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五代目古今亭志ん生の噺、「替わり目」

2014年09月01日 | 街中で露出

 五代目古今亭志ん生の噺、「替わり目」(かわりめ)によると
 

 「大将、俥(くるま)差し上げましょうか」、

「お前はそんなに力があるのか」、

「いえ、帰(けえ)り俥ですから、お安くしておきます。乗ってくださいよ」、

「やだ。でも、頼まれれば乗ってやらぁ」、

「お願いします」、

「俥もってこい」、

「何処に行きます」、

「お前が乗せたのだから、好きな所にやってくれ」、

「そんな」、

「何処にも行きたくない。だったら、お前の家に行こう」、

「では、真っ直(つ)ぐ行きましょうか」、

「家壊して真っ直ぐ行け。取りあえずかじ棒上げてみてくれ。おい、一寸待った。

 この家へ『こんばんは』と訪ねてくんねぇ」、

「左様ですか。『こんばんは、こんばんは』」。

「開いてますよ。どうぞ。あらまぁ、へべれけで。家に入りなさい」、

「この親方がお宅によっていくと言うもんですから・・・」、

「私(あたしん)とこの人よ。いくら。何処から乗せたの」、

「何処から・・・っていってもね、お宅の戸袋のところから。まだ車が動(いごい)ていないんです」、

「お手数掛けましたね」、

「いいんです。俥賃は」、

「そんなこと言わず、取って下さい。そこ閉めて下さいね」。

「どうして家の前から乗るの」、

「頼まれたから乗ったんだ。俥賃いらないと言ったのになぜやるんだ。

 稼いでも金がないと思ったら、みんな俥屋にやるな」、

「ずいぶん酔ってるね。お寝なさい」、

「寝ない。一寸こんなことやりたい」、

「これってな~に」、

「酒だよ」、

「そんなに飲んできて、その上飲むの。飲ませません。飲んでなければ飲ませますけれど。そんなに酔っていては飲ませません」、

「飲ませません?そんな権利はお前にはあるのか。お前はこの家の何だ。かかあのくせして女房で女。俺は亭主だぞ、一軒の家では主(あるじ)が一番偉いんだぞ。嘘だと思ったら区役所で聞いてみろ」、

「もう飲めませんよ」、

「飲める。口から飲めなければ鼻から飲む。俺が帰(けえっ)てきたら『お帰りなさい。ずいぶんお召し上がりですが、外は外、内は内、私のお酌ではやでしょうけれど一杯召し上がりませんか』と聞かれてごらん、もうよそうよ、となるんだ。それを『飲んじゃいけねぇ』と言うんだ、百年前のトカゲみたいな顔しやがって、だから、飲む~っと言うんだ」、

「そ~ぉ、ずいぶんお召し上がりですが、外は外、内は内、私のお酌ではいやでしょうけれど一杯召し上がったらどぉ」、

「じゃぁ、飲もうか」。
「遅いから、何にもないよ」、

「いい。何か摘むものはないか」、

「鼻でも摘んだら。もう少し早かったらアブラムシが居たんだが」、

「そんなものでなく、台所に行けばなにか」、

「ない」、

「納豆の残った35粒あっただろ」、

「ありません。食べちゃった」、

「顔が曲がっちゃうだろ。そーいう時は『いただきました』と言うんだ」、

「いただきました」、

「我慢しよう。ラッキョウは」、

「いただきました」、

「目刺しがあったな」、

「いただきましたよ」、

「もう何もないの。私がみんないただきましたから」、

「香香は」、

「漬けてないの」、

「生でもイイ、後からぬかを食べて頭に重石を乗せておく」。

「横町のおでんを買ってこようか」、

「イイね。直ぐ駆け出さないで、食べたい物を聞きなさい」、

「はい。何がイイの」、

「俺の好きなものは”焼き”」、

「焼きって何ぃ」、

「焼き豆腐のことだ。や・き・ど・う・ふ、と言っていたら舌を噛むことがある。江戸っ子は”焼き”と言えば焼き豆腐だとピンとくる」、

「それから」、

「”ヤツ”だ」、

「ヤツガシラ」、

「そうだ。それに”がん”だ」、

「鳥の雁だね」、

「違うわい。すぐにマヌケになるね。ガンモドキ。それにお前の好きなもの買って来な」、

「じゃぁ、”ペン”がいい」、

「なんだそれ」、「ハンペン」、

「変な詰め方するな。早く買ってきな。なんだよ、鏡台の前に座って。そんな事しなくったって良いんだ、お前なんて、頭なんか無くったって良いんだ、足と手があれば良いんだ。早く買ってこい、お多福め。買いに行っちまった」。

 (独り言)

「この飲んだくれを世話してくれるのは三千世界を探しても、あの女房以外にないんだよ。

 世の中に女房ぐら有り難いものはないね。

 それで、器量だって悪くはないし、近所の奥さん達は

 『貴方の奥さんは、本当に美人ですね。貴方には勿体ないですよ』

 なんて、ふふふ、俺もそう思う。

 イイ女だな、と思うけれどそんなこと言ったらダメなんだ。

 脅かしたりするが、心の中では『すまないな』と思っているよ。

 どうしてこんな美人がもらえたのかと思うけれど、口では反対のことを言ってしまう。

 おかみさん、スイマセン、貴方のような美人をもらえて、陰で侘びてますよ。

 許して下さい。

 貴方みたいなイイ女を女房にもらへて勿体ないくらいだ。

 ん?・・・まだ行かないのか」。


  

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