DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

小熊 秀雄(オグマヒデオ)(1901 - 1940)「嫌な夜」(1935-40頃の作品)   2017/06/10

2017-06-10 23:12:52 | 日記
 嫌な夜

ざわざわと風が吹く
吊り下つた電燈は絶えず動く
遠く犬が鳴く
不安な胸騒ぎがする
《感想1》
嫌な夜だ。風がざわつく。電灯が揺れ、遠く犬が鳴く。理由なく不安になる。

沈着で禍などをすつかり忘れた
肥満した人間が酒をのんでゐるだらう
《感想2》
詩人は、禍を忘れた人間に、諦めと苛立ちを感じる。背景は昭和10-15年。戦争の時代である。

おどおどとして正直に
忙しさうに路をゆく人もゐるだらう
《感想3》
生活の暗い見通しと赤紙におどおどする正直者も、いるだろう。彼は仕事に忙しい。

寝床をひんめくるやうに
地球の上から夜をひんめくつたら
優しい心を夜襲しようとして
狼の群が山の頂きに吠えてゐるだらう
ぐうたらな思策家が思はせぶりなペンに
インキをひたしてゐるだらう
《感想4》
夜に隠れて、悪事が画策される。優しい心は破壊される。ぐうたらな思索家が、時代に迎合し、金のためなら何でもかまわず、もっともらしい文章を書く。

なんて嫌な夜が続くのだらう
文学も、政治も、映画も、
みんな嫌な夜の中で案が煉られ
明るい昼の時間にもちだされる
《感想5》
文学も、政治も、映画も、悪事が秘かに画策されるのは、夜である。嫌な夜。気づけば、昼の時間には、すでに形作られた台本通り、文学・政治・映画が姿をあらわす。

ざわざわとした落ち着きのない
塹壕の中で立ち乍ら眠つてゐるやうに
すべての人々は嫌な夜を
不安な休息にもならない眠りをつづけてゐる
《感想6》
嫌な夜のうちに、悪事の台本が画策されることに、もちろん、人々は気づいている。彼らはいわば「ざわざわとした落ち着きのない塹壕の中で立ち乍ら眠つてゐる」。「不安な休息にもならない眠り」。物事は人々の手の届かないところで、秘かに決定される。

怒りをとろかす眠りを
うけいれる位なら
私は死ぬまで一睡もしないで狂つた方がいい
《感想7》
暗い時代に抗う詩人の悲壮な決意だ。実際彼は、信念に殉じて赤貧の中で昭和15年に、病死する。その後、日本は対英米戦争に突入し、300万以上の戦死者、空襲による死者、国土の破壊に至る。「嫌な夜」の帰結である。

めざめてゐる昼の時間のために
良い妹のやうな夜であつたらいい
だが悪辣な女か、獰猛な猫のやうに
人々の心に噛みつくために
よつぴて人々の心の中を騒ぎまはる
《感想8》
「夜」とは、文学・政治・映画等に関する決定が、人々に隠れてなされることの比喩である。たとえ決定が隠されてなされても、人々を苦しめないなら、詩人は決定を受け入れる。しかし「夜」は、「悪辣」で、「獰猛」で、人々の心に「噛み付」き、「騒ぎまはる」。まさに「嫌な夜」である。

夜よ、お前はかつてのやうに
暁を待つてゐる純情な夜ではなくなつたのか。
《感想9》
これまで、おそらく1932年の5.15事件の頃までは、文学・政治・映画等に関する決定が、人々に隠れてなされても、その「夜」は、いわば「純情な夜」で、人々に対し、「悪辣」で、「獰猛」ではなかったのだろう。

 A NASTY NIGHT

The wind blows making murmuring sounds.
A suspended electric bulb swings.
A dog barks in the distance.
I feel uneasy in anxiety.
An insensitive fat man who completely forgets disasters may drink alchohl.
Someone who is coward and honest may walk on the road seemingly in a busy fashon.
If you uncover a night from the earth like putting away a coverlet from the bed, a group of wolves may howl on the top of a mountain in order to make a night-attack on kind hearts.
And lazy thinkers dip their pens into ink in order to tell lies that sound like the truth.
Completely nasty nights continue.
As for literature, and politics, and also movies, all of them are planned at nasty nighs, and then they are brought forward in the bright daytime.
Like sleeps standing in trenches that are calmless and in murmuring sounds, all people continue to sleep disturbingly and restlessly at nasty nights.
I can’t accept the sleeps that get me not to feel angers.
Rather, I choose to become insane as I intend never to sleep until I come to die.
For the daytime when people awake, the night should be like a good sister.
However, it is like a bad woman or a cruel cat.
It is violent in people’s hearts all through the night in order to bite their hearts.
A night! Do you have changed to a different one from an innocent night that waits dawn as it used to be.
ジャンル:
ウェブログ
Comment   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 伊東静雄(1906-1953)「宿木... | TOP | 潔く、過去を認めよ! »

post a comment

Recent Entries | 日記

Trackback

Trackback  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。