衆院選で圧勝した自民党から「想定外」の提案が飛び出した。野党優先に配分されている国会の質問時間を、議席に応じて与党により多く配分するというものだ。衆院選の後、安倍晋三首相は「謙虚に」「丁寧に」を繰り返しているが、その言葉とはうらはらに、国会運営を強引に進めようとしている。これは政権のおごりをのぞかせているだけでなく、日本の政策決定システムを理解していないことの証左だ――。
2017年衆議院選挙では自民党が単独過半数を獲得。自身の当選で花をつける萩生田光一自民党幹事長代行(右)。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

議席数は3分の2超、質問時間は2割

ことの起こりは、衆院選圧勝の余韻さめやらぬ10月27日。自民党の3回生有志が国会内で自民党の森山裕国対委員長に対し、野党に優先的に配分してきた国会の質問時間を見直すように要望したことだった。萩生田光一幹事長代行は申し入れがあったことを安倍晋三首相(党総裁)に報告。安倍首相は「これだけの皆さんが民意をいただいたので、われわれの発言内容にも国民の皆さんが注目しているだろう。そういう機会はきちんと確保する努力を党としてもやってほしい」と配分見直しを検討するよう指示した。

国会での質問時間は今、おおむね「与党2割、野党8割」になっている。一方、国会の議席は、10月22日の衆院選で自民党が圧勝。与党で3分の2の議席を確保した。「ならば議席配分にあわせて質問時間を見直すべきだ」というのが自民党側の理屈だ。

一見、もっともな主張のようにも思えるのだが、実はそうとはいえない。彼らの主張は、かなり筋の悪い訴えと言わざるを得ない。

「魔の2回生」は「魔の3回生」に

先ほど書いたが、最初に質問時間の配分見直しを求めたのは自民党当選3回生の有志。3回生は衆院解散の前は2回生だった。「魔の2回生」という言葉を記憶している人も多いだろう。2012年、14年の自民党圧勝の恩恵を受けて連続当選してきた若手の総称だが、「ゲス不倫」「セクハラやじ」「このハゲー」など自民党議員による不祥事は、いずれも「魔の2回生」によるものだった。

これら問題を起こした政治家は、議員辞職したり落選したりして3回生になれなかった者も多いが、今回の衆院選でも80人以上が勝ち残っている。彼らが「魔の3回生」と呼ばれ続けないためにも、国会質問をすることで経験を積み、成長したいという思いがあった。

選挙対策上の思惑もちらつく。自民党若手議員たちは、地元で後援者と会合すると「野党の人たちは頻繁にテレビ入りの国会で質問しているのにあなたはまったくしていない」と皮肉を言われることも少なくない。内容はさておき、国会で質問をすれば「うちの代議士は頑張っているな」ということになるし、後援会だよりやブログで安倍首相に質問している写真を掲載すれば反響も大きい。

気持ちが分からないではない。しかし、国会は選挙区の支援者向けに行うものではない。選挙対策で質問時間を増やすだけなら政治家としての経験は豊かにはならないし、不祥事もなくならないだろう。

今月1日に行われた首班指名選挙では、「魔の3回生」の1人である渡辺孝一衆院議員の投じた1票が無効となった。無効となった原因は、自分の名前を書き忘れたこと。渡辺氏は今回を含め3回連続で自民党の比例北海道ブロックの名簿上位で当選した議員だ。

与党議員にとって自分たちの首相に選ぶ1票はなによりも大切な仕事。3度目の首班指名でも間違いを犯す議員が、国会で質問をすることで急速に成長するとは思えない。

与党議員の仕事は「出来レース質問」ではない

ここで、なぜ質問時間が野党に優位に配分されているのかを考えてみたい。理由は2つある。

まずは国会対策での「思いやり」。与党は、法案をできるだけ早く、できるだけ正常な形で成立させたい。このため「われわれの質問時間を削り野党に譲る」というカードを野党側に切って、法案採決の日時の約束を取り付けたり、採決時に牛歩戦術などの抵抗をしないように求めたりする。これが常態化して今の慣例になっている。

安倍政権は「1強」確立以来、国会運営などで野党の理解を得ようとする努力がおろそかになっている。重要法案では強行採決を繰り返している。野党側の理解を得る必要性を感じなくなった政権が、野党側に譲歩してきた関連を見直そうと考えるのは、ある意味で必然かもしれない。しかし、少数意見に耳を傾ける時間を減らそうというのは安倍首相の言う「謙虚に」とは正反対の発想だ。

もうひとつ、きわめて重要な論点がある。日本の政策決定システムでは与党と野党の役割は決定的に違う、ということだ。国会で1本の法律を成立させる場合には、以下のような流れとなる。

(1)政府が法案づくりに着手
(2)与党と意見交換、質疑
(3)与党の了承のもと法案を国会提出
(4)国会で質疑
(5)国会で採決、成立

ここでの与党議員の主な仕事は、政府と議論して法案をつくりあげ、国会に提出することだ。国会に法案を提出した段階で、党として賛成することは決まっており、法案づくりにも関与しているのだから、国会提出後に質問すべきことはあまりないはずだ。質問しても、答弁が最初から分かる「出来レース」のようなやりとりになってしまう。

国会での質問時間が、法案づくりに参加せず、内容を熟知せず、賛否を決めていない野党議員に多く割かれるのは当然のことなのだ。

自民党も野党側の質問時間を増やすように求めていた

質問時間の配分は、長い間、野党優先が続いていると書いたが、今の「与党2割、野党8割」という配分になったのは2009年、民主党政権が誕生してからのことだ。その前の麻生政権の時まではおおむね「与党4割野党6割」だった。

この変化は、「政府と与党は一体」という立場から、民主党が自発的に与党の質問時間を自民党を含む野党側に譲ったものだ。当時、自民党も野党側の質問時間を増やすように求めていた。今、自民党が議席数に基づいて配分を変えようとするのは、野党時代の主張と矛盾することになる。

安倍首相の「議席配分にあわせて質問時間を見直す」という理屈には道理がない。メディアはこの事実について、厳しく追及するべきだろう。

 

 

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