非国民通信

ノーモア・コイズミ

人の死を願う人々

2007-10-05 23:52:02 | ニュース

ネット上で死刑求める署名 10日間で10万人! 集まる(J-CAST)

  「残忍な殺人なら、被害者1人でも死刑を」。携帯電話サイト「闇の職業安定所」で知り合った男たちに殺された派遣社員の磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)の遺族らが、ネット上で死刑を求める署名を始め、わずか10日間で10万人以上もの賛同者を集めた。ネットで署名活動というのも異例だが、この圧倒的な数の力は裁判官に届くのだろうか。

   富美子さんは、このサイト上で10月4日、被害者側代表として、
「尊い一人の命の重さが、犯人たちの汚い命の重さより軽いというのでしょうか。二人以上の殺人でないと極刑は難しいなどと、命の重さの線引きを、どうして出来るのでしょうか。この司法の壁を乗り越えるために、殺人犯たちに極刑を科す陳情書を作成し、提出することに致しました」
と趣旨を述べている。

 大っぴらに他人の死を要求して恥じることのない人が10日で10万人も集まったことに、この国の病巣の根深さを感じます。今の段階ではこのような声に裁判官が媚びることはないと思いますが、裁判員制度が始まろうものならどうなるか分かりませんね。国民が躊躇いなく「殺せ」と主張し、それを押し止める司法が邪魔者扱いされるとしたら、それはもう先進国とは呼べないでしょう。

 身内に不幸があったりとか、そういう理由で精神的に非常に強いショックを受けている人が、時に感情的な言葉を発するのは致し方ありません。しかし、その人と何の関わりもない第三者までが平静を失っているとしたら事態は深刻です。「尊い一人の命の重さが、犯人たちの汚い命の重さより軽いというのでしょうか」などと、人の命の重さを線引きするような発言に共感する人が少なくないとしたら、それは憂慮されるべきことなのです。

 この事件の他にも「人殺し」はあるわけですが、遺族が奇妙な形で祭り上げられるものがある一方で、ある殺人は誰に顧みられることもなく黙殺され、またある殺人は不思議と被害者が非難されたりと、同じ「人殺し」であっても不思議な温度差があります。何の落ち度もない民間人が軍人に殺されても、その軍人を極刑にせよと署名運動が起きたりはしませんし、あるいは被害者の側に何らかの「落ち度」が見つけられると、いつの間にか非難の対象がすり替わることもあるわけです。

 殺人だったからこそ今の結果に至る訳ですが、これがもしレイプだったら話は違ったかも知れません。被害者が(裁こうとする人の基準で)派手な格好をしていたとか、性的に奔放だったとか、そういう後付設定が発見されると、決まって出てくるのは「被害者にも問題があったのではないか」という主張です。この事件が殺人ではなくレイプであったなら、容疑者を「極刑に!」と騒いでいる人々が逆の立場に回っていたかも知れない、したり顔で「レイプされる女性の方にも落ち度があったのではないか」と、そんな風に語っていた可能性もあります。

 殺してもいい人間と殺してはいけない人間、レイプしてもいい人間としてはいけない人間、ある種の人々の中には明確な線引きがあるのかも知れません。色っぽい格好をしている女性ならレイプもある程度は正当化されると思っている人がいて、そして悪い奴や無価値な奴なら命を奪っても構わないと思っている人がいる、そんなものです。

 我が身を省みてみると、自分の立場はどの辺でしょうか? 私は人を殺すような行動力は持ち合わせておりませんので人殺しにはならないでしょうけれど、自他共に許す社会(会社)不適合者なので無価値な命とみなされるかもしれません。「ニート」なんて死んでいい、と言う人もいるくらいですから、私の命がそのように扱われる可能性だってあるでしょう。私を「殺してもいい」側の人間に位置づけるための口実くらいはいくらでもありそうです。存命であったなら、今回の事件の被害者である女性はどうだったのでしょうね?

