非国民通信

未来なんてあるわけがない

電力は足りていると語る人を信用しない理由

2012-02-23 23:03:40 | 社会

今夏の電力綱渡り、火力に注力 増強急ぐ東北電(河北新報)

 東北電力が電力供給力の増強を急いでいる。東日本大震災で被災した火力発電所の復旧を当初予定より前倒ししたほか、出力を高めるガスタービン新設工事に取り組む。今冬の電力不足は回避できる見込みとなったものの、運転停止が続く原発の再稼働の見通しは立っていない。東京電力など他社からの融通がない想定では、次の需要期の今夏には不足に陥る恐れがあり、綱渡りの状況からの脱却は容易ではない。

(中略)

 それでも夏場の需給は逼迫(ひっぱく)しそうだ。東北電が昨年11月に行った試算によると、猛暑想定のことし8月の需給見通しはグラフの通り。需要が被災企業の復旧で増えるとみられることもあり、現段階では28万キロワットが不足する。
 試算には原発再稼働や電力他社からの融通を織り込んでいない。このため融通が受けられれば不足分は補えるが、決して楽観できる状況とは言えない。
 国内の原発は、4月下旬には商業用54基全てが停止する可能性がある。東電の柏崎刈羽6号機(新潟県)が3月下旬に、北海道電力の泊3号機(北海道)は4月下旬に定期検査に入る。両社の供給余力は今冬より低下するとみられる。
 不測の事態も懸念される。実際、昨年7月の新潟・福島豪雨では新潟・福島両県の水力発電所が停止。ことし1月には北海道と本州をつなぐ電源開発(Jパワー)所有の海底送電ケーブル3本のうち1本が損傷し、北電からの融通電力が低下したままとなっている。

 まぁ最大の被災地を抱える東北電力ならずとも、電力会社にとっては非常に厳しい日々が続いています。行政に業務を妨害されていると言っても過言ではないにも関わらず大規模停電の発生を防いでいる電力会社の努力には頭が下がる思いではありますが、引用元の見出しにもあるように「綱渡り」であることには変わりがありません。何とかギリギリで凌いでいるのが実態であり、決して楽観視できる状況ではないのです。

 しかるに、今なお素面で「電力は足りている」などと言い放つ輩がいるのですから呆れます。その人の「世界観」を維持するためには、原発なしでも電力が足りていなければならない、原発が止まると電力が不足する現実など絶対に受け入れられないものなのでしょう。しかし、現実は厳しいものです。綱渡り状態でも結果的に電力は賄えているように見えるかも知れませんが、それがどれほどの「無理」に支えられた結果なのか、「電力は足りている」と語る人々には全く理解できていないようです。いやむしろ、目を背けているといった方が良いでしょうか。

参考、無理をすれば大丈夫です……って

 「コストを20%程度削減できれば、1ドル80円でも完全に競争できる」とは昨年8月のトヨタ新美副社長による発言です。まぁ、計算上はそういうものなのでしょう。とはいえ「コストを20%程度削減」のためにはどれほどの無理を重ねなければならないかを考えれば、馬鹿げた発言であることに疑いの余地はありません。要するに「無理をすれば大丈夫です」と言っているのと同じで、無理をしなければ保たないという時点で大丈夫ではないのです。電力も然り、老朽化して実質的に引退状態だった火力発電所を無理矢理稼働させ、大口の顧客に節電を強いてまでギリギリで乗り切っている、これを「足りている」と見る人は率直に言って頭がおかしいと思います。

 発電すれば発電しただけ赤字になってしまう、かつ料金の値上げが厳しく制限されており収支改善の見込みが遠いにも関わらず、何とか供給量の確保に努める電力会社は慈善事業でもないのによくやるなと感心しないでもありませんが、世間の逆風はなかなか収まりません。公務員(近年では中高年や社会保障受給者も)がそうであるように一度バッシングの対象として社会から公認されてしまうと、全国紙など権威ある大手メディアからも誹謗中傷の対象として扱われる、事実も歪曲され、読者に誤った印象を与えるような形で伝えられてしまうものです。そうして実態は覆い隠されていくわけですが、結果としてもたらされる危機は必ずや我々の足下にも及ぶことでしょう。

 綱渡りでも何でも、結果的に乗り切ったから「電力は足りている」と考える人は傲慢です。考えても見てください。福島第一原発で大事故が起こる前から、原発周りで何らかの事故は発生していました。でも結局は、施設外にまで深刻な影響が広まる前に乗り切ってきた、2011年3月までは乗り切ってきたわけです。中には危ない状況もあったはずですが、結果的に乗り切った――故に安全対策は十分だと、そう考える人がいたらどうでしょう? それは愚かなことと言えます。今まで結果的にではあれ乗り切ってきたのだから今後も大丈夫だなどと考えるのは甘すぎる、もっと厳しい状況もを想定しなければならないと、マトモな人であればそう考えるはずです。

