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屁っぴり番人

2014年11月03日 | 落語・民話


へっぴりばんにん
『屁っぴり番人』
― 岩手県胆沢郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
 昔、あるところに面白い屁をひる爺さまがおったと。
 その屁音(へおと)は「だんだっ、だんだっ」と鳴るので、爺さまのことを知らん者が聞くと、「誰だっ、誰だっ」と、まるでとがめだてされているような気になる。

それで、爺さまの屁のことを面白がる者と嫌がるものと二通りあったと。
 あるとき、長者どのからお使いの者が来て、爺さまに来てくれろと言う。爺さまは、
 「はて、おらみてえな屁っこきに何用あるだ」
と思って、使いの者の後(あと)をついて行くと、長者どのは、
 「爺、爺、おら家(え)の米倉の番人になってくれまいか、禄(ろく)ははずむぞ」
というた。
 思いもよらん仕事にありついた爺さまは、否も応もない。

二つ返事で引き受けた。爺さまは、その夜から長者どのの米倉の守(も)り番(ばん)になった。

そして戸の前の二畳敷に毎晩寝ていた。
 ある夜のこと、長者どのの家に盗人(ぬすっと)が入って来た。そろりそろり米倉に忍び寄ると、暗闇の中からいきなり、
 「だんだっ、だんだっ」
と、どなられた。
 盗人は、
 「いかん、見つかった」
と、きもを冷やして一目散(いちもくさん)に逃げて行った。

次の夜も盗人が入ったが、やっぱりその「だんだっ」の声にたまげて逃げ帰った。

それから次の晩も、その次の晩もと、ちょうど七夜(や)続けて入ったけど、いつも「だんだっ」ととがめだてされて、とうとう何ひとつ盗み出すことが出来んかったと。
 「いままでこんなことは一ぺんもなかったのに、どうもいかん。それにしても、あの『だれだっ』という声は何者が出しているのだろう。暗闇からいきなりボガンとなぐりつけられたようで、どうにも面喰らってしまう」
 八日目の晩も、盗人は意地になって忍び入ったと。
 抜き足差し足そろりそろり米倉に忍び寄って、よくよく見ると、何のことはねぇ、倉番人(くらばんにん)の爺さまの屁っぴり音(おと)であった。
 「なんだぁ、いままでこの爺の屁にたまげて逃げ帰っていたのか。よ-し、こん夜は仇(あだ)を討ってやる」
 盗人は胡瓜(きゅうり)畑へ行って胡瓜を一本とって来て、爺さまの尻の穴にさしこんでやった。
 爺さまの屁は、出口をふさがれて出るに出られん。腹がぷくうっとふくらんだと。
 「へん、ざまあみろ」
 盗人は屁音がないので安心して米俵を「よっこらしょ」と背負うた。
 ちょうどそのとき、寝返りを打った爺さまの尻から、胡瓜がスポンと抜け飛んで、勢いよく盗人の顔に当ったからたまらん。びっくりしたひょうしに、思わず腰をグキッとくじいたと。
 「いたたたたぁ」
 米俵の下敷きになってバタバタしているところへ、よほどたまっていたのか、
 「だんだっ、だんだっ、だんだっ、だんだっ」
と、えらい大きな屁音をひっきりなしにあびせてきた。おまけに、自分の屁音で目をまさした爺さまが、本当に、
 「誰だ!」
と叫んだので、盗人はとうとう観念したと。
 爺さまは、長者どのからほうびをたんまりもろうたそうな。

 どんとはらい、ほうらの貝こぽうぽうとふいたとさ。

 

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