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立川談志の噺、「人情八百屋」

2014年08月13日 | 落語・民話

立川談志の噺、「人情八百屋」(にんじょうやおや)より


 

 日本橋茅場町の八百屋の平助は、10日ほど前、霊岸島の裏長屋で、おかみさんが出てきて茄子を半分の五つだけ分けて欲しいという。渡していたら、子供が出てきてその茄子をムシャムシャかじりだした。聞くと、「亭主が3年越しの患いで、食べる物にも事欠くありさま。お恥ずかしい所をお見せしました」とポロリと涙を流した。売り上げの銭300文と弁当を上げて帰ってきたが、あの一件どうなっただろうと女房に話すと、「直ぐ行ってきな」と背中を押された。

 確かこの家だと思ったが、貸家札が貼ってある。近所の者に聞くと「源兵衛さん夫婦二人とも死んで、子供達は奥の鳶の鉄五郎の家に居る」という。訪ねると、奥さんが居てその時の八百屋だと分かると、会いたかったから上がれと勧められた。経緯を聞くと「その晩は久しぶりのお金で夕飯を食べようと喜んでいたが、そこに表通りで質屋をしている因業大家が現れ半分にしてくれと懇願したが、300文全部ひったくるようにして家賃だと持って行った。子供二人を表に遊びに出して、奥さんは梁に首を吊り、亭主は舌をかみ切って死んでしまった。
 長屋は大騒ぎ。そこに亭主の鉄五郎が帰ってきて、その話を聞くと鳶口持って大家の家をメチャメチャに壊した。長屋の連中も一緒になって暴れ、役人が飛んできたが、遠くで「ひかえろ、止めろ」と言うだけで手出しはしなかった。その後、大家が20両の金で詫びを入れたので、立派な葬儀が出せた。今も鉄五郎は子供二人を連れて墓参りに行っている。亭主も会いたがっていたから上がれ」という。「私の一寸した親切が二人を殺し・・・、奥さん、出刃包丁はありませんか。そんな血も涙も無い奴は生かしちゃおけねぇ」、「いやよ。出刃包丁なんか無い。そんな物、見たことも無い。そんな事したらアンタが駄目になってしまうから、お線香の1本でも上げて、念仏を唱えてあげてぇ~」、「そうですね、分かりました。私があんな事しなかったら、こんな形で仏壇には居なかったのに、子供二人を残して浮かばれないだろな。浮かばれね~、浮かばれね~」。

 「おっかぁ、今帰ったよ。子供は汁粉を食べてぇからというので、食べさせたが・・・。仏壇の前で『浮かばれねぇ』と言っている奴を上げるんじゃねぇ。それで無くても浮かばれない仏様なんだから」、「あんたが会いたがっていた八百屋さんだよ」、「そうか。こっちへ来てくれ。あんたが悪いんじゃねぇ。それで、話は聞いた?」、「全て聞きました」、「話すことは無いんだが、大家の家に飛んで行って、形のあるものは全て長屋の連中と壊して、壊し得くの壊され損になり、役人も事情を聞くと座り直して聞いてくれた。
 八百屋さん、気っ風が良いので、兄弟分になってくれないか」、「とんでもない。勇みの親分に、八百屋風情が」、「そんな事では無い。『ちょっと寄ったがご機嫌は』位の付き合いだ」、「それではお願いします。私を弟分として」、「平助さんは幾つ?五十二才、俺は二十七だよ。止めてくれよ年上の弟なんて」、「それでは、その様に」。
 「うれしいね。固めの盃だ。で、頼みがあるんだ兄貴。・・・源ちゃんにお多美ちゃん、ここに座(す)わんな。俺は貧乏で二人を食わしていくことが出来ないんだ。子供だって遠慮して不味い物、食わしても『姉ちゃん、旨いね』と言うんだ。俺は火事場で火に巻かれて死ぬかも知れない、一人なら何とかなるんだが・・・、一人、何とか面倒見てくれないか」、「そうさせていただきます」、「良かった。どちらを連れて行ってくれる」、「いえ、二人とも面倒見させて下い。兄弟は二人でいれば、嬉しいこと悲しいこと何でも話せて支え合って生きていけます。帰って婆さんに話して、改めて迎えに来ます」、「分かった。有り難うよ。仕立て下ろしの着物を着せて渡す」。
 「今聞いたとおりだ。分かったな。生みの親より育ての親という。これからのお父つぁんだ。可愛がってもらえよ」、親に早く別れる子はしっかりした利口者なのか「うん、お父つぁん」。言われた平助はたまらなくなった。

 家を後に、鉄五郎に「私ふぜいの八百屋に、子供を預かっても良いんでしょうか」、
「当たり前だろう。俺の商売は何だと思っている。火消しだよ。火付け(躾け)と思うだけでも恐ろしい」。

 


  

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