、目指すものだ。
そこで、なぜかアダルトビデオやゲームなど「女性の性の商品化」を非難するカテゴリーが盛り込まれているのである。
具体的には「取り扱い目標」の中の、「性に関する理解と生涯を通じた健康の支援」という部分。ここで「市民が、互いの性を尊重し合うとともに、心身の健康について正しい知識を身につけ」ている社会を目指すとして「アダルト向けのDVD・ビデオやゲーム等で、女性の性が商品化され、人権が侵害されていると思う人の割合」を増加させることが目論まれているのである。さらに意味不明なのは、ここに「目標値」なるものが設定されていること。現状値を38.9%とし目標値は50%。すなわち、市民の半数が「アダルト向けメディアは人権侵害」であると考えるようになることが目指されているのだ。
まぁ民間企業だってトンデモぶりでは引けを取らないところがいくらでもあるでしょうけれど、こういう代物に公的機関が手を染めることこそ完全なムダだと思います。とかく児童ポルノ規制を巡る論議では、児童の性被害を減らすことではなく性表現を排除することの方にばかり重きが置かれているとの指摘が少なからずあるわけですが、この横浜市の行動計画ほど、そうした倒錯を如実に反映しているものはないでしょう。性に関わる被害をいかに減らしていくかではなく、性表現への敵視こそが主眼であり、そうであるからこそアダルトメディアを悪と見なす人の割合を高めていこうという目標が掲げられているわけです。それで性犯罪や性暴力が減るかどうかなど考えることもなく、ただポルノこそが悪の根源なのだという意識を植え付けることを目指す、いやはや何とも道徳的なことです。
平成18年版 犯罪白書
平成21年版 犯罪白書
言うまでもなくインターネットやゲームソフトなどがない時代から性犯罪や性暴力はありましたし、その件数は今から半世紀前に比べれば格段に少ない、また近年を見ても減少傾向にあることが窺われます。昔よりも性犯罪が警察沙汰になることが少なくなったというのならいざ知らず、暗数が減っていると推測される中で認知件数までも減少しているのなら、今のままでも着々と安全の度合いが高まっているのだと言うほかありません。そうであるにも関わらず、インターネットやゲームソフトといった非伝統的な新しいメディアを持ち出すことで、そうした新しいメディアに親しみがない人の無知に乗して脅威を煽ろうとする、実に低劣な手口です。
そもそもインターネットと一口で語るには無理がある、加えてゲームソフトに関しては各種ポルノメディアの中でも最もファン層が保守的で、そこで用いられる性表現も必然的に保守的なものが多い、つまり既存の道徳から外れるようなものが少なかったりもするのですが、横浜市の関係者はそうした事情をわかった上で今回の行動計画を策定しているのでしょうか? 単に自分の嫌悪する対象を「どうせこんなものだろう」という思い込みに基づいて排除の対象としようとしてはいないでしょうか? 昨今の性表現規制に関する一連の動きで問われているのは、表現の自由である以前に、こうした偏見に基づく規制を許すかどうかであるように思われます。
「犯罪者の98%はパンを食べている」「暴力的犯罪の90%は、パンを食べてから24時間以内に起きている」なんてジョークがありますが、ポルノと性暴力/性犯罪との有意な因果関係を示すこともないまま、ただ単にポルノは悪だ、という自身の嫌悪に基づいて禁止を課すことが許されるようになってしまえば、同様に社会的に「悪」と見なされるものの規制や禁止もまたエビデンス抜きで行うことが可能となってしまうでしょう。「外国人のせいで治安が悪化している」と思う人の割合が高ければ、本当に外国人の増加と犯罪が関係しているのか立証することなく外国人排斥に走っても良いのでしょうか? あるいは「公務員のせいで民間人が貧しくなっている」「中高年のせいで若者が貧しくなっている」と信じる人の割合が高ければ、その事実関係を問うこともなしに「諸悪の根源」を排除しても良いのでしょうか? 性表現規制に関しては、そういうレベルで話が進められているわけです。むしろ私は表現の自由を無制限に認めない立場だからこそ、客観的な論拠もなく偏見に基づき憎悪を煽り立てるばかりの、あまりにも乱暴な性表現規制論議に危うさを感じるのです。その対象が外国人であろうと公務員であろうと、あるいはポルノであろうとヘイトスピーチはヘイトスピーチですから。
これではそう遠からず、中絶は胎児の権利を侵しているので禁止とか、同性愛は正しい性倫理にもとるので罰則とか、そうした価値判断を行政が行う日がくるのでしょう。
アダルトビデオなどのポルノメディアが性暴力や性犯罪に関係しているのか、それを排除することがどういった結果をもたらすのか、そうした考察や調査がないまま、行政サイドの倫理観が押しつけられているばかりですからね。「市民が、互いの性を尊重しあうとともに~」といった大目標は結構なことですが、そのための方法論として、ポルノを「嫌う」人を増やそうというのは、あまりに乱暴な議論と言えます。
その行き着く先が前のどうしようもなく愚かな太平洋戦争だというのに。
日本人というのはつくづく歴史に学ばない民族な気もします(苦笑)
こっちから見たら女性の人権侵害をする意図は皆無で適正価格でズリネタ(下品ですみません)提供して頂くっていう単なる商行為な訳ですから。
値段がつりあわないっていうのであればカメラの向こう側にいる女性が商品を提供しなければすむだけの話ですし、労働環境で人権蹂躙を含めもろもろの不法行為を受けているのであれば、現行法でも十分対応なはずですし・・・。
新規に法律制定するより、現行法の(法律が遵守されているかどうかを含めた)効果測定をするほうが先だよなって思ったりします。現に労基法は遵守されないことによる問題が多方面に出てますから・・・ってどうでも良いけど40まで青少年なら児童手当っつーか子供手当ても40歳まで拡充して欲しいよなって思ったり思わなかったり。
メディアの表現と暴力に因果関係があるのであれば、北野武監督作品をはじめとする暴力表現が多用される映画は真っ先に排除されなければなりません。簡単に人の命を奪ってますから。このような暴力表現の舞台としてまさか横浜市が使われているなんてことは無いでしょうねえ。
確たる根拠もないまま、嫌悪に基づいてポルノが規制されるのなら、その方法論が他に適用されない保証はないですからね。エログロの次に規制されるのは……
>飲兵衛さん
現行の法律を変えるより、何かと黙認が多い運用面の方を見直すことも必要ですよね。とかく性産業は問題視されることが多いですけれど、その他の職場だって人権侵害やパワハラ、不当な搾取や労災のリスクは目立ちますし。
>nobuさん
メディア、とりわけ新しいメディアを暴力行為の類に根拠なく関連づける、こうした安易さからの脱却の方が、目標としては適切ですよね。思い込みで因果関係を認定することが是とされるなら、それこそ何でも排除が可能になってしまうのですから。
お客はお年寄りばかっりだったことに感動しましたよ。人間観が変わったというか。
性欲とか変態とかを肯定する世界で生きていきたいものです。
つまりこういうことですかね?
そういうものに触れることで、人生に幅ができるところもありますしね。子供を無菌室で「きれいに」育てたい人が多そうですが、ちょっといかがわしい世界があってこそ、ですよね。
>ノエルザブレイヴさん
そこで「覚醒剤等に対しては厳罰をもって望むべきだと考える人」の割合を高めようとするのが、横浜市流と言ったところでしょうかね。罰や規制を重くするために、まずはネガティヴなイメージを植え付けることから始めようというわけです。