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吉原幸子(ヨシハラサチコ)(1932-2002)「初恋」『幼年連祷』(1964年、32歳):現実の《1人》の「女の子」が、心理的に《2人》になる 

2016-10-29 11:38:44 | 日記
 初恋

ふたりきりの教室に 遠いチンドン屋
黒板によりかかって 窓をみてゐた

女の子と もうひとりの女の子
おなじ夢への さびしい共犯

ひとりはいま ちがう夢の 窓をみてゐる
ひとりは もうひとりのうしろ姿をみてゐる

ほほゑみだけは ゆるせなかった
おとなになるなんて つまらないこと

ひとりが いたづらっ子に キスを盗まれた
いたづらっ子は そっぽをむいてわらった

いたづらっ子は それから いぢめっ子になった
けふは歯をむいて「キミ ヤセタナ」といった

それでひとりは 黒板に書く
オコラナイノデスカ ナクダケデスカ

ひとりはだまって ほほゑみながら
二つの「カ」の字を 消してみせた

うすい昼に チンドン屋のへたくそ ラッパ急に高まる

《感想》
①「もう最初から議論紛々、と言う感じ」の詩である。そこで、以下、ひとつの解釈。
(0)
②主題は「初恋」。これが間違いなく、主題である。
(1)
③「ふたりきりの教室」。この「ふたり」は、現実の2人でなく、心理上の2人。現実の「女の子」が、心理的に、2人の「女の子」に分裂する。
③-2 現実の《1人》の「女の子」が、心理的に《2人》になる。「ふたりきりの教室」。
④「遠いチンドン屋」は、遠い《過去》のチンドン屋。同時に、その過去においては《距離》的に「遠い」チンドン屋。
④-2 「遠い」過去の「教室」で、1人の「女の子」が、「黒板によりかかって/窓をみてゐた」。「遠いチンドン屋」の音が聞える。「女の子」は心理的に2つに分裂している。
(2)
⑤「女の子と/もうひとりの女の子」。現実には、ある《1人》の「女の子」の初恋。彼女の気持ちが分裂する。心理上、《2人》の「女の子」となる。
⑤-2 「おなじ夢への/さびしい共犯」。「夢」は初恋。気持ちは分裂するが、「おなじ夢」をめざす点で「共犯」。ところが両者は、「おなじ夢」に対し、異なる態度をとる。「さびしい」共犯!
(3)
⑥現実の「女の子」は、つまり同時に、分裂した「女の子」2人は、確かに初恋の「夢」を見ている。
⑥-2 そうでありながら、分裂した「女の子」の1人は、「ちがう夢の/窓をみてゐる」。
⑥-3 初恋でない「ちがう夢」を見る彼女は、醒めている。
⑥-4 分裂したもう1人の「女の子」が、その醒めた「女の子」の「うしろ姿をみてゐる」。
⑥-5 そのもう1人の「女の子」は逡巡する。今の「初恋」にあこがれ、かといって醒めた「女の子」を否定もしない。
(4)
⑦かくて、現実の「女の子」、とりわけ醒めた「女の子」の決断。「ほほゑみだけは ゆるせなかった」。
⑦-2 彼女は、男の子に心を許さない。「初恋」は「夢」だが、それをかなえれば、ある種、「おとなになる」こと。
⑦-3 彼女は、「おとなになるなんて/つまらないこと」と決断する。
⑦-4 だからと言って、彼女は「初恋」の「夢」を捨て去ることもできない。
(5)
⑧事件が起こる。「ひとりが/いたづらっ子に/キスを盗まれた」。
⑧-2 醒めた「女の子」でない、心理上のもう1人の「女の子」が、つい気を許し「キスを盗まれた」。
⑨「キスを盗」んだ男の子は、その後、どういう態度をとるか?
⑨-2 彼は、気恥ずかしく、「そっぽをむいてわらった」。
⑨-3 「いたづらっ子は/それから/いぢめっ子になった」。男の子は、「女の子」の関心をつなぎとめるため、「いぢめっ子」になる。
⑨-4 男の子にとっても、「初恋」である。
(6)
⑩「いぢめっ子」が、「けふは歯をむいて『キミ/ヤセタナ』といった」。
⑪現実の女の子は、男の子のへの態度が、分裂する。
⑪-2 心理上の「女の子」の1人が、「黒板に書く」。「オコラナイノデスカ/ナクダケデスカ」と。これは、醒めた「女の子」。
⑪-3 これに対し、心理上のもう1人別の「女の子」が、「だまって/ほほゑみながら二つの『カ』の字を/消してみせた」。つまり「オコラナイノデス/ナクダケデス」と書き換える。
⑪-4 「初恋」は、心理的に分裂した出来事。
(7)
⑫遠い昔の「教室」。「窓」の外には「遠いチンドン屋」が見える。記憶は曖昧。心も曖昧。それは「うすい昼」。
⑫-2 「初恋」は成就しない。つまり「へたくそ」な初恋。「チンドン屋」が見え、「へたくそ/ラッパ」の音が聞える。
⑫-4 それは、「女の子」の心の葛藤が最も高まったとき。「オコラナイノデスカ/ナクダケデスカ」と抗議する女の子と、「オコラナイノデス/ナクダケデス」と初恋に殉じる女の子の葛藤。
⑫-5 かくて「チンドン屋のへたくそ/ラッパ」は、「急に高まる」!

 FIRST LOVE

Only two girls are in a classroom, and hear the music of a Chindon’ya advertiser.
They lean against a blackbord and look outside from a window.

The girl and the other girl sadly comit a crime together in relation to the same dream.

One of them now look at a window of a different dream.
The other look at the back figure of the former.

Smiling absolutely shoud not be permitted at all.
Becoming mature is completely meaningless.

One of them was kissed by a mischievous boy.
The mischievous boy loughed looking the other way.

The mischievous boy became a boy of bullying.
Today, he said to her offencively showing the teeth, “You have become thin.”

One of them writes on a blackbord, “DON’T YOU ANGER? DO YOU ONLY CRY?”
The other smilingly and silently erases two words, “DON’T” and “DO”, with decicive intention.

In the dim daytime, the low-skilled trumpet of the Chindon’ya advertiser become loud suddenly.
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