 例外もありますが、基本的に親から見れば我が子は特別な存在です。他人からいつも見下されている落伍者であったとしても、やっぱり親から見れば概ね特別な存在で、他の人間とは違うわけです。そんな特別な存在である自分の子供が殺されれば平静ではいられないでしょう。でも他人の子供が殺されたときはどうなのでしょうか? 他人の子供が殺されたときに、ほとんどの場合、我々は何も感じません。薄情なものですね。殺された子の親は人知れず涙に暮れているかも知れませんが、いつだって我々は何もしません。ところが事件に猟奇的な要素があったりして話が膨らむ、人々の話題に上るようになると状況が変わってきます。そこで被害者遺族の感情を騙る人々が出てくる、普段は人が殺されることに何も感じていない人が急に憤ってみせる、突如として悪者を探し始める、ヒーロー気取りで「悪」をやっつけようとする、私には単なるお調子者にしか見えないのですが、そういう子が増えているわけでもあります。30分番組なら「悪」をやっつけてめでたしめでたし、ところが現実はそうも行かないのですが、未成熟な人々はそこで満足してしまうのでしょう。そして遺族は取り残されるわけです。

 

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6 コメント

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Unknown (Bill McCreary)
2007-10-06 01:00:56
前も同じようなコメントを書きましたけど、「極刑」といったって、法の名のもとに国家(米国などでは州)が人を殺すということの重大さを少しは考えてほしいですね。遺族はともかくとして、マスコミをふくむ第三者が死刑を煽るなどというのは、野蛮にも程があろうというものです。

で、残念ながら、私が危惧したように、この事件の被害者の母親は、格好のマスコミの餌食になってしまいました。これから、初公判、求刑、判決、判決確定、(もしあれば)執行と、節目節目ごとに彼女はマスコミに登場することになるでしょう。いろいろな意味で気の毒です。
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mOBSCENE (サイトー)
2007-10-06 10:23:50
こんにちは。
裁判員制度がスタートして、自分が審理参加することなど、とても無理だし、もしそうなったら どうやって断ろうかなんて 今から考えてしまうのですが、今回のことなど見ると、けっこう積極的なひとも多いのかな と思ったり‥。
自分も 世間的に そんなに立派なひとには見られていないことは想像に難くなく、今から(よけいな誤解買わないように)あんまりつまんない冗談言わないようにしておこう‥なんて萎縮しています。
ひとつのことに、みんなが一斉に動く場面をみると、マリリン・マンソ~ンさんの『モッブシ~ン!!』の歌詞が(ちょっと違うか)頭をよぎります。
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Unknown (ポール)
2007-10-06 16:16:03
裁判員制度自体がしょせんは死刑存続のためのお為ごかしですからね。
この署名はまさにうってつけの「適任者リスト」になることでしょう。
10万人もいるんだから、改めて無作為選出なんかしなくても人手には困らない。
社会の秩序を乱す悪人をサクッと殺して気分は爽快。
それで日当まで出るんですから願ったり叶ったりでしょう。
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Unknown (シータ)
2007-10-06 18:30:41
ブログサーフィン中に立ち寄りました。
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日本も死刑制度の廃止を! (怪人20面相)
2007-10-06 21:01:11
世界は死刑制度廃止へと向っております。
日本も平安時代の一時期、死刑廃止の歴史をもつ国です。
日本も死刑制度を廃止すべきです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2007-10-06 22:09:32
>Bill McCrearyさん

 社保庁の件でもそうですけれど、この国では人を罰することに異常な欲望が注がれているような気がします。何かのために罰するのではなく、もはや罰することが目的で、罪はそれを正当化するために方便になりつつあるとさえ感じます。今回の被害者の母親はそういった欲望に担がれて、人を罰したい、処刑したいという欲望のための御旗として、いいように利用されてしまいそうですね……

>サイトーさん

 関係者以外の誰の関心も惹かない事件がほとんどである一方で、時に扇情的な報道によってワイドショーの主役になる事件もあります。前者の裁判員をやりたがる人は少数派、しかし後者の裁判員には希望者殺到と言うこともあり得るでしょうか。無作為の抽選で選ばれるとは言え、裁判員にも格差のごときものが発生するかも知れませんね。

>ポールさん

 現状では司法よりも国民の方が死刑に積極的ですから、とりわけメディアの変更報道に晒された事件などではその判決も悲惨なものになりそうですね。死刑制度に反対を表明すると「不的確」として裁判員から外される可能性もあるそうで、いやはや、どこに向かおうとしているのかが非常に懸念されます。

>怪人20面相さん

 統計上、有意な犯罪抑止効果を持たない死刑制度を、世界の潮流に反してまで維持する必要はないでしょうね。自らの特殊性を口実に外の世界の常識に耳を傾けない、そんな相撲協会のごとき態度を改め、ローカルルールではなく世界の常識を取り入れる必要があるでしょう。
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