 ところが、そう考えるべきは「あいつら」であって自分たちではないと、まるで他人事のように構えている人もいます。それが「電力は足りている」論者で、電力会社による綱渡りの安全対策は叩く一方で、目下の綱渡りの電力供給に関しては「ここまで乗り切れたのだから問題ない」とばかりに、原発事故から何も学んでいないかのごとき判断をする人がいるわけです。何とも反省がないとしか言えませんが、彼らにとって反省すべきはあくまで電力会社であって、自分たちはあくまで裁く側としか思っていないでしょう。厳しい事態も想定して供給力確保に励む電力会社と、「これまで大丈夫だったのだから、これからも大丈夫」と甘い想定で原発は不要と言い張る人々、少なくとも後者は絶対に信用すべきではありませんね。危険ですから。

 重ねた「無理」の中には、労働環境を少なからず悪化させるものもありました。オフィスワークでも職場の空調が切られるなど多少の影響はあったわけですが、やはり大変なのは工場部門です。節電目標達成のためには機械を一部停止するしかなかったので業務が著しく逼迫したとか、あるいはピークシフトのため土日に操業することになったとか、電力需要の多い昼間を避けて夜間に工場を稼働させるなどの対応をとる企業も少なくありませんでした。そこで最終的な「無理」を押しつけられたのは言うまでもなく労働者です。しかし労働者の犠牲を無視してこそ現代日本なのでしょうか、日頃は労働者の立場を慮る風を装っていた人でも、「電力は足りている」という虚妄の世界観を優先して電力不足に対処するために無理を強いられる労働者の存在からは頑なに目を背けてきた人も少なくありません。むしろリストラ圧力に多少なりとも抗っている電力会社の方がまだしも労働者の味方に見えてきます。

 あくまで無理をするのは他人であり、他人に無理を「させる」立場はお気楽なものです。昨年の夏、大口利用者の電力需要は29%、小口は19%それぞれ減った一方で、家庭は6%減に止まりました。家庭レベルでは節電した「つもり」になって自己満足するばかりの「節電ごっこ」が多かったのでしょう。その昔、自民党政権が「(白熱電球を)蛍光灯に変えよう」キャンペーンをやったことがありました。反・自民党の立場をとる人の中にはこれにも大いに否定的で、まだ使えるものを買い換えるのは良くないとか、白熱電球より割高な蛍光灯を買わせようとするのは傲慢な金持ち目線だとか、そんな意見を述べる人もいたわけです。そんな人が震災後は「LED電球に変えよう」みたいな主張に賛意を表明していたりするのですから呆れる他ありません。そういう身勝手というか支離滅裂な人が多少なりとも世論を形成し、それに媚びる政治家が我々の社会を振り回しているのです。

 クリス・バズビーや早川由紀夫、武田邦彦等々、原発事故後の混乱や恐怖に乗じて数多の偏見を植え付け、福島に纏わる諸々に対する差別を煽ってきた人がいます(AERAや東京新聞などの低俗な煽りメディアもこれに加えるべきでしょうか)。彼ら原発事故の二次的な被害を今なお広めようとしている人々に比べれば、自らの非を認め、完全無欠ではないながらも賠償を進める東京電力の方が反省する姿勢や責任感がある、事故収束に向けて動いているという点で肯定的に評価できるくらいです。一方で、いい加減にボロが隠せなくなってきたバズビーや早川由紀夫、武田邦彦といった類からは、ともすると距離をとっているかのように装っている人もいます。しかし、よくよく考えてみるとどうでしょう?

 マネーロンダリングならぬ、情報あるいは知識のロンダリングというものもまたあるように思います。バズビーや武田邦彦の自称学説を引き合いに出して放射能の脅威を語れば、一定の見識がある人々からの白眼視は免れないことでしょう。しかし、バズビーや早川由紀夫の名を出すことなく、それでいて彼らと大差ないレベルの偏見を自明の真理であるかのごとく語ることで世間の批判から免れている人もいるように思います。武田邦彦や早川由紀夫の妄想と同様に、実は全くの思いつきや被害妄想に過ぎない代物でも、世間で語り継がれる内に誰が考え出したことなのかが忘れ去られ、いつの間にか現実と混同されてしまうこともあるのではないでしょうか。原発危険神話とも言うべき、原発・放射能のリスクというのはそういうものが多い、電力会社に関する批判というより罵倒もまた公務員に対するそれと酷似したもので、丹念に元をたどっていけば大いに怪しい代物が多いわけです。しかるに元はあくまでデマ、偏見や曲解の類でも「ロンダリング」されることで出所の怪しさが見えなくなっている、そんな言説に基づいて語っている人も少なくありません。せめて政治が、そういう人々とは距離をとってくれれば良いのですけれど!

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (11) |  トラックバック (0) |